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     第十章

いきなり、叩かれる自分

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 さぁ、今日は誰か来てくれるかな?
というか、来てくれないと僕がちょっと困る。
ちょっとだよ!ほんのちょっとだけ。

コンコンっとドアがなったので「どうぞ」と言って病室に入ってもらった。そこで目にしたものは楓や舞同様暗い顔をした美優だったが何か嫌な予感がしたが気にせずに「こっちに来たら?」と言ってお見舞いに来てくれたみんなの様に接した。

美優は、僕の近くに来た途端にビンタをかました。僕はビックリして動けなかった。
そりゃそうだ。
いきなりビンタをくらったんだから、誰でも動けなくなるだろう。
「アンタねぇ!なに馬鹿なことしてんのよ!」
やっぱり、言われた。
予想はしていたが、まさかビンタしてから怒るとは思っていなかった。
「アンタは、私の気持ち考えた事ある?」
「あるよ」
「じゃあ、今の私の気持ち分かる?」
「僕が、楓を庇ってナイフが刺さり、そのナイフを抜いて投げ返し、死にかけた。その事を怒っているのもあるが、悲しみもある。違う?」
「そう。分かってるじゃない。どうしてあんな事をしたの?」
犯人を逃がすくらいなら、自分の命を捨てる…なんて言ったら怒るな。

今の僕の気持ちは変わらない。
そのまま言った方がいいかな?
「もし、あの時楓じゃなく美優なら僕は同じ事をしたよ」
「どうして?死ぬかもしれないのに?」
「簡単だよ。もう二度と大切な人を失いたくないんだ」
「でも、死んだら大切な人なんて守れないじゃない。私は涼平が死ぬ所なんて見たくない!」
一理あるな。
確かに僕が死んだら元も子もない。
だから、僕が強くならないといけない。
「美優?ちょっとついてきてくれない?」
「別にいいけど?」

言うなら今かな?
みんなを守るために特訓してる事を、誰も死なせない事を。
「着いたよ」
僕はトレーニングルームに美優を連れてきた。
「ここは?」
「短く説明すると、ここの院長が作ったトレーニングルーム。僕は今ここで、トレーニングしてる」
「トレーニング?なんの為に?」
多分、美優はもう気付いてるんだろうな。
でも、あえて聞かないで理由を聞き取る。
美優らしい。
「美優を、みんなを守るために。ダメかな?」
美優は首を横に振って「全然!」と言ってくれた。それも万遍ない笑顔で。

そして、理由を説明した後、トレーニングを始めた。左腕もほとんど治ったので、軽く腕立てをやった。

そんなこんなで、トレーニングに集中してたので時間なんて気にもしなかった。
気が付くと約二時間もやっていて、美優はちょっと嬉しそうにこちらを向いていた。
「そろそろ戻ろうか?美優時間大丈夫?」
「うん!大丈夫だよ」
そうして、病室に戻るまで時間がかかるので美優と喋りながら戻った。
「ねぇ涼平?」
「何?」
「涼平は、舞ちゃんと付き合ってるの?」
「そんなわけないだろ?」
唐突になんて事を聞くんだ。
いやまぁ、抱きしめたことはあるが、不可抗力だし。「だって、涼平のとこの看護師さんが舞ちゃんと抱き合ってたって言ってたから」
あの、看護師!見てたのか!
あれ?そういえば
「美優?いつの間に楓と舞と仲良くなったんだ?」
「あの、花火大会だけど?」
「でも前まで、火花散らしてたじゃないか?舞といつ知り合ったんだ?」
「花火大会の時に、楓ちゃんどっか行ったって言うから探してる内に舞ちゃんも探してるって言ったから、協力しようって事になって連絡先とか交換したんだ」
そういうことだったのか。
女性の関係って言うのは分からないものだな。

病室に着くと、怒った顔で看護師さんがいた。
「高野さん?何処に行ってたんですか?」
「え?トレーニングルームですけど?」
ダメじゃないだろ?美優も一緒だったし
「昨日、トレーニングルームは行ったら駄目って言いましたよねぇ?」
「あれは、看護師さんとじゃなく、お見舞いに来てくれた人なら行ってもいいという意味じゃないんですか?」
「違います!」
嘘だろ…またあの長い説教を聞かされるのか。最悪だ。
「まぁ、今回は許します。どうせ明日退院ですからね」
そっか。明日か。忘れてた。
「良かったね!涼平!」
「うん!」
おほん、と咳払いが聞こえて、看護師さんがちょいちょいと床を指差した。
やっぱり、説教あるんですね。
「美優。今日はありがとう。楽しかったよ」
「?それなら良かった」
僕は、美優に耳打ちした。
今から、あの看護師の説教があるから帰った方がいい。きっと美優も怒られるから。
美優は理解したらしく、頷いて荷物を持って帰った。
良かった。
それから僕は、約三時間のお説教をもらって一日が終わった。     続く…
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