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第1章
美凪side ① 後編
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美凪side ① 後編
自宅の玄関の扉を開け、私は中に足を踏み入れました。
「……ただいま」
誰も居ない真っ暗闇の中。私の声が飲み込まれていきました。
すると、暗闇の奥から、ミシッ……という音が聞こえました……
「……ひぃ……っ!!」
怖い……怖い……怖い……
本当にここは私の家なのでしょうか……
お、お化け屋敷のように思えて来ました……
「そ、そうです……電気をつければ……」
そう考えた私は、部屋という部屋の全ての電気をつけました。
部屋中が明るくなり、暗さは無くなりました。でも、シーンと静まり返った部屋は、私の恐怖を無くしてはくれません。
「て、テレビ……そうです!!テレビもつけましょう!!」
私は見もしないテレビをつけました。
そこには名前も知らない芸人さんが、ヘラヘラ笑っていました。
わ、私はこんなにも怖い思いをしてるのに……っ!!
私はこの怒りが理不尽なものだとはわかっていましたが、止められませんでした。
そして、時間も時間なので、お風呂に入らなければならないと思いました。
制服をハンガーに掛けてから、パジャマと下着とタオルを用意してお風呂場に向かいます。
湯船にはあまり入らないタイプです。シャワーで済ませることがほとんどです。
私は脱ぎ捨てた衣類を洗濯機に入れてから、シャワーを出します。
最初は冷たかったシャワーも、次第に温かくなります。
温かいシャワーを頭から浴びます。
こ、怖くて目が閉じられません……
シャンプーやトリートメントが目に入らないように気をつけながら、私は目を開けたまま身体を洗いました。
そして、三十分程かけてお風呂を済ませました。
お風呂場から出た私はタオルで身体を拭いてから、洗濯済の下着とパジャマに着替えます。
「そうだ、スマホの充電もしないと……」
私は居間にスマホと充電器を取りに行きました。
そして、洗面台の前の二つあるコンセントのうちの一つに、充電器を刺し、スマホを充電し始めます。
残りが少なかったので気になってましたが、これで安心です。
もう一つのコンセントにはドライヤーのプラグを刺します。
髪が長い私は、タオルである程度水気を取ったあとは、ドライヤーでしっかりと乾かさないと、髪が傷んでしまいます。
髪は女の生命です。いつでも美しい髪の毛を見てもらいたいですからね。
『美凪の髪はいつ見ても綺麗だな』なんて言ってくれるのかもしれません。
そんなことを思いながら、私はドライヤーのスイッチを入れました。
ブオーと温風が出始めた。その瞬間でした。
バチン!!
「…………え?」
耳に残るバチン!!という異音と共に、部屋の明かりが一気に消えました。
ぼんやりとスマホの明かりだけが残っていました。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の悲鳴が部屋中に響き渡りました……
何で!!何で!!何で!!
いきなり身の回りが真っ暗になった私は、思わずその場に座り込みました。
幽霊!!幽霊の仕業ですか!?そ、それとも不審者がどこかに隠れているんですか!!??
い、イヤです!!わ、私の初めては好きな人とって決めてるんです!!な、名前も顔も知らないような犯罪者に奪われたくありません!!
「も、もうやだあ……助けてよ……お母さん……」
隣人さん、隣人さん、隣人さん……
……さっきまではあんなに楽しかったのに……
あんなに……幸せだったのに……
なんで……なんで……なんで……
こんなの……もうやだぁ……
私はスマホの明かりを頼りに、居間の明かりのスイッチの場所まで行きました。
そして、スイッチを何度も何度も何度も……押しました。
「なんで、なんで、なんで、なんでつかないの……」
何回スイッチを押しても部屋の明かりはつきません……
私は居間のテーブルに置いであった、隣人さんに取ってもらったぬいぐるみを抱きしめます。
そうすると、少しだけ怖い気持ちが和らぎました。
「怖い……怖い……怖い……助けてよ……隣人さん……」
私はそう呟きながら居間の真ん中でぬいぐるみを抱きしめながら座り込みました。
そして……スマホの充電が切れてしまいました……
完全な暗闇が……私を包み込みました……
「…………あはは」
もう……無理です……
こんな部屋……一秒だって居たくない……
私は少しだけ暗闇に慣れてきた目で、這うようにして玄関へと向かいます。
手には隣人さんに取ってもらったぬいぐるみ。
もう片方の手には、彼から貰った合鍵を……
私は玄関の扉を開けて外に出ました。
月明かりに照らされて、部屋の中よりも外の方が明るかったです。
そして、私は自分の部屋に鍵も掛けずに隣人さんの部屋の前に立ちました。
「こ、こんな時間に来たら……め、迷惑になるでしょうか……」
もう二十一時は回っています。
も、もしかしたら……もう寝てるかもしれません……
まだ出会って二日目ですが、彼には嫌われたくないと思うくらいには、好意を持ってると言えます……
で、でも……もうあの部屋には帰りたくありません……
『俺が風呂掃除してる間に、泥棒に入られたら困るからな。俺の部屋を出たらこの鍵で閉めてくれ。まぁその後は自由に使ってもらって構わないぞ』
じ、自由に使って構わない。そう言ってくれました。
『彼なら貴女のことをしっかりと面倒を見てくれると信じています。何かあったら彼を頼ってください。きっと貴女の助けになってくれるはずです』
お、お母さんも、彼を頼れと言ってました。
悩みに悩み抜いた私は……彼から貰った合鍵を使って、隣人さんの部屋の玄関の鍵を開けました。
ガチャリ
と扉を開けて中に入ります。
彼の部屋の電気はついていました。
真っ暗だったのは、私の部屋だけみたいです。
け、欠陥住宅です!!
そう思っていると、廊下の奥から足音が聞こえてきました。
彼の足音です。その音に、私は言いようのない程に、安心感を抱きました。
そして、扉を開けて彼が姿を現しました。
隣人さん……会いたかったです……
「悪いけど親父、帰って来るなんて予想して無いから夕飯は用意して無いん……え?」
私のことをお父さんだと思っていたような話ぶりでしたが、私の姿を見て、彼の目が驚きに染まりました。
「……どうしたんだよ、美凪」
首を傾げる彼に、私は言います。
「……隣人さん。お願いがあります」
「……え?お願い?」
「……今夜は、この部屋に泊めて貰えませんか?」
私のその言葉を聞いた隣人さんは、小さくため息をつきました。
き、嫌われてしまったでしょうか……
「……はぁ。美凪。お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?」
と、泊めてください。というお願いです。
それ以上でも以下でも無いんです……
「わ、わかって……」
「わかってない」
「……え?」
強い目。私のことを責める目です。
そんな彼の目を見るのは初めてです……
「性欲の塊みたいな男子高校生の一人暮らしの部屋に、風呂上がりの女が、薄着でやって来て、泊めてくれなんて言ってくる。なぁ美凪。自分がどれだけ危険なことをしてるか、お前は全くわかってない」
え、えっちな隣人さん。でも……優しい人です。
だからこそ、彼はこうして私の貞操を案じてくれてるんです。
「…………で、でも」
それでも、私はもうあの部屋には帰りたくない……
私は俯きます。身体が……心が……寒い……
「……はぁ。とりあえず居間に来い。話だけは聞いてやる」
「……はい」
私は彼の後を着いていきました。
居間へと着いた私は、椅子に座りました。
「ホットミルクを出してやる。座って待ってろ」
彼はそう言うと、台所で牛乳を鍋に注いでから、火にかけ始めました。砂糖をたっぷりと入れてくれてるのが見えました。
「ありがとうございます……」
私はぬいぐるみを抱きしめながら、お礼を言って、それを見てました。
そして、すぐに出来上がったホットミルクを彼はマグカップに注いでくれて、前に出してくれました。
「熱いからゆっくりと飲め。最初は飲まないでコップを手で包むだけでもいい」
「……はい」
彼に言われたように、最初はマグカップを両手で包みました。
……暖かい……まだ飲んでないのに、心と身体が、暖まります。彼の優しさが感じられます。
「……で、なんで俺の部屋に泊まりたいなんて言ってきた?まさか、一人で寝るのが寂しいから。なんて小学生みたいなことは言わないよな?」
「……そのまさかですよ」
「……はぁ、マジで言ってるのか?」
呆れたような彼の表情。高校生のくせに何言ってんだよ?
みたいに思ってると思います。
私は、先程までのことを思い出し、情けなくも、涙を流してしまいました……
辛い……辛い……辛い……
怖い……怖い……怖い……
もう嫌でした……あんな部屋にはもう戻りたくない……
その為だったらなんだってします……
わ、私の初めてだって……貴方に上げたっていいですよ……
そのくらいの覚悟がありました。
そして、私は彼に今までのことを話しました。
私の震えに、気がついてくれた彼が、手を握ってくれました。
安心して、震えが止まりました。
全てを話し終えた時、彼は言ってくれました。
「俺の部屋を貸してやる」
「ほ、ほんとですか」
私はその言葉に、顔を上げて彼の顔を見ました。
少しだけ、悲しそうな顔をしてました……
な、何故でしょうか。そんな私に彼は言いました。
「同じベッドで寝る。なんて馬鹿なことは言わないだろ?俺は隣の親父の部屋で寝てるよ。それでもいいか?」
「は、はい!!」
隣に居てくれるのなら安心です!!
隣人さん!!ありがとうございます!!
すると、彼はいきなり私の目の前で自分の頬を強く叩きました。
「り、隣人さん……何してるんですか?」
び、ビックリしました……
「気合いを入れてただけだよ。安心しろ、美凪。今のお前に手を出すような最低な真似はしないと誓ってやる」
あ……そ、そうなんですね……
あ、安心した気持ちと、何故だか少しだけ、残念な気持ちもありました。
そして、ほんの少しだけ、悔しいような気持ちも……
「俺が紳士的な人間で良かったな。さ、歯を磨いて寝るか」
彼はそう言うと、ニコリと私に笑いかけてくれました。
そ、そんな紳士的な隣人さんの部屋に入った私。
ど、ドキドキして寝れないかもしれない。なんて思っていましたが、違う意味でドキドキしています。
『巨乳同級生の淫らな秘密~制服の下に隠された魅惑の肢体~』
なんて名前のえっちな本が隣人さんのベッドの上にありました。
……そ、その。男の人はそういうのを『使う』と言うのを聞いたことがあります。
彼もそうなのでしょうか?
も、もしかしたら。アレは『使用後』のものなのでしょうか?
私は恐る恐る近寄って、そのえっちな本を見てみました。
「……り、隣人さんはこういうのが好きなんですね……」
中にはどう見ても『二十歳を超えた女性が高校の制服を半裸で着ている写真』がたくさんありました。
ペラリ……
「ふーん……」
ペラリ……
「へぇ……」
ペラリ……
「隣人の……ばか……」
どのページの女性も、私の足元にも及ばないような見た目でした。こ、こんなのを見て満足してるんですかね、彼は!!
私はその本を彼の勉強机の上に置いておきました。
「……寝ますか」
私はそう呟くと、彼のベッドへと身を移しました。
布団にくるまると隣人さんの匂いに包まれます。
安心出来る匂い……さっきまであった不安や辛さや恐怖はどこかに行ってしまいました。
「……ここに来て、良かった」
隣人さんと知り合いになれて、本当に良かった……
私はリモコンで部屋の明かりを消しました。
この暗闇は、私を恐怖に陥れるものでは、もう無かったです。目を閉じ、私は眠りにつきました。
隣人さん……いえ、海野凛太郎さん……
本当に……ありがとうございます。
「…………トイレ」
深夜。私は目を覚ましました。
ベッドから抜け出して、トイレで用を済ませます。
その時、ふと思いました。
隣人さんはもう寝てるのですかね?
私は彼が寝ている部屋の扉をそっと開けて見ました。
「…………すぅ……すぅ」
真っ暗。では無く、オレンジ色の光に照らされて、彼の寝息が聞こえてきました。
寝てます。確実に寝てると言えます。
その時、私に一つの欲求が生まれました。
「隣人さんと……眠りたい……」
お、お母さんとは今まで毎日同じベッドで寝てきました。
や、やっぱり……一人で寝るのは少し寂しかったです……
こ、高校生にもなってこれはさすがに恥ずかしいかもしれませんが、少しだけ……そう、この深夜から翌朝までの数時間なら許されると思います!!
そ、それに。寝ている男性なら、襲われる。という事もないと思います。
週間少年誌の主人公は、寝ている時ほど危険な行為をしてくる場合がありましたが、彼はそんな事ないと思います。
私はひっそりと彼に近寄り、布団の中に入りました。
「……っ!!こ、これは…………幸せです」
先程の布団とは比べ物にならない程に、隣人さんを感じることが出来ました。
「……おやすみなさい、凛太郎さん」
私は彼の身体に腕を回して、眠りにつきました。
自宅の玄関の扉を開け、私は中に足を踏み入れました。
「……ただいま」
誰も居ない真っ暗闇の中。私の声が飲み込まれていきました。
すると、暗闇の奥から、ミシッ……という音が聞こえました……
「……ひぃ……っ!!」
怖い……怖い……怖い……
本当にここは私の家なのでしょうか……
お、お化け屋敷のように思えて来ました……
「そ、そうです……電気をつければ……」
そう考えた私は、部屋という部屋の全ての電気をつけました。
部屋中が明るくなり、暗さは無くなりました。でも、シーンと静まり返った部屋は、私の恐怖を無くしてはくれません。
「て、テレビ……そうです!!テレビもつけましょう!!」
私は見もしないテレビをつけました。
そこには名前も知らない芸人さんが、ヘラヘラ笑っていました。
わ、私はこんなにも怖い思いをしてるのに……っ!!
私はこの怒りが理不尽なものだとはわかっていましたが、止められませんでした。
そして、時間も時間なので、お風呂に入らなければならないと思いました。
制服をハンガーに掛けてから、パジャマと下着とタオルを用意してお風呂場に向かいます。
湯船にはあまり入らないタイプです。シャワーで済ませることがほとんどです。
私は脱ぎ捨てた衣類を洗濯機に入れてから、シャワーを出します。
最初は冷たかったシャワーも、次第に温かくなります。
温かいシャワーを頭から浴びます。
こ、怖くて目が閉じられません……
シャンプーやトリートメントが目に入らないように気をつけながら、私は目を開けたまま身体を洗いました。
そして、三十分程かけてお風呂を済ませました。
お風呂場から出た私はタオルで身体を拭いてから、洗濯済の下着とパジャマに着替えます。
「そうだ、スマホの充電もしないと……」
私は居間にスマホと充電器を取りに行きました。
そして、洗面台の前の二つあるコンセントのうちの一つに、充電器を刺し、スマホを充電し始めます。
残りが少なかったので気になってましたが、これで安心です。
もう一つのコンセントにはドライヤーのプラグを刺します。
髪が長い私は、タオルである程度水気を取ったあとは、ドライヤーでしっかりと乾かさないと、髪が傷んでしまいます。
髪は女の生命です。いつでも美しい髪の毛を見てもらいたいですからね。
『美凪の髪はいつ見ても綺麗だな』なんて言ってくれるのかもしれません。
そんなことを思いながら、私はドライヤーのスイッチを入れました。
ブオーと温風が出始めた。その瞬間でした。
バチン!!
「…………え?」
耳に残るバチン!!という異音と共に、部屋の明かりが一気に消えました。
ぼんやりとスマホの明かりだけが残っていました。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
私の悲鳴が部屋中に響き渡りました……
何で!!何で!!何で!!
いきなり身の回りが真っ暗になった私は、思わずその場に座り込みました。
幽霊!!幽霊の仕業ですか!?そ、それとも不審者がどこかに隠れているんですか!!??
い、イヤです!!わ、私の初めては好きな人とって決めてるんです!!な、名前も顔も知らないような犯罪者に奪われたくありません!!
「も、もうやだあ……助けてよ……お母さん……」
隣人さん、隣人さん、隣人さん……
……さっきまではあんなに楽しかったのに……
あんなに……幸せだったのに……
なんで……なんで……なんで……
こんなの……もうやだぁ……
私はスマホの明かりを頼りに、居間の明かりのスイッチの場所まで行きました。
そして、スイッチを何度も何度も何度も……押しました。
「なんで、なんで、なんで、なんでつかないの……」
何回スイッチを押しても部屋の明かりはつきません……
私は居間のテーブルに置いであった、隣人さんに取ってもらったぬいぐるみを抱きしめます。
そうすると、少しだけ怖い気持ちが和らぎました。
「怖い……怖い……怖い……助けてよ……隣人さん……」
私はそう呟きながら居間の真ん中でぬいぐるみを抱きしめながら座り込みました。
そして……スマホの充電が切れてしまいました……
完全な暗闇が……私を包み込みました……
「…………あはは」
もう……無理です……
こんな部屋……一秒だって居たくない……
私は少しだけ暗闇に慣れてきた目で、這うようにして玄関へと向かいます。
手には隣人さんに取ってもらったぬいぐるみ。
もう片方の手には、彼から貰った合鍵を……
私は玄関の扉を開けて外に出ました。
月明かりに照らされて、部屋の中よりも外の方が明るかったです。
そして、私は自分の部屋に鍵も掛けずに隣人さんの部屋の前に立ちました。
「こ、こんな時間に来たら……め、迷惑になるでしょうか……」
もう二十一時は回っています。
も、もしかしたら……もう寝てるかもしれません……
まだ出会って二日目ですが、彼には嫌われたくないと思うくらいには、好意を持ってると言えます……
で、でも……もうあの部屋には帰りたくありません……
『俺が風呂掃除してる間に、泥棒に入られたら困るからな。俺の部屋を出たらこの鍵で閉めてくれ。まぁその後は自由に使ってもらって構わないぞ』
じ、自由に使って構わない。そう言ってくれました。
『彼なら貴女のことをしっかりと面倒を見てくれると信じています。何かあったら彼を頼ってください。きっと貴女の助けになってくれるはずです』
お、お母さんも、彼を頼れと言ってました。
悩みに悩み抜いた私は……彼から貰った合鍵を使って、隣人さんの部屋の玄関の鍵を開けました。
ガチャリ
と扉を開けて中に入ります。
彼の部屋の電気はついていました。
真っ暗だったのは、私の部屋だけみたいです。
け、欠陥住宅です!!
そう思っていると、廊下の奥から足音が聞こえてきました。
彼の足音です。その音に、私は言いようのない程に、安心感を抱きました。
そして、扉を開けて彼が姿を現しました。
隣人さん……会いたかったです……
「悪いけど親父、帰って来るなんて予想して無いから夕飯は用意して無いん……え?」
私のことをお父さんだと思っていたような話ぶりでしたが、私の姿を見て、彼の目が驚きに染まりました。
「……どうしたんだよ、美凪」
首を傾げる彼に、私は言います。
「……隣人さん。お願いがあります」
「……え?お願い?」
「……今夜は、この部屋に泊めて貰えませんか?」
私のその言葉を聞いた隣人さんは、小さくため息をつきました。
き、嫌われてしまったでしょうか……
「……はぁ。美凪。お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?」
と、泊めてください。というお願いです。
それ以上でも以下でも無いんです……
「わ、わかって……」
「わかってない」
「……え?」
強い目。私のことを責める目です。
そんな彼の目を見るのは初めてです……
「性欲の塊みたいな男子高校生の一人暮らしの部屋に、風呂上がりの女が、薄着でやって来て、泊めてくれなんて言ってくる。なぁ美凪。自分がどれだけ危険なことをしてるか、お前は全くわかってない」
え、えっちな隣人さん。でも……優しい人です。
だからこそ、彼はこうして私の貞操を案じてくれてるんです。
「…………で、でも」
それでも、私はもうあの部屋には帰りたくない……
私は俯きます。身体が……心が……寒い……
「……はぁ。とりあえず居間に来い。話だけは聞いてやる」
「……はい」
私は彼の後を着いていきました。
居間へと着いた私は、椅子に座りました。
「ホットミルクを出してやる。座って待ってろ」
彼はそう言うと、台所で牛乳を鍋に注いでから、火にかけ始めました。砂糖をたっぷりと入れてくれてるのが見えました。
「ありがとうございます……」
私はぬいぐるみを抱きしめながら、お礼を言って、それを見てました。
そして、すぐに出来上がったホットミルクを彼はマグカップに注いでくれて、前に出してくれました。
「熱いからゆっくりと飲め。最初は飲まないでコップを手で包むだけでもいい」
「……はい」
彼に言われたように、最初はマグカップを両手で包みました。
……暖かい……まだ飲んでないのに、心と身体が、暖まります。彼の優しさが感じられます。
「……で、なんで俺の部屋に泊まりたいなんて言ってきた?まさか、一人で寝るのが寂しいから。なんて小学生みたいなことは言わないよな?」
「……そのまさかですよ」
「……はぁ、マジで言ってるのか?」
呆れたような彼の表情。高校生のくせに何言ってんだよ?
みたいに思ってると思います。
私は、先程までのことを思い出し、情けなくも、涙を流してしまいました……
辛い……辛い……辛い……
怖い……怖い……怖い……
もう嫌でした……あんな部屋にはもう戻りたくない……
その為だったらなんだってします……
わ、私の初めてだって……貴方に上げたっていいですよ……
そのくらいの覚悟がありました。
そして、私は彼に今までのことを話しました。
私の震えに、気がついてくれた彼が、手を握ってくれました。
安心して、震えが止まりました。
全てを話し終えた時、彼は言ってくれました。
「俺の部屋を貸してやる」
「ほ、ほんとですか」
私はその言葉に、顔を上げて彼の顔を見ました。
少しだけ、悲しそうな顔をしてました……
な、何故でしょうか。そんな私に彼は言いました。
「同じベッドで寝る。なんて馬鹿なことは言わないだろ?俺は隣の親父の部屋で寝てるよ。それでもいいか?」
「は、はい!!」
隣に居てくれるのなら安心です!!
隣人さん!!ありがとうございます!!
すると、彼はいきなり私の目の前で自分の頬を強く叩きました。
「り、隣人さん……何してるんですか?」
び、ビックリしました……
「気合いを入れてただけだよ。安心しろ、美凪。今のお前に手を出すような最低な真似はしないと誓ってやる」
あ……そ、そうなんですね……
あ、安心した気持ちと、何故だか少しだけ、残念な気持ちもありました。
そして、ほんの少しだけ、悔しいような気持ちも……
「俺が紳士的な人間で良かったな。さ、歯を磨いて寝るか」
彼はそう言うと、ニコリと私に笑いかけてくれました。
そ、そんな紳士的な隣人さんの部屋に入った私。
ど、ドキドキして寝れないかもしれない。なんて思っていましたが、違う意味でドキドキしています。
『巨乳同級生の淫らな秘密~制服の下に隠された魅惑の肢体~』
なんて名前のえっちな本が隣人さんのベッドの上にありました。
……そ、その。男の人はそういうのを『使う』と言うのを聞いたことがあります。
彼もそうなのでしょうか?
も、もしかしたら。アレは『使用後』のものなのでしょうか?
私は恐る恐る近寄って、そのえっちな本を見てみました。
「……り、隣人さんはこういうのが好きなんですね……」
中にはどう見ても『二十歳を超えた女性が高校の制服を半裸で着ている写真』がたくさんありました。
ペラリ……
「ふーん……」
ペラリ……
「へぇ……」
ペラリ……
「隣人の……ばか……」
どのページの女性も、私の足元にも及ばないような見た目でした。こ、こんなのを見て満足してるんですかね、彼は!!
私はその本を彼の勉強机の上に置いておきました。
「……寝ますか」
私はそう呟くと、彼のベッドへと身を移しました。
布団にくるまると隣人さんの匂いに包まれます。
安心出来る匂い……さっきまであった不安や辛さや恐怖はどこかに行ってしまいました。
「……ここに来て、良かった」
隣人さんと知り合いになれて、本当に良かった……
私はリモコンで部屋の明かりを消しました。
この暗闇は、私を恐怖に陥れるものでは、もう無かったです。目を閉じ、私は眠りにつきました。
隣人さん……いえ、海野凛太郎さん……
本当に……ありがとうございます。
「…………トイレ」
深夜。私は目を覚ましました。
ベッドから抜け出して、トイレで用を済ませます。
その時、ふと思いました。
隣人さんはもう寝てるのですかね?
私は彼が寝ている部屋の扉をそっと開けて見ました。
「…………すぅ……すぅ」
真っ暗。では無く、オレンジ色の光に照らされて、彼の寝息が聞こえてきました。
寝てます。確実に寝てると言えます。
その時、私に一つの欲求が生まれました。
「隣人さんと……眠りたい……」
お、お母さんとは今まで毎日同じベッドで寝てきました。
や、やっぱり……一人で寝るのは少し寂しかったです……
こ、高校生にもなってこれはさすがに恥ずかしいかもしれませんが、少しだけ……そう、この深夜から翌朝までの数時間なら許されると思います!!
そ、それに。寝ている男性なら、襲われる。という事もないと思います。
週間少年誌の主人公は、寝ている時ほど危険な行為をしてくる場合がありましたが、彼はそんな事ないと思います。
私はひっそりと彼に近寄り、布団の中に入りました。
「……っ!!こ、これは…………幸せです」
先程の布団とは比べ物にならない程に、隣人さんを感じることが出来ました。
「……おやすみなさい、凛太郎さん」
私は彼の身体に腕を回して、眠りにつきました。
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先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
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みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
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先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
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