『濁』なる俺は『清』なる幼馴染と決別する

はにわ

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賢者リノア

断罪タイム その2

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「あ・・・あああ・・・・ああ・・・」


激痛のあまり、涙と鼻水で顔をぐしょぐしょにするトマスは、声にならない声を上げてのたうち回る。
しかし、そんなトマスにゴウキが注ぐ視線には微塵も同情心がない。
それどころかどれだけ苦しめて破壊し尽くしてやろうかと、そんなことすらゴウキは考えていた。


「どうだ?一方的に痛めつけられる気分は。リノアの気持ちが少しはわかったか?」


ゴウキはトマスの胸倉を掴み、眼前にまで引き寄せると低い声でそう言った。


「わか・・・わかった。ごめんなさい!ごめんなさい!」


トマスは反射的にそう叫ぶも、ゴウキの憤怒に滲んだ表情が緩むことはない。


「わかるわけがねぇだろうが!お前みたいな外道によ!」


トマスの人差し指をつまみ、躊躇いなくへし折るゴウキ。またもトマスの絶叫が部屋に響いた。


「お前の指をへし折るまでに本当の意味でリノアの痛みが理解できるか、俺と賭けでもしてみるか?」


ボロボロに泣きながら、トマスはゴウキの問いかけに首を振る。
もはやゴウキは話の通じる相手ではないとトマスは思った。トマスが何を言おうとどう詫びようと、気が済むまで・・・否、死ぬまで自分を痛めつける気だろうと理解する。

事実、ゴウキはトマスが考えていることと遠からぬ思考をしていた。
許そうなどとは微塵も思わない。トマスが泣くたびに、悲鳴を上げるたびに、ゴウキの心は晴れるどころか怒りを増していく。


(まずい、死ぬ!本当に死ぬ!誰か、誰か助けてくれ!リノア・・・!)


トマスは虫が良いことを願いつつ、ただただ嵐が通り過ぎるのを待っていた。


「まぁ、何言っても何やってもお前みたいなクズは治らない。無駄だろうな。お前の体を徹底的に破壊し尽くしても足りねぇよ」


だが、ゴウキの手が止まることはない。
ゴウキはトマスの手を取ると、グッと力を込めようとする。今度は手を潰すつもりのようだ。


(やめてくれ!)


トマスはそう叫ぼうとしたが、声が出ない。
いよいよダメかと思ったそのとき・・・ リノアが横からゴウキの腕に手を沿わせ、首を横に振って行動を制した。


「リノア・・・?」


ゴウキが呆気にとられるが、トマスは歓喜に打ち震える。


(リノア!やっぱり君は心根は優しい女の子だ!ゴウキを止めてくれた・・・!)


最後の最後で見ていられなくなり、ゴウキを止めてくれたのかとトマスは思ったが、次にリノアの口から発せられたのは、予想だにしないものだった。


「顔です」


トマスのみならず、ゴウキも「えっ」と困惑する。


「私は顔を殴られました。意識があるうちに顔をお願いします」


続くリノアの言葉に、トマスは絶望するのだった。
心優しいリノアを、変えてしまうほどにトマスは酷いことをしてしまったのだと、このときに始めて認識した。
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