『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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賢者リノア

トマスの予想外

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トマスが作った爆弾は時限性である。
敢えてそうしたのは、実験のためだった。この世界にはまだ時限爆弾というものが存在しない。

トマスがここで実験として時限爆弾を起爆させ、それが成功してゴウキを屠れば、暗殺用に威力も利便性も申し分ない兵器であると立証できる。

この結果を元にトマスは、セントラルギルドに代わる次のパトロンを見つけようと思っていた。
もちろん、そのような兵器を欲しがる者などろくなものではない。だが、トマスは自分を高く買ってくれる者ならば誰でも良いと思っていた。かつてリノアと語っていたような、社会の役に立つ魔道具を開発して世に広め、世界有数の魔道具製作会社として名を売って故郷に錦を飾りたいと言っていた理想は既にトマスの中にはなかった。

優秀な学生として周囲に期待され、結果を出してきたことでトマスは傲慢になっていった。
そしてそんな傲慢になった彼が女に袖にされ、果ては滑り止め程度に思って見下していたリノアにすら見放されたことで、プライドをズタズタにされたトマスは一気に歪んでしまったのだ。

そんなトマスには強力な爆弾によって失われる多くの命について、何とも思っていなかった。
自分さえ良ければいい。リノアさえ手に入ればいい。
そうすれば自分の傷ついたプライドが癒えると信じていた。
故に、今のトマスの心の中にあるのは爆弾実験の成功と同時にゴウキの抹殺、これだけであった。

敢えて言うなら、爆弾のスイッチを押せば時間内に自分も安全圏内に避難しなければならない。それだけは確実にしなければならないため、押したらただちに脱出しなければ・・・程度の懸念があるだけだった。

だからこそ・・・スイッチを押そうとしたトマスは、ある一声によってその動きを止める。


「ゴ、ゴウキだ!ゴウキが来たぞーーっ!!」


ギルド職員の悲鳴めいた叫び声がトマスの耳に入った。


「なに・・・?もうこの場所を嗅ぎ付けたのか!?」


ゴウキが檻から脱出したのは知っている。
だが、その場所は今トマス達がいる屋敷からいくらか離れているし、屋敷自体も遠目にはわからないようになっているところにあるはずだった。
これにはトマスも予想外で、ここで初めて彼の心に焦燥感が芽生えた。
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