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  リュドヴィック・ブランシェール侯爵視点

 いつからだろう、この国は少し間違った方向に進んでいる。
 十年ほど前までは平民達も世の中は平和で豊になっていると感じていたはずだ。
 私は自分の事で精一杯でその変化に気付くのが遅かった。
 妻を亡くし、息子のサミュエルは重病で私自身も生きる気力をなくしてしまっていた。
 そんな私達父子の前に現れたローズマリーとサラ。二人は私達の救世主だった。
 サラはサミュエルの病を治し、ローズマリーは私の…んんんっ、私の男としての尊厳を取り戻す手助けをしてくれた。もちろん愛している。彼女の静かで深い愛情が私の身も心も癒してくれた。
 私は守るべき家族が出来た。
 おろそかになっていた当主としての責任も果たさなければならない。
 そして省みる。
 世の中は少しおかしくなっていないか?
 少なくともアルテモーゼ侯爵が宰相となる前までは差別や貧富の差を減らそうという風潮だった。もちろん反対派の貴族もいたが、大多数は賛成だったはずだ。
 それが私が世情から遠ざかっていた間に差別意識は高まり、増税により庶民の暮らし向きはさらに苦しくなっていた。
 公共事業により多額の利益を得るのは一部の貴族のみ。
 ブランシェール領では極力中間マージンを得る貴族を減らすことにより、庶民も多少は豊になったように思えるが、その増収も税金で相殺されてしまう。
 年末のパーティーの後、陛下はサラの治療をうけるため別室へ移られた。
 治療が終わるのを待ち、少し話をさせていただく。
 声のトーンを落とし、
「リオネル・ジャン・ガルシアン。
 いつまでもブランシェールが貴様の配下に甘んじていると思うなよ。」
「リュドヴィ~怒るなよ、だってつい最近まで体調不良だったんだよ?」
 上目遣いで小首を傾げ、甘ったれた鼻声で言い訳をする。
 これが我が国王の本性だ。
 今では私の前でだけ晒す事が許される。
「庶民達を甘く見るなよ。
 不満が高まればいつか爆発する。」
「その時の為にブランシェールがいるんだろ?」
「それは最終手段だ、私にガルシアンを討たせるな。」
「わかっている、なんとかしないとなー。」
「お前は相変わらずのんびりしすぎだ。」
「そういうお前はすっかり若い頃に戻ったようだな。
 腑抜けたお前を見るのは辛かったぞ。」
「守るべき者ができたからな。
 リオ、お前も回復して良かった。」
「ああ、全てサラのおかげだ。」
 私達は何十年来の親友だ。
 お互いの役割の為に表向きはガルシアンに従う素振りをしている。
 ガルシアンが国を統治出来ないと判断した時はブランシェールによって正される事になっている。それは遠い祖先が決めた密約だ。
「まったくだ。
 そのサラにお前の息子は何をしてくれたのだ?」
「そんな事言っても誰が誰を好きになるかなんてどうしようもないだろ?」
「それにしたってなるべく傷つけないように出来なかったものか。
 こんなふうには言いたくはないが、サラは国益をもたらす。決して他国へは渡せない存在だ。それがゼネス神教皇国であっても。」
「だからジュリアスはどうかと勧めたのだが、ふられた。」
「なかなか良い子に育ったのにな。
 だが少し小賢しさが感じられる。
 腹のうちはもっと完璧に隠せるようにならねばな。」
「サミュエルは怖いな。リュドヴィより闇を感じるぞ?」
「エドウィンはお前に良く似ているな。」
「そうだろ?私に似てカッコよくてカリスマ性っての?そういうのが…。」
「誉めてないぞ?」
「…。」
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