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第1章 前編

第二十一話 ~放課後は生徒会室に向かい、入会しました~

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 第二十一話



 そして、六時間目のLHRの時間を使い切ったところで全ての委員の選出が終わった。

 桐崎さんの司会進行は見事の一言だったけど、しっかりと黒板に記入して行く星くんの綺麗な文字も目を引いた。

 そして、根岸先生から諸連絡を聞いたあと、放課後になった。

「よし。生徒会室に行こうかな」
「はい。私もお供します」
「私も行くよ!!」

 俺と北島さんと桐崎さんは、生徒会に入会する予定なので、これから生徒会室に行く予定だ。

「私はこれから体育館へ行って、バスケ部の体験入部をしてくる予定よ」

 俺たちの後ろから、支度を済ませた凛音がそう言ってきた。

「体験入部では先輩たちと新入生で試合を出来るみたいなのよね。ふん。ぼこぼこにしてやるわ」

 自信満々に凛音はそう言うと、教室から出て行った。

「南野さんってバスケがお上手なんですか?」

 北島さんの質問に俺が答える。

「弱小チームだったうちの中学が、凛音のワンマンチームで全国に行った。これでアイツの凄さがわかるかな?」
「そ、それはすごいですね……」
「朱里ちゃんが欲しがってたからねー。ただ少し心配かな?」

「「心配??」」

 首を傾げる俺と北島さんに、桐崎さんは笑いながら言う。

「バスケ部の体験入部はね、別名『新入生の鼻っ柱を叩き折る場所』って言われてるの。凛音ちゃんみたいな子だとちょっと心配だなぁって」
「まぁ、アイツの実力ならそう簡単には……とは思うけど、所詮はちょっと前まで中学生だからな。高校生には勝てないかもな」
「朝は元気が無かったですけど、今は少し元気みたいです。また元気を無くすことにならないといいですね」

 なんてことを話しながら、俺たちは生徒会室へと向かった。




『生徒会室』



 目的の場所へと辿り着いた俺たち三人は、部屋の扉をノックする。

 すると、中から「カギは掛かってないから、そのまま入って来てくれ」と言う声が聞こえてきたので、扉を開けて中に入る。

 中には桐崎先輩と黒瀬先輩が座って待っていた。

 先程俺が割ってしまった窓ガラスには養生テープが張ってあった。そして、打ち込まれたソフトボールはご丁寧に桐崎先輩の机の上に飾ってあった……

「一年二組 桜井霧都です」
「同じく一年二組の北島永久です」
「同じく一年二組の桐崎雫です!!」

 俺たちは軽く自己紹介をして一礼した。

「良く来てくれたね、三人とも。生徒会長として歓迎するよ」

 そう言ってくれる桐崎先輩。

 そして、黒瀬先輩はスっと立ち上がり、

「生徒会の副会長をしております、黒瀬詩織です。よろしくお願いします」

 と上品に一礼した。

「お久しぶりです、黒瀬先輩……とても、とてもお会いしたかったです」
「ふふふ。入学式以来ですので、そこまででは無いのでは?」

 そう言う黒瀬先輩に、北島さんは首を横に振る。

「いえ、私にとっては無限に等しい時間でした。こうしてお話し出来て光栄です」
「そう言ってくれるなら嬉しいわ。でも、これからは生徒会がある日はいつでも会えるわよ」
「はい。私が入会を決意した理由の一つです」
「あらあら。そうなのですね。私もあなたのような新入生が入って来てくれるなら安心よ」
「黒瀬先輩のご期待に応えられるように尽力します」

 北島さんはそう言うと一礼した。

 そんなやり取りを見ていると、桐崎先輩が話を始める。

「昼の時間でも話したけど、桜井くんにはまず庶務をしてもらいたい」
「はい。了解です」

「北島さんには会計をしてもらいたい。前任の会計は詩織さんだ。君のフォローも出来るから安心してくれ」
「はい。微力を尽くします」

「そして、雫は書記と、副会長の兼任だ」
「へぇ、私に副会長を兼任させるってことは、桜井くんを生徒会長にするって話は本気なんだね?」

 桐崎さんが少しだけ言葉に険を込めて問いかける。

「そうだな。特に問題が無ければ次期生徒会長は桜井くんだと考えている」

 まぁ、生徒会長を選出する選挙があるから選ぶのは生徒自身だが、俺は桜井くんを推薦する。

 桐崎先輩はしっかりとそう言い返した。

 俺は昼休みからの疑問をぶつけてみることにする。

「その、桐崎先輩」
「ん、なんだい桜井くん」

「なんで、俺が生徒会長なんですか?正直な話、桐崎さんの方が適任に思えますが……?」

 俺のその言葉に、桐崎先輩は笑った。

「あはははは!!!!そうか、やはり君にはきちんと説明をしないとダメだな。そういうところも俺とそっくりだ」
「……え?」

 先輩はそう言うと、俺の目を見た。

「桜井くん。まずは世間話からしようか」
「……はい」

「桜井くん。君には可愛い妹が居るね?」
「はい。居ます。手を出したらいくら先輩でも刺しますよ?」

 かなり本気の視線を先輩に放つ。

「あはは。わかってるよ、俺にも可愛い妹が居る」
「はい。クラスメイトです」

「俺には藤崎朱里と言う『彼女』が居る。だが、妹の雫が居なかったら破局していたかもしれない。そんな致命的な状況を救ってもらった。それ程に大切な妹だ」

「なるほど。俺も詳しくは話せませんが、あと一歩で死んでいたかもしれない所を、妹の美鈴に救ってもらった命の恩人です。血の繋がりが無ければ結婚していたほどに、心から愛しています」

「さ、桜井くん!!??」

「桜井くん。君は血の繋がりが無ければ、と言うが。俺は血の繋がりがあるからこそ、心から雫を愛していると言える」

「お、おにぃ!!??」

「血の繋がりがあるからこそ、俺たちは真の家族として彼女たちに愛を与えることが出来る。そうでは無いかい?」
「……おっしゃる通りです。一瞬でも美鈴との血の繋がりを後悔した自分が恥ずかしいです」
「いや、俺もそう思ったのは一度や二度では無い。恥じることでは無いよ、桜井くん」
「ありがとうございます。師匠」

 俺は桐崎師匠に頭を下げた。

「話について行けません……」
「愛が重すぎるよ……」
「ふふふ。雫ちゃんが羨ましいですね」

「さて、桜井くん」
「なんですか、師匠」

「いつの間にか師匠になってます……」

「俺の可愛い雫が今年から入学する。どんなやつが入学するのか、クラスメイトになるか、一番重要なのはどんなやつが近くの席になるか、調べるのは当然だろ?」
「はい。当然です」

「「当然です!?」」

 何を驚いてるのだろうか?当然じゃないか。

「そして、俺は当然、君のことも調べたよ」
「なるほど。それであれ程俺のことを知っていたんですね。昼に話していたことは」

 師匠は首を縦に振る。

 そして、言葉を続けた。

「新入生の中に生徒会長を出来る器の人間がいなければ、雫に次期生徒会長だと告げていた。書記と副会長の兼任ではなく、俺の直属にして、会長職を学ばせてただろう。まぁ、この辺りは雫自身もわかっていたと思うがな」
「うん。まぁね……」

 桐崎さんは師匠の言葉に、薄く笑う。

「だが、桜井くんを調べて行くうちに君こそが生徒会長に相応しいと思うようになった。こと『生徒会長』と言う役職に関して言えば、雫よりも北島さんよりも君が適任だ。そして、そんな君だからこそ、俺は君を本気で欲しいと決意したんだ」

「何故ですか?俺には自分にそこまでの価値があるとは到底思えません」

 俺のその言葉に、師匠は優しい目で俺を見てきた。

「君は何故一回戦負けに甘んじていたんだい?」
「……え?」

「君の真の実力を全て受け止められるような人間は少ない。だが、七割程度を受け止められるくらいなら『厳しい練習』をすれば可能なはずだ」
「…………そうですね」

 師匠の言うように、厳しい練習をすれば俺の球をある程度までは受け止められるようなレベルには出来た。
 部長をしていた俺には、練習を決める権利もあった。だが、俺はそれをしなかった。

「でも、君はそれをしなかった。何故だい?」
「そ、それは……」

 俺が言い淀んだことを師匠はズバリ言い当てる。

「チームメイトがそれを望んでいなかったから。だよね?」
「……っ!!」

 見抜かれてる……

「大きなゲームセンターで、大好きだった幼馴染に良い格好を見せるために、肩が壊れるかも知れない状況で全力投球をする。そんな君が、一番かっこ悪い万年一回戦を何故我慢出来た?」
「…………」

「君のチームメイトは『楽しい野球』をしたいと思っていた。それは決して悪いことではない。中学生なんだから、厳しい練習なんかより楽しくワイワイやりたい。顧問の先生も放任主義でほとんど部活には来なかった。だったら、そんな思いを持ってて当然だ。たまにする練習試合に負けてもヘラヘラ笑っていたのだろう。君は唇をかみ締めていただろうけどね。そんな君は『自分の恋心』より『チームメイトの感情』を優先したんだ。俺はここまで『滅私』を貫ける人間を見たことが無い」

 師匠はそう言うと、立ち上がって俺の方へと歩いてくる。

「俺はね、努力する人間が好きだ」

 師匠はそう言うと、俺の肩に手を置いた。

「俺は昔、ただのオタクで陰キャでコミュ障だった」
「……え!?」

 み、見えない!!??
 う、嘘だろ!!

「俺は今でこそ、身体には筋肉がついてるし、話し方もしっかりしてる。身だしなみにも気を使ってるし、まだ見せてはいないが私服に関してもオシャレを意識している。それは全て、俺が好きになった藤崎朱里に相応しい自分になるためにしたことだ。彼女を振り向かせるためにした努力だ。そして、その努力は今も続けている。俺はまだまだ藤崎朱里やそこに居る黒瀬詩織に相応しいとは思えていないからね。魅力的過ぎる二人に並び立つ為にも、平凡な俺には常に努力が必要だ」

「そして君は『好きな女の子に良い格好を見せる』そんな俺の努力とは反対に『好きな女の子に良い格好を見せることを我慢する』という事を努力したんだ」

「生徒会長に必要なのは『滅私』の部分だ。どれだけ生徒のために動けるか。それが大切なんだ」

「桜井くん。俺がどうしても君を欲しかったのはそのためだよ。雫はどうしても『自分』が強い。それは悪くないんだがね」

 そこまで言ったあと、師匠は少しだけ苦笑いを浮かべる。

「だが、そんな君にはどうしても足りない部分がある」
「わかります。実務能力ですね」

 俺の言葉に師匠は笑って頷いた。

「やはりわかっているんだね。庶務と副会長をすることで幅広い実務の経験をして能力を養って貰いたい。そして、それでも足りてない部分を補うのを、北島永久さんと俺の妹の雫にしてもらいたいと思ってる。二人の能力は一級品だ。そうすれば、生徒会は安泰だ」





「これが、俺が君を次期生徒会長として推している理由だよ」
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