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可哀想な俺
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「あ、アリス・・・様」
せっかく力を授けてくださったアリス様の前で、俺は無様を晒してしまった。心の中は恥ずかしくて消えたい気持ちで溢れている。アリス様の期待を背負い、素晴らしい力を貰っておきながら、とことん無様を晒した俺にはもはや彼女に会わせる顔がない。すぐにでも消えてしまいたかった。
「レイツォ・・・」
アリス様は俺の名を呼び、ゆっくりと俺の元に歩いてくる。その表情は憂いに満ちていた。
「あぁ、なんて可哀想なレイツォ・・・」
アリス様はそう言い、傷つき体の動かない俺の頬を優しく撫でる。こんな無様を晒した俺にまだ優しくしてくれるのか?なんて慈悲深い人なのだ・・・
アリス様は俺に慈悲を向けたかと思うと、キッとディオを睨みつけた。
「ディオ。生まれ持って才ある貴方には、負け続けて無様に惨めに這い回る、哀れで醜い愚鈍な豚の気持ちなんてわからないのよ!」
いつも穏やかなアリス様が怒りに身を震わせ、毅然とディオを向き合いながらそう叫んだ。
俺のために怒ってくれている・・・いや、でも俺のことそこまで言うことないんじゃ・・・
「可哀想なレイツォ。せめて私が・・・」
私が・・・なんだ?
アリス様の言葉に訝しんでいると、俺の首元にそっとアリス様の手が添えられた。
どうするつもりだ?
「私がレイツォの力を取り入れてあげるわ」
ゾッとするほど冷たい声でアリス様の口からそんな言葉が発せられた。
言葉の意味を理解する前に、俺の首に激痛が走る。
「があっ!?」
指だ。アリス様の指が俺の首に食い込んでいるのがわかった。およそ女人とは思えない、凄まじい力だった。元より俺が死にかけで無くても振り払えないほどの力だ。
「レイツォは私との契約で手に入れた力を増幅させてくれていたようですわ。この力は深い憎しみや闘争心などといった、激しい感情で育つのです。流石レイツォ、私の見立て通り、たっぷりと力を蓄えてくれていたみたいですね」
アリス様がそう言った直後、俺の首に食い込んだ指から何やら得体の知れない感覚がやってきて俺は戸惑った。ズギュンズギュンと聞いたこともない音がしてそこから俺の血が吸われていることがわかる。
「な・・・」
何が!?と言おうとしたが、言葉にならなかった。血とともに、俺の力が、魔力が、生命力が吸われているのが実感できた。喋る気力もないほどに俺は疲弊する。
「レイツォ。貴方はやはり見立てた通りの最高の人材でしたわ。力を持つくせに甘言に惑わされるほどに精神の弱い者・・・そんな人間なんてそうそういるはずもないと諦めていましたが、貴方はまさにうってつけの人間でした。素晴らしい出会いでしたわ本当に」
そう言って俺を見下ろすアリス様のお顔には、先ほどと違って俺への憐みなど一切ない邪悪の笑みが浮かんでいた。
これが、これがアリス様の本性なのか?
せっかく力を授けてくださったアリス様の前で、俺は無様を晒してしまった。心の中は恥ずかしくて消えたい気持ちで溢れている。アリス様の期待を背負い、素晴らしい力を貰っておきながら、とことん無様を晒した俺にはもはや彼女に会わせる顔がない。すぐにでも消えてしまいたかった。
「レイツォ・・・」
アリス様は俺の名を呼び、ゆっくりと俺の元に歩いてくる。その表情は憂いに満ちていた。
「あぁ、なんて可哀想なレイツォ・・・」
アリス様はそう言い、傷つき体の動かない俺の頬を優しく撫でる。こんな無様を晒した俺にまだ優しくしてくれるのか?なんて慈悲深い人なのだ・・・
アリス様は俺に慈悲を向けたかと思うと、キッとディオを睨みつけた。
「ディオ。生まれ持って才ある貴方には、負け続けて無様に惨めに這い回る、哀れで醜い愚鈍な豚の気持ちなんてわからないのよ!」
いつも穏やかなアリス様が怒りに身を震わせ、毅然とディオを向き合いながらそう叫んだ。
俺のために怒ってくれている・・・いや、でも俺のことそこまで言うことないんじゃ・・・
「可哀想なレイツォ。せめて私が・・・」
私が・・・なんだ?
アリス様の言葉に訝しんでいると、俺の首元にそっとアリス様の手が添えられた。
どうするつもりだ?
「私がレイツォの力を取り入れてあげるわ」
ゾッとするほど冷たい声でアリス様の口からそんな言葉が発せられた。
言葉の意味を理解する前に、俺の首に激痛が走る。
「があっ!?」
指だ。アリス様の指が俺の首に食い込んでいるのがわかった。およそ女人とは思えない、凄まじい力だった。元より俺が死にかけで無くても振り払えないほどの力だ。
「レイツォは私との契約で手に入れた力を増幅させてくれていたようですわ。この力は深い憎しみや闘争心などといった、激しい感情で育つのです。流石レイツォ、私の見立て通り、たっぷりと力を蓄えてくれていたみたいですね」
アリス様がそう言った直後、俺の首に食い込んだ指から何やら得体の知れない感覚がやってきて俺は戸惑った。ズギュンズギュンと聞いたこともない音がしてそこから俺の血が吸われていることがわかる。
「な・・・」
何が!?と言おうとしたが、言葉にならなかった。血とともに、俺の力が、魔力が、生命力が吸われているのが実感できた。喋る気力もないほどに俺は疲弊する。
「レイツォ。貴方はやはり見立てた通りの最高の人材でしたわ。力を持つくせに甘言に惑わされるほどに精神の弱い者・・・そんな人間なんてそうそういるはずもないと諦めていましたが、貴方はまさにうってつけの人間でした。素晴らしい出会いでしたわ本当に」
そう言って俺を見下ろすアリス様のお顔には、先ほどと違って俺への憐みなど一切ない邪悪の笑みが浮かんでいた。
これが、これがアリス様の本性なのか?
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