お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
51 / 164

第二十話②『第二の復讐』

しおりを挟む


野薔薇内のばらうち蘭乃らんの様。わたくしアレとはもう一切の関わりがありませんの」

「アレって何よ……!?」

竜脳寺りゅうのうじ外理がいすけですの。言わせないで頂戴な」

 形南あれなは野薔薇内を見下ろしながら言葉を放つ。

 彼女の声色は透き通るように美しいものであるがゆえに、冷たい声がまた彼女の高貴さを強調させている。

「ハッそんな嘘は信じな……!!!?」

 途端に形南は一枚の写真を野薔薇内の目の前に突き出す。その写真は数年前に撮られたものと思われるまだ幼い形南と竜脳寺のツーショットだった。

 突然差し出されたその写真に野薔薇内は目を見張った。

「いい事? わたくしはあのようなモノ、とっくに必要ないんですの。私には今、他に思いを馳せている殿方がいますのよ」

 そう告げると形南はその写真を野薔薇内の前でゆっくりと引き裂きビリビリと破き始める。

 小刻みに切り離された紙の破片は、野薔薇内の頭からはらはらと降り注がれていく。

「ああ、それから」

 形南は思い出したように野薔薇内の方をもう一度見る。

「盗ったのはわたくしではなく貴女。現実から目を逸らされるのは迷惑でなりませんの」

 形南の言葉に野薔薇内は何も言い返す事ができない。歯を食いしばり、悔しそうに顔を歪め、床だけを見つめている。

「行きましょう」

 形南は嶺歌れか兜悟朗とうごろうに声を掛けるとそのまま足を動かす。もう野薔薇内に復讐を果たせたのだと、形南はそう告げているのだ。

 本来であれば土下座をさせたいところであったが、形南がこれでいいと言うのならそれでいい。

 嶺歌はもう一度だけ野薔薇内に一瞥をくれてやるとそのまま足を進めた。

「……待ちなさいよ」

 すると扉の方まで歩いたところで野薔薇内の声が部屋中に響く。

 彼女はまだ何か言いたげであり、嶺歌たちが振り向くと地べたに未だ足を預けたまま野薔薇内は顔を上げてこう放った。

「高円寺院家が浮気の腹いせに復讐だなんて笑わせるじゃない!!! いいの!!? たかが浮気如きで、復讐をするような財閥なんだって後ろ指さされるわよっ!?!?!? 世間の目を気にするほど大きな財閥である高円寺院家サマの誇りとやらはどうでもいいのかしらっっ!!!?」

「あら」

 扉の外まで出ていた形南あれなはそう口にするとゆっくり野薔薇内のばらうちの方へ歩み寄る。

 そうして見上げて睨みつけてくる野薔薇内を見下ろしながら言葉を続けた。

「脅しているおつもり? 貴女はそれでわたくしが動揺するとお思いなの?」

 形南の表情は冷酷なお嬢様を思わせるそんな雰囲気を醸し出している。

「貴女には謝罪を求めてなどいなかったのですけれど、悠長なことは言ってられませんわね」

 形南はそう言うと野薔薇内に足を出した。そうして強い声音で、言葉を放つ。

「お舐めなさいな」

「……はあ?」

 野薔薇内に華奢な足を出した形南は彼女を冷酷な眼差しで見下ろしながらそう言葉を繰り出す。

 しかし野薔薇内はそんな形南の表情に畏怖の色を見せながらも、抵抗の声を上げた。

「ばっかじゃないの……そんなの………するわけないじゃない」

 きったないと言いながら片手で払い除けようとする野薔薇内の手を、形南の脚が踏み潰す。

「いだッ!!!!」

「聞こえませんでしたの?」

 形南の足は野薔薇内の手を踏んだまま動かない。野薔薇内は涙目になりながらうめいている。どうやら力を入れて彼女の手を踏んでいるようだ。

「貴女、随分と図が高いのではなくて? 事を荒立てなかったのはわたくしからの慈悲でしたのに」

 そう言って形南は一度足を上げると再び彼女の手を踏みつけた。

「そこまで反省なさらないのなら、もう貴女の手は踏み潰してしまいますわね」

「あああ頭イカれてんじゃこのクソアマッッッ!!!」

「あら」

 形南はそう口にすると野薔薇内の髪を無造作に掴み持ち上げる。

「それとも御髪が抜ける方が宜しいですの?」

 無遠慮に躊躇いなくグッと髪の毛が持ち上げられた野薔薇内は目を見開き「いッ!!!」と言う言葉と共に更に涙を浮かべ始める。

「いだいいだい……いやっやめっ……」

「いやですわ。貴女がわたくしをこのようにさせていますというのに」

 このような事をしていても、形南の高貴さは失われていなかった。それは決して嶺歌れかの贔屓目ではなく、形南はこのような状況でも驚くほどに冷静的で、一切感情を乗せていないからだった。

 感情的に反抗する野薔薇内とは対照的に形南が感情的に彼女を痛めつける事はしていない。

 形南は野薔薇内が反省の色を見せたらすぐに、彼女への危害を止めるのだろうと嶺歌はこの光景を見て理解していた。

「このように他者を痛めつけるなど、財閥の娘としてあるまじき事。そう思いますわよね」

 形南はそう告げながら野薔薇の髪を引っ張り上げていく。

「ですが貴女のように身の程を弁えないお方にどちらが上なのか、知って頂かない事にはこのように行う他ありません」

「いたいっ……おねが………」

「お分かり頂けます? 貴女は高円寺院形南に喧嘩を売られておりますのよ。わたくしはそれを買っているだけ。貴女が謝罪をなさらない事には、私のこの手も止まる事を知りませんの」

 形南は髪を引き離そうと躍起になる野薔薇内に厳然としたまま髪を引っ張り上げ続ける。抵抗する野薔薇内にも形南はビクともしなかった。

「貴女が謝罪なさるまでわたくし、手をお止めしませんのよ? お恥ずかしながら筋力には自信がありますの。野薔薇内様、わたくしいつ迄もお相手いたしますわ」

 形南の笑っていない瞳が野薔薇内の瞳孔を激しく揺らした。野薔薇内は蒼白した顔を一瞬にして顔に出すと「しゃ、しゃ謝罪いたします……」と力なく声にした。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...