『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

ゴウキ・ファミリー

女の戦い その４

「おいっ、正気か！？」


罠魔法の発動により吹っ飛んだクレアを見たリフトは、緊急事態であると察して街中であるが腰元の剣を抜いた。
罠魔法というものに理解の無いリフトには、リノアに突っ込んでいったクレアが一人でに爆ぜて飛んだように見えたが、それでもあの状況ではスミレ達が何かをやったからこと起きたことだということくらいはわかっていた。


（やむをえまい！）


実際にクレアに手が出された以上、仲間である自分が静観しているわけにはいかないと考え、リフトはスミレ達と戦うために構えようとした。


「な・・・っ！？」


だが、ここでリフトは不可思議な現象に直面する。
自分の体が動かないのだ。動こうとする意志はあるのに、体はまるで言う事を聞かなかった。自由なのは首や指先だけだ。
これはスミレの『糸』による拘束であった。
クレアが吹き飛んだときにリフト達の意識がそちらに行った隙をつき、恐るべき速さで仕掛けていたのだ。
リフト達の目には見えない糸は、彼ら全員の動きをしっかりと押さえつけていた。


「こ、これは・・・いっ・・・！」


クレアの治療をしようとしていたミリアは、動かない体を無理に動かそうとして僅かに糸を肌に食い込ませたことによって走った痛覚に眉を顰める。


「無理に動くなよと忠告しとくぜ。手足が落ちても知らねーぞ？」


スミレがリフト達に向けてそう叫ぶが、視線は彼らには向いていなかった。
今スミレ達が見ているのは、吹き飛んだはずのクレアの方だ。


「スミレ先輩は引き続きそいつらの拘束をお願いしますね」


そんなリノアの言葉に、スミレが「ふざけんなよ」と言おうとしたそのときだった。


「ふーん・・・中々面白いことをしてくれるじゃない」


クレアが吹き飛んだ先から、ゆっくりと歩いてやってくるのが視界に入った。
手に持っていた剣は鞘がなくなり抜き身になっており、クレアの目からはハイライトが消えていた。
罠魔法による爆発で衣服がボロボロになり、体中から流血しているがまるで気にしていないようにクレアは歩いている。
ダメージがないわけではない。だが、極度に分泌されたアドレナリンのせいだろうか、クレアは負っているはずのダメージをまるで気にしていないようであった。


「・・・」


糸のせいだけではなく、リフト達は動きを止めていた。
今の不気味な状態のクレアを見て、戦慄して動けないのだ。


「そちらの本気度合いはわかりました。私もそれなりのやらせてもらうので」


クレアが再び腰を低くして突進の姿勢を取る、
得物は先ほどの違って抜き身の刃・・・そしてクレア自身からは刺すほどの強烈な殺気が発せられ、これまで見たことのないクレアの一面を目にしたリフト達は、あまりに衝撃的な光景に僅かに震えて恐怖すら感じていた。


「参るっ！！」