勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~

ぐうたら怪人Z

文字の大きさ
8 / 53
第5話 ログアウトって、何?

【1】

しおりを挟む
 夜も更けてきた。店から客の姿は消え、残っているのはアスヴェルと店長であるサイゴウのみ。

「おし、そろそろ店仕舞いだ。アスヴェル、うちの2階に空き部屋が幾つかあっから、好きなとこ見繕って泊まってくれや」

 調理場の掃除をしながら、サイゴウがそう告げてくる。この店を仮の宿として扱っていいとのことだ。非常に有難い申し出なのだが――

「――ミスタ・サイゴウ、すまないがそれには及ばない」

「いい加減ミスタってつけるの止めてくれよ――んで、何が及ばないって?」

 当然の疑問に、アスヴェルは毅然とした口調で答える。

「ああ。私が泊まるべきはココではなく、ミナトの家なのだ……!」

「…………」

 何故か店長は顔をしかめた。

「……お前さん、さっきそれやろうとしてこれ以上ない程完璧に拒否されてただろう? その顔にある“真っ赤な紅葉”の痛み、忘れたのか?」

「いや、覚えている。今でもまだヒリヒリしている程だ」

 言って、頬を擦る。今、アスヴェルの顔には“手の平”の真っ赤な跡が付いていた。言うまでも無く、ミナトによるものである。
 彼女と一緒に宿へ帰ろうとしたところ、色々と・・・あった末にビンタを食らったのだ。

「そんな見事なモンこさえられて、それでもまだ諦めてねぇって?」

「当然だ。諦めない限り人は負けない。私が諦めるのは、己の生命活動が停止した時だけだ」

「そこだけ聞くとご立派な覚悟なんだかなぁ」

「それに――好きの反対は無関心とよく言うじゃないか」

「恐ろしい程の前向きさだ、見習いてぇぜ。だからって積極的に嫌われにいかなくともいいんじゃねぇかと思うが」

「嫌よ嫌よも好きの内、とも言う」

「ポジティブ過ぎだろう、お前さん!?」

 驚くサイゴウに、アスヴェルはフッとニヒルな笑みを浮かべると、

「私とていきなり全てを成し遂げようとは考えていない。物事の順序は大事だ。今日は、ミナトの家の特定を目標とする。彼女の部屋着を確認なお良し、だ」

「た、確かに順序は大事だが、その付け方を盛大に間違えてやがる……!!」

 禿げた頭を抱える店長。この行動に賛同はしてくれないようだ。彼とミナトは保護者と被保護者の関係にあるようなので、如何にアスヴェルがこの世界で最も素晴らしい男性だとしても、不安が拭えないのだろう。

(仕方あるまい)

 アスヴェルはその反応に不快感を持たない。責任感のある大人であれば持って当然の感情だ。それをケアするのも自分に課された試練であろう。

「サイゴウ――安心して欲しい。私以上に彼女を幸せにできる男などこの世に存在しない」

「いやそういう次元のことを議論してるんじゃなくてだな」

「それに君なら分かるはずだ。男には、やらねばならぬ時があることを……!」

「す、すげぇ、ストーカー行為をそこまで堂々と宣言する野郎は初めてみたぜ!?」

 アスヴェルの決意に、サイゴウも身を震わせている。とりあえずこちらを妨害する意図は無いらしい。
 有難い。今はそれだけで十分だ。いずれは彼からも祝福を受けたいものだが。

「ふっふっふ、待っていろよ、ミナト!」

「……ま、まあ、無駄だろうけど頑張ってみろ」

 諦観した面持ちのサイゴウに見送られながら、アスヴェルは闘志を燃やして店を後にするのだった。






 夜の街をアスヴェルは一人走る。

(……やはり、広い)

 まだ大して見分してはいないが、ミナト達に案内されたこの街は広い。その上、発展具合も素晴らしかった。道はしっかりと整備され、区画も美しく整い、建造物も立派なものだ。塵一つ落ちていないのではないか――と錯覚するほどに、清掃が行き届いている。

(それに、明るい・・・

 通りには街灯が幾つも設置され、夜を照らしていた。松明やランプとは比較にならない眩さ。しかも、同じような光が民家の中からも漏れている。つまり、この待ちでは高性能な照明器具――おそらく魔法の光を灯しているのだろう――が民間にまで普及しているのだ。
 ぽつぽつと独り歩きしている人がいるところを見るに、治安も良好の様子。

(首都か、それに準ずる都市なのかもしれないな)

 王城に該当するような建物は確認できないので、後者の可能性が高い。どちらにせよ、大陸有数の街であることに間違いないだろう。

(その割に、出入りは自由だったが)

 このような都市であれば、危険人物が入り込まぬよう人の入出をしっかりと管理するものだが、アスヴェルは特にこれといった審査もなく門を通ってしまった。気になってミナトに聞いてみたところ、そもそもそういった検査自体、ほとんど実施されることは無いとのこと。

(大陸規模で平和なのかもしれない)

 そんな推論を立てる。犯罪を行う人間自体がほとんど存在しないなら、警備のずさんさも納得がいった。平和ボケしている、とも言えるが――

(事実、この体制で町を維持しているのだから、ここは素直にここの人々の人間性を讃えるべきだろう。
 ……或いは、もっと“別の形”で人々を管理している・・・・・・のかもしれないが)

 それを今考えても仕方ない。機会があればミナト達に尋ねてみよう。
 さておき、今はミナトの家を探し当てるのが先決だ――が。

(こうも規模が大きいと、一苦労だぞ……人口はざっと数千人はくだらないか。下手すると、万に届くかもしれない……!)

 これだけの大都市で――しかも何の手掛かりもなく――特定の人物を探すのはかなり厳しい。しかし!

「問題無い! 1万人までなら!!」

 アスヴェルは諦めなかった。こう見えて彼は、広大な砂漠の中から拳大の水晶玉を探し当てた男(見つけた時には涙が出た)。如何に大規模の都市とはいえ、街中という限定された場所であるなら人探しなど造作も無い!

「く、くくく――ふはははははははぁっ!!」

 夜の街に、青年の高笑いが響いた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜

くまみ
ファンタジー
 前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?  「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。  仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。  病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。  「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!  「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」  魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。  だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。  「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」  これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。    伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!    

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...