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理論上は可能 ~騎士団長目線~
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ルーチェ城に戻った私は、やがて来るだろう脅威に備え、最大限出来ることはしようと躍起になっていた。
だが、実際に私に出来ること自体はほとんどないことに気付く。
兵の半分が壊滅状態で、以前魔物の襲撃があった状態から城壁も完全には修復も出来ておらず、城の防衛をしようにも元より心もとない防御力は従来の基準すら満たしていなかった。
たった今魔物に攻め込まれたなら、一瞬でこの城は落ちるだろう。しかも城のことだけを考えるわけにはいかない。王都全体で考えると防御はまず不可能であることがすぐにわかった。
「私は何をやっていたのだ・・・」
魔王討伐の報に浮かれ、万が一に対する危機感というものが無かった。尊重すべきディオという唯一無二の戦力をわざわざ失うどころか、それを刺激して逆に兵を減らされる始末。
全て私のせいだ。
私が馬鹿なことを考えなければ、陛下殺害についてもっと冷静に調べていれば、ここまで絶望的なことにはならなかったはずだ。
いくら考えても案が浮かばない。焦りばかりが募る。
そんなときだった。私の部屋の扉がノックされたのは。
「騎士団長。魔術師団長がお見えです」
私の元に現れたのは魔術師団長だった。
覇気のない私に対して、彼は言った。
「防御する・・・ということでしたら、もしかしたら何とかなるかもしれません」
魔術師団長の言葉に、私は耳を疑った。起死回生のそんな便利な魔法があるのか?この状況で国を守ることが出来るのか?私は彼に掴みかかるようにして必死に問うた。
「理論上は可能です」
りろんじょうはかのう・・・
なんと不安になるような・・・それでいてときめいてしまうような不思議な言葉だ。
「よかろう、やってみろ。責任は私が取る」
私は思わずそう言っていた。不思議と「一度は言ってみたかったんだよな」とこんな気持ちになった。
以前にディオを縛り付けるために発動した魔術を改良したものを王都全土に展開するという話だった。そんなことが出来るのか?と問うと、どうやら生前ウラエヌスに結界魔術のコツについて教えを乞うた者が基礎術式を徹夜で作り出し、ぶっつけ本番で運用するという。
以前張った結界よりも、断然広範囲かつ壊れにくいものが出来上がる(予定)らしい。
魔術師団といえばルーチェ騎士団の中でも日陰者でしかなかった。だが、そんな彼らが今は頼もしく見える。
ウラエヌスに教えてもらった術式の組み方は従来魔術師団が使っていた方式よりも遥かに時間が短縮できるらしく、数時間で術式は組み上がり準備が整ったようだった。
そのときだ。不穏な空気がビリっと走った。
見ると空模様が一瞬にして変わり、分厚く漆黒の雲が上空を覆っていた。
今にも落雷が城に落ちてきそうになっている。
「結界を展開しろ!」
私は思わず叫んでいた。勘だ。ディオからも逃げた臆病者ゆえの、危険察知能力とでもいおうか。
すんでのところで展開された結界は、落ちてきた巨大な落雷を完全に防御した。
「・・・危なかった・・・!」
絶望だと思われた状況だが、それでも最初の難を防げたことに私は安堵していた。本当の地獄はこれからであったが。
だが、実際に私に出来ること自体はほとんどないことに気付く。
兵の半分が壊滅状態で、以前魔物の襲撃があった状態から城壁も完全には修復も出来ておらず、城の防衛をしようにも元より心もとない防御力は従来の基準すら満たしていなかった。
たった今魔物に攻め込まれたなら、一瞬でこの城は落ちるだろう。しかも城のことだけを考えるわけにはいかない。王都全体で考えると防御はまず不可能であることがすぐにわかった。
「私は何をやっていたのだ・・・」
魔王討伐の報に浮かれ、万が一に対する危機感というものが無かった。尊重すべきディオという唯一無二の戦力をわざわざ失うどころか、それを刺激して逆に兵を減らされる始末。
全て私のせいだ。
私が馬鹿なことを考えなければ、陛下殺害についてもっと冷静に調べていれば、ここまで絶望的なことにはならなかったはずだ。
いくら考えても案が浮かばない。焦りばかりが募る。
そんなときだった。私の部屋の扉がノックされたのは。
「騎士団長。魔術師団長がお見えです」
私の元に現れたのは魔術師団長だった。
覇気のない私に対して、彼は言った。
「防御する・・・ということでしたら、もしかしたら何とかなるかもしれません」
魔術師団長の言葉に、私は耳を疑った。起死回生のそんな便利な魔法があるのか?この状況で国を守ることが出来るのか?私は彼に掴みかかるようにして必死に問うた。
「理論上は可能です」
りろんじょうはかのう・・・
なんと不安になるような・・・それでいてときめいてしまうような不思議な言葉だ。
「よかろう、やってみろ。責任は私が取る」
私は思わずそう言っていた。不思議と「一度は言ってみたかったんだよな」とこんな気持ちになった。
以前にディオを縛り付けるために発動した魔術を改良したものを王都全土に展開するという話だった。そんなことが出来るのか?と問うと、どうやら生前ウラエヌスに結界魔術のコツについて教えを乞うた者が基礎術式を徹夜で作り出し、ぶっつけ本番で運用するという。
以前張った結界よりも、断然広範囲かつ壊れにくいものが出来上がる(予定)らしい。
魔術師団といえばルーチェ騎士団の中でも日陰者でしかなかった。だが、そんな彼らが今は頼もしく見える。
ウラエヌスに教えてもらった術式の組み方は従来魔術師団が使っていた方式よりも遥かに時間が短縮できるらしく、数時間で術式は組み上がり準備が整ったようだった。
そのときだ。不穏な空気がビリっと走った。
見ると空模様が一瞬にして変わり、分厚く漆黒の雲が上空を覆っていた。
今にも落雷が城に落ちてきそうになっている。
「結界を展開しろ!」
私は思わず叫んでいた。勘だ。ディオからも逃げた臆病者ゆえの、危険察知能力とでもいおうか。
すんでのところで展開された結界は、落ちてきた巨大な落雷を完全に防御した。
「・・・危なかった・・・!」
絶望だと思われた状況だが、それでも最初の難を防げたことに私は安堵していた。本当の地獄はこれからであったが。
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