不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第四章 波乱の学園生活

80 ノルンの苦悩

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王宮にジークハルトを連れて帰り、奥の間の空いている部屋に寝かせる。
ジェン公も泊まることになったので、ノルンとマールが大急ぎで準備してくれた。
僕は、陛下達が打ち合わせなどをしている間に、食事や入浴を終わらせてジークハルト付き添いのために彼の部屋に入る。
ノルンが、ずっとジークハルトの世話をしてくれていた。
ノルンはまだ、食事も入浴もできていない。
世話を交代するつもりだったからだ。

部屋は明かりを落とされていて月明かりが部屋を明るくしている。
見慣れた部屋であるはずなのに。
やけに神秘的に感じる。
月に魔力があるなんて昔誰かが言ってきたように思うけれど。
本当にそうだなとぼんやりと思う。

部屋の中には大きなベットが一つ。
月明かりが、ジークハルトと付き添っていたノルンを照らしていた。
ノルンの優しくジークハルトを見守る表情が月明かりに陰影を深く刻まれてとても慈愛に満ちて見えた。

聖者ってノルンみたいなことを言うのだろうなと思う。

そもそもこの世界の聖者は、教会が定めて聖者と呼ばれる。
能力的には僕に聖者の力があっても、僕は聖者にはなれないしならない。
別にリオンが聖者で試練をしてくれるならそれでいいと思ってしまう。
僕としては、普通にはやくに死なないで普通に生きて、皆で老後にお茶でものみつつまったりしたいだけだ。
俗物の僕が聖者なんて笑える話ではないか。
そう思う。
聖者というのはもっときれいなものを言うだろうに。

「ラスティ様?」

部屋に入ってからぼんやりと立ち尽くしていた僕にノルンが首をかしげた。

「うん、ジークハルトの様子を見に来たんだ。」

ノルンは、ええと頷いてどうぞと場所を譲ってくれた。
僕は遠慮なくノルンが座っていた椅子に座る。

「僕がジークハルトを見ておくから、ノルンも自分のことを終わらせて。」

忙しく走り回っていたノルンは、まだ食事すらしていないのだから。
僕がそう言うとノルンは曖昧に笑った。
ジークハルトの服を寝巻に着替えさせて、体も拭って終わらせてしまっている。
僕が、やれそうなことは終わっているなぁと苦笑する。

「ですが…」

ノルンも心配なのだろうなと僕が思っているとノルンは顔を曇らせた。

「傍にいたのに…ジークハルト様へのリノの悪意を気が付きませんでした…。従者として気を配らねばならないことだったのに。僕がお仕えっしているのはラスティ様です。けれど王家に仕える者としてはジークハルト様を守る立場なのにそれが出来ませんでした…。お叱りを受けるのが当然なのです…でも、皆様は何も言いません。それが…僕は…辛いです。せめて、ジークハルト様が元気になられるまでお世話がしたい…。」

僕は、目を丸くする。
ノルンは責任を感じているようだ。

「……」

なんといってわからなくなった。
軽く考えていたなと反省する。
自分の立場をだ。
王子という立場を改めて思い知らされる。
以前の生で、僕という王子が死んだことによって皆、運命を狂わされた。
おそらく…僕の知らないところでノルンのような従者や使用人たちも狂わされていたのだろう。

「ラスティ様?」

ノルンは僕を覗き込んで心配そうな表情を浮かべている。
以前の生のことで今の人たちを不安にさせるのは違うなと僕はノルンに微笑む。

「ノルンにそんな悲しい表情をさせないように僕も気を付けようと思っただけだよ。」

ノルンは目を丸くした。

「王妃とか王子とか…僕があまり立場が分かってなかったんだなって少し思い知った。ジークハルトや僕の命は自分だけのためのものでは…無いんだなって。ノルンやマールのためにも、危ないことはしないようにしないとなって、そう思ったんだ。」

ノルンは、少し困ったように苦笑した。

「僕…私達だけではないです…料理長に庭師たちも…いいえ騎士団もそうです。王子や王妃…もちろん陛下も…ご自身だけでなく多くの人たちの思いを背負っておられます。」

そうだねと頷く。

「知識ではわかっていたつもりでも…ジークハルトがこうなって実感したよ。だから…ノルンの言っていることはよくわかる。だから、ジークハルトがここにいる間はノルン、よろしくね。」

はいとノルンは微笑んだ。

「うん。でもそれなら余計にまずは食事とお風呂で清潔にしないとね。ジークハルトの世話は長期戦だよ。早く帰ってきてね?」

ノルンは、そうですねと微笑むと少しの間お願いしますと言って部屋を出た。
僕は、眠るジークハルトの顔を覗き込む。
気持ちよさそうに眠っているように思う。

「ふふ…僕だけではないみたいだね。」

僕はジークハルトに微笑む。
ジークハルトを守ろうとしているのは僕だけではない。
きっとみんな待っている。

「絶対に、ジークハルトを元に戻すよ。」

後遺症なんかなくなるように。
僕は、陛下達の訓練を頑張ろうと強く思ったのだ。
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