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第十一章 天下平定
第57話 ヤマト平定
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「磐余彦さまである!」
衛兵の掛け声を合図に、王宮に居並ぶヤマトの群臣たちは一斉に蹲った。
「どんな田舎者が来るのやら」
「きっと獣臭い若造だろう」
そう陰口を叩いていた群臣たちも、引き締まった身体に整った顔立ちの貴公子然とした姿に嘆息を漏らした。
「皆と力を合わせ、倭国を千年、二千年と続く豊かな国にしていきたいと思う。皆の力を貸してほしい」
磐余彦が朝堂に響き渡る声で力強く宣言した。
涼やかな目をしているが、時折放つ光は尋常ではない力強さを秘めている。射竦められた者は震えた。
日向から来た若者を新たな王として迎えたことで、百年余に亘って続いた王朝は静かに幕を閉じた。
終戦ののちも、磐余彦は諸将に命じて兵の訓練を続けた。
ヤマト兵を併合した軍の総指揮は、新将軍に任じられた道臣が執った。
ヤマト本国が降伏したとはいえ、いまだ四方に敵が存在していた。
来目をはじめ諸将も、未だ抵抗を続ける勢力との戦いに忙しい日々を送っていた。
波哆丘岬(奈良市赤膚町)には新城戸畔という手強い女族長がいたが、これを攻めて滅ぼした。
また和珥(天理市)の坂下に居勢祝、臍見長柄(御所市)の丘岬には猪祝という豪族がいたが、従わなかったのでこれも攻め滅ぼした。
高尾張邑の土蜘蛛は、葛の網を仕掛けて捕らえた。これにちなみ村名を葛城と改めた。
ほかにもさまざまな戦いに明け暮れたのち、ヤマトとその周辺はついに平定された。
それを祝って天香具山の土を取って平瓦を作り、磐余彦が自ら斎戒して神々を祀った。
この土を取った場所は埴安と名付けられた。
椎根津彦はヤマトの豪族たちの中で、これはと思う人物を身分に拘わらず選び、新しい体制を構築する準備に余念がない。
都の建設、軍の編成、食糧や物資の安定供給など、やらねばならないことは山ほどある。
来目や隼手、弟猾、弟磯城、八咫烏らも、それぞれの役目を果たすべく懸命に働いている。
そんな折、玄狐が死んだとの報せが届いた。
来目によれば、玄狐はニギハヤヒの館を訪れた直後に行方知れずになったという。
従者の話では、不意に野盗の集団に襲われ、攫われたとのことだった。
三日後に発見された時には、市中を流れる小川の中に首を突っ込んで息絶えていた。
亡骸は体中傷だらけで、致命傷は鈍器――石椎のようなもの――で頭を殴られて殺害されたとのことだった。
「どうせ誰かに恨みを買ったんでしょう」
来目が表情を変えずに磐余彦に報告した。
衛兵の掛け声を合図に、王宮に居並ぶヤマトの群臣たちは一斉に蹲った。
「どんな田舎者が来るのやら」
「きっと獣臭い若造だろう」
そう陰口を叩いていた群臣たちも、引き締まった身体に整った顔立ちの貴公子然とした姿に嘆息を漏らした。
「皆と力を合わせ、倭国を千年、二千年と続く豊かな国にしていきたいと思う。皆の力を貸してほしい」
磐余彦が朝堂に響き渡る声で力強く宣言した。
涼やかな目をしているが、時折放つ光は尋常ではない力強さを秘めている。射竦められた者は震えた。
日向から来た若者を新たな王として迎えたことで、百年余に亘って続いた王朝は静かに幕を閉じた。
終戦ののちも、磐余彦は諸将に命じて兵の訓練を続けた。
ヤマト兵を併合した軍の総指揮は、新将軍に任じられた道臣が執った。
ヤマト本国が降伏したとはいえ、いまだ四方に敵が存在していた。
来目をはじめ諸将も、未だ抵抗を続ける勢力との戦いに忙しい日々を送っていた。
波哆丘岬(奈良市赤膚町)には新城戸畔という手強い女族長がいたが、これを攻めて滅ぼした。
また和珥(天理市)の坂下に居勢祝、臍見長柄(御所市)の丘岬には猪祝という豪族がいたが、従わなかったのでこれも攻め滅ぼした。
高尾張邑の土蜘蛛は、葛の網を仕掛けて捕らえた。これにちなみ村名を葛城と改めた。
ほかにもさまざまな戦いに明け暮れたのち、ヤマトとその周辺はついに平定された。
それを祝って天香具山の土を取って平瓦を作り、磐余彦が自ら斎戒して神々を祀った。
この土を取った場所は埴安と名付けられた。
椎根津彦はヤマトの豪族たちの中で、これはと思う人物を身分に拘わらず選び、新しい体制を構築する準備に余念がない。
都の建設、軍の編成、食糧や物資の安定供給など、やらねばならないことは山ほどある。
来目や隼手、弟猾、弟磯城、八咫烏らも、それぞれの役目を果たすべく懸命に働いている。
そんな折、玄狐が死んだとの報せが届いた。
来目によれば、玄狐はニギハヤヒの館を訪れた直後に行方知れずになったという。
従者の話では、不意に野盗の集団に襲われ、攫われたとのことだった。
三日後に発見された時には、市中を流れる小川の中に首を突っ込んで息絶えていた。
亡骸は体中傷だらけで、致命傷は鈍器――石椎のようなもの――で頭を殴られて殺害されたとのことだった。
「どうせ誰かに恨みを買ったんでしょう」
来目が表情を変えずに磐余彦に報告した。
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