腹ぺこお嬢様の飯使い ~隣の部屋のお嬢様にご飯を振舞ったら懐かれた件~

味のないお茶

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第1章

美凪 side ① 前編

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 美凪 side  ①  前編




「こ、こういうモノは……普通、もう少し隠しておくモノでは無いのでしょうか……?」

 夜。隣人さんと少しだけ部屋の前で会話をして、彼に頭を撫でてもらった私。
 心が温かくなって、さっきまであった寂しさや怖さが無くなりました。
 そして、隣人さんの部屋で寝るため、彼の部屋に入った私の目に写ったのは、ベッドの上にポーンと置かれた『えっちな表紙の本』でした。





 今日は、昨日に引き続き、色々なことが、沢山ありました。

 昨日は、隣人さんに餓死寸前だった私の生命を救って頂きました。

 夕飯で食べさせてもらった彼のお手製ハンバーグは、私の人生の中でナンバーワンの美味しさの食べ物だったと言えます。

 その後は、全くの手付かずだった引越しの後の荷物片付けも手伝っていただけました。
 わ、私の下着を見られるハプニングはありましたが……

 お陰で何とか終わらせることが出来ました。

 ぶっきらぼうな口調の彼ですが、とても優しい人だとわかります。え、えっちなひとですけど!!

 そして、今日。そんな隣人さんと同じクラスになり、さらには隣の席になったのは、何か作為のようなものを感じました。

 入学式。パーフェクト美少女の私は当然のように首席でしたので、挨拶を任されました。
 ですが!!女たらしの隣人さんは、私の完璧で華麗な新入生の挨拶の時に、それを聞かずに他の女の子とイチャイチャしていました!!もー!!許せません!!
 まぁ、私のお願いを一つ叶えてくれる。と言うので手を打ちましたが!!

 彼のご友人と知り合いになり、昼ご飯を共にしました。
 奏さんはもう少し食べないとおっぱいが育ちませんよ?

 食後はゲームセンターで遊びました。

 隣人さんはUFOキャッチャーが得意なようで、私が欲しかったぬいぐるみを取ってくれました。
 その姿は……まぁ、カッコよかったと言っても良いかもしれませんね!!

 ですが、その後のエアホッケーでは私の圧勝でした。
 ふふーん!!やはり私は勝負事には強い女の子です!!

 そして、そんな楽しい時間を過ごして、家に着いた私。

 部屋の中は真っ暗でした。

 お母さんはまだ帰ってきてません。

 テーブルの上には何やら便箋と封筒がありました。

 私がふとスマホを見ると、メッセージが着ていることに気が付きました。遊んでて気が付きませんでした……


「……え?お母さんからのメッセージ?」

 私はメッセージアプリを開いて中身を確認しました。

 そこには目を疑うようなことが書いてありました。


『優花へ』

『ごめんなさい。お母さんは仕事が大変なことになってしまい、会社の宿泊施設で一ヶ月間は泊まり込みで業務をしなくてはならない事態になってしまいました』

『私の貞操に関しては、とても信頼出来る男性が傍に居ます。なので心配は要りません。もしかしたら、その方が貴女の新しいお父さんになるかもしれません。ですが、それはここではあまり関係の無い話ですね』

『一ヶ月。私は家に居ません。正直な話。私は貴女が一人で暮らせるとは到底思えません。勉強や運動は人並み以上に出来る貴女ですが、家事とお金の管理が全く出来ないですから』

「……う、うぅ」

 い、痛い事を言われています……

『居間のテーブルの上に、便箋と封筒を用意してあります。これを隣りの部屋の海野凛太郎くんへ渡してください』

「……え?り、隣人さんに……」

 お母さんが隣人さんのことを知っていたことに、私は少しだけ驚きました。

『彼なら貴女のことをしっかりと面倒を見てくれると信じています。何かあったら彼を頼ってください。きっと貴女の助けになってくれるはずです』

『優花。貴女は可愛い女の子です。そんな貴女がちょっと上目遣いをして、『ご飯を食べさせてください』って言えば海野くんはイチコロです。頑張って彼をモノにしなさい』

「……も、モノにしなさいって……」

『最後に』

『私はまだおばあちゃんにはなりたくないので、きちんと避妊はしないとダメよ?』

「お、お、お、お母さんのバカー!!!!!!」

 私は思わずそう叫んでしまった。

 でも、お母さんが一ヶ月も居ないのは事実。

 封筒を見ると……

「じゅ、じゅうまんえん……」

 こ、こんなお金の管理……私には出来ない……

「り、隣人さんに……話をします……」


 そして、隣の部屋へと向かった私。隣人さんは、お母さんからの手紙を読んで、私の食生活の面倒を見てくれることを了承してくれました。


 その後は、彼からアレルギーとか好き嫌いを聞かれました。

 一番好きな食べ物は、隣人さんの作ったハンバーグだと答えたら、顔を赤くしてました。

 ふふーん!!隣人さんも可愛いところがありますね!!

 台所ではお米の炊き方を教わりました!!
 一合でお茶碗2.2杯分!!
 私の一食分です!!
 覚えましたよ!!

 そして、隣人さんと一緒に買い物に出かけました。

 スーパーマーケットで買い物をするのは初めてだったので、すごく楽しかったです!!
 試食も美味しかったです!!

 ですが、危うくお店の策略に嵌るところでした。
 流石は買い物上手の隣人さん。店側の策略には惑わされなかったようです!!

 買い物から帰ってきて、手洗いとうがいをしたら夕飯を作りました。

 ふふーん!!野菜を洗うのは私の仕事です!!

 そんな私に試練です!!

 隣人さんが切ってる玉ねぎのせいで涙が出てきました。
 彼に抗議をしましたが、我慢しろ。と一蹴されました……
 つ、辛いです……

 そして、なんとか下ごしらえを済ませた私に、隣人さんは重要な役割をくれました。包丁できゅうりをスライスする役割です!!

 初めて握った包丁はとても緊張しました。

 そして、隣人さんの真剣な表情は、私の身体のことをきちんと考えてくれてのことです。
 ふざけるなんて以ての外です。
 私は絶対に指を切らないように注意をして、きゅうりをスライスしました。

 す、少しだけ厚みがあるのはご愛嬌です!!

 そして、隣人さんが料理を作ってる間に、テーブルの上には食器を用意しました。

 ふふーん!!出来る女は気が利くのです!!

 隣人さんも少し驚いていたようですが、きちんとお礼をくれました。

 私がスライスしたきゅうりにも気が付いてくれたようです!!

 きゅ、急に頭を撫でるのはセクハラですよ、隣人さん!!

 全ての料理が完成したので、私は美味しく炊けたご飯を山盛りにしました。
 隣人さんも同じ位によそってます。
 お腹が空きましたからね!!

「いただきます」と声を揃えて食べ始めました。

 やっぱり隣人さんの料理は美味しいです!!

 ですが、私はやはり不安でした。

 私がスライスした、少しだけ……すこーしだけ厚みのあるきゅうりはどうでしようか?

 じーっと彼を見ていると、私のきゅうりを食べました。

 そして、ひとつ首を縦に振ってから、レタスを食べてます。

 ど、どうだったのでしょうか?
 私は聞いてみました。

「私が切ったきゅうりはどうですか?」
「うん。美味しいぞ。このくらい厚みがあった方が歯ごたえがあって好きだと思ったわ」

 や、やりました!!彼の口に合うものを作れたみたいです!!

「ふふーん!!やはり優花ちゃんはパーフェクト美少女ですね!!初めて握った包丁も華麗に使いこなしましたからね!!」
「油断するなよ美凪。包丁ってのは一回目より二回目や三回目の方が危険なんだ。ただでさえお前は慢心しやすい性格だからな。気を付けろよ?」
「はい!!」

 ぶっきらぼうだけど私のことを心配してくれての言葉。
 やっぱり隣人さんは優しいですね。

 そして、豚肉の生姜焼きに舌鼓を打って、私は大満足で夕ご飯を食べ終わりました。


「ご馳走さまでした!!」
「お粗末様でした」

 隣人さんが食器を流しに持って行っていたので、その間に麦茶を用意しました。気が利く女です!!

「ありがとう」
「いえいえー。この位はしますよー」

 なんて言いながら、私は時計を見ました。
 二十時です。
 ……そろそろ帰れ。と言われそうな気がしました。

「洗い物は俺の方でやっておくから、美凪は麦茶を飲んだら帰って良いぞ」
「……はい」

 ……やっぱり。言われてしまいました。

 ……楽しかった時間も、もうおしまいです。

 そんな私に、隣人さんが言葉を続けました。

「俺はこのあと風呂の準備をするからな。まぁ……すぐに帰れって意味じゃない。誤解を招くような言い方だったな。すまん。好きなタイミングで良いからな」

 あはは……やっぱり……優しいですね。
 言葉を選んでくれてます。

 ですが、彼の優しさはそれだけじゃありませんでした。

 私の目の前に、隣人さんは鍵を出しました。

「……え?」
「俺の家の鍵だ。合鍵ってやつだな。親父がよく無くすから三つ作ってあるんだ。そのうちの一つをお前にやる」
「……い、良いんですか?」

 あ、合鍵ってこんな簡単に渡して良いものだとは思えません!!

「俺が風呂掃除してる間に、泥棒に入られたら困るからな。俺の部屋を出たらこの鍵で閉めてくれ。まぁその後は自由に使ってもらって構わないぞ」

 自由に使ってもらって構わない。

 私はその言葉の中に込められた彼の優しさに胸が暖かくなりました。

 絶対に無くさない。この鍵は……私の宝物です……

「ありがとう……ございます。絶対に無くしません」
「そうだな。そうしてくれると嬉しいよ」


 隣人さんはそう言うと椅子から立ち上がりました。

「じゃあな、美凪。また明日学校で。お前と行った買い物や、料理の時間、食べた夕飯は思いの外楽しかったぞ」

 そんな言葉を残して、彼は居間を後にしました。

 隣人さんの居なくなった居間に、私は一人残されました。

 自分が入るためのお風呂を掃除してるのでしょうか。
 シャワーの音が聞こえてきました。

「……帰らないと……行けませんね」


 私は椅子から立ち上がり、居間を後にします。

 そして、玄関へ向かい、革靴を履いて外に出ます。

「お邪魔……しました……」

 私はそう言って隣人さんの部屋の扉を閉めて、貰った合鍵を使って鍵を掛けました。


「……帰りたくない。帰りたく……無いです」


 隣に移動した私の目の前にあるのは、誰も居ないマンションの一室。自分の家のはずなのに、まるで他人の家のように感じます……



 私は自分の家の鍵をお財布から取りだして、玄関の扉を開けて、誰も居ない部屋へと入りました。
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