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第14話 レイドバトルってヤツだ!!
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『ん? なんだ? 急に身体が軽く――』
アスヴェルが“違和感”に気付く。彼の傷がみるみると回復していったのだ。
「あれは――!?」
観客の一人が指差した。そこに映っていたのは――
『いいぞ! その調子であのNPCを援護するんだ!!』
『治癒スキル使えるやつ集まれ!! アイテムもかき集めろ!!』
――それは、“他の参加者”達だった。まだ生き残っていた人々が集まってきたのだ。それまで生き延びるため必死に逃げ、隠れ、怯え続けてきた人々が、勇者のために駆けつけたのだ!
彼等は次々に“支援”を飛ばす。治癒のスキルが傷を癒し、能力増加のスキルが、身体を強化する。
『おっ!? おおおおっ!!』
自分にかけられる効果を実感し、アスヴェルが感嘆の声を上げた。
さらに<ポーションピッチ>により多種のアイテムが勇者に向けて投げられ――、
『え? ちょっと待て、瓶を投げるな、瓶を!? 私を助けにきてくれたんじゃないのか!?』
――まあ、若干の誤解はあったものの。様々な手段によって、青年の<ステータス>は増強されていった。
それだけではない。
『遠距離攻撃持ちの連中は“ジャッジ”を攻撃しろ!!』
『アイツを直接狙った攻撃は当たらん! 範囲攻撃スキルで奴のいるエリアを狙うんだ!』
『1秒でもいい、動きを止めろぉ!!』
それ以外の参加者達が援護射撃を開始する。矢が、槍が、斧が、銃弾が、炎が、氷が、雷が。“ジャッジ”を巻き込む形で、その周辺を爆撃していった。その中にはミナトの姿もある。
ダメージを負うことは無い“ジャッジ”だが、その物量にほんの一瞬だけたじろいだ。
『オオォオオオオッ!!!』
すかさず、“ジャッジ”の懐に飛び込むアスヴェル。
「効いてる!!」
「効いてるぞ!!」
「“ジャッジ”のHPが、減っている!!」
部屋に大声が飛び交った。もう、自分が“勇者の勝利を願っていること”を誰も隠そうとしていない。“ゲーム”へ参加している者、“ゲーム”を鑑賞している者、どちらも俄かに熱気を帯び始めた。
……だが、そこへ水を差す存在が。
『――不正が発覚したため、該当するNPCの能力を制限します』
運営だ。前と同じ台詞がアナウンスされると同時、またしてもアスヴェルの周囲に黒い靄が包む。酷すぎるやり口に、悠は自分の頭へ血が上っていくのを感じた。
冷静に考えれば、これ以上の抗議は危険だ。運営の権限で自分にまで何らかの“処分”が下されるかもしれない。だが――構うものか!
「ふざけるのも大概にして下さい!! そんな行為許されません!!」
憤りを隠さず弾劾する。しかし運営は変わらず無機質な声で、同じ言葉を返してくる。
『この処置に異論がありますなら、今すぐ該当NPCを消去――』
「萎えるんだよなぁ、そういうことされるとさぁ!!」
台詞を途中で遮ったのは、別の観客だった。最初に歓声をあげた、あの男性だ。彼に続き、他の者達も怒号を飛ばしだす。
「彼は既に罰を受けた筈ですぞぉ!? もう一度同じことをするとはいったい何事ですかなぁ!?」
「それは“誤った判断”をしたと宣言するも同じこと!! 完璧な運営が聞いて呆れるわ!!」
野次は止まらない。
「不正をしているのはお前達の方だろ!」
「撤回しろ!! あのNPCへの処分を撤回しろ!!」
「俺を敵に回してただで済むと思うなよ!?」
会場の人々が一つになって、運営へ反抗する。
一方、映像の中では、アスヴェルが再度封印を受けても対応できるよう、参加者達がバックアップの態勢を取り始めた。
ここに居る、全ての人物が状況を打破しようと動いている。
これは、そう――“ゲーム”の内と外での連携戦闘!
その勢いは運営ですら止められず。
『……今の処置を取り消します』
彼らはとうとう折れた。
黒い靄が晴れる。アスヴェルの<ステータス>には、なんら変化はない!
「アスヴェルさん!!」
あらん限りの声を振り絞って、悠は叫ぶ。
猛攻。
猛攻だ。
拳撃、手刀、掌打、肘打、足蹴、廻蹴、膝蹴。
五体が繰り出せるあらゆる攻撃法を駆使し、アスヴェルは“ジャッジ”へ迫撃した。
強化を果たしたとはいえ、未だ能力値は“ジャッジ”が有利。
だが流れは完全にアスヴェルへと傾いた。
敵からの攻めを完璧な形で捌くと、勇者はなおも攻め立てる。
“ジャッジ”の持つ莫大な量のHPが、ジワリジワリと減少していく。
「いける……!」
『いけるぞ、これ!』
「“ジャッジ”に勝てる!?」
『“ゲーム”をクリアできる!?』
人々は固唾を飲んで動向を見守る。
――そして生命力が残り半分を切った、その時。
“ジャッジ”が大きく後方へ飛び退いた。
奴は大きく腰を落とし、“構え”を取る。
初めて見せる行動だ。
(大技を使って逆転するつもりですか!?)
その予測通り、青い炎のようなものが“ジャッジ”を取り巻いていく。間違いない、このスキルは“ジャッジ”の切り札。仮にも運営が誇る最強のNPC――そんな奴が満を持して放つスキルなのだ。その威力たるや、想像を絶するものとなるだろう。
「お、おい」
「これ、やばいヤツなんじゃ……」
鑑賞者もどよめく。だが悠はそれよりも、アスヴェルの動きに注目していた。
(あれは――)
“ジャッジ”に相対する彼の“構え”を見て。
少女は不安がる観客へ、はっきりと断言した。
「大丈夫です。勇者は負けません……!」
―――――――――――――
時を同じく。
“ゲーム”の中でも悠と同じことを思う者が一人。亜麻色の髪を持つ少女、ミナトだ。
「アイツ、ここに来て――!」
アスヴェルの意図を把握し、その顔に笑みを浮かべる。彼女もまた、勇者の勝利を確信したのだ。
“ジャッジ”が青い炎を纏ったまま、突進してくる。
対するアスヴェルは脚を肩幅程度に広げ、静かに落ち着いて敵を見据えていた。
空気を切り裂き、大地を踏み砕き、“ジャッジ”が迫りくる。
アスヴェルの右腕がゆっくりと中段にまで上がった。
――激突。
刹那の瞬間、勇者は己の掌をそっと“ジャッジ”に添えた。
“それ”は、敵から繰り出される攻撃の力を絶妙に操作し、そのまま相手に返すという特殊な体術。
Divine Cradleでの呼び名を、<合気>という。
爆音が響く。
空気がビリビリと震え、地面が揺れる。
同時に、“ジャッジ”が真後ろへと弾き飛んだ。
己が最強技の威力をそっくりそのまま返され、地面に激突した後も勢いは止まらず、二転三転と転がり続ける。
ようやく回転が止まった時――その身体はあり得ない程にひしゃげていた。
「――やった、のか?」
緊張で表情を強張らせながら、ミナトはそう呟いた。“ジャッジ”は倒れたままだ。起き上がって来ない。
「なあ……!」
「これって!」
「もしかして――!」
周囲の人々が騒めき出す。彼等の期待を裏付けるように、“ジャッジ”の身体は光に包まれ消えていく。
その消滅をしっかりと見届けたところで、騒動の中心人物であるアスヴェルが腕を大きく振り上げた。
「我々の勝利だ!!」
そう高らかに宣言する。
歓声が鳴り響く。ある者は手を叩いて喜び、ある者は互いに抱き合い、ある者は涙を流した。
そんな中、一人の参加者が空を指差す。
「お、おい、アレ見ろ!!」
そこに浮かび上がった言葉は――
“GAME CLEAR! CONGRATURATIONS!”
――人々が確かに勝利した、証明であった。
「……アスヴェルっ!!」
感極まってミナトは飛び出した。行き先は一つ、勇者の下へ。
こちらに気付き、笑顔を向ける彼の身体へ思い切り飛びついた。
「うおっ!?」
耳に入るのは、アスヴェルの悲鳴。勢い余り過ぎて、彼を突き飛ばしかけてしまった。
しかしミナトはそんなこと気にせず、青年を思い切り抱き締める。逞しく、しかし今は傷だらけの肉体を力強く抱擁した。
「やったな!! ホントに――ホントに、勝っちゃうだなんて――!!」
口が上手く回らない。言いたいことがたくさんあり過ぎて、涙が出る程に嬉し過ぎて、感情が高まり過ぎて、それを言葉として紡げなかった。
しかしアスヴェルは気にすることもなく、ポンポンと少女の頭を撫でる。
「はっはっは! 言った筈だぞ、私は最強だと」
「そうだな! うんっ!! 最強だよ! オマエは、最強で、最高の勇者だ!!」
彼の身体へ回す手にぐっと力を入れる。青年の胸に顔を埋める。自分の気持ちを表現する術を、それ位しか思いつかなかったのだ。
「――ミナト?」
だから。
ふと、アスヴェルから呼びかけられるまで――第三者から見れば実にバカバカしいことだが――全く気付かなかったのだ。
(……うわ!? 近い!?)
自分が、もう言い訳のしようが無い程、青年と密着していることに。
恋人同士としか思えない程、青年と触れ合っていることに。
慌てて離れようとして、できなかった。アスヴェルもまた、少女の身体を抱きしめていたからだ。普段なら激昂してもおかしくないその事態に、
「――あ」
発せたのは、その一字のみ。そうしている内に、青年の顔がこちらに近づいてくる。
これは、もう、アレだった。確実に例のアレをしようとしている。自分のファーストなキスが、危機に晒されている訳で――
(――ま、いっか)
にも関わらず、嫌な気分は湧いてこなかった。寧ろ――絶対、認めたくはないけれど――望むところだった。
「――――んっ」
彼の顔を正面から向き合い、目を閉じる。その意を察せない青年ではないだろう。相手の気配がどんどん近づいてくる。
もう少し。
あとほんの少しで、少女は勇者と――
「あれぇ?」
――そんなロマンチックな気分は、アスヴェルの間の抜けた呟きでかき消された。
「な、なんだよ、人がせっかく……?」
あんまりな対応に目を開けると、彼が戸惑う理由がすぐに分かった。ミナトの身体が、光に包まれ消えかかっている。
「あー、そっか。クリアしたから<ログアウト>が始まったのか」
「こんなタイミングで!?」
アスヴェルの嘆きが響くものの、こればかりは仕方がない。勿体づけたのが悪いのだ。ミナトはふふっと笑うと、
「なってねぇな、アスヴェル。千載一遇のチャンスを逃すなんて」
「むぅっ!?」
割と本気で悔しそうな彼を眺めて、ふふーんっと鼻を鳴らす。そう、ミナトはこんなことでコロっと落ちてしまう程、安い女ではないのだ。
彼女は改め青年に向き直ると、
「……そ、その。“続き”は、また今度、なっ!」
顔を真っ赤にしてそんな台詞を口にした。
――安い女では無い、筈。たぶん。説得力が無いか。
ともあれ、少女の“約束”に勇者も気を持ち直したようで、
「そうだな。また会おう、ミナト」
「おう、またな、アスヴェル!」
前に別れた時とは違う――互いに、絶対再会することを確信した挨拶を交わし。
ミナトの意識は現実へと引き戻されていくのだった。
アスヴェルが“違和感”に気付く。彼の傷がみるみると回復していったのだ。
「あれは――!?」
観客の一人が指差した。そこに映っていたのは――
『いいぞ! その調子であのNPCを援護するんだ!!』
『治癒スキル使えるやつ集まれ!! アイテムもかき集めろ!!』
――それは、“他の参加者”達だった。まだ生き残っていた人々が集まってきたのだ。それまで生き延びるため必死に逃げ、隠れ、怯え続けてきた人々が、勇者のために駆けつけたのだ!
彼等は次々に“支援”を飛ばす。治癒のスキルが傷を癒し、能力増加のスキルが、身体を強化する。
『おっ!? おおおおっ!!』
自分にかけられる効果を実感し、アスヴェルが感嘆の声を上げた。
さらに<ポーションピッチ>により多種のアイテムが勇者に向けて投げられ――、
『え? ちょっと待て、瓶を投げるな、瓶を!? 私を助けにきてくれたんじゃないのか!?』
――まあ、若干の誤解はあったものの。様々な手段によって、青年の<ステータス>は増強されていった。
それだけではない。
『遠距離攻撃持ちの連中は“ジャッジ”を攻撃しろ!!』
『アイツを直接狙った攻撃は当たらん! 範囲攻撃スキルで奴のいるエリアを狙うんだ!』
『1秒でもいい、動きを止めろぉ!!』
それ以外の参加者達が援護射撃を開始する。矢が、槍が、斧が、銃弾が、炎が、氷が、雷が。“ジャッジ”を巻き込む形で、その周辺を爆撃していった。その中にはミナトの姿もある。
ダメージを負うことは無い“ジャッジ”だが、その物量にほんの一瞬だけたじろいだ。
『オオォオオオオッ!!!』
すかさず、“ジャッジ”の懐に飛び込むアスヴェル。
「効いてる!!」
「効いてるぞ!!」
「“ジャッジ”のHPが、減っている!!」
部屋に大声が飛び交った。もう、自分が“勇者の勝利を願っていること”を誰も隠そうとしていない。“ゲーム”へ参加している者、“ゲーム”を鑑賞している者、どちらも俄かに熱気を帯び始めた。
……だが、そこへ水を差す存在が。
『――不正が発覚したため、該当するNPCの能力を制限します』
運営だ。前と同じ台詞がアナウンスされると同時、またしてもアスヴェルの周囲に黒い靄が包む。酷すぎるやり口に、悠は自分の頭へ血が上っていくのを感じた。
冷静に考えれば、これ以上の抗議は危険だ。運営の権限で自分にまで何らかの“処分”が下されるかもしれない。だが――構うものか!
「ふざけるのも大概にして下さい!! そんな行為許されません!!」
憤りを隠さず弾劾する。しかし運営は変わらず無機質な声で、同じ言葉を返してくる。
『この処置に異論がありますなら、今すぐ該当NPCを消去――』
「萎えるんだよなぁ、そういうことされるとさぁ!!」
台詞を途中で遮ったのは、別の観客だった。最初に歓声をあげた、あの男性だ。彼に続き、他の者達も怒号を飛ばしだす。
「彼は既に罰を受けた筈ですぞぉ!? もう一度同じことをするとはいったい何事ですかなぁ!?」
「それは“誤った判断”をしたと宣言するも同じこと!! 完璧な運営が聞いて呆れるわ!!」
野次は止まらない。
「不正をしているのはお前達の方だろ!」
「撤回しろ!! あのNPCへの処分を撤回しろ!!」
「俺を敵に回してただで済むと思うなよ!?」
会場の人々が一つになって、運営へ反抗する。
一方、映像の中では、アスヴェルが再度封印を受けても対応できるよう、参加者達がバックアップの態勢を取り始めた。
ここに居る、全ての人物が状況を打破しようと動いている。
これは、そう――“ゲーム”の内と外での連携戦闘!
その勢いは運営ですら止められず。
『……今の処置を取り消します』
彼らはとうとう折れた。
黒い靄が晴れる。アスヴェルの<ステータス>には、なんら変化はない!
「アスヴェルさん!!」
あらん限りの声を振り絞って、悠は叫ぶ。
猛攻。
猛攻だ。
拳撃、手刀、掌打、肘打、足蹴、廻蹴、膝蹴。
五体が繰り出せるあらゆる攻撃法を駆使し、アスヴェルは“ジャッジ”へ迫撃した。
強化を果たしたとはいえ、未だ能力値は“ジャッジ”が有利。
だが流れは完全にアスヴェルへと傾いた。
敵からの攻めを完璧な形で捌くと、勇者はなおも攻め立てる。
“ジャッジ”の持つ莫大な量のHPが、ジワリジワリと減少していく。
「いける……!」
『いけるぞ、これ!』
「“ジャッジ”に勝てる!?」
『“ゲーム”をクリアできる!?』
人々は固唾を飲んで動向を見守る。
――そして生命力が残り半分を切った、その時。
“ジャッジ”が大きく後方へ飛び退いた。
奴は大きく腰を落とし、“構え”を取る。
初めて見せる行動だ。
(大技を使って逆転するつもりですか!?)
その予測通り、青い炎のようなものが“ジャッジ”を取り巻いていく。間違いない、このスキルは“ジャッジ”の切り札。仮にも運営が誇る最強のNPC――そんな奴が満を持して放つスキルなのだ。その威力たるや、想像を絶するものとなるだろう。
「お、おい」
「これ、やばいヤツなんじゃ……」
鑑賞者もどよめく。だが悠はそれよりも、アスヴェルの動きに注目していた。
(あれは――)
“ジャッジ”に相対する彼の“構え”を見て。
少女は不安がる観客へ、はっきりと断言した。
「大丈夫です。勇者は負けません……!」
―――――――――――――
時を同じく。
“ゲーム”の中でも悠と同じことを思う者が一人。亜麻色の髪を持つ少女、ミナトだ。
「アイツ、ここに来て――!」
アスヴェルの意図を把握し、その顔に笑みを浮かべる。彼女もまた、勇者の勝利を確信したのだ。
“ジャッジ”が青い炎を纏ったまま、突進してくる。
対するアスヴェルは脚を肩幅程度に広げ、静かに落ち着いて敵を見据えていた。
空気を切り裂き、大地を踏み砕き、“ジャッジ”が迫りくる。
アスヴェルの右腕がゆっくりと中段にまで上がった。
――激突。
刹那の瞬間、勇者は己の掌をそっと“ジャッジ”に添えた。
“それ”は、敵から繰り出される攻撃の力を絶妙に操作し、そのまま相手に返すという特殊な体術。
Divine Cradleでの呼び名を、<合気>という。
爆音が響く。
空気がビリビリと震え、地面が揺れる。
同時に、“ジャッジ”が真後ろへと弾き飛んだ。
己が最強技の威力をそっくりそのまま返され、地面に激突した後も勢いは止まらず、二転三転と転がり続ける。
ようやく回転が止まった時――その身体はあり得ない程にひしゃげていた。
「――やった、のか?」
緊張で表情を強張らせながら、ミナトはそう呟いた。“ジャッジ”は倒れたままだ。起き上がって来ない。
「なあ……!」
「これって!」
「もしかして――!」
周囲の人々が騒めき出す。彼等の期待を裏付けるように、“ジャッジ”の身体は光に包まれ消えていく。
その消滅をしっかりと見届けたところで、騒動の中心人物であるアスヴェルが腕を大きく振り上げた。
「我々の勝利だ!!」
そう高らかに宣言する。
歓声が鳴り響く。ある者は手を叩いて喜び、ある者は互いに抱き合い、ある者は涙を流した。
そんな中、一人の参加者が空を指差す。
「お、おい、アレ見ろ!!」
そこに浮かび上がった言葉は――
“GAME CLEAR! CONGRATURATIONS!”
――人々が確かに勝利した、証明であった。
「……アスヴェルっ!!」
感極まってミナトは飛び出した。行き先は一つ、勇者の下へ。
こちらに気付き、笑顔を向ける彼の身体へ思い切り飛びついた。
「うおっ!?」
耳に入るのは、アスヴェルの悲鳴。勢い余り過ぎて、彼を突き飛ばしかけてしまった。
しかしミナトはそんなこと気にせず、青年を思い切り抱き締める。逞しく、しかし今は傷だらけの肉体を力強く抱擁した。
「やったな!! ホントに――ホントに、勝っちゃうだなんて――!!」
口が上手く回らない。言いたいことがたくさんあり過ぎて、涙が出る程に嬉し過ぎて、感情が高まり過ぎて、それを言葉として紡げなかった。
しかしアスヴェルは気にすることもなく、ポンポンと少女の頭を撫でる。
「はっはっは! 言った筈だぞ、私は最強だと」
「そうだな! うんっ!! 最強だよ! オマエは、最強で、最高の勇者だ!!」
彼の身体へ回す手にぐっと力を入れる。青年の胸に顔を埋める。自分の気持ちを表現する術を、それ位しか思いつかなかったのだ。
「――ミナト?」
だから。
ふと、アスヴェルから呼びかけられるまで――第三者から見れば実にバカバカしいことだが――全く気付かなかったのだ。
(……うわ!? 近い!?)
自分が、もう言い訳のしようが無い程、青年と密着していることに。
恋人同士としか思えない程、青年と触れ合っていることに。
慌てて離れようとして、できなかった。アスヴェルもまた、少女の身体を抱きしめていたからだ。普段なら激昂してもおかしくないその事態に、
「――あ」
発せたのは、その一字のみ。そうしている内に、青年の顔がこちらに近づいてくる。
これは、もう、アレだった。確実に例のアレをしようとしている。自分のファーストなキスが、危機に晒されている訳で――
(――ま、いっか)
にも関わらず、嫌な気分は湧いてこなかった。寧ろ――絶対、認めたくはないけれど――望むところだった。
「――――んっ」
彼の顔を正面から向き合い、目を閉じる。その意を察せない青年ではないだろう。相手の気配がどんどん近づいてくる。
もう少し。
あとほんの少しで、少女は勇者と――
「あれぇ?」
――そんなロマンチックな気分は、アスヴェルの間の抜けた呟きでかき消された。
「な、なんだよ、人がせっかく……?」
あんまりな対応に目を開けると、彼が戸惑う理由がすぐに分かった。ミナトの身体が、光に包まれ消えかかっている。
「あー、そっか。クリアしたから<ログアウト>が始まったのか」
「こんなタイミングで!?」
アスヴェルの嘆きが響くものの、こればかりは仕方がない。勿体づけたのが悪いのだ。ミナトはふふっと笑うと、
「なってねぇな、アスヴェル。千載一遇のチャンスを逃すなんて」
「むぅっ!?」
割と本気で悔しそうな彼を眺めて、ふふーんっと鼻を鳴らす。そう、ミナトはこんなことでコロっと落ちてしまう程、安い女ではないのだ。
彼女は改め青年に向き直ると、
「……そ、その。“続き”は、また今度、なっ!」
顔を真っ赤にしてそんな台詞を口にした。
――安い女では無い、筈。たぶん。説得力が無いか。
ともあれ、少女の“約束”に勇者も気を持ち直したようで、
「そうだな。また会おう、ミナト」
「おう、またな、アスヴェル!」
前に別れた時とは違う――互いに、絶対再会することを確信した挨拶を交わし。
ミナトの意識は現実へと引き戻されていくのだった。
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