戦鬼は無理なので

あさいゆめ

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    リタ視点

 マティアス殿下の手首にわたくしの髪色と同じオレンジのリボンを結ぶ。
 日除けだけの天幕、回りからは丸見えなのでざわめきがおこる。
 年頃のご令嬢の突き刺さる視線が痛い。
 アレクシオン様が目を伏せた気がした。
 はっ!お心を痛めていらっしゃるのではないかしら?
 違うの、これは違うの!偽装なのよ。マティアス殿下が想いを寄せていらっしゃるのはあなた様だけです。
 安心して下さい。殿下はこの後きっとアレクシオン様を追いかけて。
 …。

「シオン、違うんだ仕方なかったんだ。」
「いいえ…いいのです。あなたは皇太子、いずれはこうなる事は覚悟しておりました。」
「はっ、ならば何故私を避ける?」
「…離して下さい。」
「だめだ…これは命令だ。私に口づけしろ。」
「…ひどい人ですね。」
「命令だ、離れる事は許さぬ。」 

 ……。
「あー…リタ嬢?そろそろ出立します。」
 はっ!いけない。
 この環境、妄想が止まらないわ。
「お気をつけて、ご武運をお祈り申し上げます。」
 お見送りを済ませれば後は令嬢やお年寄りだけが残りお茶会をしながら狩の成果を待つのだけれど、皆様の視線はわたくしに集中している。
 この場はヴァイオレット夫人に任せて、
「お花摘みに…ほほほ。」
 茂みに隠れてしばらく気配を消そう。
 こういうのは得意なのよね。近くで人間観察をするために鍛えたスキルなのだ。
 そう思っていたのに、男女の気配が近づいてきた。やだわ、逢い引きかしら?事が始まっちゃったらどうしましょう。わくわ…じゃなくてドキドキでもなくて、ハラハラしますわ。
 茂みの下からは二人の足元だけがみえる。
 あれは確か警備兵のブーツ。仕事サボってんじゃないわよ。
 女性の方は誰かの侍女ね。紺色のドレスの裾が少し短いわ。
「回りを囲むよう身を隠して機会を伺うよう待機させております。本当に決行なさいますか?」
「当然よ。結婚して世継ぎでも授かってからでは遅いの。婚約中でも間違いがあるかもしれないから早く始末しなきゃいけないって。」
 何?これ聞いちゃいけないんじゃ?ていうか世継ぎって言ってたよね?殿下のこと?身体が震える。
「もう行って、なるべく人が少なくなったら決行よ。ああ、アンカレナ公爵は恐れる必要は無いわ。聞けば最近やっとナイフが持てるくらいに回復したそう、公爵家も目障りだからついでに始末するようにと仰せよ。」
「わかった。」
 …行った。膝がガクガクだけど知らせなきゃ。
 だけどあれ警備兵だったわ。
 どうしよう?知らせた相手が敵だったら?その場でわたくしも始末されちゃわない?
 殿下達の行くコースはわかってる。
 事故が起こらないようにチーム別にコースが分けられているから。
 そのためには馬よ。いるわ。急に使えなくなった時の為の予備の馬。乗馬習っておいて良かった。
 怖いけど行かなきゃ!
 
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