上 下
1 / 5
Gifted Awakening

Gifted Awakening

しおりを挟む
春は嫌いじゃない。
良くも悪くも、新たな出会いへの希望に満ち溢れている。
でも好きにもなれない。

何故か。

それは ‐

僕にとって、出会いが良いものになるはずがない。
無能力者である僕に、蔑み以外の視線を送ったものなど、家族とほんの一握りの友達くらいだ。

だから ‐

「僕の合格を取り下げてください。」
やはり、僕はこんなところに行くべきじゃない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

西暦3012年、日本は関東圏を中心とした中央集権国家を形成し、うごめく世界情勢の均衡に対抗していた。とある新たな力の誕生を機に国の均衡は国連の努力むなしく崩れ、人類の新たな力によって、世界は大きな変革を遂げようとしていた。


魔法。それは人間の価値基準を決める一つの指針となり、大きな力を持つものは一人で国家を相手どり、果てには国交にまでその使用が及び、いつしか「人は魔法を使う」ということが教科書レベルの常識となった世界。国は魔法の更なる発展を教育に期待し、国が直接管理する魔法専門高校を関東地方の県庁所在地に配置することになった。


そして今、僕はその中の一つである千葉県に門を構える名門、国立空ノ宮学園の合格発表に来ていた。結果は合格だった。そりゃあそうだろう。とある方に推薦してもらっているのだ。どんなにひどい点数を出しても合格するだろう。そう。どんなにひどい点数でも。でも、だからといって...

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「僕の合格を取り下げて下さい!」
僕こと白導 調(はくどう しらべ)は空ノ宮学園の学園長室に来ていた。合格発表の日に、である。

「いやぁ、我が校としては是非、君に来て欲しいのだよ。君ほど面白そうな生徒は初めてだからねぇ」

まだ50代にもなってないだろうに大分頭の砂漠化が進んでおられる学園長は、大仰な動作でこちらを説得してきている。

推薦をもらった身としては、断るのは失礼なのではないか。そういう人もいるかもしれない。しかし…

「お気持ちは有難いのですがいくらなんでも…


魔法実技0点では、学園のレベルに着いていけません!」



そう。僕は魔法が使えない。人は生まれながらに魔法をもち、魔法が資産と同意で扱えうるこのご時世で、である。
はっきり言って負け組だろう。
無論努力はした。その結果、魔法理論や魔法史、魔法言語などの筆記科目はオール100で受験生トップであった。
だが、分かっていたことだとしても、実技0点という数字を叩き出したのだ。とてもでは無いが、合格なんて頂けない。

そう、無能力者の僕にはやっぱり国立魔法学園なんてとても…どうせまた…馬鹿にされるだけなんだ。魔法は諦めよう。勉強ができれば、それでいいじゃないか。



「では君は、魔法が使えないから自分にはうちに入る資格はないと言うのかい?」


そう言って入ってきたのは長身の女性だった。ぼさぼさの髪を無造作に後ろでまとめた、いかにも研究者といった感じの女性。


「だって…今の世の中、魔法が使えないなんて障害者扱いされてもおかしくないじゃないですか…そんな僕があまつさえ魔法専門学園になんて…」


「なにを言ってるんだ君は」

女性は僕の前に仁王立ちした。そしてーー





「君は魔法を使える。それもとびっきりの異端者(イレギュラー)としてね。まだ君はそれを自覚していないだけだ。」

異端者(イレギュラー)。

初めて聞く単語に疑問を浮かべざるを得ないが、それ以前に彼女の言い放った言葉は僕に今までにない衝撃を与えた。


「は…いや…すいません。なぐさめてもらわなくても大丈 ー」

「事実を言ったまでだ。君は既に立派な異端者だ。」

だから異端者ってなんなんすか!
というツッコミは心中に留め、僕は彼女の言葉を心の中で反芻した。

(僕に魔法が使える…生まれた時の診断でも、小中の魔法基礎力測定でも魔法適正0と言われたのに…そんなことが…いやでも今異端者といっていた…それって魔法とはまた別系統の力なのか…?)

「というわけで。だ。白導くん。君には通常のクラスではなく、特別クラスに入学してもらう。」

僕の思考を遮るように、女性は言った。

「特別クラス…?」

「国の方針でねぇ。光るものを持っている学生達を見落とさないようにしようと、今年から始まった制度だよ。」

学園長はさもありなんという顔でそう言ったが…


「ま、待ってください!」


あまりにもトントン拍子で話が進んでいるが……やはり僕は…

「やっぱり…僕はここで学ぶ資格はありません。異能力者だかなんだか知らないけど、魔法が使えないなんて社会のゴミみたいな僕が、こんな所に来たって…」



「魔法が使えないからなんだというのだ?」

女性は少し語気を荒らげている。

「魔法が使えなきゃいけないなんて誰がきめた。魔法が使えないだけで障害者扱いされるとさっき君はいったな。それは社会が魔法が使えない者も問題なく暮らせる世界を、今の国が創れていないからだろう。なぜ君が負い目を感じなければならない?違うか?」

さらに続けて、


「もし君が魔法が使えないからという、理不尽な理由で今まで差別を受けてきたのだとしたら!私たちが君の魔法を開花させてみせる!君もそいつらを見返したくはないのか!!」


いつしかーその女性は泣いていた。

ああ。そんな。

今まで蔑まれ、クズ呼ばわりされ、落ちこぼれだと称された僕。そんな僕に…

「…たい。、」


魔法を、学べと。そう言ってくれる人がいる。

僕を、欲しいといってくれる場所がある。


「魔法を使えるようになりたい!今までのように、ただ見ているだけなんて嫌だ!!!」

そう。魔法が使えない僕は今までずっと、実技の授業は見学だった。でも…!

「ここで!学ばせてください!!」

気づけば泣きながら頭を下げていた。

やってやる。僕は絶対に…
魔法を。習得してみせる。


「では決まりだね。」

学園長は席をたち、女性の隣にたった。そしてー



「ようこそ、国立空ノ宮学園特別科、『gifted』へ。」

これが始まりだった。

後に魔法社会に旋風を巻き起こし、革命の予兆を魅せる集団、百戦錬磨、薄暮の魔法無双集団、異端者達(イレギュラーズ)の、誕生だった。

しおりを挟む

処理中です...