勇者がログインしました ~異世界に転生したら、周りからNPCだと勘違いされてしまうお話~

ぐうたら怪人Z

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第15話 サービス終了、だな

【1】

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 勇者アスヴェルの活躍、堪能して頂けただろうか?
 もし貴方があの結末に感動し、十分に満足したというなら――この先は見ない方がいいかもしれない。
 あの男の悪辣さは、こんなものではない。
 “敵”を前にした勇者アスヴェルが、あんな生温い訳がないのだから。






――――――――――――――――――――――――――






 “ゲーム画面”の中、人々が思い思いの仕草で湧き上がる感情を表現している。客観的に見て感動の一幕。それを、つまらなそうな・・・・・・・顔で見る男がいた。年齢は40に差し迫るが――若い、と表現すべきだろう。彼の立場・・を考えれば。
 この管理室・・・には他にも人がいる。“男”以外は皆彼の部下であり、今はコンソールを忙しそうに叩いている最中だ。
 その内の一人がおずおずと話しかけてくる。

「ほ、本当にクリアしちゃいましたね、室長・・

「…………」

 しかし、室長と呼ばれた男はその言葉に何の返事もしない。ただ、不愉快気に眉をひそめ、映像を眺めて続ける。
 そんな反応が常なのか、話しかけてきた部下は特に気にした様子も無く作業に戻った。

「えーと、この後どうするんでしたっけ?」
「確か参加者全員を一度<ログアウト>させて、彼らのIDを復帰させる――だった筈」
「初めてのことだから細かい部分が曖昧だな」
「誰かマニュアル持ってきてくれ」

 部下同士の会話が始まった。“ゲーム”をクリアした際の処理についての相談である。程なくして、プレイヤー達が次々へと<ログアウト>を始めた。
 そんな光景を全くの無関心で眺めつつ、男は一言命じる。

「――消せ」

 その言葉で、一斉に注目が集まる。部下が恐る恐る尋ねてきた。

「消せ、とはディスプレイのことですか? いや、しかし、映像を無くしてしまいますと、作業に支障がですね――」

「違う。そんなことは言っていない」

 察しの悪さに苛立ちを隠さず、室長は改めて命令を下す。

「今すぐこの“ゲーム”のデータを全て・・消せと言っているんだ」

「は!?」

 素っ頓狂な声が返ってくる。

「待って下さい、室長! 参加者達の<ログアウト>完了にはまだ時間がかかります! この状況でそんなことをしますと、彼等の脳に重大な障害が残りかねません! 最悪、廃人になってしまうかも――」

「だからどうした?」

「は、はい?」

「だからどうしたと言っている。どうせ処分される連中だ。頭がイカれようと、問題ない」

「お、お言葉ですが、彼らは“ゲーム”をクリアしていますので、処分は免れたものと――」

「阿呆」

 一向に理解を示さない部下達を、一言で切って捨てた。

「“ゲーム”のクリアで解放されるなんて、本気で信じているのか? あんなものは方便に過ぎん。そんなこと、民衆共すら分かっていそうなものだが」

「しかし、実際にクリアする者が居て、その上それを目撃されている訳でして……」

「そんなものは“上”からの圧力・・でどうとでもなる。ふん、僕に逆らったことをせいぜい後悔させてやる」

 脳裏を横切るは、ふざけた鑑賞者共の姿だ。こちらが下手に出た・・・・・のをいいことに、あれやこれやと騒ぎ立て。挙句、“ゲーム”をクリアされるという愚を犯してしまった。これは自分のキャリアに酷い汚点を残しかねない。政府より“ゲーム”の管理者を任命されている身である以上、そこで発生した問題は全て己の返ってくる。

 だから、ここで消す。消去する。今日一日のことは、何もかもを葬り去る。多少は“上”から叱責もあろうが、“上”の人間とて“ゲーム”のクリアという事実は煩わしい筈。ここでしっかりと処理しておけば、ある程度は目を瞑ってくれるだろう。

(それにしても、あのNPC……!!)

 思い出すと、怒りに我を忘れてしまいそうになる。あの出自不明なNPCが事の発端だった。アレさえなければ、今回も滞りなく勧められた筈なのに。

(何が勇者だ! 気色悪い! 子供のママゴトみたいな真似を!!)

 しかも、参加者はおろか鑑賞者まであのNPCの行動に感動しだすとは――

(――ふんっ、精神年齢がガキのまま止まってるんだな)

 こんな“お遊び”を本気で愉しんでいるような奴等だ、その可能性は大いにある。

(実行犯は分かっている、が――)

 稲垣悠。あの女が、珍妙なNPCを“ゲーム”に送り込んできた。すぐにでも処分してやりたいところだが、彼女は腐っても司政官の娘。うかつに手は出せない。

(糞が!! 少しチヤホヤされてるからって調子に乗りやがって!! ガキの我が儘に付き合わされる身になってみろ!!)

 男が脳内で散々愚痴を零しているところへ、

「あの、室長? 一応、用意はできたんですけど……」

 部下が声をかけてきた。男は鬱陶し気にそちらへ視線をやり、

「できたならさっさとやれ。いつまで僕を待たせるつもりだ?」

「は、はい!」

 促されて、部下がコンソールへ“消去デリート”の命令を打ち込む。
 これで終わり。参加者達の全く持って無駄な努力も、鑑賞者達の幼稚な盛り上がりも、何もかも全て水泡に帰す。



 ――筈だった・・・・



「……おい。いつまで手間取っている。早く消去しろ!」

 映像が消えない。室長の視界では、まだ人々が勝利に酔う様が映っている。

「お前達、いい加減に――」

「なんてこった!!?」

 怒鳴りつけようとしたところで、絶叫が響いた。

「嘘だろ、こんなのアリか!? いったい何時から!? どうやって!?」

「何があった!! 簡潔に報告しろ!!」

 取り乱す部下を叱責する。彼はまだ落ち着かない様子で口を開く。

「サーバーがこっちの命令を受け付けないんです! 何者かに乗っ取られています・・・・・・・・・!!」

「なにぃ!?」

 その瞬間、映像が突然ブラックアウトする。

『く、くくくく、はははは、くはははははははっ!!!』

 同時に、何者かの笑いが管理室に響いた。

『今更気付いたのか、間抜け共!!』

 その声と共に画面に“件のNPC”の顔がでかでかと表示される。

「な、なんだ!? なんなんだこれは!?」

「クラッキングです! このNPC、“ゲーム”の最中からずっと・・・・・・・、システムにクラッキング仕掛けてたんですよ!!」

「はぁ!?」

 余りの事態に頭が追い付かない。ゲームシステムに干渉してくるNPC? そんなもの、聞いたことが無い。

「は、早くなんとかしろ!! こういう時のためにお前達スタッフはいるんだろうが!!」

「……駄目です! 操作を受け付けません!」

 必死の形相で部下達がアレコレとコンソールを弄るも、すぐに頭を抱えた。

「け、警備に連絡を――」

「外部への通信機能も麻痺してます!」

「くそっ!!」

 席を立ち、部屋に唯一設けられた出入口へと向かう。ドアを開けて外に出ようと試みるも――

「――あ、開かない!?」

「……無理です。完全にロックされてる。我々は……閉じ込められました」

 呆然とした面持ちで部下が言う。
 言葉が出ない。どうなっているのだ、これは。“ゲーム”のシステムが介入を受けるなんて、有り得ない筈なのに。

『ようやく理解できたか? 自分達の置かれている状況が』

 そんな男へ、“NPC”が語りかけてくる。

「な、な、何なんだ、お前は。何が目的で、こんな、ことを……?」

『私は勇者アスヴェル。この世でも最も偉大な男の名だ。よく覚えておけ。それと私の目的だが――そんなもの、お前達を叩き潰す以外にあると思うか?』

 淀むことの無い回答が返ってきた。


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