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第12話 垢BANって……何だ?
【3】
しおりを挟む「な、何を言うでござるかアスヴェル殿。開催場所になんて、そんなこと、拙者にできる筈――」
「できるから、あの場を逃げ出したんだろう? それができるから、周囲の人の言葉に耐えられなかったんだ。
そうでなければ――共に嘆いている人を一喝できる程、君は横暴な人ではない」
間髪入れず、ハルの反論を封じる。論理もへったくれも無い、相手の誠実さを盾に取ったやり口だが――
「あ……その……」
――見込んだ通り実直な彼は、黙り込んでしまう。
或いは、ハルの“正体”について触れてしまえば話は早いのかもしれないが。人の良い彼に対して、そんな不義理な真似はしたくはない。
アスヴェルはじっと、ハルが口を開くのを待った。
「……確かに、拙者は、アスヴェル殿をそこへ連れていけるでござる」
果たして、彼はとうとう認めてくれた。これで、突破口を開ける。アスヴェルはそう確信し、俄然意気込むのだが、
「でも駄目でござる! そんなこと、拙者にはできないでござる!!」
ハルはなお、こちらの提案を否定した。その頑なさに、アスヴェルも語気を強めてしまう。
「何故だ!?」
「アスヴェル殿が“ゲーム”のことを何も理解していないからでござるよっ!! あんなもの、最終判断でも救済でも何でもない!! 金持ち連中の見世物なのでござる!! 必死に足掻いている参加者を前にして、奴ら下卑た笑みを浮かべて面白がってるんですよ!? アスヴェルさんが例え参加したとしても、連中の玩具になるに決まってます!!」
「ならば、そいつら諸共に叩き潰す!!」
「無理です!!」
「できる!!」
「できる訳ないでしょう!? たかがゲームキャラに!!」
喉が張り裂けんばかりに、ハルが叫んだ。
「いい加減、自覚して下さいよ!! この世界はゲームなんです!! Divine Cradleという仮想現実なんです!! アスヴェルさんはこのゲームの中でしか存在できない――NPCに過ぎないんですよ!!」
唐突に――あまりに唐突に、彼は“真実”を語り出した。その慟哭は涙と共に続けられる。
「“ゲームキャラ”が“現実”をどうこうできる訳ないでしょう!? そんな、自分がいったい何者なのかすら分かって無い癖に、アレコレ偉そうなこと言わないで下さい!! アスヴェルさんなんて所詮――」
「だから何だってんだぁ!!!」
「――――っ!?」
そんな驚愕の“真実”を、アスヴェルは切って捨てる。
「ほうそうか! この世界は君達が作り出した仮想世界な訳か! そりゃ凄い、大したものだ、流石の技術力だ! 加えて、私はそこの登場人物に過ぎないと!! なるほど、言われてみれば納得いくことが幾つかある! こいつは驚きだ!!
――だがな、それが何だというんだ!?」
「えっ――?」
「今重要なのは!! 私と君が協力すれば、ミナトを救えるかもしれないという、ただそれだけだ!! それだけが最重要事項だ!! それに比べれば、私が作られた存在だのなんだの、些末事に過ぎない!! 違うか!?」
「――あ、そ、その」
今まで見せたことも無い剣幕に、ハルが2歩3歩と後ずさった。そんな彼へ、アスヴェルは畳みかける。
「ハル、正直になれ。君もミナトを助けたいんだろう? 彼女は、君にとっても大切な友人だろう? そして君には彼女を救う手段がある。ならば、迷う必要などどこにも無い筈だ」
「――あ、ああっ」
青年が頭を抱えた。歯を食いしばりながら、葛藤し出す。
「――う、ぐ、うう、私、も――私も――でも、だからって――だからって――!!」
突然、ハルの身体が光り出した。輝きが収まると――そこには、以前会った“黒髪の少女”の姿があった。“彼女”は不自然な笑みを顔に張り付けると、
「じゃ、ジャジャーン! ど、どうですか、驚きました!? 実は私、こっちが本当の姿なんです。こ、この姿なら、アスヴェルさんも気に入って頂けたりしませんか? その、ミナトさんがしてくれなかったことだって、私ならできますよ? だから――だから、私をミナトさんの代わりに――」
「ハル!」
途中で遮る。その痛々しい姿は、とてもではないが見ていられなかった。
「自分の心に蓋をするのはもう止めろ。そんなことをしても苦しいだけだ。君の――君の本心は、いったいどこにある! それとも、ミナトは救う価値の無い人間だと言うのか!?」
「私だってミナトさんを助けたいですよ!!」
少女の絶叫が響いた。
「初めての友達だったんです!! 私に出来た、初めての友達だったんです!! 死んで欲しくない!! 助けられるなら、今すぐに助けたい!! でも、だからって、だからって――」
そこで口調が弱々しく変わる。
「――アスヴェルさんを、犠牲にしたくないんです。死んで欲しくないんです。アスヴェルさんまで居なくなったら、私、もう、どうしたらいいか――」
彼女は本気だった。ゲームのキャラだと、仮想の存在だと断じたアスヴェルのことを、本気で慮ってくれている。その想いはとても心地良いものだったが……
「……ありがとう。君の気持は、素直に嬉しい。ここまで心配して貰えたのは、いつぶりだったか。
そしてすまない。それでも私はミナトを助けたいんだ」
「そんなに……そんなにまで、ミナトさんのことが大切なんですか? 自分の命が惜しく無い程、あの子を愛しているんですか……?」
潤んだ瞳に見つめられる中、アスヴェルは言葉を紡ぎ出す。
「私を、そんな御大層な人間だと思わないでくれ」
「……?」
ハルが首を傾げた。
「別に、ミナトだから助ける訳じゃないんだ。彼女を愛しているから、助ける訳じゃないんだよ。
私はな、誰であろうと同じことをする。ミナトでなくとも、私はこうする。君であろうと、サイゴウであろうと、オーバタやホクトだろうと。同じ状況になれば同じことをするだろう。私は、そういうつまらない人間なんだ」
彼女が本心を語ってくれたように、アスヴェルもまた心の底から願望と吐露する。
「君は私に死んで欲しくないと言ってくれたが――逆だ。ミナトを救うことができなかったら、私は死ぬんだよ」
「……それって」
「勇者アスヴェルは、“こんな時”に尻込みするような男ではない。諦めるような男ではない。もしここで動かないのであれば、そんな男は勇者アスヴェルじゃないんだ。ミナトの救出を断念した時、勇者アスヴェルはこの世から居なくなる――消えてなくなる。私はそれが、怖くて堪らない」
ハルに対して深く頭を下げる。
「頼む。私を、助けてくれないか」
「アスヴェルさん……」
呆然とした声で彼女は呟き――その後、ふっきれたように笑みを浮かべた。
「――ふ、ふ、ふ、ふふ、ふ。
酷い、人ですね。相手のことが好きだから、大事だから助けたいのではなくて、自分が勇者だから助けたい、だなんて。
きっと、ミナトさんが聞いたら怒りますよ?」
「そうだろうな」
「本当、酷い人。こんな人だとは思いませんでした。ちょっと失望してしまいました。
でも――そこまで言うなら、助けてあげるのも吝かではありません。
その前に一つ、私のお願いを聞いてくれるなら、ですが」
「ああ、いいぞ。何でも言ってくれ」
アスヴェルの返答を受け、今度はハルがお辞儀をする。そして震える声で、心からの嘆願を口にした。
「お願いします。私の親友を――ミナトさんを、どうか救って下さい」
その願いに対する答えを、彼は一つしか持たない。
「任せろ」
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