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第11話 マイルームって、なぁに?(期待の眼差し)
【3】
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なんやかんやあって。
「おおおおおおっ!!?」
『どうだ、オレの住む街――東京は』
からかうような顔でミナトが笑っている。しかしそんなこと気にならない程、アスヴェルの目の前には弩級の景色が広がっていた。
「君、スカートも履くんだな!!」
『そこに驚いてたんかい!!?』
いい具合にツッコミを入れて貰った。半分くらいジョークである。とはいえ、いつも短パン姿の少女がスカート(しかも丈がとても短い)を履いていると、実に新鮮味を感じさせてくれるのは確かだ。
まあ、それはそれとして。改めてアスヴェルは“窓”から“東京”の街並みを覗く。
「……とんでもないな。道は全て綺麗に舗装されていて、建物も見上げる程高い。
しかし、道も建物も何で造られているんだ? 石でも土でも無いようだが」
『道はアスファルトで、ビルはコンクリートっていう材料で造られてるんだぜ』
「ほうほう。そのアスファルトとコンクリートとは、いったいどういう代物なのだろうか?」
『……さぁ?』
「おや?」
『仕方ないだろ!? オレが造ったんじゃないんだから知ってる訳無いじゃないか!! アレだよ、たぶん砂利とか水とか色々混ぜたヤツだ、きっと!!』
「ら、乱暴な説明だな……」
専門外の知識なんて、大抵そんなものかもしれないが。ぱっと見ただけでも、単純な物質では無いのはよく分かるのだから。アスファルトは――どうも、油の一種のようだ。コンクリートはミナトの言ったように砂利や水、他にも樹脂や石灰等も使われているかもしれない。
(いやしかし、返す返すも凄い……!)
ついつい息を飲んでしまう。ベイリアも発達した街だと思っていたが、この“東京”と比べてしまうと貧相にすら感じてしまう。“元の世界”の町など、田舎未満だ。
いったいどうやって計量したのか不思議に思う程、区画が整っている。道は平らでなだらか、そして広い! 馬車が何台も通れるだろう。だが大きさで言えば建物の方だ。いったい何階建てなのか、数えるのも大変な程巨大な建造物が幾つもそびえて居る。
「それと、あの道の上を動いているのは一体なんだ?」
『アレは自動車。アレに乗ってオレ達は移動するんだ。馬車が滅茶苦茶進化するとああなる』
「いったい何を原動力にしているのだろうか。魔法で動いている、という訳ではない?」
『電気で走ってんだよ。どう使ってるのかとかは聞くな』
「ふむふむ」
とすると、雷で発生する熱を運動エネルギーに変換しているのだろうか? しかし単純な熱から運動を作り出すのは容易ではないので――
(――電力と磁力の相互作用でも利用しているのか?)
そんな予想を立ててみる。いずれ、詳しい人に聞いてみたいところだ。
「ところでミナト」
『なんだ? まだ質問か?』
「ああ。さっきから気になっていることがあるんだが――何故、人が歩いていないんだ?」
『…………』
ミナトが、険しい顔をして押し黙った。
ずっと不思議に思っていたのだ。“デート(誰が何と言うと、断じてこれはデートである)”に出かけてからこちら、ミナトはそれなりの時間歩き回っているのだが、他に歩行者をほとんど見かけない。ベイリアには、大勢の人々が住んでいるというのに、だ。
「何か、理由があるのか?」
『皆、ゲームが大好きなんだよ。『Divine Cradle』に没頭してるんだ。東京じゃ、娯楽も多くないしな』
「むぅ……確かに、ベイリアの方が活気はあるな」
素晴らしい街並みではあるのだが、少々――いや、かなり無機質にも見える。確かに、ベイリアの方が気分の良く散策できるだろう。
『……昔はさ』
「ん?」
『昔は、大勢の人が行き交ってたらしいんだ。オレが産まれる前とかには、通りに人が溢れかえってたんだってさ。今じゃ、ほとんどのヤツが部屋に引きこもってる』
「……健康的では無いな」
その割に、ベイリアの住人達はやたらアグレッシブだが。聞いたところによれば、昨日起こった戦争はあの街に限っても月に数回は起きているらしい。
「他にも疑問に思っていることがあるんだが」
『おう、いいぜ。どんどん来い』
「それは有難い。では聞かせてもらうが――空が見えないのは何でだろうか?」
不思議に思っていたこと、その2。この街では、空を巨大な“屋根”が覆っている。天井には無数の光が灯っているので暗くは無いのだが、異様なことに変わりはない。
『……さあな。オレも分からないんだ。もう数十年前からあの“屋根”はあるらしいぜ』
「ふむ」
空自体はロードリア大陸に行けば見れるのだから、不便は無いのだろうが――かなり閉塞感がある。
しかし、ここまで巨大な“屋根”を造れてしまう辺り、東京の技術力とはどれ程のものだというのか。その高さは5,600mは下らない。広さに至っては見当もつかない程だ。ラグセレス大陸で再現することは100%不可能だろう。
「最後に、もう一つ」
『よしきた』
「あの、巨大な塔は何だろう?」
『……アレか』
遠くに見える、“塔”。この街なら、どこからでも眺めることができるだろう。何せ、頂上が“天井”にまで達している――というか、天井と一体化している。この街の天と地を結ぶ塔だ。
『“マザーツリー”とか名付けられてる。司政官サマが住む、無駄に豪華でハイソなタワーだよ』
「司政官?」
『東京で一番エラい人』
そういう割に、ミナトの顔は嫌悪感で塗り固められていた。権力が好きなタイプではないと思っていたが、それにしてもコレは嫌い過ぎではないだろうか。
「その司政官とやらに親でも殺されたような勢いだな」
『似たようなもんさ』
「……なに?」
『オレに限った話じゃない。この街で生まれた子供は皆、親から引き離されちまうんだ。政府主導でな。だから、オレは親の顔を知らない』
「待ってくれ。確か、サイゴウは君の父の友人だと――」
『ああ、ソレは“育ての親”って意味での親父さ。血が繋がってる訳じゃないんだよ』
予想していた以上に、深刻な話だった。
「この国は、なんだって子を奪い取るような真似を?」
『子供に“最適な環境”で“最適な教育”を受けさせるため、だってよ。赤ん坊の内から適性を診断されて、そいつに合った教育プログラムを“施設”で受けさせられるんだ。一通り教育が終わったら、そのまま職まで斡旋して貰える』
「悪いシステム……では無いが」
無機質だ。余りにも、無機質だ。ただひたすらに効率を追求したシステム。
実のところアスヴェルは、こういう効率重視の考えが嫌いではないが――これは付き抜け過ぎている。
『いやー、分かってる。この教育システムのおかげで就職率は100%だ。落ちこぼれも出てこない。
治安も凄いんだぜ。徹底的に住人を管理した結果、ここ数年は犯罪発生件数0だってさ!
飯だって、栄養だけはやたら豊富な無味の完全食が配給されるから、腹を減らす心配もなし! ハハ、サイコーだね! 良い街だろー、東京はっ!!』
欠片もそうは思っていない口振りである。
『……ごめん。オマエに言ったって仕方ないよな。一応はデート中だってのに』
「いや、気にするな。愚痴を聞くのも恋人の役目だ」
『本当にごめん。恋人でも何でもないただの知り合いなオマエに愚痴なんて吐いて』
「その謝り方、ちょっとおかしくない?」
もっと素直に甘えてくれればいいのに。まあ、彼女なりの照れ隠しだろう、きっと。
「しかし、犯罪0、か」
『そこ、気になったのか?』
呟きにミナトが反応した。
「ああ、“死を克服した人間”が犯す罪とは、いったいどんなものなのかと思ってね」
『死? 克服? オレ達が?』
「違うのか? 事実、サイゴウや“暁の鷹”の面々は、ああも容易く復活したじゃないか」
『あー。そうかそうか、なるほどなるほど! ハハハ、そうだな、うん。オレ達は死を克服しているのだ、凄いだろ! 存分に崇め奉れ!』
「そう開き直られてしまうと、素直に感心しにくいような……」
とはいえ、元気になったのは良いことだ。何が彼女の琴線にふれたのかは分からないが。
そのまましばし、散歩を続けていると、
「む? 向こうにまた“窓”があるな。あれも、ロードリア大陸との通信映像なのか?」
『違う違う。アレはビルに設置された大型モニターで今はテレビを――って、なんだよ。嫌な奴が映ってんな』
露骨に顔を顰めるミナト。どうも、あの“窓”に映る人物がお気に召さない様子。
「誰なんだ?」
『稲垣悠。司政官サマの愛娘さ』
「なんというか――余り、好きではないようだな」
『だって超お嬢様だぜ? 絶対、優雅な暮らしとかしてオレ達みたいな下々の者を見下してんだ。顔だけは良いからマスコミもアイドルみたいに扱ってるし。それに――アイツみたいな特権階級のヤツラはさ、親から子が取り上げられないんだよ。普通に家族で暮らせるのさ』
「……ふむ」
偏見が多分に入っているものの、妬んでしまう理由は理解できる。しかし――
「君は、分かっていないのか?」
『何が?』
「……いや、何でもない」
伝えていないというのなら、何か意味があるのだろう。少なくとも自分がアレコレ口を出すこともあるまい。
「しかし、そう悪く言うモノでも無いさ。話してみれば案外気が合うかもしれないぞ。すぐ打ち解けて、親友になれたりも」
『はぁ? オレとあの女が? ハハ、有り得ない有り得ない』
「それはどうかな」
アスヴェルは改めて件の“窓”を見る。そこには、いつか見た黒髪の少女が静かに微笑んでいた。
そんな一幕もありつつ。
時刻は夕方。太陽の見えない街だが、律儀なことに天井の照明が夕映えのような色合いと変化している。
『ところで、さ』
「うん?」
何とはなしに、ミナトが話しかけてくる。
『半日周ってみたけどどうよ、東京の感想は?』
「うーむ、まだまだほんの一角を見ただけではあるが――」
東京はおそろしく広大であった。今日見れた場所など、全体の果たして何千分の一なのか。下手したらそれよりも小さいかもしれない。
「――素晴らしい街だと思う。建築技術の高さや街並みの整い方、治安の良さは私がこれまで見聞きしたどの街とも比べ物にならない。神々の住む街と言われても、信じてしまうかもしれない程だ」
『うん』
「だが……遠慮会釈なしに言うなら、私は嫌いだ」
『えっ』
少女が目を見開いた。
「具体的にどこが、とは良いにくいが――この街には、“人間味”が無さすぎる気がする。まるで……そう、人間以外の存在に管理されているような感覚。これがどうにも気に入らない」
『…………』
ミナトは黙ってこちらの話を聞いている。
「まあ、単に私が君達の文化へ慣れていないというだけなのかもしれないが。気を悪くしたなら謝ろう」
『……いや』
そこで、彼女が笑みを浮かべていることに気付く。
『ハハハ、やっぱオマエ、変なヤツだな。NPCの癖にこの街へ文句垂れるなんてさっ』
どうしてか、ミナトはとても嬉しそうだ。
『なあ、アスヴェル』
「なんだろうか」
『また、しようぜ、デート。今度はちょっと遠出して、色々見せてやるよ。昔観光地だった場所とか』
「それは魅力的な提案だ」
『だろう?』
そう言って、少女はにこやかに笑った。橙色の光に照らされるその顔は――控えめに言って、神々しかった。
◆勇者一言メモ
その後は、何事も無く解散しました――――え、嘘だろ?
「おおおおおおっ!!?」
『どうだ、オレの住む街――東京は』
からかうような顔でミナトが笑っている。しかしそんなこと気にならない程、アスヴェルの目の前には弩級の景色が広がっていた。
「君、スカートも履くんだな!!」
『そこに驚いてたんかい!!?』
いい具合にツッコミを入れて貰った。半分くらいジョークである。とはいえ、いつも短パン姿の少女がスカート(しかも丈がとても短い)を履いていると、実に新鮮味を感じさせてくれるのは確かだ。
まあ、それはそれとして。改めてアスヴェルは“窓”から“東京”の街並みを覗く。
「……とんでもないな。道は全て綺麗に舗装されていて、建物も見上げる程高い。
しかし、道も建物も何で造られているんだ? 石でも土でも無いようだが」
『道はアスファルトで、ビルはコンクリートっていう材料で造られてるんだぜ』
「ほうほう。そのアスファルトとコンクリートとは、いったいどういう代物なのだろうか?」
『……さぁ?』
「おや?」
『仕方ないだろ!? オレが造ったんじゃないんだから知ってる訳無いじゃないか!! アレだよ、たぶん砂利とか水とか色々混ぜたヤツだ、きっと!!』
「ら、乱暴な説明だな……」
専門外の知識なんて、大抵そんなものかもしれないが。ぱっと見ただけでも、単純な物質では無いのはよく分かるのだから。アスファルトは――どうも、油の一種のようだ。コンクリートはミナトの言ったように砂利や水、他にも樹脂や石灰等も使われているかもしれない。
(いやしかし、返す返すも凄い……!)
ついつい息を飲んでしまう。ベイリアも発達した街だと思っていたが、この“東京”と比べてしまうと貧相にすら感じてしまう。“元の世界”の町など、田舎未満だ。
いったいどうやって計量したのか不思議に思う程、区画が整っている。道は平らでなだらか、そして広い! 馬車が何台も通れるだろう。だが大きさで言えば建物の方だ。いったい何階建てなのか、数えるのも大変な程巨大な建造物が幾つもそびえて居る。
「それと、あの道の上を動いているのは一体なんだ?」
『アレは自動車。アレに乗ってオレ達は移動するんだ。馬車が滅茶苦茶進化するとああなる』
「いったい何を原動力にしているのだろうか。魔法で動いている、という訳ではない?」
『電気で走ってんだよ。どう使ってるのかとかは聞くな』
「ふむふむ」
とすると、雷で発生する熱を運動エネルギーに変換しているのだろうか? しかし単純な熱から運動を作り出すのは容易ではないので――
(――電力と磁力の相互作用でも利用しているのか?)
そんな予想を立ててみる。いずれ、詳しい人に聞いてみたいところだ。
「ところでミナト」
『なんだ? まだ質問か?』
「ああ。さっきから気になっていることがあるんだが――何故、人が歩いていないんだ?」
『…………』
ミナトが、険しい顔をして押し黙った。
ずっと不思議に思っていたのだ。“デート(誰が何と言うと、断じてこれはデートである)”に出かけてからこちら、ミナトはそれなりの時間歩き回っているのだが、他に歩行者をほとんど見かけない。ベイリアには、大勢の人々が住んでいるというのに、だ。
「何か、理由があるのか?」
『皆、ゲームが大好きなんだよ。『Divine Cradle』に没頭してるんだ。東京じゃ、娯楽も多くないしな』
「むぅ……確かに、ベイリアの方が活気はあるな」
素晴らしい街並みではあるのだが、少々――いや、かなり無機質にも見える。確かに、ベイリアの方が気分の良く散策できるだろう。
『……昔はさ』
「ん?」
『昔は、大勢の人が行き交ってたらしいんだ。オレが産まれる前とかには、通りに人が溢れかえってたんだってさ。今じゃ、ほとんどのヤツが部屋に引きこもってる』
「……健康的では無いな」
その割に、ベイリアの住人達はやたらアグレッシブだが。聞いたところによれば、昨日起こった戦争はあの街に限っても月に数回は起きているらしい。
「他にも疑問に思っていることがあるんだが」
『おう、いいぜ。どんどん来い』
「それは有難い。では聞かせてもらうが――空が見えないのは何でだろうか?」
不思議に思っていたこと、その2。この街では、空を巨大な“屋根”が覆っている。天井には無数の光が灯っているので暗くは無いのだが、異様なことに変わりはない。
『……さあな。オレも分からないんだ。もう数十年前からあの“屋根”はあるらしいぜ』
「ふむ」
空自体はロードリア大陸に行けば見れるのだから、不便は無いのだろうが――かなり閉塞感がある。
しかし、ここまで巨大な“屋根”を造れてしまう辺り、東京の技術力とはどれ程のものだというのか。その高さは5,600mは下らない。広さに至っては見当もつかない程だ。ラグセレス大陸で再現することは100%不可能だろう。
「最後に、もう一つ」
『よしきた』
「あの、巨大な塔は何だろう?」
『……アレか』
遠くに見える、“塔”。この街なら、どこからでも眺めることができるだろう。何せ、頂上が“天井”にまで達している――というか、天井と一体化している。この街の天と地を結ぶ塔だ。
『“マザーツリー”とか名付けられてる。司政官サマが住む、無駄に豪華でハイソなタワーだよ』
「司政官?」
『東京で一番エラい人』
そういう割に、ミナトの顔は嫌悪感で塗り固められていた。権力が好きなタイプではないと思っていたが、それにしてもコレは嫌い過ぎではないだろうか。
「その司政官とやらに親でも殺されたような勢いだな」
『似たようなもんさ』
「……なに?」
『オレに限った話じゃない。この街で生まれた子供は皆、親から引き離されちまうんだ。政府主導でな。だから、オレは親の顔を知らない』
「待ってくれ。確か、サイゴウは君の父の友人だと――」
『ああ、ソレは“育ての親”って意味での親父さ。血が繋がってる訳じゃないんだよ』
予想していた以上に、深刻な話だった。
「この国は、なんだって子を奪い取るような真似を?」
『子供に“最適な環境”で“最適な教育”を受けさせるため、だってよ。赤ん坊の内から適性を診断されて、そいつに合った教育プログラムを“施設”で受けさせられるんだ。一通り教育が終わったら、そのまま職まで斡旋して貰える』
「悪いシステム……では無いが」
無機質だ。余りにも、無機質だ。ただひたすらに効率を追求したシステム。
実のところアスヴェルは、こういう効率重視の考えが嫌いではないが――これは付き抜け過ぎている。
『いやー、分かってる。この教育システムのおかげで就職率は100%だ。落ちこぼれも出てこない。
治安も凄いんだぜ。徹底的に住人を管理した結果、ここ数年は犯罪発生件数0だってさ!
飯だって、栄養だけはやたら豊富な無味の完全食が配給されるから、腹を減らす心配もなし! ハハ、サイコーだね! 良い街だろー、東京はっ!!』
欠片もそうは思っていない口振りである。
『……ごめん。オマエに言ったって仕方ないよな。一応はデート中だってのに』
「いや、気にするな。愚痴を聞くのも恋人の役目だ」
『本当にごめん。恋人でも何でもないただの知り合いなオマエに愚痴なんて吐いて』
「その謝り方、ちょっとおかしくない?」
もっと素直に甘えてくれればいいのに。まあ、彼女なりの照れ隠しだろう、きっと。
「しかし、犯罪0、か」
『そこ、気になったのか?』
呟きにミナトが反応した。
「ああ、“死を克服した人間”が犯す罪とは、いったいどんなものなのかと思ってね」
『死? 克服? オレ達が?』
「違うのか? 事実、サイゴウや“暁の鷹”の面々は、ああも容易く復活したじゃないか」
『あー。そうかそうか、なるほどなるほど! ハハハ、そうだな、うん。オレ達は死を克服しているのだ、凄いだろ! 存分に崇め奉れ!』
「そう開き直られてしまうと、素直に感心しにくいような……」
とはいえ、元気になったのは良いことだ。何が彼女の琴線にふれたのかは分からないが。
そのまましばし、散歩を続けていると、
「む? 向こうにまた“窓”があるな。あれも、ロードリア大陸との通信映像なのか?」
『違う違う。アレはビルに設置された大型モニターで今はテレビを――って、なんだよ。嫌な奴が映ってんな』
露骨に顔を顰めるミナト。どうも、あの“窓”に映る人物がお気に召さない様子。
「誰なんだ?」
『稲垣悠。司政官サマの愛娘さ』
「なんというか――余り、好きではないようだな」
『だって超お嬢様だぜ? 絶対、優雅な暮らしとかしてオレ達みたいな下々の者を見下してんだ。顔だけは良いからマスコミもアイドルみたいに扱ってるし。それに――アイツみたいな特権階級のヤツラはさ、親から子が取り上げられないんだよ。普通に家族で暮らせるのさ』
「……ふむ」
偏見が多分に入っているものの、妬んでしまう理由は理解できる。しかし――
「君は、分かっていないのか?」
『何が?』
「……いや、何でもない」
伝えていないというのなら、何か意味があるのだろう。少なくとも自分がアレコレ口を出すこともあるまい。
「しかし、そう悪く言うモノでも無いさ。話してみれば案外気が合うかもしれないぞ。すぐ打ち解けて、親友になれたりも」
『はぁ? オレとあの女が? ハハ、有り得ない有り得ない』
「それはどうかな」
アスヴェルは改めて件の“窓”を見る。そこには、いつか見た黒髪の少女が静かに微笑んでいた。
そんな一幕もありつつ。
時刻は夕方。太陽の見えない街だが、律儀なことに天井の照明が夕映えのような色合いと変化している。
『ところで、さ』
「うん?」
何とはなしに、ミナトが話しかけてくる。
『半日周ってみたけどどうよ、東京の感想は?』
「うーむ、まだまだほんの一角を見ただけではあるが――」
東京はおそろしく広大であった。今日見れた場所など、全体の果たして何千分の一なのか。下手したらそれよりも小さいかもしれない。
「――素晴らしい街だと思う。建築技術の高さや街並みの整い方、治安の良さは私がこれまで見聞きしたどの街とも比べ物にならない。神々の住む街と言われても、信じてしまうかもしれない程だ」
『うん』
「だが……遠慮会釈なしに言うなら、私は嫌いだ」
『えっ』
少女が目を見開いた。
「具体的にどこが、とは良いにくいが――この街には、“人間味”が無さすぎる気がする。まるで……そう、人間以外の存在に管理されているような感覚。これがどうにも気に入らない」
『…………』
ミナトは黙ってこちらの話を聞いている。
「まあ、単に私が君達の文化へ慣れていないというだけなのかもしれないが。気を悪くしたなら謝ろう」
『……いや』
そこで、彼女が笑みを浮かべていることに気付く。
『ハハハ、やっぱオマエ、変なヤツだな。NPCの癖にこの街へ文句垂れるなんてさっ』
どうしてか、ミナトはとても嬉しそうだ。
『なあ、アスヴェル』
「なんだろうか」
『また、しようぜ、デート。今度はちょっと遠出して、色々見せてやるよ。昔観光地だった場所とか』
「それは魅力的な提案だ」
『だろう?』
そう言って、少女はにこやかに笑った。橙色の光に照らされるその顔は――控えめに言って、神々しかった。
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