不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

159 迷い ディオスside

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膨れ上がる殺気を竜は受け、頭をディオスに向ける。
竜の瞳は、静かな湖のように凪いでいた。

『怒りの先が欲しいか?王よ。我の命を主にささげて王の気が済むならばくれてやろう。長く生きて生には飽きた。王が後悔せぬならばそれも良い。願いはあるが…それも…まぁよい…』

戦意を無くした竜は、首を下げたまま動かない。

殺すならば殺せ。

そう竜は言っているようだった。
ディオスは、音がなる程一度歯を食いしばった。

この竜を殺しても、すでに奪われたあとだ。

この竜は、アスが昔、死ぬ前から彼を守っていたものなのだろうとディオスは怒りを身の内にねじ込む。
竜の思惑通りに動くことは不快ではあるが、そんなことよりもやることだがある。

自分がすることは戦意を無くした竜を殺すことではない。

状況を確認して、あの魔石を使ってアスに人の形を与えればいい。
アスの気配は魔石から感じる。

ディオスは竜を睨む。

竜から目は離さない。
そんなことをしなくとも大丈夫だろうとは思うが、ディオスの背に守るべきものいる。

守るべき愛しきもの。

ラスティは無事だと確信はあった。
だが、とディオスは、燻る怒りを抑えつつ最も信頼を置く男の名を呼ぶ。

「バルハルト!!」

ディオスの声に、バルハルトの焦った声が応えた。

「…ラスティは無事だ…ラスティが眠っているのはわかる…だが…あの子が…アスが感じられん!!!」

ディオスの予想通りの言葉だった。
だが、バルハルトとマールに魔石からアスの気配を感じ取れないらしい。

最初は、不信に思っていたはずの二人も今はアスのことが可愛いと思っているのだろうとディオスは思う。

アスの気配をラスティから感じられないか魔法を使って探しているようだ。
魔石からアスを感じられない2人にはただアスが消えたという感覚なのだろう。

マールは泣きながら魔法を使っているようだった。
小さく、嘘だと、嫌だとマールの声が聞こえる。
アスの気配をラスティの体のどこかに無いかいまだに必死に探しているのだ。

「マール…俺がやるからお前は…」

多少回復した魔力で無理をしているのをバルハルトが止めているがマールがもう少しと言っているのが聞こえた。

「だって…アスの…アス様がいないんです…あんなに無垢な…まだ…だって…」

アス自身は長くラスティに育てられた人格なので、大人のつもりだろうが彼の出来たばかりの魂は無垢だった。
そもそも彼の世界は狭い。
知識はあるのだろうというのはわかるのだが、何せ純粋培養の中のラスティの中で育ったのだ。
マールにとっては、アスは背伸びしている無垢な子供と認識しているのだろう。
あの子の出来上がったばかりの魂に触れたのだから仕方の無い事だ。
優しいマールは、小さな子が竜に消されたと思っている。

ーラスティが育てただけある…人の体を得たら…大変なことになるだろうな。ー

ラスティの一番の才能は人に愛されることだろうとディオスは考えていた。
おそらくアスも同じで彼を害そうなどと考えるのは難しい。
アスの魂がここにとどまっている時間を考えつつ竜に問う。

ー数時間は持つか…魔術をかけるのは一回限りだな…ー

情報が欲しかった。
ディオスは頭の中で魔術の構築を一から始める。
疑似人格と魔石を結び付ける魔法構造ではなく、魔法生物の復活の魔法に置きかえる。

だが、アスは魔法生物ではない。
似た魔法生物に似た構造ではあるが、根本的に異なるものだ。

似ているが真逆な者だったのだ。
この魔法構造で問題ないかとディオスは不安を感じる。

ー魔法生物だと思ったまま使っていたら失敗していたからなぁ…ー

寸前でも情報を得られて助かったと思う。

ーリオンは…やはり四番目の子どもの使徒として利用されているのかー

アスの正体を誤認するようにリオンは動いていた。
彼には全くそのつもりはないだろう。
矛盾は感じなかったからディオスも気が付かなかった。

ーリオンの言動に注意しなければ…ー

ディオスは一旦アスの情報を白紙にする。
竜の情報を正しいと信じるのも少し抵抗がある。

ー難しく考えずに、あの魔石とあの魂を結び付けることだけを考えればいいー

竜は、ディオスの心の内を感じているのだろう。
だまって、見守っているようだがディオスの周りの空気が変わった。
竜が力を使ったのだ。

ーこいつ…俺とアスの魂を結んだな…ー

竜は、ディオスの魂とアスの魂に縁を結んだのだ。
アスのことが感覚的に良くわかるようにという配慮だろう。
竜からみれば王には番がいるから主は子供の位置だという感覚で軽く子供として縁を結んだようだ。
元々アスは子供としての認識があったディオスだが、アスが自分の子供だという感情を増幅されたようにも感じる。

ーいや…ちょっとこれまずい…まずいって…ー

愛が重いとバルハルトやジェンに引かれているとディオスには自覚があった。
妻に対しての事だけかと思っていたが、子供にも重いらしいとディオスは思う。

ー縁を外そうと思ったら外せるけど…外したくないと思う俺が異常だよねぇー

竜の生み出した縁を受け入れることを選んだディオスは、竜を見上げる。

ー今更だし…自分も魔術の構成の中に居れようとは思っていたからなぁー

ディオスもアスの肉体に自分との縁を組み込むつもりだった。
裏切り防止と言う理由で、そのことをバルハルトやジェンに伝えてアスをうまく引き取れるようにするためだ。
だから、今更の事でもあるしと、竜が生み出した縁も魔術の構成につかう。
縁があれば、術者のディオスとのつながっているということで少しだけ難易度が下がる。

アスをここにとどめるために、なんでもいいから情報が欲しい。
竜の力添えのおかげで、あと少しの決め手でいけるはずとディオスは感じる。
情報を得るために竜に気になったことを聞くことにした。

「…聖者が 奪ったとは…」

ディオスの繰り返しの生も含めて記録を探しても聖者が、ラスティに施したのは疑似人格用の魔法陣だけだ。
やったとしたら魔法陣に手を加えた聖者の神でる四番目の子どもだろう。
聖者は何もしていないはずだ。
ディオスの思考を読み取ったのか、竜はふむと頷く。

『ここは主の世界。お前たちの世界とは異なる。上の神の欠片に荒らされた世界ではお前たちも影響を受けて矛盾を抱えて過ごしているようだな…』

竜は、魔法の構築がおわるまで昔話をしてやろうと頷いた。


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