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第七話 ある社畜冒険者の新人教育 四日目
① ギルド長へ報告を
しおりを挟む今日、私と陽葵さんはまた冒険者ギルド長の部屋を訪れていた。
先日起きた、冒険者が陽葵さんを襲った件についての事情聴取のためである。
とはいえ、専ら話を聞かれるのは陽葵さんで、私はその付き添いという形だが。
「うむ、事態は大よそ把握できた。
ご足労じゃったのぅ」
そんなジェラルドさんの――ギルド長の言葉で、事情聴取は終了した。
「しかし未だに白色区域なんぞで悪事働こうとする馬鹿がおるとはの。
災難じゃったな、ムロサカ君」
「まったくだぜ。
どっかの誰かさんは安全だからとか言ってどっか行っちまうし」
「申し訳ありません」
ジト目で私を睨む陽葵さん(こんな顔もまた可愛いなこの人)。
この件については100%私の責任なので、謝罪以外の反応はできない。
陽葵さんが目を覚めてからも、散々詰られた。
……もっとも、陽葵さん怒った理由のほとんどは、彼の絶頂姿をじっくり鑑賞したことについてだったのだが。
いや、あれは実に良いものだった、また是非やろう。
「せっかく教育係に任命したのにのぉ。
ちゃんと責任持ってもらんと困るぞ?」
「……返す言葉もありません」
神妙な顔で首を垂れる。
鑑賞についてはともかく、放置に関しては本当に反省している。
……実は女性と情事に耽っていたという事実がバレたら、反省しただけでは済まないだろう。
「しっかし襲ってきた連中も酷い奴らだったよ。
話しかけたらいきなり有無を言わさず押し倒してくるんだからさ。
いったい何をしようとしてたんだか」
「………」
「………」
ギルド長と私が押し黙る。
きっと、ナニをするつもりだったんだろう。
……前々から思っていたが陽葵さん、自分の美貌への自覚が少なすぎる。
「ま、まあムロサカ君も今回のことで冒険者が遭遇する危険の一旦を垣間見えたじゃろう。
今後、一層気を引き締めて探索を行ってほしい」
「はいよー」
軽く返事をする陽葵さん。
おそらくは自分の貞操の危機だったというのに気楽なものである。
本人がそれに気づいていないだけだとは思うが。
繰り返すがこの件は私が引き起こしたようなものなので、彼の危機感の薄さについて批難する気は毛頭ない。
「でも良かったよ。
ちょうど親切な冒険者が来てくれてさ」
陽葵さんにはリズィーさんのことは伝えていない。
偶々通りすがった冒険者が助けてくれた、とだけ説明した。
あの時の口振り的に彼女もそれをして欲しく無さそうだったし、魔族のあれこれについて今説明して良いものかどうか判断できなかったからだ。
「お礼を言いたいんだけどなー。
黒田も見てないんだっけ?」
「ええ、私が戻った時、ちょうどその冒険者が立ち去るところでしたからね」
そういう風に説明している。
いっそすべて洗いざらい話してしまってもいい気がするのだが……どうにも決心がつかない。
自分の決断力のなさが恨めしい。
「ムロサカ君を助けた冒険者についても、調査はしておる。
分かったら連絡をしよう」
「うん、ありがと」
「お手数をおかけします」
陽葵さんがギルド長へ微笑みかけた(超可愛い)。
彼の笑顔は人を幸せにするね。
「クロダ君もしっかり感謝するんじゃぞ」
「ホントにな」
「ははは、勿論ですよ」
ギルド長と陽葵さん二人から睨まれ、乾いた笑いをあげる私。
……勿論のこと、ギルド長には今回の件をしっかりと報告してある。
なのでこのやり取りは茶番劇だったりする。
決して陽葵さんを軽んじているわけではないので、大目に見て頂きたい。
「では、もう下がって良いぞ。
進展があったら都度連絡を入れよう」
「おう、そうしてくれ」
「よろしくお願いします」
私達は一礼をし、部屋から出ようとする。
「ああ、クロダ君は少し残ってくれんかのぅ」
「これから陽葵さんへの指導を予定していたのですが……陽葵さん、如何でしょう?」
「別にいいんじゃね、少しくらい。
こっちは急いでるわけでも無いんだからさ」
「ありがとうございます。
では、ギルドのホールで待っていて下さい」
「ん、了解」
そう言うと、陽葵さんは部屋から出て行った。
これでギルド長と私、二人きりになったわけだが……
「……何故呼び止めたのか、分かるかの?」
「魔族に遭遇した件についてですか」
「その通りじゃ。
……あのな、クロダ君、目立つ行動はするなとこの前言ったばかりじゃなかったかのぅ?」
「そうは言われましても。
今度のことは本当に不可抗力ですよ」
あの場合、どのように行動しろと言うのか。
「出会ってしまったものは仕方ないにしても、じゃ。
馬鹿正直にそのことを報告書へ書かんでもいいじゃろうに」
「いえ、報告書は正確に書きませんと」
虚偽の記録は後々大事になりかねない。
「臨機応変という言葉を知らんのか? 嘘も方便、でもいいがな。
儂が一番に確認したからいいものを……
魔族と出会って談笑してから別れました、なんて報告、大問題に発展しかねん」
臨機応変……情けないことに私の最も苦手とする言葉である。
マニュアル通りの対処だったら得意なんだが。
「ウィンガストの法やギルドのルールには魔族に対する特別な対応など特に無かったはずですが」
「それはそれ、これはこれじゃよ」
そこでギルド長は大きくため息をついた。
「魔王が倒れたのは7年前――たったの7年前じゃ。
未だ魔族に恨みや恐怖を持つ者は多くおる。
そんな中で、『魔族と会って話をした』などと知れ渡ったら、あらぬ疑いもかけられるぞ」
……そんなものなのか。
どうも、私と町の人とで魔族に対する認識に隔たりがあったようだ。
私の中で、魔族の印象は最初に出会ったリズィーさんが基準になっていることが原因かもしれない。
「承知しました。
以後、気を付けます」
「うむ、すまん。
……勘違いして欲しくないのじゃが、誰に対しても偏見無く対応するお主の態度自体は、素晴らしいものだと思っとる。
これからもその姿勢を大事にして欲しい」
「ありがとうございます」
珍しく褒められたようだ。
……何だろう、こう、いきなり持ち上げられるとなんだか落ち着かない気分になる。
「ところで少し質問なんじゃが、今回出会ったリズィーというこの魔族、お主の知己らしいな?」
「知己という程でも無いのですが。
まだ冒険者になりたての頃、次元迷宮で出会いまして」
この辺りはその時の報告書にも書いたはずだ。
「うむうむ、何でもその魔族が魔物に取り囲まれているところへ出くわして、魔族を助けたとか」
「……それを報告した覚えはありませんね」
「儂の情報網を甘く見られては困るのぅ。
これでもギルド長じゃよ?」
「…………そうですか」
あの場所は『ギルドの管轄外』だったはずだが。
ジェラルドさん、今日はかなり踏み込んで話をしてくる。
「そうなると気になってしまうことがあっての。
お主はまだウィンガストに来たばかりだったというのに、魔族を助けられるほどの実力があった、と」
…………。
「……運が良かっただけですよ」
「ちなみに魔族はどれほど下級の者でも一般的な兵士5人程度の戦力は持っとる」
わざわざ解説までしてくれる。
一応その辺りは私も知ってはいるのだが…
「…偶々、例外的に凄く弱い魔族だった、というのはどうでしょう」
「まさかそれで儂を納得させられるとは思っとらんよな?」
「……はい」
誤魔化されてはくれないようだ。
これは困った。
「――結局、何をお聞きしたいのですか?」
追い詰められた私は、逆に質問をしてみる。
勝算があるわけでもない、苦し紛れの行動だ。
「そろそろ、お主が何者なのか教えてくれてもええんじゃないか、ということじゃよ」
……なるほど。
逆に言えば、まだギルド長は私が何者なのか掴めていない――と考えても良いのか?
「私のことでしたら、アンナさんに尋ねてみれば良いではないですか」
「あの女、自分が言いたくないことはのらりくらり上手くかわしよるからのぅ」
全くもって同感である。
彼女から情報を聞き出すのは至難を極めるだろう。
「私の方が与しやすいと?」
「そういうことじゃ。
……で、教えてくれるのか?」
――どうしたものか。
ここですべてを話し、ギルド長に協力を仰ぐ、という判断は確かにある。
だが、それでもし彼が私の敵側であったらどうする?
今はそうでないにしても、人の立ち位置など状況次第でいくらでも変わるものだ。
話すべきか、否か。
「………」
「………」
互いに沈黙が続く。
胸中に様々な考えが沸き上がり、どうにも答えが出せなくなっていた。
いったい、どれが正解なのか。
――そんな私の迷いを否定と受け取ったのか、ギルド長が先に口を開いた。
「……分かった。
無理強いはせん、今はまだな」
「……感謝します」
何の解も出せないまま、この案件は終わったようだ。
ただの保留に過ぎないが、とりあえずはこれで良しとしておくべきか。
……後々になって後悔の種にならないことを祈るばかりだ。
「ただ、せめて儂の邪魔はしないで欲しいのぅ」
付け加えるように、ギルド長が告げる。
「……それは、確約いたしかねます」
「ほう、と言うと?」
ギルド長の目つきが鋭くなる。
私の返事に何か勘ぐっているのだろうが、それは誤解である。
何故そんな返事をしたのかと言えば、答えは単純。
「ギルド長が何を目的に動いているのか、私は知りませんので」
真っ正直に話してみた。
「――ってお主、儂がどういう立場なのかも知らずにおったんかい!?」
「教えられませんでしたから」
誰も教えてくれなかったのだから仕方ない。
……子供の言い訳みたいだと自分でも思う。
「教えられなかったっておい、自分で調べるとかはせんかったのか」
「はい……まあ、必要になれば教えてくれるのではないか、と考えまして」
というか、ギルド長がどういう立場なのか、等という情報を一介の低ランク冒険者である私にどう調べろと?
それこそアンナさんに聞く位しか私に手は無く、しかし彼女がそう簡単に情報を漏らすわけがない。
ギルド長、私の評価を高く見積もり過ぎていないだろうか。
「……なんつー他人任せな。
本当に探究心が無いというかなんというか。
冒険者には向かん気質をしとるのぅ」
深ーく、ため息を吐いた。
何を今更という話ではある。
私が冒険者向きの性質ではないこと位、とっくに承知していると思ったが。
――胸を張って言えることではないけれども。
「まあいい、それなら仕方ない」
「教えてくれるのですか?」
「教えるかい!!」
教えてくれないのか…
「ではどう判断せよと」
「……とことん他人任せじゃのぅ、お主は。
そうじゃなぁ、儂がどういう立場なのかは教えられんが、目下の目的は明かしてやろう」
おお、そんなことを話して貰えるのか。
「と言いますと?」
「儂の目的はな……ヒナタ様の身柄をお守りすることじゃよ」
……ヒナタ様、と来たか。
随分とサービス精神旺盛なことだ。
今の言葉で、ギルド長の立場が大凡把握できた。
「……それならば、私はギルド長の邪魔にはなりませんよ。
陽葵さんを守ることは、私の目的に沿いますから」
彼の言葉が真実だとするなら、そうなるはずだ。
勿論、嘘をつかれている可能性もあるので、安心はできないが。
「ふむ………それは勇者の考えと捉えても良いのか?」
「………」
………。
随分と核心をついた質問を飛ばしてくれる。
すぐに返事ができず、押し黙ってしまう。
「……私は勇者では無いので何とも言えませんね」
何とか声を絞り出せた。
「………」
「………」
再び、沈黙。
ギルド長は今の私の返答をどう解釈したのか。
「……そうか。あいわかった。
呼び止めてすまんかったの。
もう行って良いぞ」
「……そうですか」
明確な解は得られないまま、話し合いは終わった。
まあ、私の方こそそもそもギルド長に何も具体的な情報を話していないのだから、不満は持つべきで無いだろう。
「近いうちに、しっかり説明をしてほしいのぅ」
「……善処します」
立ち去ろうとする私に、言葉を投げかけてくる。
確かに、いい加減自分の態度をはっきりさせるべきだろう。
「……余り時間は無いぞ」
「ご忠告痛み入ります」
覚悟を決めねばなるまい。
ただの冒険者でいられる時間は、そろそろ終わろうとしている。
そんなやりとりをしたのが半日前。
陽葵さんへの教育を終えた私は一路、黒の焔亭に向けて歩いていた。
つい先日ようやく店長が退院し、今日は久しぶりにお店が営業しているのだ。
常連としてお祝いをしにいくのが筋というものだろう。
実は何度も店長のお見舞いに行っていたので、店長と顔を合わせること自体は久しぶりという程では無かったりするが。
ちなみに陽葵さんはお留守番。
迷宮の探索とかその他諸々に疲れ果ててしまったのか、家に帰るとすぐ寝てしまった。
何事もヤリ過ぎは良くないという話。
……別に変なことはしてないですよ?
リアさんも今日はウェイトレスとして黒の焔亭で働いているため、家には陽葵さん一人きりなのだが、一応夜食は作っておいたので大丈夫なはず。
そんな風に夜道を歩いていると、
「キャァァアアアアアアッ!!」
路地裏から女性の悲鳴が聞こえてきた。
……何故だろう、確認は一切できていないのだけれど、エレナさんのような気がしてしまった。
2度あることは3度あると言うし。
そんな思いとは裏腹に、悲鳴が聞こえた方へと急行する。
いや、エレナさんであろうとなかろうと悲鳴は緊急の証。
急ぐのは当たり前である。
裏路地を駆け抜けた先にあった光景は――
「ちょっと止めてよ! キミ達、何するつもりさ!!」
「何って、ナニするんだよぉ」
「静かにしていろ、痛い目には会いたくないだろう?」
二人の男に囲われる、黒いセミロングの髪を後ろで束ねた美少女――エレナさんの姿であった。
格好からして、男達も冒険者であろうか。
ほら、やっぱりエレナさんだった――などと悠長なことを言ってる場合ではない。
いつもとは違う、彼女の嫌がる表情を見れば、ここが犯罪現場なのは一目瞭然!
早急な対応が求められる場面である。
「へっへっへぇ、大体そんな格好しておいてやめても何もないもんだぜぇ。
なんだぁ、このおっぱい強調しまくりなぴっちぴちの服はよぉ?」
「別にキミ達に見せたくて着てるわけじゃ…」
エレナさんはいつもと同じような服装ではあるのだが、確かに今日のブラウスは胸の形が丸わかりな程に体へフィットしている。
スカートも丈が短く、彼女の綺麗な太ももが露わになっていた。
男にそういう目で見られたとしても文句は言えない気はする。
だからってレイプは犯罪だけどね。
「反抗しなければそれ程時間はとらせん。まずは――」
「きっはぁあああ!! 聞いたかよ兄貴ぃ!?
この女こんな服着といてあっしらに見せてたわけじゃねぇとかほざきやがるぜぇえ!?」
一人の男の言葉に被せるように、もう一人の男が喋りだした。
どうやらこの二人、兄弟……には見えないので、親分と子分的な間柄のチンピラなのだろう。
とりあえず、静かな方を兄貴、煩い方を三下と呼称する。
「おいおい冗談はよし子さんだぜぇえ!?
そんな格好して外歩いてりゃあおめぇ、どうぞ襲って下さいっつってるようなもんよぉ!!」
「……そうだな。だからまずは――」
「いっはぁああああ!!
それとも何かぁ!?
私の姿は彼氏だけに見せたいのってかぁ!?
おぅおぅ妬けるね妬けるねぇ!!」
「そ、そうだな、だから手始めに――」
「かはぁああっ!!
いいぜいいぜぇ!
好きなだけその愛しの彼氏に助けを求めろよぉ!!
どうせそいつはここに来れやしないがなぁ!?」
おい三下、喋りすぎだろう。
兄貴が全然話せてないじゃないか。
「あんまり好き勝手言わな――」
「ああ、しかし来たら来たで面白そうかぁ!?
彼氏の前でおめぇをぐっちょぐっちょに犯しまくるのもまたオツなもんだぜぇ!!
なあ、兄貴!!」
「あ、ああ。そうだ――」
「おおっとぉ!?
ここでまさか彼氏が負けるわけないとか思っちゃってるかぁ!?
ざ~んねんだったなぁ!!
兄貴はBランクの冒険者だぁ!!
そんじょそこらの男どもが相手できるお方ではねぇんだよぉ!!」
どうやら兄貴はBランク冒険者らしい。
自分の腕力を笠に着ての犯行か。
相手に十分な戦力があると分かった以上、ここは慎重に――
「おめぇはEランク冒険者だろぉ!?
彼氏にランクも知れたもんだぜぇ!!」
「う、うむ。だからな――」
「EがBに勝てるわきゃねぇだろ!?
兄貴はなぁ、赤色区域にすら足を踏み入れた男よぉ!!
その強さは――ぐはっ!!?」
三下が兄貴にぶっ飛ばされた。
「ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶった!?
兄貴、あっしをぶちましたね!?
しかもぐーで!!」
「いい加減にしろ!
お前は五月蠅すぎる!」
三下を叱咤する兄貴。
さもありなん。
横から聞いててもあいつは五月蠅い。
というか、さっきから三下しか喋ってない。
「と、とにかく、だ。
まずは服を脱いで貰おうか。
抵抗はしない方がいいぞ。
その身体に要らん傷をつけたくはなかろう?」
三下の介入を危惧してか、やや早口で捲し立てるように、兄貴。
むむむ、これはいかん。
再び緊迫した事態になろうとしてきた。
「ぼ、ボクの身体はお前らなんかに――」
「ぼぼぼぼぼぼぼぼボクっ子だとぉ!!?」
兄貴の努力空しく、三下、口を開く。
30秒程度の閉口であった。
「ボクっ子て! ボクっ子て!
兄貴こいつこんな歳して自分のことボクなんて呼んでますぜ!?」
「いや、別にそれ位は――」
「畜生! ボクなんて一人称使う言う奴ぁ、大抵自分のこと可愛いと思ってやがるんだ!
可愛いからちょっと変わった一人称使っても問題ないでしょ、とか考えてるんだろうおめぇ!」
「え、そんなこと――」
「その通りだよこの野郎!!
可愛いよ、おめぇ可愛いよ!!
ちょっともう一回ボクって言ってくれます?」
「えっ、と、ぼ、ボク――?」
「んぁぁああああああ!!
ボクっ子ぉおおおおお!!?」
ボクっ子に何かトラウマでも抱えてるのかこの三下。
「あれはあっしがまだガキの頃だったぁ!!
近所に自分のことボクって言う女の子がいたんだよぉ!!」
あ、自分語り始めたぞ。
「まだまだ子供だったあっしらは、性別のことなんざ気にせずに一緒に遊んで!
でも何時からだったか、あっしは彼女のことを女として見たいた――」
「な、なぁ、その話長くなりそうか?」
兄貴の質問にも答えず、三下の語りは続く。
「しかし! しかぁしぃ!!
彼女はあっしのことはあくまで仲の良い友達としか思ってくれていなかったぁ!
いや、そもそも自分のことを女だとちゃんと認識していたのかすら分からず!
あっしもガキゆえの気恥ずかしさで素直になれず、告白ができぬ日々が続いたあの頃!」
「……ねぇ、ボクもう帰っていいかな」
「いや、もう少し付き合って貰えないだろうか」
だんだんと横にいる二人は冷めてきた様子。
「昼は広場や河原で遊び、夜は一緒のベッドで寝ることもあって――自分の想いこそ告げられないものの、こんな生活が続くならそれはそれで幸せなんだと思っていた。
それがただの逃げなんだとガキのあっしは気づかず、漫然と過ごし、幾度もの告白の機会を逃し続け――!」
私はどうすればいいのだろう。
出る機会を完全に逸してしまった。
というより、もうこの事態に私は必要ないのでは?
「そんなある日!
思いもしなかった別れが二人を襲った!
……いや嘘だ、思いもしなかったわけじゃない、いずれ別れが来るだろうことは薄々と感づいていた!
前々から不仲だった彼女の両親が離婚し、彼女は母親に引き取られ、母の実家のある町へと引っ越していったのだ……」
それにしてもいつまで続くんだこれ。
「あっしは自分を責めた!
意気地なしと、根性無しと自分を責め続けた!
悔しさで眠れぬ日すらあった!
そして、もしもう一度彼女に会える日が来たなら自分の気持ちを必ず伝えようと心に誓ったのだ!」
「へぇ」
「ほう」
気のない返事を返す二人。
気持ちはよくわかる。
「それから幾年が過ぎ去り、あっしも大人になり、生まれ育った町を出た。
そして何の運命の悪戯か、彼女と再会する機会が訪れたのだ!
だが! だがぁ!! もうその時彼女はぁ!!!」
盛り上がり敵にそろそろ話の終わりが近そうか?
「――彼女はもう、ボクっ子では無くなっていた」
「「そういうオチかよ」」
二人が同時に同じ感想を述べた。
私も同感である。
「自分のことを『私』と呼ぶ彼女を見て、あっしは自分の気持ちが急速に冷めていくのを感じた……
ああ、あっしは彼女のことが好きだったんじゃない、ボクっ子が好きなだけだったんだと、その時初めて気が付いた」
「なんていうか、サイテーだね、キミ」
「男としてどうかと思う」
真っ当な感想だと思うが兄貴さん、貴方がしようとしていたことは男としては勿論、人としてもかなり最低ですからね?
「しかぁし!!
今日この日、新たなボクっ子、しかも可愛い美少女なボクっ子に出会えたわけだぁ!!
ひゃっはぁあああ!! こんな嬉しいことは無いぜぇ!?
さぁ兄貴、こいつをあっしらの肉棒でヒィヒィ言わしちまいましょうぜぇ!
今日があっしのボクっ子記念日だぁ!!」
「……いや、もういいよ」
「―――へ?」
思わぬ兄貴の言葉に、素っ頓狂な声をあげる三下。
「ど、どうしちまったんですか兄貴!
こいつのちっこいのにエロエロなボデーを散々味わってやろうって盛り上がったじゃないですかぁ!!
あの時のリビドーをどうして無くしちまったんですかぁあ!!?」
「「「お前が五月蠅いからだよ」」」
3人の言葉が一つになった。
第七話②へ続く
応援ありがとうございます!
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