『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

賢者リノア

押しかける男

トマスとの騒動があった、その日のうちだった。
ゴウキ・ファミリーの拠点で微妙な空気の中、リノアが部屋で鬱に浸っていたときのことである。


「リノア様、客人が来ておりますが」


「・・・客・・・？」


ゴウキ・ファミリーの拠点使用人兼舎弟である男が、リノアの部屋の扉をノックしてそう言った。
大きな枕に顔を突っ伏してじめじめしていたリノアは、客人の訪問の連絡に怪訝な顔をしながら反応する。
ゴウキ・ファミリーの拠点そのものに客人が来ることは極めて稀だ。大体はセントラルギルドを通じて連絡が来るのである。


「一体誰・・・？」


全く心当たりの無かったリノアがそう訊ねると、思いもがけない名前が耳に入ることになった。


「トマスと名乗っております。例のストーカー男ですよ」


「えぇ・・・？」


けんもほろろに追い返したというのに、まさか今度は拠点に直接訪ねて来るとは・・・とリノアは盛大に呆れ返った。
リノアがゴウキ・ファミリーの属していること、そしてその拠点がどこであるかなどは王都でも有名であるために、トマスがリノアがここにいるということ自体を知るのは難しくはない。だが、どの面下げてあんな出来事があったうちから顔を出すことが出来るのか。


「いや・・・まぁ、最近のトマスならあり得るか・・・」


リノアが袖にしても何度も何度もやってきた面の皮の厚い男トマスである。もう何をしてきても驚くこともないだろうとリノアは考え直した。


「どうしましょうか？ボコボコにして身ぐるみ剥いで追い返しますか？」


リノアがげんなりしているのを察してか、使用人の男はそう提案した。


「魅力的な提案だけど、今回はやめときます。いいです、会いましょう。応接室に通さなくていいから、門で待たせておいてください。私がそこに行きます」


リノアが苦笑いをしながらそう男に伝えると、はぁと小さく溜め息をついてから支度をして、そしてトマスに会うために部屋を出た。


「あまりにしつこいようなら、今度は本当に提案された通りにしてもらおうかしら・・・」


一体何を言い出すのだろう、とリノアは呆れながらトマスの待つ正門まで向かう。


だがトマスの起こしたアクションは、このときのリノアには想像もつかないことだった。