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第17話 ラスボス⇒降臨
【1】女神来訪
しおりを挟む目の前に突如現れた金髪の美女。その正体が何者か、察せない程アスヴェルの頭の巡りは悪くない――悪くは無いのだが、しかしそれでも確認はせねばならなかった。
「君が、件の“オーバーロード”なのか?」
「あら、分かりづらかったかしら? 最近の流行りっぽく骸骨の姿をしてた方が良かった? それとも、2本角の悪魔がお好み?」
軽やかな声で女性が言葉を返す――内容よく分からない代物だったが。ともあれ、目の前の女性が最終目標であることに間違い無いようだ。つまり、緊急事態。
「……おいどうなってるんだ、テトラ。大丈夫だったんじゃなかったか?」
隣にいる魔王へ問い質してみるも、
「そ、そんな馬鹿な!? ここのサーバは“マザーツリー”から独立していた筈なのに……!?」
向こうは向こうで、突然の状況を理解できていないようだ。アスヴェルは脳内警戒レベルをさらに上昇させる。
そんなこちらを涼し気な瞳で身ながら、目の前の女は口を開いた。
「サーバーが独立しているとか、回線が繋がっていないとか、そんなのは人類の都合でしょ? 神には関係ない話よ」
「なっ!?」
絶句するテトラ。
(……技術水準がこちらを遥かに上回っているのは間違いなさそうだな)
短いやり取りだが、そう察するには十分である。アスヴェルよりこの世界の技術に精通している魔王が分からないのだ、どうやってこの女性がここへやって来たのか、理屈を考えても無駄だろう。仮に説明されたとして、それが有益とも思えない。
故にアスヴェルは、単純に自分の聞きたいことを口にした。
「それで、私達に何の用があってきたんだ」
「あら、素直に話を聞いてくれるの? “敵”を前にしたら問答無用で襲いかかってくるって話だったけど」
「誰から聞いた!?」
あながち間違ってはいないが――問題はそこではない。こちらの情報を既に握っていると臭わせてきたことこそが、アスヴェルの心を搔き乱した。
(落ち着け。相手のペースに飲まれるな)
内心でそう呟き、一旦心を落ち着けると、
「それも時と場合による。敵意が無い相手へ襲撃をかける程、私は見境の無い男ではない」
「但し竜を除くって? 貴方の竜嫌いは筋金入りなのね。流石、そのために鍛え上げられただけはあるわ。ふふ、ふふふ、自分達を殺せる人間を自分達で創り出すとか、相変わらずあの種族って頭おかしいのね♪」
「……こちらの自己紹介は必要なさそうだ」
どういう訳か、この世界へ来る前のアスヴェルについてすら把握しているようだった。明るい笑顔の裏に、底知れぬ不気味さを感じる。
「どうやって調べた? まさか正真正銘の神だとでも言うつもりじゃないだろうな」
「その通り、正真正銘の神よ。単なる宇宙人という認識は改めなさい? 貴方が元々居た世界も神は把握してるの。あちらで何やってたのか、どうやってこちらに来たのか、全部ね」
……残念ながらハッタリに聞こえなかった。
「そんな存在に興味を持ってもらえるとは光栄だ。何ならこの後デートにでも繰り出すか?」
「いいわよ、貴方がちゃんとエスコートしてくれるならね♪」
「え、いいの!?」
俄然食いつく。
「なんなら、デートの後までお付き合いしてあげてもいいわ♪ ふふ、この身体、堪能してみたくない?」
「ええええええ!?」
豊満なスタイルを強調するポーズと共に返ってきた予想外の言葉に、ちょっとキョドった。これはまさか――チャンス!?
と、そこへ慌てた様子で魔王が口を挟んでくる。
「アスヴェルぅ!!? なに敵対者相手に顔を赤らめているんだい!? いつもの君はそうじゃないだろう!! あの、『どうやってこいつを苦しめて絶望のドン底を味合わせてやろう』と企む、悪魔のような表情はどこに行った!?」
「元々無いわ、そんなもん!!」
「嘘つけ! いつもあの顔で僕を怯えさせてた癖に!!」
いやはや、冗談は時と場所を弁えてやって欲しい。過去の事情知ってるこいつにそんな反応されてしまったら、ここまでの物語で築き上げてきた勇者アスヴェルのイメージが崩れてしまうかもしれないではないか。
とりあえずアスヴェルは咳払いを一つしてから、
「いいか、この女はタイミング的にいつでもテトラを殺せたんだ。それをしなかったということは、現時点で私達を殺す意志は無いということだろう? ならば、必要以上に殺気だって対応するのは却って悪手だ」
「……まあ、納得できなくはない、けど。ホント、頼むぞアスヴェル。いきなり相手に惚れて寝返るとか止めてくれよ?」
「こんな状況で惚れる訳があるか!?」
「でも君が好きになった女性って、だいたいいつもこんな感じの――こう、“ヤバい女”ばかりだったじゃないか!」
「人の趣向をヤバいの一言で統括するな! 大丈夫だ! 顔は割と好みだしスタイルも魅力的だが、それだけで篭絡されたりはしない!」
「まるで安心できない!? 他にも何かあったら篭絡されるってことだろ!?」
「いちいち揚げ足をとるんじゃない!!」
魔王を納得(?)させたところで、改めてアスヴェルは“オーバーロード”と向き直る。
「あら、コントは終わったの?」
「何がコントか。馬鹿を躾けてやっただけだ――で、結局君の目的は何なんだ」
迷走に迷走を重ねた話題を立て直す。
「知っていると思うが、私は今日一日で驚天動地の事実を大量に吹き込まれていてね。頭の整理が追い付いていないから、なるべく簡潔に分かりやすい説明を頼む」
「うーん、ま、いいけど。でもその前に――」
静かな動作で、女は指を一つ立てた。
「――神との謁見がこんなみすぼらしい焼け野原じゃ格好がつかないわ。舞台を整えないとね♪」
「何?」
言って、彼女は指先をくるくると回し――その途端、世界が変わった。
消える。
廃墟が消える。
地面が消える。
木も、草も、山も、空すらもが消えていく。
全てが、世界から剥がれ落ちていく。
代わりに現れるは、石畳の床。
太陽が眩く輝く晴天。
そして――荘厳な造りの、果てしない程に巨大な神殿だった。
神を奉るには、これ以上なく相応しい場所だろう。
「……むぅ」
2、3度床を蹴りつけ、返ってくる感触に思わず唸る。これは幻影の類ではない。類推でしかないが、転移でも無いだろう。“オーバーロード”は一瞬でこの世界を書き換えたのだ。
(この世界は彼女に作られた仮想現実――とはいえ、ここまで何でもありなのか)
「ええ。神は何でもありなの。少しは、“オーバーロード”を名乗る宇宙人が実はこの世界の神様だった――っていう荒唐無稽な真実を少しは信じる気になった?」
「……それなりに」
今度は心まで読まれた。ちょっとこれは――手に負えないかもしれない。
魔王もまた、この状況に困惑しているのか、沈黙を保っている。
「んー、空も青空いい天気♪ さぁて、気分も良くなったところでお話に入りましょうか」
対して“オーバーロード”は実に楽しそうに笑みを浮かべ――この笑顔がとてつもなく魅力的なのがまた腹立たしい――語りかけてくる。
「そうね、せっかく貴方は勇者なのだから、それっぽく演出した方が面白いかしら?」
そう言うと、彼女はこちらを指差し。
「――勇者アスヴェル。神の仲間になれば、世界の半分を貴方に与えましょう」
「あ、それ僕の台詞……」
ぽつりとテトラが呟くも、特に重要そうではないので黙殺し、
「断る」
アスヴェルは即決で否定した。
「半分では話にならない、どうせなら全部寄こせ」
「いいわよ」
「え」
出鼻を挫こうとしたのだが――こちらが挫かれる。
「半分というのは言葉の綾というかお約束というか? ま、別に深い意味は無いの。貴方が本当に神の仲間になれるのであれば、半分とは言わずこの“地球”の管理権限を全て委譲しましょう」
「ち、地球?」
「この星の名前よ。ここで言う星の定義については――いちいち説明要らないわよね? それ位、“お母さん”から教わってるでしょ」
「……ああ、理解している」
これはまずい。先程から徹底して会話のアドバンテージを取られている。アスヴェルが掴んでいる情報が余りに少なすぎる故なのだが、気分は余り良くない。
「光栄に思いなさい、アスヴェル・ウィンシュタット」
“オーバーロード”が言葉を続ける。
「神は貴方を高く評価しているの。本来勝てる見込みなど無かった竜の駆逐を成し遂げ、偶然に依るものとはいえ情報生命体にまで存在を昇華した業績から――貴方が神になり得る資格有りと認めましょう」
「神になり得る、だと?」
「そう。さっき言ったでしょ? “仲間になれるのであれば”って」
女が笑みを深くした。こちらへ近づきながら、告げる。
「アスヴェル・ウィンシュタット。神はね、貴方に“勝利条件”を提示しにきたの」
そのまま顔を至近距離に――息遣いを感じるまで近くへ寄せ、こう結んだ。
「神におなりなさい。それを成し遂げた暁には――貴方へ世界を差し上げましょう」
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