新訳・親友を裏切った男が絶望するまで

はにわ

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完膚なきまでの敗北

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「くっ・・・ちくしょう!また、また勝てなかった・・・!」


俺は動けなくなった体で唯一まともに動く口で悔しさをぶちまけた。
口が動くなら詠唱もまた可能だろう。つまり攻撃することができる・・・まだ戦える。
このまま油断させて・・・

だがそう考えていた時だった。


「今の君は、これまでのいつよりも弱かった」


ディオが俺を見下ろしそう言った。
何だろう?そんなことあるはずないのに、初めてディオの声を聞いた気がする。


「他人から与えられた力に慢心し、ただ力を振るえばヨシ!と驕る君などもはや何の脅威ではない」


こ、こいつ、アリス様から俺が力を授かったことに気付いている!?
しかもこの言い分だと俺は物凄く小者くさい・・・


「努力して力をつけ、そしてその力に頼ることなく、戦術を練りに練るのが君の強みであり私にとっての脅威だった。残念だよ」



こうして話しているうちにこっそり詠唱して攻撃してやろうかと思ったが、ディオの言葉を聞いてそんな気は起きなくなった。
アリス様の契約による力を得ておきながら、自分の驕りによって生まれた隙を突かれ、惨めに敗北した。これ以上ディオに対し惨めは晒したくない。勝てばよかろうなのだと考えていたかつての自分では考えられないほど、俺は謙虚になっていた。
ここでまた俺が詠唱をしたところで勝てる気がしない。これ以上惨めにはなりたくなかった。


「私はこれまで君に負けたことはないが、しかし拾ってきた勝利のいずれも私が冷や汗をかいてきた上によるものだ。コイントスに運命を委ねるような、賭けに出て拾ったような勝利もいくつもあった。いつだって君は私への勝利に肉薄していたんだ。それを・・・」


はぁ・・・と、そこでディオは溜め息をついた。
ディオの言葉を聞き、彼にに認められていたことの喜びが一瞬あった。だが、その心は一瞬にして暗転した。

ディオは心底残念そうな顔で俺の顔を見下ろしていた。俺は・・・とんでもない間違いを犯してしまったのかもしれない。そんな後悔の念が頭の中に渦巻いていた。

俺はディオを失望させてしまったのか。
正面から戦うことをせず、謀略によって排除しようとした。俺はディオに打ち勝つことを一瞬でも諦めてしまっていたのだ。
悔しい。こんな自分が情けない。
俺は自分が負けたことよりもディオを失望させてしまったという事実に情けなさと後悔を感じていた。



「終わってしまいましたか・・・」


その時だった。その場の空気を壊す、綺麗な声が俺の耳に入った。
戦いが終わるまでと奥に待機していたアリス様が姿を現したのだ。
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