不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

161 昔話 ディオスside

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竜が突然光ったかと思うと、人が抱えられる程度の大きさに縮んだ。
ディオスは目を丸くする。

「ふむ…ここまで存在を凝縮すれば、王の縁者達にも声が届くか?」

竜の声が空間に響く。
脅威が感じられない愛らしいともいえるその姿にディオスは目を丸くする。
注意深く小型の竜、瞳がくりくりとして愛らしくなった竜を観察する。

「安心せよ。この姿の我には戦えぬ。精々焚火に火をつけれる程度だ。」

竜は口を開くと火を噴いた。
その火は、小さく確かに焚火に火がつけれれば良いというほどの小さなものだった。

「人を恐れさせないにはこの姿が良いのだろう?我の幼体の時の姿でな…。主に気に入られたのはこの姿であった。主は可愛いものが好きだといった。我としては…このような矮小な姿は情けないとは思うのだが…この方が親しみやすいのだと主が言っていた。王もそうか?」

ディオスはそうだなと頷く。
竜はそうかと満足げに目を細める。

「やはり主は正しい。」

ディオスは、この竜はもしかしたら主以外とはあまり接していないのだろうかと思う。
戦う意思のない竜に警戒しても仕方ないとディオスは警戒を解いた。

「では…主のためだ…我が見てきた昔話を教えよう。」

ディオスは、バルハルトとマールの方に顔を向ける。
ラスティを抱えて2人は口を開けていた。
竜は、よいか?と首をかしげると昔話を始めた。

「元々この世界には五人の神の欠片がいる。一人は天の欠片。天の欠片は、五人の中で二番目に力を持つ欠片だ。二番目の力だが、欠片たちの王であった。この天の欠片は、世界全てを支えているため天から動けない。天の欠片がお前たちの言う一番目の子どもだろう。その次が二番目の子どもとお前たちが呼ぶ、星の欠片。元々はこの世界の神としてこの世界に降り立った。この世界に生命を生み出すために降りた欠片だ。」

竜は、少し思い出すようなそぶりを見せる。
ディオスがどうした?と促す。

「うむ…人の言葉に我の言葉を変換するのに少し時間がかかるのだ。あまり使ったことがないのでな。」

すまぬなと竜はディオスに言うとゆっくりと言葉を探しながら話し始めた。

「星の欠片を補助としていたのが、四番目の子どもと呼ばれている陽の欠片と五番目の子どもと呼ばれる陰の欠片。星の欠片は、陽に地上を、地下を陰に任せた。地上には人を地下には竜を生み出した。地下にいる竜は人が生み出す負の感情から生まれる魔物を食らうために生み出されたものだ。竜は負を食うが限界がある。限界を迎えた竜を殺すために組織されたのが、お前たちの言う教会という組織だ。教会はそれゆえ、力を求める。」

竜は、ぺたんと座り込むとディオスを見上げる。
どうやら座れと言いたいようだと竜の大きな目を見てディオスは少し悩む。

ー何なのかなぁ…上目づかいで竜のくせに可愛い顔して見上げてくるんだが…ー

ディオスは、少し考えて竜の前に胡坐をかいた。
竜は、うむと偉そうに頷くと話しを続ける。

「人は育つと争いを始めた。星と陽の欠片は、人が争い始めると地上を焼き払い最初から始めるやり直す。陰の欠片は地下で世界を支えながら竜とのんびりと暮らしていた。頭を痛めたのは、天の欠片だ。星と陽はやりすぎ、陰は暢気と、好き勝手やっている他の欠片を何とかしようと、自分の補助をしていたお前たちの言う三番目の欠片…属性が決まらぬ全能の欠片…名がない欠片…力は一番あるのだが、力の方向性が決まらぬ欠片……そうだな…王の欠片と呼ぶか…その王の欠片をあるものを持たせて他の欠片たちの元へと送った。」

御伽噺に似ているが、とディオスが思っているとディオスの考えを読んだ竜はうむと頷く。

「陽の欠片が流している話よりは、王の欠片の一族が伝えている話の方が近いだろうな。さて…続きだが」

竜は長く話すと疲れるのぉと首を左右に振ってから話を続ける。

「王の欠片が持たされていたのは天に欠片のまま帰れる証だった。天に帰るには、一度死んで帰るか、世界が終わって帰るか…世界を安定させて帰るかという方法だ。一度死ぬと欠片と言えど最初からやり直しになる。多少の記録は残るが、な。帰還の証は無条件で帰れるもの。王の欠片は、その一つを星の欠片に渡した。もう一つを陰の欠片に渡した。星の欠片には、星の欠片と陽の欠片で話し合ってどちらが帰るか決めるように言った。陰の欠片には自分が変わるから帰還するように言った。」

バルハルトが危険が無いと思ったのだろう。
ディオスの横に来て座った。
腕にはラスティを抱えていたが、座っているディオスにラスティを渡してくる。
ディオスは、ラスティの様子を確認して熟睡しているだけだと確認してほっと息を吐いた。
後ろにマールも座って大人しくしている。
ディオスがラスティを撫でているのを緊張感が無いのぉと竜がため息をついたが、まぁいいと頷いた。

「星の欠片は、陽の欠片と話し合うこともせずに天に帰った。陽の欠片に無断でな。そもそもここの世界は星の欠片が神の世界。星の欠片が陽の欠片に世界を統べる力を渡さずに帰ったことで、世界は天と離れた。天の欠片はこの世界の様子がわからなくなった。証を使うか、死ぬか、世界が終わらねば陽と陰は帰れなくなった。」

竜はそこで自分の後ろの魔石に目を向けた。

「王の欠片は、星の欠片の暴挙を知り陽の欠片に会いに地上に向かうことにした。陰の欠片は、陽の欠片に証を渡して自分がこの世界を何とかしようと考えた。王の欠片にそのことを伝えたが、王の欠片は陽の欠片の話も聞くという。その後にもう一度話し合う予定にしていたのだが…」

竜は悲し気に魔石を見つめている。

「陽の欠片は陰の欠片の証を奪うために稀人の魂を呼び寄せ…陰の欠片を殺して証を奪わせようとしたのだ。この世界の魂には、神の欠片は傷つけれぬ。異界の魂ならば神の欠片を殺せるとな。王の欠片が陽の欠片と話し合っている最中に稀人は陰の欠片の前に現れた。陰の欠片は、陽の欠片が自分を殺そうとしたことに絶望して、抵抗することなく稀人によって殺された。稀人は聖者と呼ばれるようになった。」

ディオスは、眉を寄せる。

「証を奪ったのだろう?…陽の欠片は何故天に帰らなかった?」

竜は、ディオス達に目を向けるとため息をついた。

「証がそもそも、そう作られていたからだ。一つは星と陽のためのもの。もう一つは陰のもの。王の欠片は、使いのため証は必要ない。帰ろうとすれば帰れる立場だった。天の欠片は、星か陽にこの世界を任せようとしていたのだ。王の欠片は、残る方の補助のために…陰の欠片が育てた…主を失う竜たちのために、しばらくの間、この世界にとどまるつもりだっただけだった。」

バルハルトは、ディオスを見る。

「竜よ…聞いてもいいだろうか?」

バルハルトの問いに竜は頷く。

「王の欠片は天に帰れたはずだろう…なぜ、帰らなかった」

竜は、頷く。

「陽の欠片は王の欠片と話し合っている時に…証が自分には役に立たないということを知った。証が自分にとっての役に立たないもので、無駄に陰の欠片を殺したことに。王の欠片が知ればどれだけ罰せられるか。天の欠片に知られれば、陽の欠片は消滅させられるだろう。陽の欠片はそれを恐れ、天の欠片が、この世界を見えぬことをいいことに、王の欠片に毒飲ませて殺してしまった。」

竜は、魔石を再び見るとため息をついた。

「陽の欠片は、陰の欠片の力の源を聖者に封じた…天に陰の欠片が帰れぬように、聖者に試練を課しその試練が終わりまで聖者を地に縛り付けたのだ。聖者が天に帰れねば陰の欠片も天に帰らぬ。その試練を果たさねば世界が繰り返し壊れては作り直されるようにして、世界が終わりを早め、自分は安全な場所で眠りについた。王の欠片と陰の欠片が天に帰らねば、天の欠片が己のやったことをとがめることができないと思っているからな。王の欠片と陰の欠片は生まれ変われば記憶はなくなる。陰の欠片の帰還の証がどうなったかは………我からは言えぬ……」

ディオスは眉を寄せる。
竜は嘘が付けない種族だという。
そのため力を認めたモノには真実の助言をする。
竜のいう事は真実なのだろう。


だが…まだ何か、足りない…何か違和感を感じていた。

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