Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第一話 ~パーティメンバーに引退の話をしたらひと騒動が起きた~

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 第一話



 時は夕暮れ。本日のクエストを終えた俺たちのパーティは王都の一角にある『荒くれ者どもの酒場』にやって来ていた。


「今日もお疲れ様。抱えていたグリフォン討伐も終えたからな、ようやくひと心地つけたな」

 冷えたエールの入ったジョッキをガツンと打ち鳴らしたあと、俺はそう話を切り出した。

「そうですね。ベルフォード師匠(せんせい)が両翼を切り落としてくれたおかげで楽に討伐が出来ました。対象を討伐することより、探すことの方が手間だったくらいです」

 そう言って俺を立ててくれたのが、一年ほど前からパーティリーダーを任せているエリックだ。

 十五歳で王都に来た彼を冒険者の先輩として、十年間鍛え上げてきた。エリックが有していた元々の才能と勤勉さも相まって、今ではとてつもない実力の持ち主に成長してくれた。

 こうして今でも俺の事を師匠(せんせい)と呼んで慕ってくれているが、もう俺の実力などエリックの足元にも及ばないな。

 グリフォンの両翼を切り落としたのだって、たまたまに過ぎない。それを補助してくれた彼女の存在が大きい。

「対象の翼を切り落とせたのは運が良かっただけだよ。リーファの魔法の力が大きい」

 俺がそう言ってハーフエルフの女性。リーファに話を振る。

「貴方が呪文を詠唱(えいしょう)する時間をしっかりと稼いでくれたお陰よ。ふふふ。そう言って自らの功を誇らないのは昔から変わらないわね」

 そう言って笑うリーファとはパーティ結成当初からの付き合いだ。
 ハーフエルフの彼女は二十年経ってもかつての美貌に一点の曇りもない。

 ははは。シワの増えたおっさんの俺とは大違いだな。

「はいはい。いつもの事だけど目の前でイチャイチャしないでよねー」
「い、イチャイチャしてる訳ではないわよ……」

 そう言って少しだけ目を細めながら窘めてきたのがシーフのシルビアだ。

 手先の器用な彼女は討伐したモンスターの解体からダンジョンのトラップ解除。宝箱の解錠までやってのけるパーティの何でも屋だ。

「ははは。そんなことを言うなよシルビア。それにこんなおっさんが相手じゃリーファに失礼だろ?」

 俺が笑いながらそう言うと、シルビアとリーファがため息混じりに呟いた。

「……このおっさん。やっぱりなんもわかってねぇな」
「……二十年経ってもベルはこんな感じよ。もう諦めてるわ」

 何を言ってるかは聞き取れたが、意味が理解出来なかったな。

 どういう意味なのだろうか……
 まぁ、深く考えないことにしよう。

 さて、そろそろ『本題』に入るとするかな。

 テーブルの中央に置かれたチョリソーを一本口に入れ、咀嚼した後にエールでそれを流し込む。

 二十年前から変わらない味。これを味わうのも『今日で最後』
 そう考えると感慨深いな。

「なぁ、みんな。聞いてくれないか?」

「何ですか、師匠?」
「どうしたの、ベル?」
「神妙な顔してどうした、おっさん?」

 俺の言葉に、パーティメンバーの視線がこちらに向けられる。

 俺は一つ息を吐いてから皆に言葉を放つ。

「冒険者を引退しようと思うんだ」

 ガタッ!!!!!!

 俺のその言葉に、全員が椅子を倒して立ち上がった。
 ……何だ、打ち合わせでもしてたのか?

 俺がそんな呑気なことを考えていると、エリックがすごい剣幕で怒鳴ってきた。

「な、何を馬鹿なことを言ってるんですか師匠!!」
「いや、一年くらい前から考えてたことなんだけどな……」

 俺がそう言葉を返すと、リーファが口を挟んできた。

「一体誰に唆されたの?もう歳だとか誰かに言われたんじゃないの?」
「いや、誰にも言われてないぞ。と言うより、それは俺自身が感じてきていたことだからな」

 苦笑いをしながらそう言うと、シルビアが表情を歪めながら言ってきた。

「なぁ、おっさん。私はアンタのことをおっさんって呼んでるけど、別にお荷物とかそんな風には思ってないぞ?」
「ははは。そうだな、シルビアは口は悪いけど優しい女の子だからな」
「なぁ!!??」

 俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にする。

「そろそろ潮時かな。そう思っていたんだよ。そして、抱えていたグリフォン討伐も終えたからな。ちょうど良いと思ったんだよ」

 俺がエールを飲みながらそう言うと、エリックが怒鳴りたい気持ちを押さえつけながら俺に言ってきた。

「失礼な話をします。確かに師匠の実力は全盛期に比べれば落ちたと思います」
「そうだろ?エリックの目は正しいぞ」

「体力の低下が見えてきています。ですがそれを補ってあまりある技のキレがあります!!それに、師匠より実力の無い冒険者は掃いて捨てるほどいますよ!!」
「……エリック。失礼なことを言うな。ここが何処だかわかってるのか?」
「……すみません」

 彼の失言を俺は目を細めて窘める。

 この場は『荒くれ者どもの酒場』だ。
 仕事を終えた冒険者が酒を飲んで楽しく騒ぐ場所だ。

 そんな場所でこんなおっさんより『実力が劣る』なんて言葉なんか聞いて楽しいはずが無い。

「悪いな皆!!気分を害したと思うから今日の酒代は俺が出すぞ!!」

 俺は椅子から立ち上がると、周りの冒険者にそう言ってエールの入ったジョッキを掲げた。

『構わねぇぞ!!ベル!!』
『ゴチになるぜ!!』
『さすがSランクだな!!』
『おっさん太っ腹!!』

 なんて声が聞こえてきた。

 良かった。これで一安心だな。

 俺は椅子に座り直した後に、メンバーにもう一度話をする。

「リーファの言うように誰かに唆されたとかじゃない。エリックの言うように、実力の衰えを感じてきている。そして俺は『Sランクパーティの一員』だからな。それに見合った実力が無いとダメなんだよ」
「つまり師匠は、今の自分の実力はSランクパーティには相応しくない。そう考えてると言いたいんですね?」

 エリックの言葉に俺は首を縦に振る。

「そうだ。だから俺は去年からお前をパーティリーダーに任命したんだ。俺の後継者としてな」
「止めてください……俺はまだ半人前……」
「エリック!!」

 俺の強い言葉に、彼の肩が震える。

「情けないことを言うなよ。お前には俺の全てを叩き込んだ。安心して引退させてくれないか?」
「……師匠の意思は固いんですね」

 エリックはそう言うと、ため息を一つ吐いて笑った。

「わかりました。師匠の引退を了承します」
「ありがとうエリック。これで俺も安心出来るよ」

 そう言って彼と握手をすると、リーファが不機嫌そうな目で俺に言ってきた。

「それで、男二人で勝手に盛り上がってるところ悪いけど、ベルは引退して何かしようって言うの?」
「そうだな。故郷に帰ってそこで剣術道場でも開こうかと思ってる」

 体力は落ちたけど、技のキレはまだあるからな。
 俺の技を後世に伝えるような仕事をしようかな。

 あとはそうだな……

「俺もいい歳だからな。そろそろ『結婚相手』を探そうと思うよ」

 ガタッ!!!!!!

 俺のその言葉に、酒場にいたほとんどの女性が椅子を飛ばして立ち上がった。
 立ち上がらなかったのはシルビアだけだな。

 目は見開いてるけど。

 目の前のリーファは椅子から立ち上がり、今まで見た事が無いような驚愕の表情を浮かべながらこちらを見ていた。

『あ、あの!!すみません、ベルフォードさん!!』
「……ん?どうした、君は確かルーシーさんだったね」

 俺たちのテーブルにやって来て、声を掛けてきた女性。
 彼女はAランクパーティのメンバー。魔法使いのルーシーさんだったかな。

 以前。オークの集団に襲われているところを助けたことがあった女性だったな。

『わ、私もそろそろ結婚を考えているので……もし良ければお相手として……ひぃ!!!!???』

 俺の隣に来ていた彼女は、突然悲鳴を上げて後退りをする。

「ん?どうかしたのか、ルーシーさん」
『い、いえ……何でもないですぅ!!!!』

 彼女はそう言い残すと踵を返して立ち去って行った。
 何があったのだろうか……
 リーファの方から何やら殺気を感じたようにも思えたけど。

 そちらを振り向くと、エリックが神妙な表情を浮かべながら俺に言ってきた。

「……師匠。迂闊な事を言わないでください」
「え、エリック……」
「今の師匠の言葉で何人の女性が狂乱の渦に巻き込まれるかわかりませんからね」

 な、なんでこんなおっさんの結婚活動でそんなことが起きるんだよ……
 男性冒険者の好感度ランキングで三年連続でトップのエリックならともかく。
 毎年選考外の俺なんかどうでも良いだろ……

 パンパーン!!!!

「酒場にいる女性冒険者はこちらに来なさい!!」

 そんなこと考えていると、椅子から立ち上がり柏手を打ったリーファが声を張り上げた。
 彼女はテーブルから離れると、酒場の奥へと足を進めた。

「今後ルーシーのようなことをする輩が出ないように話し合いをするわよ!!」
『りょ、了解です!!』

 リーファに続いて酒場の女性冒険者たちがゾロゾロと酒場の奥へと消えていった。

「な、何があったんだ……」
「おっさんのことを狙ってる女はこれだけいるってことだよ」

 呆れたような声でそんなことを言うシルビア。

 そ、そんなことは無いだろ……
 十五の時に王都に来て、リーファとここで出会ってから冒険者をして二十年。女っ気なんて微塵も無かったんだから……

「とりあえず師匠はもう帰って寝てください。そして、また明日冒険者ギルドに来てください。色々と手続きとかもあるので」
「わ、わかったよエリック」

 俺はエリックにそう言葉を返すと、カウンターに向かってこの場にいる冒険者全員分の料金の支払いを終えたあと、自宅へと帰った。
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