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第10話 戦争って――何ぃ!?
【2】
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そんなこんなで。
「……あっという間に」
戦争開始直前にまで来てしまった。酒場での会議からここまで、たったの数時間。こんなことまでお手軽にやらなくてもいいのではないだろうか。
「出る幕が無かったなぁ」
サイゴウと向こうの団長らしき人物があれやこれやと話が進められ。その後、皆で街近くの設置された戦争用のフィールド(本当にこう説明されたのだ)に移動。あとは開戦を待つばかりとなっている。元々アスヴェルは居候のような立ち位置だったこともあり、何か意見を言うでも無くただ流されるままここに来てしまった。
(しかし、戦争を行うための“場所”が予め用意されているとは)
と言っても、多少大き目の岩がごろごろと転がる草原に“区切り”が描かれている程度の代物なのだが。
(この大陸では頻繁にこんなことを起こしているのか?)
戦争のためにいちいちこんなものを準備しているのだとしたら、剣呑なことである。だがその割に――
(――呑気、だなぁ。これから殺し合いをする人間の顔には見えん)
味方も、そして離れた場所に陣取る敵も――多少緊張感があるとはいえ――アスヴェルからしたら大分お気楽な態度。お気楽に談笑している者すらいる程だ。敵味方合わせて100人近くいるというのに、戦争に対して真剣味をもって臨んでいる人間がほとんど見受けられない。
(こんな連中が殺し合いなんてできるのか?)
殺す覚悟も、殺される覚悟も、あるようには見受けられなかった。戦いを舐めている、とすら感じてしまう。とてもではないが、“戦争”の開始をほいほいと決めてしまうような、好戦的な人々には見えなかった。
その疑問に答えを得られないまま、開戦の合図である“鐘”が鳴る。
(……あれ? 今、どこから鳴ったんだ?)
かなり大きな音だったのに、それを響かせた鐘が近く見当たらないのだ。
(まあ、また何かの加護だろうな、うん)
この大陸に来てから不可思議なことばかりなので、いちいち細かく突っ込むのは止めにしたアスヴェルである。興味を無くした訳でもないのだが、少なくとも戦争が始まろうとしているこの場で詮索する必要があるとは思えない。
「なんて考えている場合ですら無いか」
鐘の音が響くのと同時に、全員が一斉に動き出していた。
戦士達は各々の武器を構え、敵に突撃。
弓兵達はそんな前衛への支援射撃を敢行。
魔法使い達は弓兵同様の長距離攻撃や、味方の補助を。
僧侶達は負傷者がいつ出ても対応できるように準備を整えている。
大雑把に戦況を説明するとこんな形だ。敵側もこの辺りの動き自体に変わりはないように見受けられる。双方共に、まずは基本に忠実な戦術で相手の様子を伺っている、といったところか。
ちなみにミナトは、高速で戦場を動き回りつつ銃弾で敵陣をかく乱させるという、この中では特殊なポジションに就いていたり。
(確か――ハルが倒されたら負け、だったな)
ルールを確認する。この戦争の勝利条件は3つ。一つは相手を全滅させること。一つは相手に降参させること。最後の一つは、相手のリーダーを倒すこと、だそうだ。
この際、リーダーは必ずしも団長が務める必要は無いらしい。そのため、クランの中で防御能力が最も高いハルがリーダー役に任命されている。
(そのせいで、彼を前線に出せなくなったのは本末転倒のような気もするが)
実はハル、白兵能力もクラン内最高位の実力者。しかしリーダーとなったせいで、容易に動けなくなってしまっている。まあ、治癒や支援の魔法も使えるし、司令塔としてに役目も果たしているので、決して意味のない采配という訳ではないのだが、正直かなり勿体ない。“負けないこと”を重視した戦法のようだが、正直なところ余りアスヴェル好みのやり方では無かった。
(まあ、それはいい。考え方は人それぞれだ。とやかく言える立場に私はいない。
ここで問題になるのは――私はここでどう動くのがベストか、だが)
アスヴェルは魔法使い型勇者(決して魔法使いでは無い。勇者である)なので、後方待機しつつ攻撃魔法での射撃を指示されている。実際、こうしている間にも飛んでくる矢や魔法を避けつつ、魔法を軽く撃ってはいるのだが――
(――本当に、命を奪ってしまっても構わないのか?)
彼を迷わせているのは、結局のところその1点だ。こうして戦いが始まってみても、彼等が――ミナト達は勿論、敵側の人達も含めて――真剣に殺し合っているようには見えないのだ。いや、放たれる技は確かに人を十分殺しうる威力なのだが……しかしそれでも、これから人を殺す、或いは逆に殺される、という“覚悟”を感じないのである。
(どうしても遊んでいるように思えるんだよなぁ)
実のところ、アスヴェルは今すぐこの戦争を終わらせられる。クラン“暁の鷹”の団長であり、この敵陣のリーダーも務めている男が、射程圏内にいるからである。彼我の距離は100m、かつ護衛やら結界やらで守られているものの、アスヴェルにかかれば何の障害にもならない。
(いやしかし、もしこれが“遊び”だとしたら、本当に殺してしまうと大問題になるのでは……?)
こんな白昼堂々とした場であれば、言い逃れはきくまい。それで自分だけが害を被るならばともかく、親しい人々まで迷惑をかけるのは流石に憚られた。
「どうしたもんかなー」
ぼやきつつ、自分を狙ってきた矢をひょいと摘まんでその場に捨てた。もうしばし戦況を伺おうと決めたところで――
アスヴェルは、己の優柔不断を後悔した。
「おやっさん!?」
戦場に、ミナトの悲鳴が響く。驚いてそちらを見やれば、
「サイゴウ!!?」
アスヴェルも思わず叫ぶ。そこには、血塗れになったサイゴウの姿が横たわっていたのだ。彼は戦士として前衛に上がっていたのだが、敵の誰かにやられたらしい。
「くっ!!」
脇目も振らず、店長の下へと駆ける。だが彼の容態はアスヴェルの目から見ても――
「おっ、アスヴェル、か。
……すまねぇなぁ、しくじっちまったぜ」
「もういい! 喋るな!!」
抱きかかえる。無駄だと分かっていても、治癒魔法をかけた。しかし、治らない。既に魔法でどうこうできる傷ではなかった。袈裟懸けに大きく抉られ、重要器官が幾つも潰れてしまっている。まだ死んでいないというだけで、サイゴウが致命傷を負ってしまったのは明らかだ。
「すまない!! 私がついていながら、こんな――!!」
「いいってことよ……後は、頼むぜ」
弱々しい声でそう呟くと、サイゴウの身体から力が抜ける。だらりと腕が垂れ、頭が項垂れた。
つまり――彼は、死んだ。
「サイゴウーー!!!?」
慟哭が木霊した――いや、実際のところは戦場の騒音にほとんどかき消されたのだが。
脳裏に浮かぶは、サイゴウとの思い出。思えば、彼は初対面のアスヴェルに本当によくしてくれた。宿を提供し、食事を提供し、色々と相談にも乗ってくれて。特に彼の作った料理は絶品で――しかし、もう食べることはできない。
そんな嘆くアスヴェルの傍らに近づく影があった。
「……おやっさん」
「ミナト、か。冷静になって聞いてくれ。サイゴウは、もう――」
「くそっ! 弔い合戦だ!!」
説明が終わるより前。一言そう叫んだだけで、ミナトは戦線へと復帰した。ショックを受けた様子こそ見られたが、すぐにそれを振り払ったようだ。
頭をガツンッと殴られるような衝撃を受ける。彼女が薄情――な訳では勿論無い。
(覚悟が、できていたのか……!)
“殺し合いをするつもりがあるのか”“遊んでいるのではないのか”――アスヴェルが感じていたソレは全て間違いだった。ミナトは――いや、この場にいる皆、覚悟はできていのだ。それが余りに自然体だったから、気づくことができなかっただけで。この大陸の人々は、常に死が隣にあることを受け入れた戦人であったのだ。
この場で覚悟ができていなかったのは唯一人。
(――私、だけだ)
悔しさに身震いする。
(私だけが、迷っていた。私だけが、分かっていなかった。私がただ、未熟だった!!)
傲慢にもこの大陸の人々をお気楽だと嘲笑い、いざ戦いに臨んでなお迷いを払拭できず。
その結果、大切な友人を一人失ってしまった。
(サイゴウ……もはや、詫びることすらできない。この上は、貴方の望みを可及的速やかに果たすことだけが、私の成し得る贖罪と心得る!)
アスヴェルを縛る鎖は今、無くなった。
――殺戮、解禁――
「……あっという間に」
戦争開始直前にまで来てしまった。酒場での会議からここまで、たったの数時間。こんなことまでお手軽にやらなくてもいいのではないだろうか。
「出る幕が無かったなぁ」
サイゴウと向こうの団長らしき人物があれやこれやと話が進められ。その後、皆で街近くの設置された戦争用のフィールド(本当にこう説明されたのだ)に移動。あとは開戦を待つばかりとなっている。元々アスヴェルは居候のような立ち位置だったこともあり、何か意見を言うでも無くただ流されるままここに来てしまった。
(しかし、戦争を行うための“場所”が予め用意されているとは)
と言っても、多少大き目の岩がごろごろと転がる草原に“区切り”が描かれている程度の代物なのだが。
(この大陸では頻繁にこんなことを起こしているのか?)
戦争のためにいちいちこんなものを準備しているのだとしたら、剣呑なことである。だがその割に――
(――呑気、だなぁ。これから殺し合いをする人間の顔には見えん)
味方も、そして離れた場所に陣取る敵も――多少緊張感があるとはいえ――アスヴェルからしたら大分お気楽な態度。お気楽に談笑している者すらいる程だ。敵味方合わせて100人近くいるというのに、戦争に対して真剣味をもって臨んでいる人間がほとんど見受けられない。
(こんな連中が殺し合いなんてできるのか?)
殺す覚悟も、殺される覚悟も、あるようには見受けられなかった。戦いを舐めている、とすら感じてしまう。とてもではないが、“戦争”の開始をほいほいと決めてしまうような、好戦的な人々には見えなかった。
その疑問に答えを得られないまま、開戦の合図である“鐘”が鳴る。
(……あれ? 今、どこから鳴ったんだ?)
かなり大きな音だったのに、それを響かせた鐘が近く見当たらないのだ。
(まあ、また何かの加護だろうな、うん)
この大陸に来てから不可思議なことばかりなので、いちいち細かく突っ込むのは止めにしたアスヴェルである。興味を無くした訳でもないのだが、少なくとも戦争が始まろうとしているこの場で詮索する必要があるとは思えない。
「なんて考えている場合ですら無いか」
鐘の音が響くのと同時に、全員が一斉に動き出していた。
戦士達は各々の武器を構え、敵に突撃。
弓兵達はそんな前衛への支援射撃を敢行。
魔法使い達は弓兵同様の長距離攻撃や、味方の補助を。
僧侶達は負傷者がいつ出ても対応できるように準備を整えている。
大雑把に戦況を説明するとこんな形だ。敵側もこの辺りの動き自体に変わりはないように見受けられる。双方共に、まずは基本に忠実な戦術で相手の様子を伺っている、といったところか。
ちなみにミナトは、高速で戦場を動き回りつつ銃弾で敵陣をかく乱させるという、この中では特殊なポジションに就いていたり。
(確か――ハルが倒されたら負け、だったな)
ルールを確認する。この戦争の勝利条件は3つ。一つは相手を全滅させること。一つは相手に降参させること。最後の一つは、相手のリーダーを倒すこと、だそうだ。
この際、リーダーは必ずしも団長が務める必要は無いらしい。そのため、クランの中で防御能力が最も高いハルがリーダー役に任命されている。
(そのせいで、彼を前線に出せなくなったのは本末転倒のような気もするが)
実はハル、白兵能力もクラン内最高位の実力者。しかしリーダーとなったせいで、容易に動けなくなってしまっている。まあ、治癒や支援の魔法も使えるし、司令塔としてに役目も果たしているので、決して意味のない采配という訳ではないのだが、正直かなり勿体ない。“負けないこと”を重視した戦法のようだが、正直なところ余りアスヴェル好みのやり方では無かった。
(まあ、それはいい。考え方は人それぞれだ。とやかく言える立場に私はいない。
ここで問題になるのは――私はここでどう動くのがベストか、だが)
アスヴェルは魔法使い型勇者(決して魔法使いでは無い。勇者である)なので、後方待機しつつ攻撃魔法での射撃を指示されている。実際、こうしている間にも飛んでくる矢や魔法を避けつつ、魔法を軽く撃ってはいるのだが――
(――本当に、命を奪ってしまっても構わないのか?)
彼を迷わせているのは、結局のところその1点だ。こうして戦いが始まってみても、彼等が――ミナト達は勿論、敵側の人達も含めて――真剣に殺し合っているようには見えないのだ。いや、放たれる技は確かに人を十分殺しうる威力なのだが……しかしそれでも、これから人を殺す、或いは逆に殺される、という“覚悟”を感じないのである。
(どうしても遊んでいるように思えるんだよなぁ)
実のところ、アスヴェルは今すぐこの戦争を終わらせられる。クラン“暁の鷹”の団長であり、この敵陣のリーダーも務めている男が、射程圏内にいるからである。彼我の距離は100m、かつ護衛やら結界やらで守られているものの、アスヴェルにかかれば何の障害にもならない。
(いやしかし、もしこれが“遊び”だとしたら、本当に殺してしまうと大問題になるのでは……?)
こんな白昼堂々とした場であれば、言い逃れはきくまい。それで自分だけが害を被るならばともかく、親しい人々まで迷惑をかけるのは流石に憚られた。
「どうしたもんかなー」
ぼやきつつ、自分を狙ってきた矢をひょいと摘まんでその場に捨てた。もうしばし戦況を伺おうと決めたところで――
アスヴェルは、己の優柔不断を後悔した。
「おやっさん!?」
戦場に、ミナトの悲鳴が響く。驚いてそちらを見やれば、
「サイゴウ!!?」
アスヴェルも思わず叫ぶ。そこには、血塗れになったサイゴウの姿が横たわっていたのだ。彼は戦士として前衛に上がっていたのだが、敵の誰かにやられたらしい。
「くっ!!」
脇目も振らず、店長の下へと駆ける。だが彼の容態はアスヴェルの目から見ても――
「おっ、アスヴェル、か。
……すまねぇなぁ、しくじっちまったぜ」
「もういい! 喋るな!!」
抱きかかえる。無駄だと分かっていても、治癒魔法をかけた。しかし、治らない。既に魔法でどうこうできる傷ではなかった。袈裟懸けに大きく抉られ、重要器官が幾つも潰れてしまっている。まだ死んでいないというだけで、サイゴウが致命傷を負ってしまったのは明らかだ。
「すまない!! 私がついていながら、こんな――!!」
「いいってことよ……後は、頼むぜ」
弱々しい声でそう呟くと、サイゴウの身体から力が抜ける。だらりと腕が垂れ、頭が項垂れた。
つまり――彼は、死んだ。
「サイゴウーー!!!?」
慟哭が木霊した――いや、実際のところは戦場の騒音にほとんどかき消されたのだが。
脳裏に浮かぶは、サイゴウとの思い出。思えば、彼は初対面のアスヴェルに本当によくしてくれた。宿を提供し、食事を提供し、色々と相談にも乗ってくれて。特に彼の作った料理は絶品で――しかし、もう食べることはできない。
そんな嘆くアスヴェルの傍らに近づく影があった。
「……おやっさん」
「ミナト、か。冷静になって聞いてくれ。サイゴウは、もう――」
「くそっ! 弔い合戦だ!!」
説明が終わるより前。一言そう叫んだだけで、ミナトは戦線へと復帰した。ショックを受けた様子こそ見られたが、すぐにそれを振り払ったようだ。
頭をガツンッと殴られるような衝撃を受ける。彼女が薄情――な訳では勿論無い。
(覚悟が、できていたのか……!)
“殺し合いをするつもりがあるのか”“遊んでいるのではないのか”――アスヴェルが感じていたソレは全て間違いだった。ミナトは――いや、この場にいる皆、覚悟はできていのだ。それが余りに自然体だったから、気づくことができなかっただけで。この大陸の人々は、常に死が隣にあることを受け入れた戦人であったのだ。
この場で覚悟ができていなかったのは唯一人。
(――私、だけだ)
悔しさに身震いする。
(私だけが、迷っていた。私だけが、分かっていなかった。私がただ、未熟だった!!)
傲慢にもこの大陸の人々をお気楽だと嘲笑い、いざ戦いに臨んでなお迷いを払拭できず。
その結果、大切な友人を一人失ってしまった。
(サイゴウ……もはや、詫びることすらできない。この上は、貴方の望みを可及的速やかに果たすことだけが、私の成し得る贖罪と心得る!)
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