雲見の柘榴が落ちるとき

鳴海 靉

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第8話 エピローグ「柘榴色の手紙」

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 それから一年後の秋。 美桜の机に一通の手紙が届いた。差出人は雲見市役所。

 開封すると、一枚の写真が入っていた。 かつての柘榴畑は、今では小さな公園になっていた。 遊具の周りには、若い家族連れの姿が写っている。

 添えられた手紙には、柿本からのメッセージが記されていた。

 =======================

 伏見様

 お元気でしょうか。 あれから、雲見も少しずつ変わりつつあります。

 あなたが去った後、不思議なことに柘榴にまつわる噂は徐々に収まっていきました。失踪した家族の事件も、今年になって正式に終結となりました。

 実は先日、古い記録を整理していて興味深い資料を見つけました。 明治時代、この土地には「願いの試練場」という場所があったそうです。 人々は自分の願いと向き合い、真摯に考える場として、ここを訪れていたとか。

 時代と共に、その本来の意味は歪められ、怪談めいた話になってしまったのかもしれません。

 しかし、あなたの選択は、この土地本来の意味を思い出させてくれました。 今では、地域の人々も前向きに変わってきています。

 川上さんが言っていました。 「あの方は、正しい答えを見つけてくれた」と。

 どうかお元気で。 また雲見に来られることがありましたら、ぜひお立ち寄りください。

 追伸:整地の際、もう一つガラス瓶が見つかりました。 中には、赤く熟れた柘榴の種が一粒。 これも同封させていただきます。

 =======================


 美桜は窓の外を見た。 東京の高層ビル群が、夕陽に赤く染まっている。

 机の引き出しから、小さな植木鉢を取り出す。 そこには、柘榴の若木が芽吹いていた。

 かつての"もう一人の自分"が見せた不気味な笑みは、もう見ることはない。 代わりに、鏡に映る自分が、穏やかな表情を返している。

 ときどき、出張で地方を訪れることがある。 移住支援のプロジェクトで、様々な土地の物語に触れる。 そのたびに思い出す。あの柘榴畑での日々を。

 願いは、必ずしも叶えられるべきものではない。 時に、願わないことの方が、大切な真実に近づける。

 美桜は、柘榴の若木に水をやった。 この木が実をつけることはないだろう。 でも、それでいい。

 それは、自分の中に在る「もう一つの物語」を 静かに見守ってくれる存在になるはずだから。

 ~終~
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