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第16話 魔王⇒再会
【2】
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ハルに連れられたのは、無人の市街地にある一軒の小さな家屋だった。凄惨な“ゲーム”の舞台であるためか、市街地と言いつつどれも廃屋とでも呼ぶべき風体だが、この家はその中で比較的まとも外観を残している。
いざ中へ――の、その前に。
「そういえば、私と魔王のこと、余り話をしたことが無かったな」
「? どうした急に」
突然話題を振られ、困惑した顔をするミナト。ハルも同様だ。
しかしアスヴェルは構わず続ける。
「私がこの世界に来る直前、魔王と戦っていた訳だが。あいつは魔物をけしかけたり罠を仕掛けたりと、まあこすっからい手を使って攻撃してきた」
「前にも聞いたぞ?」
「敢えてはっきりと断言しよう。私はあいつを許していない」
『――ッ!?』
家の中から、誰かが息を飲むような声が聞こえる。
「というより寧ろ恨んでいると言ってもいい。もしまた会うことがあったら、果たして平静でいられるかどうか。怒りに我を忘れてしまうかもしれないな」
『ちょっ――ええ!?』
今度は明確に、何者かの声が聞こえてきた。
「まずは腕を折る。足を砕く。四肢を潰した後は目だ。次いで、耳を引き裂き鼻を削ぎ落す」
『ごめんちょっと用事を思い出したんで僕はこれで――あ、コラ、何故羽交い絞めにするんだ西郷!? 僕を裏切るのか!?』
揉め事が起きている。片方が必死に逃げ出そうとしているのを、もう一人が押し留めているかのような。
その茶番劇という名の騒動が収まるよりも前に、アスヴェルは家の扉を蹴り開けた。
「あ」
そこには、屈強な男――サイゴウによって抑えつけられたている“銀髪の青年”。
「久方ぶりだなぁ、魔王?」
「お、お久しぶりデスネ?」
こちらの挨拶をすると、ヤツは大分きょどった返答を零した。
――とりあえず、制裁は保留としておく。
「「魔王!?」」
部屋に少女達の声が響く。明かされた事実は余程ショッキングだったようだ。
「あの、ちょっと待って下さい。理解が追い付かないのですけれども――これ、どういう状況なんですか?」
ハルが手を上げながら質問してくる。アスヴェルは鷹揚に頷くと、
「そうだな。実のところ私も事態を整理したいと思っていたところだ。順を追って話していこう」
まずは、自分と魔王との関係について2人に語り聞かせていく。
勇者と魔王が戦い合うのは世の定説だが、自分と彼――魔王テトラとの場合、事情が違った。勇者よりも、魔王よりも強い“敵”が現れたのだ。
その名は竜。アスヴェルにとっては、家族を殺された仇でもある。
一人一人では勝ち目がない“敵”に対し、勇者と魔王、いや、人類と魔物は共同戦線を張ることで対抗した。その後死闘に継ぐ死闘を重ね、最終的に竜を駆逐するに至ったのだ。
「前にアスヴェルさんが“毎日のように魔王と戦っていた”と言っていましたが――それは、“共に戦っていた”ということだったのですね」
「そういうことだ。誤解を招く言い方をしてしまったな」
事情が少々複雑なため、省略してしまったのである。こんなことになるなら、あの時ハルにしっかり説明しておけばよかったか。
「でも待って下さい? アスヴェルさんがこの世界に来たのって、魔王との戦闘の結果と聞きましたよ?」
「竜がいなくなりラグセレス大陸には平和が戻った。しかしそうなると、新たな――というか、元々の対立が戻ってくる。改めて、人類と魔物との戦いが始まったんだ」
「……魔物とは人類を滅ぼす存在。共通の敵がいなくなれば、その“本能”に抗うことは難しくなる。結局、君一人に滅ぼされたけどね」
それまでだんまりだった魔王が口を挟んできた。時間が経って、多少は落ち着いてきたようだ。
タイミングとしてはちょうどいい。アスヴェルもこの辺りで彼に話を聞きたかったところだ。
「魔物達のほとんどが、それまで共に戦ってきた人類の殺戮に消極的だったからな。そうでなければ人類側にも相応の被害が出たことだろう。
それはそれとしてテトラ、一つ確認がある」
「なんだい?」
「最後のあの爆発――あれは、私を“転送”するためのものだな?」
「そうだよ」
意外にあっさりと認めた。
「何故そんなことをした?」
「珍しいな。勇者アスヴェルともあろう者が分からないのかい?
僕達魔物と同じく――君もまた、あの世界に居場所が無くなっていたからだよ」
「……余計な気遣いだ」
予想していた通りの答えなので、驚きはしない。しかし、隣で傍聴していたハルにとってはそうではなかったようで。
「居場所が無いってどういうことですか? アスヴェルさんは世界を救ったんですよね?」
「よくある話さ」
応えたのは魔王だ。
「アスヴェルは、人が立ち向かうには余りに強大過ぎる“敵”に勝利を収めた。だけどね、“人類を滅亡させうる存在”を滅亡させた彼を、人々は自分達と同じ人間だと思えなくなったんだよ。結果として、アスヴェルは孤立した。どうだい、よく聞く物語だろう?」
「では、貴方はアスヴェルさんを助けるために?」
「……どうだったかな。昔過ぎてもうよく覚えていない。単に、僕があの世界から逃げたかっただけだったかも」
ハルの言葉にテトラは肩を竦めた。そんな彼に、アスヴェルはもう一つ質問をぶつける。
「“昔”と言ったな。お前がこちらに転移したのは、何年前になる?」
「彼是20年以上前だよ」
「なるほど。そこで、見てしまった訳か。この世界でも変わらず蹂躙されている人々の姿を」
「……ああそうさ。もっとも、蹂躙のされ方は随分と様変わりしていたけどね。いやはや、逃げた先も似た状況だったとは、なんとも因果なものだ」
合点がいった。この“お人好し”は政府に管理される人々を見るに見かねて、このレジスタンス組織を結成したのだろう。
「その反政府活動をしている最中にミナトを拾った、と?」
「まあ、そんなところだね」
ミナトは父親と血が繋がっていない、とは以前に聞いた話である。これで色々と繋がった。
……だがそこで、アスヴェルはある違和感に気付く。
「――いや待て? 20年前?
お前は20年も戦って、ここの政府に勝てなかったのか?」
「痛いところを突くな。しかしまあ、否定できない。
そうだよ、僕はこの街の管理者に勝てなかった。昨日蜂起するまで、ずっと草の根活動に従事する他なかったんだ」
「馬鹿な!」
この男、アスヴェルよりは遥かに劣る弱小魔王ではあるものの――自分以外の人間が彼と戦うのは、至難を極める筈なのだ。確かにこの世界の住人はずば抜けた技術力を持っているが、それでも魔王が敗北したというのは俄かに信じられない事態である。
「……本題に入ろう、アスヴェル」
厳かな声色で、テトラが再度口を開く。真剣な眼差しをアスヴェルに向け、
「僕達は、またしても共に戦わなければいけなくなった。アレと戦うことには、僕だけでも君だけでも駄目だ。手を組まなければ勝機は見えない。
僕達が倒すべき相手。東京の全てを管理する存在。その名は――」
「おーい」
そこで、少々気の抜けた声がテトラの台詞を遮った。
「な、なんだい、湊音。お父さん今、凄く大事なこと言いかけてたんだよ? 用事があるならちょっと後にしてくれないかな」
「いやー、親父とアスヴェルの話長いから、どこで入ろうかずっと迷ってたんだけどさ」
急に親子の会話が繰り広げられる。緊張感が一瞬で途切れてしまった。
だがそんな雰囲気お構いなしに、ミナトは告げる。
「それで――いつ、“ドッキリ成功”の看板が出てくるんだ?」
「「全部本当のことだよ!?」」
勇者と魔王が心を合わせた瞬間であった。
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