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     第三十二章

死んだ父からの一通の手紙

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 僕は今、美優達と一緒に僕と紀伊名がお世話になった孤児院にいる、が僕は紀伊名に呼ばれて可奈さんの部屋にいる。

「どうしたんですか可奈さん!もしかして、熱が酷くなったとかですか?」

「違うよ。どうしてそんなに慌ててるの?話があって紀伊名ちゃんに涼平君を呼びに行かせたんだけど」

そうだ。紀伊名にもし可奈さんになにかあったら、知らせに来てって言ったの僕じゃないか。

可奈さんが紀伊名に僕を呼びに行かせたから、紀伊名は勘違いをして大慌てで来たんだ。
それを僕も勘違いするなんて。

「あのね、さっき渡しそびれたんだけど」

可奈さんに渡されたのは、一通の手紙だった。

「警察の方が、この前届けに来たのよ。お返しするの忘れてましたって言いながら」

「返すのを忘れた?」

「証拠の一つとして持ってたらしいのよ。それを最近気付いて届けに来たって事」

「ありがとうございます。この手紙は、後で一人になってから読みます」

「そう、泣きたくなったらいつでも来ていいからね!」

「泣きませんよ!」

でも、どうかな?泣くかもしれない、この筆跡は父さんのものだ。
内容はなんだろう?
僕は、手紙の封を開けて読み始めた。

『涼平へ。この手紙を読んでいるという事は父さんが死んだからだな。すまない、辛い思いをさせてしまっているな。誤って済む問題じゃない。でも分かってくれ!父さんは決して涼平を捨てたんじゃないという事を』

なんだこの手紙?まだ続きがあるみたいだ。

『涼平には伝えないといけない事がある。涼平、最近身体能力が人間離れしてると思った事はないか?』

えっ、なんで分かったんだろう?

『なんで分かったか言おう。涼平は、本当は人間の子じゃないからなんだ』

僕は、人間の子じゃない?僕は人じゃないって事?
どう言うことだよ!

『言い方が悪かったな。涼平は、狼男と吸血鬼の子供なんだ。でも、満月を見て狼男になるという事はない。身体能力と嗅覚が人離れになる。そして吸血鬼の治癒能力を得る。別に弱点とか無いが、周りからは化物扱いされるだろう。すまない、普通の子に産むことが出来なくて   父より』

なんだよ、それ。
じゃあ、これからどうやって生きていけばいいんだよ。美優達にこの事を言ったら、怖がられるかな?もう一緒にいてくれなくなるのかな?

「可奈さん。少し一緒にいてもいいですか?」

「いいよ。おいで」

この夜、僕は泣いた。
自分が人じゃない事実と美優達が遠くに行ってしまわないか。その二つに絶望の谷に突き落とされた。
明日の朝、美優達に言っておこう。後でバレてどこかに行ってもらうより、先に言って僕の元から離れた方が傷が浅い。そうしよう。

「可奈さん。ありがとうございました」

「涼平君、私は誰がなんと言おうと君の味方だからね?」

「可奈さんは本当に優しいですね。その気持ちで充分です」

この時の僕は、自分が化物という事しか考えていなかった。どうやって暮らすとか仕事とかそっちのけで、僕がこの世界にいてもいい存在なのかを考えていた。

次の日の朝、僕は真実を伝える事を決心した。たとえ、美優達を失っても本当の事を伝えるべきなのだ。
そう、僕の周りに誰もいなくなろうとも。
                      続く……
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