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第1章 前編
第十七話 ~桐崎先輩から野球部への勧誘を受けました~
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第十七話
券売機へと向かった俺は、何を食べようかな……と思案する。
……ふむ、結構品数があるな。
少しだけ迷いながら、俺はラーメンと炒飯を頼むことにした。
凛音は……日替わり定食か。
北島さんは……え?
「肉増しの……焼肉セット?」
北島さんが選んだ食事に俺は驚く。
「お、お肉が好きなんです……」
「そ、そうか。良いと思うよ。俺、たくさん食べる女の子って好きだよ」
「あ、ありがとうございます……」
そんなやり取りをしながら、俺たちは食事を購入して桐崎さんが待つテーブルへと向かった。
「お待たせ、桐崎さん」
「待たせたわね」
「あ、お水を用意しててくれたんですね、ありがとうございます」
俺たちは桐崎さんにお礼を言う。
「あはは。これくらいさせてよ。これから迷惑をかけるんだから」
そう言って、桐崎さんは俺を見る。
「多分。おにぃの狙いは桜井くんだと思うし」
「お、俺!?」
「よくわかってるじゃないか、雫」
と、俺の後ろから大人びた男性の声が聞こえてきた。
「やぁ、君が桜井くんだね。昨日は雫がお世話になったね」
「き、桐崎先輩……」
その声に振り向くと、俺と同じくらいの背丈の桐崎先輩が、後ろに立っていた。
「そんなに緊張しないでくれ。俺はそんなに怖い人間じゃないよ」
「……は、はい」
俺は恐縮しながら椅子に座る。
桐崎先輩はそんな俺の隣に座った。
「そうね、女の子をたくさん侍らせてるような二股ハーレム野郎よね」
と、凛音は桐崎先輩にキツイ視線をぶつけていた。
「あはは。まぁ、真実でもあり、脚色された部分もあるとは思うけどね」
桐崎先輩はそんな凛音の視線も気にすることなく笑っていた。
きっと、こんなことを言われるのはもう慣れてるんだ。
「はいはい。そのくらいにしてご飯食べようよ」
と、桐崎さんは呆れたように言った。
「そうだね。早くしないと俺の前で焼肉に釘付けになってる詩織さん二世みたいな彼女が怒ってしまいそうだ」
桐崎先輩は北島さんを見て笑っていた。
「す、すみません!!美味しそうで我慢出来ませんでした……」
そして俺たちは、「いただきます」と声を揃えてご飯を食べ始めた。
そうしてご飯を食べ進めて行くと、桐崎先輩が俺に話しかけてきた。
「ご飯を食べながらでいいから聞いてくれないか?」
「あ、はい」
俺はラーメンのチャーシューをかじる。
うん、美味い。
「昨日は雫に『本当の意味での護身術』を教えてくれてありがとう」
「……え?」
俺はその言葉に首を傾げる。
「いやなに。昨日は君たちがゲームセンターに行ったのは知ってるよ。その時に、俺の可愛い雫がナンパをされたのも知ってる」
「そ、そうですか。すみません、俺が居ながら……」
そんな俺の言葉に、先輩は手を振る。
「いや、君を責めるなんてとんでもない。感謝してるぐらいだよ」
「感謝……ですか?」
「雫はやっかい男に絡まれたら金的を蹴り飛ばせば良い。と考えていてね」
「ぶふぅ!!」
何も口に入れてなくて良かった……
「あはは……それは間違いではないんだが、正解では無い。本当の意味での正解は君が雫に教えたように『大声を上げながら逃げる』だよ」
「はい……」
先輩はそう言うと、卵焼きを口に入れて咀嚼する。
「それを教えてくれた君に感謝こそすれ、責めるなんて気持ちは微塵も無いよ」
「ありがとうございます。そう言って貰えると安心しました」
ホッと一つ息を吐いた俺に、桐崎先輩は真剣な目を向ける。
「俺がここに来た理由は二つあるんだ」
「二つ……ですか?」
「なぁ、桜井くん。君、野球部に入らないか?」
ガタッ
と音がした方を見ると、北島さんが立っていた。
「……君の気持ちは良くわかるよ。でも、俺に話をさせてもらえるかな?」
そんな彼女を桐崎先輩は優しい目で見る。
「……わかりました」
北島さんはそう言うと席に座った。
「桜井くん。うちの野球部には、君の力が必要だ」
「はは。ご冗談を。前年は甲子園に進み、優勝候補を破った海皇高校野球部に、万年一回戦負けのへっぽこ投手が何を出来るって言うんですか?」
自虐を込めてそう言うと、桐崎先輩は俺が驚くようなことを言う。
「ストレートに関して言えば、軟式野球でありながら記録に残ってる時点の最速は130km。カーブ、スライダー、チェンジアップを操り、コントロールも悪くない。しかも貴重なサウスポー。昨日のゲームセンターではホームランを二本打つなど打撃も非凡だ」
「…………なんで俺のストレートのスピードを知ってるんですか?」
俺は『部活で』全力投球をしたことは無い。
なぜなら、キャッチャーが取れないからだ。
だから俺はいつも軽く投げていた。
そう、俺が本気で投げたのは……
「君が幼馴染の女の子の前で、良い格好を見せようとして、大きなゲームセンターでのピッチングマシンで叩き出した数字が130km。あんな私服で、しかも肩慣らしもしない、スパイクですらない、アスファルトの上で出した数字がそれだ。いったい君の本当の最速は何km出るんだろうね」
「なんでそれを知ってるんですか」
半眼で睨む俺に桐崎先輩は笑う。
「あまり俺を舐めるなよ。この程度のことを調べるなんて造作もない」
「……だったら、なぜ俺が野球を辞めたかを知らないはずないですよね?」
その言葉に、桐崎先輩は視線を落とす。
「知ってるさ。それでも、君には野球をしてもらいたいと思った。……うちの野球部には致命的な弱点があるのは知ってるだろ?」
「投手が居ない。いや、武藤先輩に続く二番手が居ない。ですよね」
そう。この海皇高校には絶対的エースで今年のドラフト一位の筆頭候補。複数球団が指名することが有力視されている武藤健先輩が居る。
だが、この人一人で勝てるほど、高校野球は甘くない。
「去年の甲子園。健が一人で投げ抜いて優勝候補を破った。だが、次の試合では健の疲労が抜けてなかったから負けた。そもそも、予選からあいつ一人に投げさせてるのが間違いなんだ」
「まぁ、時代じゃないですよね」
そんな俺に、桐崎先輩は言う。
「君なら健に続く二番手になれる。いや、エースにだってなれる。プロだって見えるはずだ。君の全力を受け止められるキャッチャーも居る。俺たちの高校の野球部には、君の力が必要だ。もう一度、野球をしてくれないか?」
その言葉に反応したのは……凛音だった。
「やりなさいよ。霧都」
「……え?」
俺は凛音の方を向く。
「この二股野郎の言うことは間違ってないわ。万年一回戦負けの原因は霧都では無くて貧弱なチームメイトのせいだわ。アンタの実力を正しく評価してる。この点だけはこの人を信用しても良いと思ったわ」
そんな凛音の言葉に異を唱えたのは、北島さんだった。
「わ、私は反対です……」
「はぁ!?」
北島さんの言葉に凛音が食いついた。
「さ、桜井くんの心の傷は深いです……そのことを思えば、私は野球をしてとは言えません。そ、それに、桜井くんは『高校では新しいことをしたい』と言ってました。私はその気持ちを尊重して欲しいと思います」
「な、何よそれ……私は知らないわよ……」
「そうだな。その話をしたのは北島さんだけだからな」
「……え………………そう」
俺の言葉を聞いた凛音は下を向く。
俺はそんな凛音から視線を切り、桐崎先輩へと向き合う。
「桐崎先輩」
「うん。答えを聞かせてもらえるかな?」
俺は先輩の目を見ながら言う。
「野球はやりません」
「桜井くんっ!!」
「霧都!?」
俺の言葉に北島さんと凛音が反応した。
「理由を……聞いてもいいかな?」
「はい。野球を辞める理由だった俺の心の傷……なんてかっこいい言い方ですけど、それはもう治ってるんです」
俺はそう言うと、北島さんを見る。
「彼女の言葉のお陰で俺は立ち直れました」
「だったら、野球をしても良いんじゃないか?」
俺は先輩のその言葉に首を横に振る。
「野球はやりません。素振りとか遊びとかならしますが、本気ではやりません。理由は北島さんが言った通りです」
「新しいことをしたいから。だね」
「はい。ですので、大変光栄なお誘いですが、お断りさせてもらいます。すみません!!」
俺はそう言うと、先輩に頭を下げた。
「うん。わかった。君を野球部に誘うのは諦めよう」
「ご期待に添えずすみません」
「いや、構わないよ。多分断られると思ってたからね」
先輩はそう言って笑う。
「さて、桜井くん。俺は最初にこう言ったね?」
ここに来たのは二つの理由がある。ってね
「……はい。それが何か?」
疑問符を浮かべる俺に、桐崎先輩はニヤリと笑う。
あ、あの顔だ……
俺は嫌な予感がした。そして、それは的中するのだった。
「桜井霧都くん。生徒会に入らないか?」
券売機へと向かった俺は、何を食べようかな……と思案する。
……ふむ、結構品数があるな。
少しだけ迷いながら、俺はラーメンと炒飯を頼むことにした。
凛音は……日替わり定食か。
北島さんは……え?
「肉増しの……焼肉セット?」
北島さんが選んだ食事に俺は驚く。
「お、お肉が好きなんです……」
「そ、そうか。良いと思うよ。俺、たくさん食べる女の子って好きだよ」
「あ、ありがとうございます……」
そんなやり取りをしながら、俺たちは食事を購入して桐崎さんが待つテーブルへと向かった。
「お待たせ、桐崎さん」
「待たせたわね」
「あ、お水を用意しててくれたんですね、ありがとうございます」
俺たちは桐崎さんにお礼を言う。
「あはは。これくらいさせてよ。これから迷惑をかけるんだから」
そう言って、桐崎さんは俺を見る。
「多分。おにぃの狙いは桜井くんだと思うし」
「お、俺!?」
「よくわかってるじゃないか、雫」
と、俺の後ろから大人びた男性の声が聞こえてきた。
「やぁ、君が桜井くんだね。昨日は雫がお世話になったね」
「き、桐崎先輩……」
その声に振り向くと、俺と同じくらいの背丈の桐崎先輩が、後ろに立っていた。
「そんなに緊張しないでくれ。俺はそんなに怖い人間じゃないよ」
「……は、はい」
俺は恐縮しながら椅子に座る。
桐崎先輩はそんな俺の隣に座った。
「そうね、女の子をたくさん侍らせてるような二股ハーレム野郎よね」
と、凛音は桐崎先輩にキツイ視線をぶつけていた。
「あはは。まぁ、真実でもあり、脚色された部分もあるとは思うけどね」
桐崎先輩はそんな凛音の視線も気にすることなく笑っていた。
きっと、こんなことを言われるのはもう慣れてるんだ。
「はいはい。そのくらいにしてご飯食べようよ」
と、桐崎さんは呆れたように言った。
「そうだね。早くしないと俺の前で焼肉に釘付けになってる詩織さん二世みたいな彼女が怒ってしまいそうだ」
桐崎先輩は北島さんを見て笑っていた。
「す、すみません!!美味しそうで我慢出来ませんでした……」
そして俺たちは、「いただきます」と声を揃えてご飯を食べ始めた。
そうしてご飯を食べ進めて行くと、桐崎先輩が俺に話しかけてきた。
「ご飯を食べながらでいいから聞いてくれないか?」
「あ、はい」
俺はラーメンのチャーシューをかじる。
うん、美味い。
「昨日は雫に『本当の意味での護身術』を教えてくれてありがとう」
「……え?」
俺はその言葉に首を傾げる。
「いやなに。昨日は君たちがゲームセンターに行ったのは知ってるよ。その時に、俺の可愛い雫がナンパをされたのも知ってる」
「そ、そうですか。すみません、俺が居ながら……」
そんな俺の言葉に、先輩は手を振る。
「いや、君を責めるなんてとんでもない。感謝してるぐらいだよ」
「感謝……ですか?」
「雫はやっかい男に絡まれたら金的を蹴り飛ばせば良い。と考えていてね」
「ぶふぅ!!」
何も口に入れてなくて良かった……
「あはは……それは間違いではないんだが、正解では無い。本当の意味での正解は君が雫に教えたように『大声を上げながら逃げる』だよ」
「はい……」
先輩はそう言うと、卵焼きを口に入れて咀嚼する。
「それを教えてくれた君に感謝こそすれ、責めるなんて気持ちは微塵も無いよ」
「ありがとうございます。そう言って貰えると安心しました」
ホッと一つ息を吐いた俺に、桐崎先輩は真剣な目を向ける。
「俺がここに来た理由は二つあるんだ」
「二つ……ですか?」
「なぁ、桜井くん。君、野球部に入らないか?」
ガタッ
と音がした方を見ると、北島さんが立っていた。
「……君の気持ちは良くわかるよ。でも、俺に話をさせてもらえるかな?」
そんな彼女を桐崎先輩は優しい目で見る。
「……わかりました」
北島さんはそう言うと席に座った。
「桜井くん。うちの野球部には、君の力が必要だ」
「はは。ご冗談を。前年は甲子園に進み、優勝候補を破った海皇高校野球部に、万年一回戦負けのへっぽこ投手が何を出来るって言うんですか?」
自虐を込めてそう言うと、桐崎先輩は俺が驚くようなことを言う。
「ストレートに関して言えば、軟式野球でありながら記録に残ってる時点の最速は130km。カーブ、スライダー、チェンジアップを操り、コントロールも悪くない。しかも貴重なサウスポー。昨日のゲームセンターではホームランを二本打つなど打撃も非凡だ」
「…………なんで俺のストレートのスピードを知ってるんですか?」
俺は『部活で』全力投球をしたことは無い。
なぜなら、キャッチャーが取れないからだ。
だから俺はいつも軽く投げていた。
そう、俺が本気で投げたのは……
「君が幼馴染の女の子の前で、良い格好を見せようとして、大きなゲームセンターでのピッチングマシンで叩き出した数字が130km。あんな私服で、しかも肩慣らしもしない、スパイクですらない、アスファルトの上で出した数字がそれだ。いったい君の本当の最速は何km出るんだろうね」
「なんでそれを知ってるんですか」
半眼で睨む俺に桐崎先輩は笑う。
「あまり俺を舐めるなよ。この程度のことを調べるなんて造作もない」
「……だったら、なぜ俺が野球を辞めたかを知らないはずないですよね?」
その言葉に、桐崎先輩は視線を落とす。
「知ってるさ。それでも、君には野球をしてもらいたいと思った。……うちの野球部には致命的な弱点があるのは知ってるだろ?」
「投手が居ない。いや、武藤先輩に続く二番手が居ない。ですよね」
そう。この海皇高校には絶対的エースで今年のドラフト一位の筆頭候補。複数球団が指名することが有力視されている武藤健先輩が居る。
だが、この人一人で勝てるほど、高校野球は甘くない。
「去年の甲子園。健が一人で投げ抜いて優勝候補を破った。だが、次の試合では健の疲労が抜けてなかったから負けた。そもそも、予選からあいつ一人に投げさせてるのが間違いなんだ」
「まぁ、時代じゃないですよね」
そんな俺に、桐崎先輩は言う。
「君なら健に続く二番手になれる。いや、エースにだってなれる。プロだって見えるはずだ。君の全力を受け止められるキャッチャーも居る。俺たちの高校の野球部には、君の力が必要だ。もう一度、野球をしてくれないか?」
その言葉に反応したのは……凛音だった。
「やりなさいよ。霧都」
「……え?」
俺は凛音の方を向く。
「この二股野郎の言うことは間違ってないわ。万年一回戦負けの原因は霧都では無くて貧弱なチームメイトのせいだわ。アンタの実力を正しく評価してる。この点だけはこの人を信用しても良いと思ったわ」
そんな凛音の言葉に異を唱えたのは、北島さんだった。
「わ、私は反対です……」
「はぁ!?」
北島さんの言葉に凛音が食いついた。
「さ、桜井くんの心の傷は深いです……そのことを思えば、私は野球をしてとは言えません。そ、それに、桜井くんは『高校では新しいことをしたい』と言ってました。私はその気持ちを尊重して欲しいと思います」
「な、何よそれ……私は知らないわよ……」
「そうだな。その話をしたのは北島さんだけだからな」
「……え………………そう」
俺の言葉を聞いた凛音は下を向く。
俺はそんな凛音から視線を切り、桐崎先輩へと向き合う。
「桐崎先輩」
「うん。答えを聞かせてもらえるかな?」
俺は先輩の目を見ながら言う。
「野球はやりません」
「桜井くんっ!!」
「霧都!?」
俺の言葉に北島さんと凛音が反応した。
「理由を……聞いてもいいかな?」
「はい。野球を辞める理由だった俺の心の傷……なんてかっこいい言い方ですけど、それはもう治ってるんです」
俺はそう言うと、北島さんを見る。
「彼女の言葉のお陰で俺は立ち直れました」
「だったら、野球をしても良いんじゃないか?」
俺は先輩のその言葉に首を横に振る。
「野球はやりません。素振りとか遊びとかならしますが、本気ではやりません。理由は北島さんが言った通りです」
「新しいことをしたいから。だね」
「はい。ですので、大変光栄なお誘いですが、お断りさせてもらいます。すみません!!」
俺はそう言うと、先輩に頭を下げた。
「うん。わかった。君を野球部に誘うのは諦めよう」
「ご期待に添えずすみません」
「いや、構わないよ。多分断られると思ってたからね」
先輩はそう言って笑う。
「さて、桜井くん。俺は最初にこう言ったね?」
ここに来たのは二つの理由がある。ってね
「……はい。それが何か?」
疑問符を浮かべる俺に、桐崎先輩はニヤリと笑う。
あ、あの顔だ……
俺は嫌な予感がした。そして、それは的中するのだった。
「桜井霧都くん。生徒会に入らないか?」
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