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小向は人頭幢めがけていーっとしていた。だがあおむしを守っているはずの小向は、いっこうにあおむしに手を伸ばそうとはしない。
「小向、あおむし安全なところにうつしてあげよう?」
「ん」
「小向がする?」
俺の質問にノーリアクションだった小向だが、しばらくしてふるふると首を横に振った。
「……さわるのはこわい」
勇気ない。そう言いながらぴたりと俺の横っ腹にくっついてくる小向。
「もー」
しょうがないなぁという体を装いながら、俺はあおむしを手のひらにのせ、近場の彼岸花の上に移動させた。鼻の下伸びてるのはヘルメットのおかげでバレていまい。お願いするときはくっついてくるとかどういうこと!?と小一時間問い詰めたいが、それをすると離れていきそうなので言えない俺は小心者だ。手玉に取られてる感が否めない、けど嫌じゃない。
「りんごないねー」
「そうだねー」
「みどりのはっぱないねー」
「そうだねー」
何気なく相槌をうってしまったが、あおむしってりんご食べたっけ?と疑問に首を傾げた。俺のイメージはキャベツなどの葉物の野菜だが……そこで俺はピンと閃いた。
そうだ、あの有名な絵本のあおむしは生まれてすぐりんごを食べていた。りんごやらなしやらチョコレートケーキやらピクルスやらの型破りの食事を繰り返して、最終的にはオーソドックスな葉っぱを食べて羽化するはらぺこなあおむしの話。……え、もしかして仲間って、はらぺこ仲間!?えええなにそれかわーーっかわぁあっ!腹黒の魔性なのか純粋な天然なのかわからない同級生に、俺は不覚にも可愛いと悶えそうになってしまった。
のほほんと二人であおむしを観察していた。この時俺たちは無事あおむしを避難させてあげれたことに喜び、短気な生首のことなどすっかり思考の彼方に忘れさっていたのだ。
それが許せなかったのか、ゴトッゴロゴロゴロゴロ!と地響きをたてながら激しい音が背後から迫ってきたと思う暇もなく、彼岸花と俺たちの間に人頭幢が転がり入ってきた。
「ぎょっ!?」
「っ!?」
こいつ移動できたのかよ!突然の出来事に仰天して身動きとれない俺たちを交互に見た人頭幢はニヤリと口角を持ち上げ
「ごおかぁぁぁぁあく!!」
地の果てまで届きそうなほどの大音量で叫んだ。
「合格ごおかーーーーく!」
「ちょっ、なに」
「どうしたの? トラブル?」
鼓膜を破壊しようとしてるかのような大声で合格の言葉を叫び続ける人頭幢に、倒れた二人を介抱していたサロメピンクが何事かと駆けつけてくる。
「本質を見抜いたり! 他人に唆されず自身でしかと見極める、此れ善の本質をもつ者と判ずる!」
「ゼン? え、ソクさんのこと?」
わーわーと喚く人頭幢の騒々しさに、俺は混乱して野干村のはじまりの民家で喘息を撒き散らしていたはた迷惑な獣人間の名字を思い出した。喘息の本質をもつ者とか全力で拒否なんですけど。
「なんだなんだぁ?」
「ハッ! 今何時だい!?」
さすがの大声に気絶していた二人も意識を取り戻したようだ。気絶する前よりもグレードアップした喋る生首を見てまた気絶されたらかなわんと、サロメピンクがコミカルな動きで二人の視線を独占している。起き抜け早々でまだ寝ぼけているのか、そんなサロメピンクを思惑通り二人はぼうっと眺めていた。
理解できぬまま、されど俺に説明してるというより言い渡しに重きを置いている風な人頭幢は、困惑してるこっちのことなどお構いなしにすらすらと進行する。
「此れより、判定を下された者並びにその一派をソト側へと転置致す。嚮導せよ! 嚮導せよ!」
嚮導せよ!その言葉を合図に、彼岸花の上に避難させた曰く小向の仲間なあおむしがピタリと動きを止めた。そして突如脱皮し蛹化した。まるで早回ししているかのようにそこだけ時間の流れが加速する。その背がピシリと割れたかどうかを視界にとらえるか否か、そこからぶわっと湧き出してくる黒い何か。
背後で悲鳴が聞こえる。もう今更悲鳴の犯人を確認する気などおきなかった。
「きれい」
瞬く間に俺たちがいる範囲を埋め尽くしていく黒。目の前に迫ってきてはっきりした黒の正体は、その色以外何色ももたない手のひらサイズの蝶の集合体だった。一匹のあおむしから無数に羽化するさまは、あおむしがただのあおむしじゃなかったと理解するには十分で。
きれいじゃないよ!おぞましいよ!この世のものとは思えない異常な光景に、俺は慌てて隣りにいた小向を抱きしめた。
「よくやった、おめでとう」
視界すべてを黒に飲み込まれる間際、そんな声が聞こえたような気がした。
「小向、あおむし安全なところにうつしてあげよう?」
「ん」
「小向がする?」
俺の質問にノーリアクションだった小向だが、しばらくしてふるふると首を横に振った。
「……さわるのはこわい」
勇気ない。そう言いながらぴたりと俺の横っ腹にくっついてくる小向。
「もー」
しょうがないなぁという体を装いながら、俺はあおむしを手のひらにのせ、近場の彼岸花の上に移動させた。鼻の下伸びてるのはヘルメットのおかげでバレていまい。お願いするときはくっついてくるとかどういうこと!?と小一時間問い詰めたいが、それをすると離れていきそうなので言えない俺は小心者だ。手玉に取られてる感が否めない、けど嫌じゃない。
「りんごないねー」
「そうだねー」
「みどりのはっぱないねー」
「そうだねー」
何気なく相槌をうってしまったが、あおむしってりんご食べたっけ?と疑問に首を傾げた。俺のイメージはキャベツなどの葉物の野菜だが……そこで俺はピンと閃いた。
そうだ、あの有名な絵本のあおむしは生まれてすぐりんごを食べていた。りんごやらなしやらチョコレートケーキやらピクルスやらの型破りの食事を繰り返して、最終的にはオーソドックスな葉っぱを食べて羽化するはらぺこなあおむしの話。……え、もしかして仲間って、はらぺこ仲間!?えええなにそれかわーーっかわぁあっ!腹黒の魔性なのか純粋な天然なのかわからない同級生に、俺は不覚にも可愛いと悶えそうになってしまった。
のほほんと二人であおむしを観察していた。この時俺たちは無事あおむしを避難させてあげれたことに喜び、短気な生首のことなどすっかり思考の彼方に忘れさっていたのだ。
それが許せなかったのか、ゴトッゴロゴロゴロゴロ!と地響きをたてながら激しい音が背後から迫ってきたと思う暇もなく、彼岸花と俺たちの間に人頭幢が転がり入ってきた。
「ぎょっ!?」
「っ!?」
こいつ移動できたのかよ!突然の出来事に仰天して身動きとれない俺たちを交互に見た人頭幢はニヤリと口角を持ち上げ
「ごおかぁぁぁぁあく!!」
地の果てまで届きそうなほどの大音量で叫んだ。
「合格ごおかーーーーく!」
「ちょっ、なに」
「どうしたの? トラブル?」
鼓膜を破壊しようとしてるかのような大声で合格の言葉を叫び続ける人頭幢に、倒れた二人を介抱していたサロメピンクが何事かと駆けつけてくる。
「本質を見抜いたり! 他人に唆されず自身でしかと見極める、此れ善の本質をもつ者と判ずる!」
「ゼン? え、ソクさんのこと?」
わーわーと喚く人頭幢の騒々しさに、俺は混乱して野干村のはじまりの民家で喘息を撒き散らしていたはた迷惑な獣人間の名字を思い出した。喘息の本質をもつ者とか全力で拒否なんですけど。
「なんだなんだぁ?」
「ハッ! 今何時だい!?」
さすがの大声に気絶していた二人も意識を取り戻したようだ。気絶する前よりもグレードアップした喋る生首を見てまた気絶されたらかなわんと、サロメピンクがコミカルな動きで二人の視線を独占している。起き抜け早々でまだ寝ぼけているのか、そんなサロメピンクを思惑通り二人はぼうっと眺めていた。
理解できぬまま、されど俺に説明してるというより言い渡しに重きを置いている風な人頭幢は、困惑してるこっちのことなどお構いなしにすらすらと進行する。
「此れより、判定を下された者並びにその一派をソト側へと転置致す。嚮導せよ! 嚮導せよ!」
嚮導せよ!その言葉を合図に、彼岸花の上に避難させた曰く小向の仲間なあおむしがピタリと動きを止めた。そして突如脱皮し蛹化した。まるで早回ししているかのようにそこだけ時間の流れが加速する。その背がピシリと割れたかどうかを視界にとらえるか否か、そこからぶわっと湧き出してくる黒い何か。
背後で悲鳴が聞こえる。もう今更悲鳴の犯人を確認する気などおきなかった。
「きれい」
瞬く間に俺たちがいる範囲を埋め尽くしていく黒。目の前に迫ってきてはっきりした黒の正体は、その色以外何色ももたない手のひらサイズの蝶の集合体だった。一匹のあおむしから無数に羽化するさまは、あおむしがただのあおむしじゃなかったと理解するには十分で。
きれいじゃないよ!おぞましいよ!この世のものとは思えない異常な光景に、俺は慌てて隣りにいた小向を抱きしめた。
「よくやった、おめでとう」
視界すべてを黒に飲み込まれる間際、そんな声が聞こえたような気がした。
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