Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶

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第1章

第九話 ~ツキからの深い愛情を感じながら一つ目の初めてを彼女に捧げた~

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 第九話



「よし。こんなもんかな」

 自室で身支度を整えた俺は鏡に映った自分の姿を見て納得を得た。

 着ている服は昨日に引き続きリーファに見立ててもらったスーツだ。
 国王に謁見するのに私服は流石に不味いだろう。
 冒険者をしている頃は防具を装備して謁見することもあったが、もう引退した身だからな。

 そういった意味でもこの衣装で正解だと思えた。

 自室を出て居間に向かうと、食器の洗い物を終えたツキが俺を待っていてくれていた。

「待たせて悪かった。お陰で準備万端だよ」
「ふふふ。構いませんよ、ベルフォード」

 そう言ってツキは微笑んだ後。俺の姿を見て傍まで歩いて来た。

「あらあらベルフォード。ネクタイが曲がってますよ?」
「……え?そんなはずはないんだけどな」

 キチンと鏡で確認したと思ったけど……
 なんて思ってると、俺の前まで来ていたツキが首に腕を回していた。

「……スキありですよ」
「……あ」

 愛刀からのキス。
 俺の『初めて』だった。

「……んぅ……好きですよ、ベルフォード」

 ツキからの幸せそうな吐息を感じる。
 目を閉じて彼女の感触を堪能する。

 女性とこういう行為をした事がなかったからわからないけど、こんなにも幸せな気持ちになれるものだったんだな。

 そして、しばらくすると彼女は満足したのか。俺から唇を離した。

「ベルフォードの一つ目の『初めて』は貰いました」
「ははは。奪われたと言った方が正しいかもしれないな」

 俺がそう言うと、ツキは蠱惑的に微笑みながら言葉を返す。

「ふふふ。ですが、これでリーファとキスをしても構いませんよ?私とした行為でしたら彼女としても構いませんから」
「そ、そうか……とりあえずリーファとそういう行為をする予定は今のところ無いかな……」
「そうですか。ですが油断は出来ません。彼女のことは私も認めてますからね」

 ツキはそう言うと俺の身体を抱きしめてきた。

「それでは行きましょう、ベルフォード」

 その言葉を残して彼女は姿を刀に戻した。
 月光としての姿になった彼女は、俺の腰にその場所を移した。

「ツキには悪いけど、この姿の方が落ち着くな」
『ふふふ。その言葉は貴方をドキドキさせられてると思うことにしますね?』

 少しだけ嬉しそうな彼女の声が頭に響いた。

 まぁどんな姿でも俺にとってツキは大切な存在だ。

 そう結論をつけて俺は自宅を後にして城に向かった。



『ガルム城』



 自宅を出た俺は歩いて城へと向かう。
 城からそこまで離れてはいない場所に家は建てたのでそこまで時間はかからない。
 Sランクの冒険者として、突然の呼び出しにも対応出来るようにするためだ。

 城の前まで歩いて行くと、顔馴染みの門番が二人立っていた。

『こんにちは、ベルフォードさん!!』
『冒険者を引退した。そう聞きました。残念な気持ちはありますがお疲れ様でした!!』

「ははは。冒険者は引退したけど何かあったら直ぐに飛んでくるつもりだから安心してくれ。俺に出来ることなら力を貸すのは惜しまないからな」

 俺がそう言葉を返すと、門番の二人は安心したように笑顔を浮かべてくれた。

『ベルフォードさんにそう言って貰えると安心出来ます!!』
『これからもよろしくお願いします!!』

「引退したおっさんがどこまで役に立てるかはわからないけどな。あまり期待はしないでくれ」

 俺はそう言って城の中へと入った。

 そして場内を進んで行き、謁見の間の前にたどり着く。

 そこにはスフィア王女が立っていた。

「待ってましたよ、ベルフォードさん」
「お待たせしてしまい申し訳ございません。スフィア王女」

 俺がそう言って頭を下げると、彼女はかなり不機嫌そうに声を出してきた。

「やめてくださいベルフォードさん。それに、昨日もそうでしたけど『スフィア王女』なんて呼ばないでください。以前のように『スフィ』と呼んでください。敬語も必要ありません」
「……王位継承権を正式に得た貴方に対して、そんな無礼なことは出来ませんよ」

 十代の頃ならいざ知らず。今の彼女は正式に次期国王としての地位にある。
 そんな人間に対して昔のような対応なんて取れるはずがない。

 そう思っていると、彼女は両手を広げて『通せんぼ』の形を取り始めた。

「……なんのつもりですか?」
「ベルフォードさんが以前のように私を扱ってくれない限り。ここを通しません!!」

 はぁ……そう来たか。
 というかきっとそのつもりで彼女はここで待ち構えて居たんだろうな。

 全く。もう二十を越えたんだからあまり子供っぽいことは卒業してもらいたいと思ってしまう。

 俺は諦めにも似た気持ちを持ちながら彼女の元へと歩いて行く。
 そんなに望むなら、以前のように扱ってあげることにするか。

「べ、ベルフォードさん……」
「君がかつての扱いを望むならそうすることにするまでだな」

 少しだけ狼狽えた表情をするスフィに俺はそう告げる。
 そして、彼女の耳元で俺は囁いた。

『あまりわがままを言うなよスフィ。またお仕置をされたいのか?』

 俺がそう言うと、彼女は顔を赤くして扉の前から身体を退けた。彼女はどうやら『耳元』が弱いようで、昔からこう言うと素直になってくれることが多かった。

「また、貴方からお仕置をしてもらいたいとは思ってしまいます……」
「あまりそういう事を言わない方が良いぞスフィ。誤解の元だからな」

 ちなみに俺が彼女にしていた『お仕置』はおでこを軽く弾くデコピンと呼ばれる行為だ。

「じゃあここを通らせてもらうからな」
「はい。ではこれからもその対応でよろしくお願いしますね?」
「はぁ……わかったよ、スフィ」

 俺はそう言って彼女の横を通り過ぎた。

『ベルフォードは女たらしです。全く、ハーレムでも目指してるんですか?』

 拗ねたようなツキの声が頭に響いた。

『目指してないから。俺が結婚するのはツキとリーファだけだよ』
『……その言葉を信じますからね。ベルフォード』

 ツキはそう言い残すとそれ以降は喋ることを止めた。

 はぁ……まさかこの俺が女たらしなんて言葉を言われるとはな……

 俺は少しだけ遺憾な気持ちを抱きながらも、謁見の間の重厚な扉を開けて中へと入った。

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