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俺の心はとっても狭い
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あの決勝戦から何日かが経過した。
俺はあの後に回復魔術による手厚い救護措置を受け、どうにか自宅に帰ることができるまでには回復することが出来た。体中のいたるところが骨折し、歯も何本か折れていたが、それらも何とか回復魔術で治すことが出来、俺の顔も元に戻ることができた。
まだ細かい痣などが残っているので、家で療養中だ。
だがっ!
心の傷が癒えることはなかったし、今後癒えるとも思えなかった。
全力で打った魔術をあしらわれ、一撃で行動不能に追い詰められ、トドメに馬乗りからの戦意を折る顔面パンチ。
今でもあまりの恐ろしさに震えそうになる。何人か観戦していたご近所さんが
「とても恐ろしかった」
「人間とは思えない残酷さだ」
「漏らしてしまった」
ということだった。観戦していた者からしてもこうなのだから、当事者である俺の心のダメージは凄まじいものがある。
しかしっ!
もっとも俺の心を傷つけたのはそんなことではなかった。
「しかし、レイツォも凄かったぞ。ディオが特別過ぎただけで・・・」
「レイツォも強かった。流石王国一と言われる魔術師だ。アレが別格というだけで・・・」
「あんな規格外さえいなければ、レイツォの優勝は間違いなかったよ」
フォローするようにそう言われることが、俺にとって最大の苦痛であった。
俺は凄い・・・ディオの次に。
その事実を突きつけられ続けるのがたまらなく苦痛だった。
子供の頃から何でもそうだった。俺は常にディオに負け続けていた。
素直な性格であれば、ディオをリスペクトしたりするようになるのかもしれないが、残念ながら俺はそんな性格には育たなかった。
俺がディオに抱いた思いは
嫉妬
怒り
憎悪
ここ数年はこればかりを抱いている。
尊敬、という念を抱いてもすぐに嫉妬に変化し、怒り、憎悪を抱くようになる。
俺は実に器の小さい男なのだ。
武闘会が終わり、大まかな治療を終えて帰宅し、療養をしている俺のところにディオが見舞いにやってきた。
王女との婚約のこともあり、準備から何までとにかく超絶多忙である身であるはずなのに、どうしてもと無理を言って抜けてきたらしい。
やり過ぎてしまったが、怪我の様子が気になってしまったこと。
戦いのとき、俺が放ったU・ファイアバレットに本能的に危険を感じ取り、出来るかどうかはわからなかったが切り払うことにしたこと。
奇跡的に成功して内心胸をなでおろしたこと。
みね打ちで行動不能のダメージを与えたが、俺の口が動いている(敗北宣言をしようとした時だね)のを見て「なおも諦めず攻撃しようと詠唱しようとしている」と判断して慌てて攻撃を再開したこと。
そして
やはり俺はディオの思った通りの高い実力と、不屈の精神力を兼ねそろえた最大のライバルで、いい戦いが出来て良かったと。
ディオはそれを俺に告げて去っていった。
残された俺は惨めな気持ちになった。
ディオの言葉は、俺には死体蹴りでしかなく、治療中の怪我よりも深く俺の心を抉った。
勝つために殺す気で挑んだ俺に対し、あくまで命は奪おうとはしなかった。
俺の怪我を心配し、立場の危ぶみを振り切ってなお無理を言って見舞いにきた。
ディオの高潔な人間性に、俺がいかに惨めで卑屈な存在であるかと突きつけられている気分になる。
子供の頃からそうだ。ずっとずっとそうだった。
何もかもを俺より上回っておいて、俺を立てることも忘れない。それが俺をどれだけ惨めな気持ちにさせるのかなんて、きっと奴はわかっていないのだろう。
「・・・・・・」
俺は部屋の窓から高くそびえ立つ王城を見上げた。
ディオはあの決勝戦以来、王城で居住するようになっている。今では立場的にも物理的にもディオの下ということになった。その事実がまた悔しくてたまらなかった。
ディオは決勝戦の後、王女アリス様と婚約を果たした。今やディオは時期国王候補筆頭だ。
元々武闘会の優勝者を時期国王とするのが主流派となっていたし、決勝戦で見せた圧倒的(かつ残虐に見えた)な戦いぶりを見せつけたこともあって、他候補ももはやディオを敵に回そうとは思わないだろう。
もはやディオの王位継承は確定的と言える。
これには俺の両親もご近所さんも大騒ぎだった。なにしろ俺達と同じ平民が国王になるのだ。騒がないはずがない。
「お前もあれだけディオ様に認めてもらったのだ。もしかしたら臣下に召し抱えていただけるのではないか?」
父は期待を込めて俺にそう言った。
実はまだ両親に黙ってはいるが、実際に現段階でも王国の騎士団から勧誘されている。
自分で言うのもなんだが、俺は優秀な魔術師だ。決勝戦でも(ぼろくそに負けたとはいえ)高威力の魔術が使えるところを見せつけたわけだし、当然といえば当然という自負がある。平民である自分には考えられないほどの厚遇であり、決して悪い話ではない。
だが、俺は迷っていた。
王城に仕えるということは、それは王となったディオに仕えるということ。
完全にディオを絶対上位の相手と崇め、忠誠を誓うということ。
勢いで話を受けるとして、果たして俺のプライドはそれを許すことができるのだろうか?
これまでどれだけディオに敗北を喫してきても、また次に勝てばいいと努力し続けることで俺は心の均衡を保ってきた。
だが、王城に仕えることになれば、俺は未来永劫ディオに勝つことは出来なくなる。絶対服従をせねばならなくなる。
それが俺の答えを遅らせていた。普通に考えれば断るなんて馬鹿げた話だ。親に話せばすぐにでも受けろと言うだろう。
だが、いかに厚遇で明るい未来が約束されていようとも、ディオに完全に屈してしまうという事実は受け入れがたいものがあった。
こんな悩みを持つこと自体、既に俺はディオを意識して仕方が無く、いろいろと奴に完全に負けているということを自覚してまた自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。
いっそ奴がいない外国にでも行って、俺の人生そのものから存在を消せば楽になるだろうか。
そんなことを考えているそのときの俺は、それからややもしないうちに全てを狂わす大事件が起こることになるなんてことは思いもよらなかった。
俺はあの後に回復魔術による手厚い救護措置を受け、どうにか自宅に帰ることができるまでには回復することが出来た。体中のいたるところが骨折し、歯も何本か折れていたが、それらも何とか回復魔術で治すことが出来、俺の顔も元に戻ることができた。
まだ細かい痣などが残っているので、家で療養中だ。
だがっ!
心の傷が癒えることはなかったし、今後癒えるとも思えなかった。
全力で打った魔術をあしらわれ、一撃で行動不能に追い詰められ、トドメに馬乗りからの戦意を折る顔面パンチ。
今でもあまりの恐ろしさに震えそうになる。何人か観戦していたご近所さんが
「とても恐ろしかった」
「人間とは思えない残酷さだ」
「漏らしてしまった」
ということだった。観戦していた者からしてもこうなのだから、当事者である俺の心のダメージは凄まじいものがある。
しかしっ!
もっとも俺の心を傷つけたのはそんなことではなかった。
「しかし、レイツォも凄かったぞ。ディオが特別過ぎただけで・・・」
「レイツォも強かった。流石王国一と言われる魔術師だ。アレが別格というだけで・・・」
「あんな規格外さえいなければ、レイツォの優勝は間違いなかったよ」
フォローするようにそう言われることが、俺にとって最大の苦痛であった。
俺は凄い・・・ディオの次に。
その事実を突きつけられ続けるのがたまらなく苦痛だった。
子供の頃から何でもそうだった。俺は常にディオに負け続けていた。
素直な性格であれば、ディオをリスペクトしたりするようになるのかもしれないが、残念ながら俺はそんな性格には育たなかった。
俺がディオに抱いた思いは
嫉妬
怒り
憎悪
ここ数年はこればかりを抱いている。
尊敬、という念を抱いてもすぐに嫉妬に変化し、怒り、憎悪を抱くようになる。
俺は実に器の小さい男なのだ。
武闘会が終わり、大まかな治療を終えて帰宅し、療養をしている俺のところにディオが見舞いにやってきた。
王女との婚約のこともあり、準備から何までとにかく超絶多忙である身であるはずなのに、どうしてもと無理を言って抜けてきたらしい。
やり過ぎてしまったが、怪我の様子が気になってしまったこと。
戦いのとき、俺が放ったU・ファイアバレットに本能的に危険を感じ取り、出来るかどうかはわからなかったが切り払うことにしたこと。
奇跡的に成功して内心胸をなでおろしたこと。
みね打ちで行動不能のダメージを与えたが、俺の口が動いている(敗北宣言をしようとした時だね)のを見て「なおも諦めず攻撃しようと詠唱しようとしている」と判断して慌てて攻撃を再開したこと。
そして
やはり俺はディオの思った通りの高い実力と、不屈の精神力を兼ねそろえた最大のライバルで、いい戦いが出来て良かったと。
ディオはそれを俺に告げて去っていった。
残された俺は惨めな気持ちになった。
ディオの言葉は、俺には死体蹴りでしかなく、治療中の怪我よりも深く俺の心を抉った。
勝つために殺す気で挑んだ俺に対し、あくまで命は奪おうとはしなかった。
俺の怪我を心配し、立場の危ぶみを振り切ってなお無理を言って見舞いにきた。
ディオの高潔な人間性に、俺がいかに惨めで卑屈な存在であるかと突きつけられている気分になる。
子供の頃からそうだ。ずっとずっとそうだった。
何もかもを俺より上回っておいて、俺を立てることも忘れない。それが俺をどれだけ惨めな気持ちにさせるのかなんて、きっと奴はわかっていないのだろう。
「・・・・・・」
俺は部屋の窓から高くそびえ立つ王城を見上げた。
ディオはあの決勝戦以来、王城で居住するようになっている。今では立場的にも物理的にもディオの下ということになった。その事実がまた悔しくてたまらなかった。
ディオは決勝戦の後、王女アリス様と婚約を果たした。今やディオは時期国王候補筆頭だ。
元々武闘会の優勝者を時期国王とするのが主流派となっていたし、決勝戦で見せた圧倒的(かつ残虐に見えた)な戦いぶりを見せつけたこともあって、他候補ももはやディオを敵に回そうとは思わないだろう。
もはやディオの王位継承は確定的と言える。
これには俺の両親もご近所さんも大騒ぎだった。なにしろ俺達と同じ平民が国王になるのだ。騒がないはずがない。
「お前もあれだけディオ様に認めてもらったのだ。もしかしたら臣下に召し抱えていただけるのではないか?」
父は期待を込めて俺にそう言った。
実はまだ両親に黙ってはいるが、実際に現段階でも王国の騎士団から勧誘されている。
自分で言うのもなんだが、俺は優秀な魔術師だ。決勝戦でも(ぼろくそに負けたとはいえ)高威力の魔術が使えるところを見せつけたわけだし、当然といえば当然という自負がある。平民である自分には考えられないほどの厚遇であり、決して悪い話ではない。
だが、俺は迷っていた。
王城に仕えるということは、それは王となったディオに仕えるということ。
完全にディオを絶対上位の相手と崇め、忠誠を誓うということ。
勢いで話を受けるとして、果たして俺のプライドはそれを許すことができるのだろうか?
これまでどれだけディオに敗北を喫してきても、また次に勝てばいいと努力し続けることで俺は心の均衡を保ってきた。
だが、王城に仕えることになれば、俺は未来永劫ディオに勝つことは出来なくなる。絶対服従をせねばならなくなる。
それが俺の答えを遅らせていた。普通に考えれば断るなんて馬鹿げた話だ。親に話せばすぐにでも受けろと言うだろう。
だが、いかに厚遇で明るい未来が約束されていようとも、ディオに完全に屈してしまうという事実は受け入れがたいものがあった。
こんな悩みを持つこと自体、既に俺はディオを意識して仕方が無く、いろいろと奴に完全に負けているということを自覚してまた自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。
いっそ奴がいない外国にでも行って、俺の人生そのものから存在を消せば楽になるだろうか。
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