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Gifted Beginning
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「ねえ、白導くん。ちょっと相談したいことがあるんだけど…。」
医務室から教室へ戻る道中、突然文月さんがなにか言いたそうな顔でそういった。
「ちょっとお耳を拝借。え、えっとね…。」
文月さんから聞かされた内容は、ある意味ではとんでもないことだった。
「えええ!?僕はいいけど、ほかのみんなは大丈夫なのそれ!?」
「ほかのみんなはもう賛成してくれたよ!あとは白導くんだけ。」
「それならいいけど…本当にいいの?」
「いいのいいの!それに、これにはちゃんとした理由があるんだよ?」
教室につくと、みんなもう戻っていた。どうやらみんなその話を聞いて承諾したらしく、なぜこのようにすることになったかの経緯を聞いた。
それを聞いて僕は確信した。
このクラスなら、僕は絶対に魔法が使えるようになる。そして、ぼくもみんなの役に立てる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少し遅れて、神山先生が医務室から戻ってきた。大したこと無かったらしく、すぐに講義が始まった。といっても、今日の講義は測定の結果返却と、今後の学習方針を含めた個人面談だけなのだが。
「えー。色々あったが、何はともあれ測定結果を返却する。1人ずつ取りにこい。」
検査結果は紙媒体で配られるようだ。今どき紙媒体で配布物なんて珍しいけど、データで送って誰かにそれを見られたりしたらめんどくさいからなのだろう。
全員に返し終わると、先生は表情を引き締め、
「測定ご苦労だった。客席で見ていたとはいえ、各々なるべく手の内は明かされたくないだろうから、紙で個別に配るのみとした。よく自己分析をし」
「へー!雅は大地と空かー!これでどうやって空飛んだりしてたのー?」
「ふふふ。2つの元素(エレメント)に対するアプローチを既存のものから変えてるんですわよ!そういうと五十寅さんは炎ですか…。炎のみであの洗練された魔力、圧倒されましたわ…」
「凄かったよね!私もあんな量の魔力の放出見たことないよ~」
「そういう文月さんも無詠唱での複数の解放、お見事でしたわ!私も詠唱省略に関してはそれなりに勉強したつもりだったのですけどね…」
「イメージだよイメージ!それができればあんなの誰だってできるよ~!」
「いやあ、自分もイメージに関しては自信あったんすけどね…無詠唱での魔法なんて、反則もいいとこっすよ…」
「進藤くんもすごかったよ~!見たこともない獣みたいなの出してたよね!?あれどうやってやるの?」
「んーまぁ本当にイメージの力によるものが大きいんすよ。あとは呪詛に言霊の…」
「うわ!すごい!見てみて!進藤くん三重属性だ!ボク初めて見た!」
「ちょ、いつの間に…はぁ…元気いいっすねぇ…」
神山先生は口をあんぐり開けたまんま、固まってしまった。心なしか、表情から血の気が引いているように見える。
魔法使いとして、手の内を隠すのは基本中の基本である。この世の中、自分が使える魔法の種類や質、数は手札であり、いかにそれをうまく使うかが魔法使いの技量に直結する。いくら強力な魔法が使えたとしても、手の内を解明されて対抗策を打たれてしまってからでは意味がないからだ。(もっとも、研究職などにおいては研究を円滑に進めるために教えることもあるらしい。)
つまり何が言いたいかというと。
「沼神さんのはどういう魔法なの?突然、消えちゃったけど…。」
「わ、私の魔法は体を」
「水の元素だったんだ!じゃあ体を透明にできるとかかなあ?」
「い、五十寅さんいつの間に…そ、そうじゃなくて…」
「みなさん本当に面白い方々ですわね!ここにきて良かったですわ!」
そう。この状況は異常だ。みんな「ねえねえテスト何点だったー?」くらいのノリで互いの魔法の属性や詳細を聞き出している。ついには皆の測定結果を回し読みし始める始末だ。
「お、お前ら。魔法っていうのはそんなにやすやすと相手に晒してよいものじゃないことくらい、わかるだろ?確かに演習場で一回見ているとはいえ、それは通知表などとはわけが違うんだぞ!?」
先生の言うとおりである。僕もこんな光景は今まで一度としてみたことがない。あるとすれば、適正なしと診断された測定表をいじめっ子に奪われて晒されたことはあるくらいだ。測定表は誰にも見られないように受け取ったらすぐしまってしまうのが普通だ。一度、測定表を取られた生徒が教師にそのことを話して学年集会になったことがあった。その生徒はは停学にされたと聞いている。ある意味、魔力基礎能力測定表は個人情報の塊なのだ。そんな代物を回し読みしているなどと知られたら、魔法に精通するものであれば泡を吹いて失神するに違いない。
でも僕は、この状況を異常だと思いこそすれ、驚きはしなかった。
神山先生の言葉を受けた僕たちは数秒顔を見合わせると、恵心したかのように頷いた。そして
「先生、私たち決めていたんですよ。測定結果はみんなで共有しようって。」
文月さんが言った。
「な…おまえら。それはどういう…」
「先生、私たちは仮にも特別科というクラスに所属しています。でも、みんなと話してみてわかったことがあるんです。私たちは、まだまだ特別なんかじゃない。って」
「確かに私たちは他の人たちとは少し変わった魔法を使えますし、そこに自負を感じていることも事実ですわ。でも、皆さんの魔法を見て、自分の未熟さ、そしてほかの方の強さを痛感しましたの。」
「だったら手の内隠すんじゃなくて、ばらし合って皆でアドバイスしあって魔法を高め合っていったほうがいいかなって思ったんです!それに、絶対こうしたほうが楽しいしね!ボクわくわくしてきたよ~」
「わ、わたしも、み、みんなから、もっと、いろんなこと教わりたいなって…。」
「そーゆーわけなんで、ま、あきらめてください先生。giftedの名に恥じぬよう、俺らビックになってみせるっすよ。」
そう。皆それぞれの魔法を目の当たりにして、僕たちがクラスの面々に抱いた気持ちは、手の内を知られたくないという警戒心でも、相手の魔法を羨み、嫉妬する気持ちでもなく…。
お互いに対する敬意と憧れ、そして向上心だった。
その気持ちを共有し合った僕たちはお互いに教え合い、高め合っていこうと決めた。例え、それが魔法使いたちにとって自殺行為イレギュラーだとしても。
「僕たちはきっと、先生方の期待に応えて見せます。なので…。」
僕たちは立ち上がり、そして神山先生の方へ向き直ると、
「「「「「「これから、よろしくお願いします!」」」」」」
一斉に頭を下げた。これは僕たちの誓いでもある。gifted、神の祝福ギフトの名前にふさわしい魔法使いになるための。
「ふ、ははは、あははははははは!」
神山先生は一瞬不敵に笑ったかと思うと、大声で笑いだした。何かおかしなことを言っただろうか。
「お前たちは、本当に面白い奴らだ。まだ会ってから二日もたっていないのに、不思議なつながりのようなものを感じる。しかも、魔法形態はおろか魔法使いとしての心構えも変わっているときた。こりゃあ才能ある奴の集まりというよりは、変人の集まりだな。ははは…!」
笑い転げている神山さんを、僕らは変な目で見ていた。そんなに僕らはおかしなことを言っただろうか…。
やがて、ひとしきり笑い終えた神山さんは咳ばらいをしてから、改めて話を切り出した。
「では、これより私の解析を基に詳しく各々に改善点や特徴を述べていく。だが、お前らのその言い分だと、一人ずつ呼び出すよりは、ここでみんなまとめて言ったほうが良さそうだな。皆、それでいいか?」
皆の承諾を得ると、神山先生は個々人に関する解析の結果を一人ずつ説明していった。
概ね僕の分析と変わらなかったが、藍桐さんの元素エレメントそのものに暗示をかける魔法、そして沼神さんの体を電子生命体にかえる魔法に関しては推測の域を出なかったので、本当に驚いた。このクラスでは多少常識から外れているくらいの分析がちょうど良いのかもしれない。
そうこうしているうちに、僕の番になったようだ。
「次は白導だが…。」
「そういえば、ボク白導くんの元素も魔法も聞いてないや!」
「そういえばそうでしたわ。装置が暴走していて、大変でしたので…。」
「でも、解析はできたっぽいすね」
「白導くんの魔法かあ。どんなんだろ?」
とてもハードルが上がっているのは気のせいではないだろう。
とはいえ、もう一人の僕シラベとの邂逅は果たしたが、現時点での僕はまだ魔法を使えないはずだ。解析ではどう出たのだろうか…。
「正直、私でもわからん。お手上げだ。すまん。」
わ、わからん?
随分と大雑把な答えが返ってきた。
みんなあっけにとられたような顔をしている。僕も同じだ。あんな高性能な装置を用いてわからないなんてことがあるのだろうか。
「えーっと、だな。もうこれは測定表を見てもらったほうがはやいな。」
「ええええー!?なにこれ!黒い何かがうねうねしてる!」
いつの間にか僕の測定表は五十寅さんの手に渡っていた。他のみんなも食いついている。皆獲物を見つけたときのハイエナばりに目が爛々と輝いている。
「な、なんすかこれ…元素、なんすかほんとに…」
「こんなのみたことないですわね…。これが神山先生の装置に干渉して、警報が…。」
「こんなに黒かったら、白導くん今まで色変わらなかったんじゃないの?」
「そ、そうなんだよね、あはは…。」
皆も何が何だかという顔をしている。唯一、沼神さんが測定表を見たときにわずかに目を見開いていたが、そそくさと帰ってしまった。まあ、こんな気持ちの悪いもん、誰だって長く見たくはないだろう。
「ええと、つまり、だ。白導はな、得体の知れない未知の何かをもっている。だが、使い方がわからず、今まで魔法を目に見える形で行使できたことがないんだ。」
先生は、僕の事情を説明し始めた。いつかは言わなければと思っていたことだ。もう覚悟はできている。
先程までぽかんとしていた皆の表情が、さらに間の抜けたような気がした。五十寅さんに至っては首が45度に傾いている。
「でも…白導くんは、ここに合格出来たんですよね?魔法使えなくても…」
「当然だ。彼は魔法実技は0点だが、他は満点で全受験者トップの成績だった。」
ほかの5人がもう訳が分からないという顔でこちらを見た。
同時に色んな情報が入りすぎたのだろう。無理もない。
でもこれで、現段階では僕が魔法を使えないことが露呈してしまった。無論、己を信じると決めた以上、もう泣き言は言わないが、皆の反応が少しだけ、怖かった。
だが、その不安は次の瞬間、一蹴されることになる。
「すごい!勉強だけでここはいったの!?ねーねー!今度ボクに勉強教えてよ!魔法の使い方とか、色々できることはするからさー!」と、五十寅さん。
「私も、お願いしたいですわ…。これだけ勉強ができる方なら、きっと魔法も使えるようになりますわ!」藍切さん。
「自分もできることがあれば、なんでも言ってほしいっす。勉強も見てもらえたらうれしいかもっすけど…」進藤くん。
「わ、私にも、、できることがあったら、、いって、、!」
沼神さん。
「白導くん!いっしょに頑張ろ!」文月さん。
ああ。僕は馬鹿だ。自分を否定し、蔑み、他人からの評価ばかりを気にしていた。
でも、今の僕は違う。すごい仲間たちと一緒に、同じステージで、学んでいける。僕を認めてくれる、皆と。
「うん!こちらこそ!よろしく!!」
最初の1歩が出るのはいつになるか分からない。でも、ここでなら、僕の望んでいるものが、叶う。そう確信させる何かがある。あるのなら、そこに走っていくだけだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜。僕は波乱の一日を終えて疲れきってしまい、宿舎の大浴場ではなく、個室の風呂を使っていた。
3時頃に講義を終えた後、僕達6人は学内を見て回ることにした。相変わらず黒い制服が目立っていたが、そんなことは梅雨知らず、広い学園内を満喫出来た。
途中、五十寅さんがはしゃぎすぎて道にヒビが入ったり、沼神さんが電脳空間に逃げてちょっとしたパニックになったりもしたが、それらも含めて僕にはとても刺激があって、楽しいものだった。こんな風に誰かと話しながら学園を移動するなんて、入学前には到底考えられなかったことだ。
湯船で今日あったことを反芻しながらくつろいでいると、
(調。きこえる?)
声が聞こえた。念話テレパス?いや、藍桐さんのの声じゃない…どこから…
(もー。聞こえてるくせに。)
どうやら僕の頭の中に直接語りかけているようだ。まるで僕の中から声が聞こえるような…ん?中から?ということは…
「シラべ!?シラべなのか!?」
つい湯船で立ち上がってしまった。
(そうよ。やっと、回線が安定してきたから、今後はこんな風にたまに喋りかけたりできるわ。寂しかったらいつでも喋りかけてくれていいんだぞ~?)
「寂しくて自分に話しかけるやつがあるかよ…まったく…」
湯船に戻り、携帯端末を弄りながらも、彼女が出てきてくれたことへの安堵は隠しきれなかった。こうして僕シラべの存在を身近に感じることができるようになったのはかなり大きい。これからは魔法を使える準備が整うまで、その過程も逐一教えてくれるそうだ。
にしても…
「お前、声変わったか?」
「あ!バレた?えへへ。オトナの色気ってやつが出てきちゃったのかな~?」
僕シラべによると、どうやらあの禍々しい元素エレメントからでる魔力の流れが復活したため、「成長」しているようなのだ。前にあった時は10歳前後だったが、今の喋り方はもうちょっと年端がいっている。12歳程だろうか。
「成長したら、魔法を使える準備が整うのか?」
(んー。まだわかんない。ま、その辺もまた変化があったら話すようにするわ。)
「頼む。」
ひとしきり話終えると、僕は携帯端末に視線を戻した。
(ところで……
その携帯端末?の中に入ってるの。誰?)
妙なことを言う。この中に?
「何をいって…」
(なんか慌てるみたいだけど…ま、いっか。出しちゃえ!えい!)
「ひゃあ!!」
悲鳴と共に、ザブン!と、大きな音がした。見てみると湯船の中に何かがいる。
人だ。黒い制服。長い前髪。全てがびっしょりと濡れている。上着は着てないらしく、胸の膨らみや腰のくびれが濡れたシャツによってくっきりと顕になっていた。うっすらと、桃色の下着が透けているのが見えた。
「ぬ、沼神さん!?」
医務室から教室へ戻る道中、突然文月さんがなにか言いたそうな顔でそういった。
「ちょっとお耳を拝借。え、えっとね…。」
文月さんから聞かされた内容は、ある意味ではとんでもないことだった。
「えええ!?僕はいいけど、ほかのみんなは大丈夫なのそれ!?」
「ほかのみんなはもう賛成してくれたよ!あとは白導くんだけ。」
「それならいいけど…本当にいいの?」
「いいのいいの!それに、これにはちゃんとした理由があるんだよ?」
教室につくと、みんなもう戻っていた。どうやらみんなその話を聞いて承諾したらしく、なぜこのようにすることになったかの経緯を聞いた。
それを聞いて僕は確信した。
このクラスなら、僕は絶対に魔法が使えるようになる。そして、ぼくもみんなの役に立てる。
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少し遅れて、神山先生が医務室から戻ってきた。大したこと無かったらしく、すぐに講義が始まった。といっても、今日の講義は測定の結果返却と、今後の学習方針を含めた個人面談だけなのだが。
「えー。色々あったが、何はともあれ測定結果を返却する。1人ずつ取りにこい。」
検査結果は紙媒体で配られるようだ。今どき紙媒体で配布物なんて珍しいけど、データで送って誰かにそれを見られたりしたらめんどくさいからなのだろう。
全員に返し終わると、先生は表情を引き締め、
「測定ご苦労だった。客席で見ていたとはいえ、各々なるべく手の内は明かされたくないだろうから、紙で個別に配るのみとした。よく自己分析をし」
「へー!雅は大地と空かー!これでどうやって空飛んだりしてたのー?」
「ふふふ。2つの元素(エレメント)に対するアプローチを既存のものから変えてるんですわよ!そういうと五十寅さんは炎ですか…。炎のみであの洗練された魔力、圧倒されましたわ…」
「凄かったよね!私もあんな量の魔力の放出見たことないよ~」
「そういう文月さんも無詠唱での複数の解放、お見事でしたわ!私も詠唱省略に関してはそれなりに勉強したつもりだったのですけどね…」
「イメージだよイメージ!それができればあんなの誰だってできるよ~!」
「いやあ、自分もイメージに関しては自信あったんすけどね…無詠唱での魔法なんて、反則もいいとこっすよ…」
「進藤くんもすごかったよ~!見たこともない獣みたいなの出してたよね!?あれどうやってやるの?」
「んーまぁ本当にイメージの力によるものが大きいんすよ。あとは呪詛に言霊の…」
「うわ!すごい!見てみて!進藤くん三重属性だ!ボク初めて見た!」
「ちょ、いつの間に…はぁ…元気いいっすねぇ…」
神山先生は口をあんぐり開けたまんま、固まってしまった。心なしか、表情から血の気が引いているように見える。
魔法使いとして、手の内を隠すのは基本中の基本である。この世の中、自分が使える魔法の種類や質、数は手札であり、いかにそれをうまく使うかが魔法使いの技量に直結する。いくら強力な魔法が使えたとしても、手の内を解明されて対抗策を打たれてしまってからでは意味がないからだ。(もっとも、研究職などにおいては研究を円滑に進めるために教えることもあるらしい。)
つまり何が言いたいかというと。
「沼神さんのはどういう魔法なの?突然、消えちゃったけど…。」
「わ、私の魔法は体を」
「水の元素だったんだ!じゃあ体を透明にできるとかかなあ?」
「い、五十寅さんいつの間に…そ、そうじゃなくて…」
「みなさん本当に面白い方々ですわね!ここにきて良かったですわ!」
そう。この状況は異常だ。みんな「ねえねえテスト何点だったー?」くらいのノリで互いの魔法の属性や詳細を聞き出している。ついには皆の測定結果を回し読みし始める始末だ。
「お、お前ら。魔法っていうのはそんなにやすやすと相手に晒してよいものじゃないことくらい、わかるだろ?確かに演習場で一回見ているとはいえ、それは通知表などとはわけが違うんだぞ!?」
先生の言うとおりである。僕もこんな光景は今まで一度としてみたことがない。あるとすれば、適正なしと診断された測定表をいじめっ子に奪われて晒されたことはあるくらいだ。測定表は誰にも見られないように受け取ったらすぐしまってしまうのが普通だ。一度、測定表を取られた生徒が教師にそのことを話して学年集会になったことがあった。その生徒はは停学にされたと聞いている。ある意味、魔力基礎能力測定表は個人情報の塊なのだ。そんな代物を回し読みしているなどと知られたら、魔法に精通するものであれば泡を吹いて失神するに違いない。
でも僕は、この状況を異常だと思いこそすれ、驚きはしなかった。
神山先生の言葉を受けた僕たちは数秒顔を見合わせると、恵心したかのように頷いた。そして
「先生、私たち決めていたんですよ。測定結果はみんなで共有しようって。」
文月さんが言った。
「な…おまえら。それはどういう…」
「先生、私たちは仮にも特別科というクラスに所属しています。でも、みんなと話してみてわかったことがあるんです。私たちは、まだまだ特別なんかじゃない。って」
「確かに私たちは他の人たちとは少し変わった魔法を使えますし、そこに自負を感じていることも事実ですわ。でも、皆さんの魔法を見て、自分の未熟さ、そしてほかの方の強さを痛感しましたの。」
「だったら手の内隠すんじゃなくて、ばらし合って皆でアドバイスしあって魔法を高め合っていったほうがいいかなって思ったんです!それに、絶対こうしたほうが楽しいしね!ボクわくわくしてきたよ~」
「わ、わたしも、み、みんなから、もっと、いろんなこと教わりたいなって…。」
「そーゆーわけなんで、ま、あきらめてください先生。giftedの名に恥じぬよう、俺らビックになってみせるっすよ。」
そう。皆それぞれの魔法を目の当たりにして、僕たちがクラスの面々に抱いた気持ちは、手の内を知られたくないという警戒心でも、相手の魔法を羨み、嫉妬する気持ちでもなく…。
お互いに対する敬意と憧れ、そして向上心だった。
その気持ちを共有し合った僕たちはお互いに教え合い、高め合っていこうと決めた。例え、それが魔法使いたちにとって自殺行為イレギュラーだとしても。
「僕たちはきっと、先生方の期待に応えて見せます。なので…。」
僕たちは立ち上がり、そして神山先生の方へ向き直ると、
「「「「「「これから、よろしくお願いします!」」」」」」
一斉に頭を下げた。これは僕たちの誓いでもある。gifted、神の祝福ギフトの名前にふさわしい魔法使いになるための。
「ふ、ははは、あははははははは!」
神山先生は一瞬不敵に笑ったかと思うと、大声で笑いだした。何かおかしなことを言っただろうか。
「お前たちは、本当に面白い奴らだ。まだ会ってから二日もたっていないのに、不思議なつながりのようなものを感じる。しかも、魔法形態はおろか魔法使いとしての心構えも変わっているときた。こりゃあ才能ある奴の集まりというよりは、変人の集まりだな。ははは…!」
笑い転げている神山さんを、僕らは変な目で見ていた。そんなに僕らはおかしなことを言っただろうか…。
やがて、ひとしきり笑い終えた神山さんは咳ばらいをしてから、改めて話を切り出した。
「では、これより私の解析を基に詳しく各々に改善点や特徴を述べていく。だが、お前らのその言い分だと、一人ずつ呼び出すよりは、ここでみんなまとめて言ったほうが良さそうだな。皆、それでいいか?」
皆の承諾を得ると、神山先生は個々人に関する解析の結果を一人ずつ説明していった。
概ね僕の分析と変わらなかったが、藍桐さんの元素エレメントそのものに暗示をかける魔法、そして沼神さんの体を電子生命体にかえる魔法に関しては推測の域を出なかったので、本当に驚いた。このクラスでは多少常識から外れているくらいの分析がちょうど良いのかもしれない。
そうこうしているうちに、僕の番になったようだ。
「次は白導だが…。」
「そういえば、ボク白導くんの元素も魔法も聞いてないや!」
「そういえばそうでしたわ。装置が暴走していて、大変でしたので…。」
「でも、解析はできたっぽいすね」
「白導くんの魔法かあ。どんなんだろ?」
とてもハードルが上がっているのは気のせいではないだろう。
とはいえ、もう一人の僕シラベとの邂逅は果たしたが、現時点での僕はまだ魔法を使えないはずだ。解析ではどう出たのだろうか…。
「正直、私でもわからん。お手上げだ。すまん。」
わ、わからん?
随分と大雑把な答えが返ってきた。
みんなあっけにとられたような顔をしている。僕も同じだ。あんな高性能な装置を用いてわからないなんてことがあるのだろうか。
「えーっと、だな。もうこれは測定表を見てもらったほうがはやいな。」
「ええええー!?なにこれ!黒い何かがうねうねしてる!」
いつの間にか僕の測定表は五十寅さんの手に渡っていた。他のみんなも食いついている。皆獲物を見つけたときのハイエナばりに目が爛々と輝いている。
「な、なんすかこれ…元素、なんすかほんとに…」
「こんなのみたことないですわね…。これが神山先生の装置に干渉して、警報が…。」
「こんなに黒かったら、白導くん今まで色変わらなかったんじゃないの?」
「そ、そうなんだよね、あはは…。」
皆も何が何だかという顔をしている。唯一、沼神さんが測定表を見たときにわずかに目を見開いていたが、そそくさと帰ってしまった。まあ、こんな気持ちの悪いもん、誰だって長く見たくはないだろう。
「ええと、つまり、だ。白導はな、得体の知れない未知の何かをもっている。だが、使い方がわからず、今まで魔法を目に見える形で行使できたことがないんだ。」
先生は、僕の事情を説明し始めた。いつかは言わなければと思っていたことだ。もう覚悟はできている。
先程までぽかんとしていた皆の表情が、さらに間の抜けたような気がした。五十寅さんに至っては首が45度に傾いている。
「でも…白導くんは、ここに合格出来たんですよね?魔法使えなくても…」
「当然だ。彼は魔法実技は0点だが、他は満点で全受験者トップの成績だった。」
ほかの5人がもう訳が分からないという顔でこちらを見た。
同時に色んな情報が入りすぎたのだろう。無理もない。
でもこれで、現段階では僕が魔法を使えないことが露呈してしまった。無論、己を信じると決めた以上、もう泣き言は言わないが、皆の反応が少しだけ、怖かった。
だが、その不安は次の瞬間、一蹴されることになる。
「すごい!勉強だけでここはいったの!?ねーねー!今度ボクに勉強教えてよ!魔法の使い方とか、色々できることはするからさー!」と、五十寅さん。
「私も、お願いしたいですわ…。これだけ勉強ができる方なら、きっと魔法も使えるようになりますわ!」藍切さん。
「自分もできることがあれば、なんでも言ってほしいっす。勉強も見てもらえたらうれしいかもっすけど…」進藤くん。
「わ、私にも、、できることがあったら、、いって、、!」
沼神さん。
「白導くん!いっしょに頑張ろ!」文月さん。
ああ。僕は馬鹿だ。自分を否定し、蔑み、他人からの評価ばかりを気にしていた。
でも、今の僕は違う。すごい仲間たちと一緒に、同じステージで、学んでいける。僕を認めてくれる、皆と。
「うん!こちらこそ!よろしく!!」
最初の1歩が出るのはいつになるか分からない。でも、ここでなら、僕の望んでいるものが、叶う。そう確信させる何かがある。あるのなら、そこに走っていくだけだ。
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夜。僕は波乱の一日を終えて疲れきってしまい、宿舎の大浴場ではなく、個室の風呂を使っていた。
3時頃に講義を終えた後、僕達6人は学内を見て回ることにした。相変わらず黒い制服が目立っていたが、そんなことは梅雨知らず、広い学園内を満喫出来た。
途中、五十寅さんがはしゃぎすぎて道にヒビが入ったり、沼神さんが電脳空間に逃げてちょっとしたパニックになったりもしたが、それらも含めて僕にはとても刺激があって、楽しいものだった。こんな風に誰かと話しながら学園を移動するなんて、入学前には到底考えられなかったことだ。
湯船で今日あったことを反芻しながらくつろいでいると、
(調。きこえる?)
声が聞こえた。念話テレパス?いや、藍桐さんのの声じゃない…どこから…
(もー。聞こえてるくせに。)
どうやら僕の頭の中に直接語りかけているようだ。まるで僕の中から声が聞こえるような…ん?中から?ということは…
「シラべ!?シラべなのか!?」
つい湯船で立ち上がってしまった。
(そうよ。やっと、回線が安定してきたから、今後はこんな風にたまに喋りかけたりできるわ。寂しかったらいつでも喋りかけてくれていいんだぞ~?)
「寂しくて自分に話しかけるやつがあるかよ…まったく…」
湯船に戻り、携帯端末を弄りながらも、彼女が出てきてくれたことへの安堵は隠しきれなかった。こうして僕シラべの存在を身近に感じることができるようになったのはかなり大きい。これからは魔法を使える準備が整うまで、その過程も逐一教えてくれるそうだ。
にしても…
「お前、声変わったか?」
「あ!バレた?えへへ。オトナの色気ってやつが出てきちゃったのかな~?」
僕シラべによると、どうやらあの禍々しい元素エレメントからでる魔力の流れが復活したため、「成長」しているようなのだ。前にあった時は10歳前後だったが、今の喋り方はもうちょっと年端がいっている。12歳程だろうか。
「成長したら、魔法を使える準備が整うのか?」
(んー。まだわかんない。ま、その辺もまた変化があったら話すようにするわ。)
「頼む。」
ひとしきり話終えると、僕は携帯端末に視線を戻した。
(ところで……
その携帯端末?の中に入ってるの。誰?)
妙なことを言う。この中に?
「何をいって…」
(なんか慌てるみたいだけど…ま、いっか。出しちゃえ!えい!)
「ひゃあ!!」
悲鳴と共に、ザブン!と、大きな音がした。見てみると湯船の中に何かがいる。
人だ。黒い制服。長い前髪。全てがびっしょりと濡れている。上着は着てないらしく、胸の膨らみや腰のくびれが濡れたシャツによってくっきりと顕になっていた。うっすらと、桃色の下着が透けているのが見えた。
「ぬ、沼神さん!?」
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むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
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不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
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