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第75話 新入生の為の歓迎試合だろ

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 まるで悪役打ち取ったかのような盛り上がりで中々興奮冷めやらない上級生チームだったが、輝明が打席に入った途端に今までの事が何も無かったかのように辺りはシーン静まり返った。

 すると突然ベンチから自由が輝明に向かって叫んだ。

「輝明!今の内にバットは捨てて、走る準備の方をしといた方がいいぞ!」

 バット持ってないと多分どうあってもアウトになるんですが。けど走る準備、か。確かにこの流れだとその可能はありえそうですね。

「何言ってんだ、兄貴?」

「歩かされるかもってことでしょう?あいつもホームラン打ってるからね。しかも調子崩してたとはいえ龍介《あんた》と違って甘く入った球をとかじゃなく普通に打たれたみたいだしね。兄貴の後なら一年相手とはいえ充分警戒される可能性はあるわ」

(それに赤坂の次は今日あまり当たりの無い○○。まだ先輩らにとっても情報が少なく強打者である赤坂とまともに勝負するよりもランナー貯めるリスクを背負っても次の打者を打ち取る選択の方が勝算は高い筈。そう考えると尚更赤坂の敬遠は濃厚だけど…)

 そんな中で注目の集まった第一球目。外れことしたが低身長の輝明でもバットが届きそうなアウトコース低めにチェンジアップが投げ込まれた。そして二球目にはインハイにストレート。今度は枠を捉えてストライクとなった。

 すると突然自由が仰々しい表情で叫びながら慌ててベンチから出る。

「こらぁあ――!!何で俺はまともに相手しなかったのに同じくホームラン打ってる輝明には普通に勝負してるんだぁ!?しかも輝明の方がお前から直接ホームラン打ってるから余計脅威な筈だろう?チームの選択何処行った!?」

 そんな彼の怒声に剣崎は頷きながらも冷静に返す。

「確かにな。けどお前忘れてない?」

「何を!?」

「この試合は元々新入生の為の歓迎試合だって事。そんな新人君らの為の試合なのに歩かせるなんて可哀そうだし、他に出てない選手がいるから交代とかならまだしも失点恐れて一年の打席飛ばそうものなら誰の為の歓迎試合だって話しになるだろ?」

「…ぁ…いや、でもほら。それはあれで…これはこれじゃん?」

「いや、意味わかんないし」


「いや~前の対決を考えたら不利なのに後輩の為に先輩としてあえて勝負する方を選択するなんて自分のとこの先輩ながら格好いいわね。それに引き換え…」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」

「いつまでああしているのよウチのアホ兄貴は」

「よっぽど勝負したかったんだろうね。まあ、気持ちはわからないでもないけど」

「あはははははははは…」

 そんなやり取りが行われる中でも剣崎と輝明の勝負は続いていった。そして…

「ボール、フォアボール!」

「結局歩かせる形になったな」

「どっちかというとあのちびっこ君が粘り勝った形かな。あの後輩君、ツーアウトだし長打狙ってもよさそうな状況だったのに一度マウンドから退いた剣崎君が出てきたことを考えて相手に投手がもういないであろうと予想してあえて粘る方を選択したみたいだね。そして剣崎君はそれを感じ取ってて対戦が長引いて崩される可能性が高いと感じて歩かせざるえなかった感じ、かな」

「二人とも色々考えてプレイしてるね」

「なるほど、勝負はするけどそこまで勝負する事にこだわるつもりもないって事か。なんたる優柔不断さだ!」

「ああいうのは柔軟な対応って言うと思うけどね」

「後輩君の方は残り投手の事もあるだろうけどもしかしたら調子を上げて来た剣崎君のリズムを少しでも崩したかったのかも。スイングもカット気味だった様に見えるし」

「そうかもしれませんね。いや~どっかの振り回す事しか考えず、あっさり三振してリズムに乗せてしまったどっかの四番と違うわね」

「そうだな。偉そうにしながら出塁できなかったどこぞのクリーンナップよりは遥かに有能だな」

「「………っ!!」」

「はいはい、そうやってすぐ喧嘩してベンチの雰囲気悪くしようとしない。それより早く守備行くぞ」

「「は?守備?」」

 状況を理解していない二人に自由は指先を一人チームメイトに向ける。そこには申し訳なさそうにベンチこちらに歩いて来る一番打者の姿があった。

「…行きましょうか」

「…そうだな」

 微妙な空気になり、その場から離れたかった二人は急いで準備してグラウンドに向かおうとした。しかし龍介がベンチから出ようとすると背後から何かに引っ張られる感じがしたので振り返ると輝明が彼の服を掴んでいた。


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