新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

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武闘会の裏側  ~騎士団長目線~

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~ルーチェ国武闘会当日~

私の名はミカエル・シューマッハ。
由緒正しき公爵家の嫡男であり、ルーチェ国の騎士団長である。そして王女アリス様の元婚約者だ。
今日はルーチェ国武闘会が開催されている日であるが、私は会場警備の任務を仰せつかっており、それにあたっている。

だが、今日は私には他にもやることがある。それは武闘会の決勝戦が終わったら、その場に乱入し、優勝を横取りして王女アリス様に求婚することだ。
酷いことをするだって?だが、それは仕方がないのだ。本当は私とて堂々と武闘会に参加し、優勝をもぎ取りたい。だが、今回の武闘会には私・・・否、ルーチェ国の貴族の関係者は軒並み参加資格が得られなかったのだ。

それには理由がある。
この国は既に百年以上、魔王率いる魔族と戦っているという歴史がある。魔王の居城である魔王山の近場に位置するルーチェは、常に魔族と睨めあいっこをしながら、奴らによる人間界への進行を最前線で阻止していた。そうして我が国は人類の盾となることで、平和を維持出来ている他国から金と物資の援助を受けてきた。
20年前、ルーチェ国の勇者が当時を魔王を倒したことで魔族の動きは大きく停滞し、ルーチェにも長らく平和が訪れていたが、皮肉にも長く続いた平和が全体的に騎士の士気を下げ、質を低下させてしまった。

そしてここ数年、魔族が再び活性化した。
騎士団の戦死者が増える中で、どうにかして騎士団の立て直しを図ろうと議論を重ねた結果、文官どもがとんでもないことを言いだした。
原因は騎士団の貴族主義にあると。
能の無い貴族が有能で勇敢な平民の下士官をこき使うという構造が、騎士団の不和と士気と質の低下を招いているのだという。まさしく言いがかりである。あくまでこの問題は平和が続いてことによる弊害であり、決して上官である貴族やその構造が悪いわけではない。

だが武官の反発を余所に、嘆かわしいことに国王陛下はそれについて一理あるとした。
騎士団の構造そのものを作り変えるのはすぐには難しい。だが、騎士の意識そのものを変えることは出来るかもしれないと、陛下は一計を案じた。
平民であれ強き者にはそれ相応の機会を、功績を上げた者には相応の身分を与える。その希望さえあれば騎士の士気の向上が見込めるだろうと言った。

そして陛下は「王女アリスの夫を武闘会により選出する」と取り決めた。アリス様には弟がいるが、まだ幼過ぎる。故に、必然的にアリス様の夫となる方が時期国王候補筆頭となる。
平民でも実力さえあれば王になれる、このような前例が出来れば騎士達の意欲は増すであろうし、貴族主義にうんざりしていた者達も、平民出の王が誕生すれば意識が変わるだろうと陛下は言った。
故に武闘会は身分を問わず広く参加者を求める、とされてはいたが、暗にルーチェ国の貴族だけは参加を禁止されていた。

とんでもない話だ。平民から国王が選出されるなど、あっていいはずがない。
それは効果が出る前に国を滅ぼしかねない劇薬だ。


「馬鹿な!こんな話があっていいはずがない!」


それによって、幼年期より結んでいた王女アリスと私との婚約が解消となった。
私は目の前が真っ暗になった。歳はいくらか離れてはいたが、公爵家の嫡男で騎士団長である私と、王女が結婚すればこのルーチェは安泰だと言われていたのに。
騎士団長である私が王女と結婚して王となれば、きっと騎士団の士気は上がり、立て直すことが出来ましょうぞと掛け合ったが聞いてはもらえなかった。
そして当てつけのように武闘会開催の告知がなされた。公には王女の夫探しの催しとは告知しなかったが、敢てそのように市井に噂を流した。
こうして武闘会へは王位継承権や王女目当ての者も集まり、参加者のレベルは非常に高いものなった。

だが、私を含む貴族もただ黙って見ているわけではなかった。
騎士団長である私が武闘会に乱入し、優勝者をその場で叩きのめす。
自分こそが最強であると陛下や騎士団、そして国民に周知するのだ。武闘会のルールとして貴族は参加できないとあるが、「強い者に王位継承権を与える」というテーマで考えると、それは矛盾する話になる。
公衆の面前で陛下に強ささえ指し示せば「平民ではないから認めん」などとはまさか言えないだろう。
かなり強引ではあるが、このままでは平民の王が誕生してしまう。何より私が婚約し、昔からお慕いしていたアリス様を平民なんぞに奪われてしまう。
それは何があっても阻止せねばならなかった。
こうして私は自分のため、そして平民の王の誕生を阻止せんとする貴族達の期待に応えるために、乱入するそのときをずっと待っていた。

「決勝戦が始まりますね」

副団長が私に言った。
決勝に残ったのは剣士と魔術師・・・いずれもわが国の平民で、当然名前も顔も知らない奴らだった。二人とも私と同じくらい・・・いや、ちょっぴりだけ私よりイケメンなのがイラついた。
この勝負がつけば、いよいよ私の出番だ。
もちろん、観客からはブーイングの嵐だろう。陛下も激怒するかもしれない。
だが、大臣を含むこの会場にいる貴族は計画を知っているし、私の味方だ。最大限フォローしてくれることになっている。多少反発があったところで流れを作って力技で乗り切る。

「諦めるつもりでしたが、やはり我慢が出来ませんでした。私は王女への愛を諦めきれません!」

と言いながら躍り出れば、少しはカッコつくだろうし、同情で流れを掴むこともできるかもしれない。

陛下ーーこれはアナタの意に沿わぬことかもしれませんが、全ては私から一方的にアリス様を取り上げたアナタが悪いのです。

私はこの後戦うことになる予定となる相手の動きを見ておこうと、観戦に集中した。



・・・だが


ドォォォォォォォン!


圧倒的な熱量、爆風。魔術についてはあまりかじっていない私でもわかるほどの、超高威力の魔術が放たれたことに驚愕する。あれはなんだ?まともに放てばこの会場全てを炎に包んでしまうのでは?
その魔術は相手の剣に軌道を逸らされてしまったようだが、地面に落ちたはずのその魔術は今でも消えることなく火柱を上げている。攻撃対象の一人だけでなく、その気になれば100人以上もまとめて炭に出来そうなほどの高威力の魔術だ。
それを放つ奴も化け物であるが、あれを剣で切り払って躱した男もまた化け物だ。レベルが違い過ぎる。
そしてその化け物のような魔術師を一撃で戦闘不能に追いやるどころか、馬乗りになって攻撃を続ける剣士。
それはまるで悪鬼羅刹のようであった。私は恐怖のあまり完全に言葉を失っていた。

結局、剣士が決勝戦を勝ち抜いた。
大臣が顔を引きつらせながらも、剣士の勝利を宣言する。

そして

「どう?本当にやるか?」

と問いかけるように私に視線を向けた。

「無理。ヤメマス」

私は首を横に振った。
あれに挑んでも数秒もたずに私は剣の錆となるだろう。
近くにいた副団長も貴族も誰も私を責めたりはしなかった。

私を含めた貴族は、謀略も反発も何もかも諦め、新たな王となるだろう剣士に服従することを決めた。
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