ふしだらな聖女と追放されて殺されたけどあたしのかわいい王子の為にもう一度やり直します

33

　兄様達の所へ行ってルイスが話したいって伝えた。
　あたしは一人で少し離れた木の影に腰をおろした。ここならエディ達の姿は目に入らない。
「サラ、あの…少しいいかな？」
　アーサー様だ。
「はい。」
「バネッサの事、なんとお礼を言っていいか。
　ありがとう。」
「いいえ、どうか内密にして下さい。」
「ああ、勿論だ。」
　アーサー様はバネッサとはあまり似ていない。
　アッシュブラウンの髪に黒い瞳で精悍な顔立ちをしている。すごく背が高くて逞しい。
「秘密にしなくてはならないから、なかなか礼を言えなくて遅くなってしまった。
　私は何のお返しも出来ないがこの恩は忘れない。
　困った事があれば、私が出来る事ならなんでもしよう。」
「ありがとうございます。」
「それと…だな。
　あー…今晩のパーティーなのだが…。」
　今晩は近隣の貴族を招いてのパーティーがある。
「良かったエスコートさせてもらえないだろうか？」
　あたしを誘ってるの？
　確かにあたし、兄様以外にエスコートしてくれる人いない。誘われたこともない。
　そうだ、あたしも別の恋を探してみたっていいかもしれない。
「は…。」
「何の話をしているのだ？」
　兄様？
「ルイスとは？」
「大した話しでは無かったよ。」
　いやいや、内容なんか関係無いから！
「それよりエスコートがどうとか？」
　アーサー様はちょっと照れたふうに、
「ああ、サミュエルの許しをもらってからのほうがよかっ…」
「駄目だ。」
　食いぎみかよ。
「サラ、不用意に男性と二人きりになってはいけないよ。」
　兄様は本当に過保護だな。
　アーサー様は、呆れたように、
「おい、俺はそんなに信用無いか？」
「無い。たった今無くした。」
「おいー、それでも友だちか？」
　もう一人ミハイル様も加わって、
「わー儚い友情だな。じゃあ、僕がサラちゃんを誘ってもいい？」
　ミハイル様はルイスとよく似ていて、金髪のゆるい癖毛でセクシーなタレ目に涙黒子がある。すごく女性にもてて色んな噂が絶えなくて、嫌気がさした婚約者には捨てられたって話しも聞いた。
「お前の信用はもとから無い。微塵も無いからサラには近づくな！」
　こんな事言っているけど、三人はとても仲が良さそう。
　結局、パーティーのエスコートは兄様。
　ルイスは気を悪くしたみたい。
　あれからクローディア様やヴァイオレットの近くにいるようになってしまった。
　そしてクローディア様に何か言ったのか兄様はクローディア様に呼ばれて王様をはじめ王族の方々に囲まれてしまって戻っては来なかった。
　あたしは一人…でもなかった。
　バネッサはもちろんまだその王族の輪の中には入れてもらえない。
　相変わらずあたしには優しい。
　あたしも醜い嫉妬が漏れ出さないように気をつけた。
　アーサー様は兄様にあんな事言われたけど、めげずにダンスに誘ってくれた。
　正装したアーサー様はなんだかとてもステキに見えた。背が高くて胸板が厚くてとっても男らしい。髪もきちっとセットしてるからかな。兄様やエディと同じ歳なのに大人っぽい。
　思えばあたしは今までエディしか見えて無かった。世の中には他にもステキな人はいっぱいいるじゃない。
　あ…エディがバネッサを誘った。
　ダメだなぁ…つい、目で追ってしまう。
　もうこんな事はやめないといけないのに。
「あの…間違っていたなら申し訳ないが。
　君はエドウィン殿下の事を…。」
　アーサー様が気付いてしまった？
　カッと頬が熱くなるのがわかる。
「な、な、な、何？なんの事？」
「その…お慕いして…。」
「言わないで！絶対！誰にもっ！バネッサにも！」
「しかし、そんな…君はバネッサの恩人じゃないか？そんな恩知らずな事。」
「そんな事バネッサは知らないわ。
　いいこと！あなたに出来る事ならなんでもするって言ったわよね？絶対よ、絶対バネッサに言っちゃダメなんだからね！
　言ったらもう、もうっ、えーと…もーっ、兄様にこらしめてもらうんだから！」
　もーっ！なんでバレちゃうんだろ？
「あ、ああ、わかったよ。」
　なんでちょっとニヤついてんの？
　ムカつく、ちょっとカッコいいなんて思ったの取り消しよ！