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16 小さな王様(2)
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ハルトの袖を引っ張り、帰ろうと無言で意思表示をした。
さすがにこの小さな王様の前では助からないなんて言えないから。
だけど、
「聖女様、どうかお待ち下さい。私どもをどうかお助けください。」
ちょっと頭の薄いメガネのおじさんが土下座してる。
さっきから聖女様聖女様言ってるけど、どうやらあたしの事らしい。
「エバンス!恥を知りなさい!宮邸の侍医が庶民上がりの小娘にその様な!」
またあのおばさんがわめく。
「クロッカス夫人どうかお許し下さい、私どもでは王様を根本からお助けするのは無理でございます。今回は良くなったとしても次は…その次は!」
そうだよね、侍医の先生もわかっている。
治癒師にどうしようも出来ない事がある。
欠損部分の再生と寿命。王様はかわいそうだけど寿命なのだ。
「レティシアとやら、命令です。治癒師として王宮にとどまりなさい。」
嫌だって言ってるのに。口きいていいのかな?ハルトの顔を見る。
困ったような悲しいような表情で見つめ返す。きっとハルトも助けて欲しいけど無理な事だとわかっているんだね。
クロッカス夫人とやらに向き直し、はっきりと言った。
「嫌です。侍医の先生に無理な事がこんな小娘に出来るわけないじゃないですか。」
「なっ…無礼な!レオンハルト様の寵があるからと頭に乗りおって!」
うわーおっかないよ。
助けられる方法がまったく無いわけではないんだけど。
「だってひたすら回復かけ続けさせられて王様に万が一の事があったら責任とらされて処刑されるんでしょ?侍医の先生だって死にたくないからあたしに押し付けるんでしょ?」
韓国の時代劇じゃだいたいそうだったもん。
侍医のエバンス先生が泣き崩れる。
「あああ…お許し下さい!私はなんという事を、こんないたいけな少女に…王太后様、どうか私を処罰して下さい!」
どうやらあのおっかないおばさんの後ろの貴婦人が王様のお母様らしいね。この二人の関係性はどうなっているんだろう。
最初は卑しい身分の者とは直接話したくないだけかと思っていたけど、先ほどからどうにも主導権を持ってるのはクロッカス夫人のように見える。
また何か言いそうな夫人を制して、ハルトが口をひらく。
「レティ、何か少しでもいいんだ。可能性があるなら助けて欲しい。もちろん身の安全は私が保証するから。」
あたしだって本当はなんとかしてあげたい。今生でのハルトの唯一の肉親なんだから。
「どこまで出来るかはわからないけど、今のこの環境じゃどうしようもないよ。」
「希望はあるのか?」
皆の表情がぱっと明るくなる。あんまり期待されても困るけど。
「クロッカス夫人、言いたい事はあるだろうがこの子は我々の最後の希望だ。頼むからこの子の思うままにさせてもらえないだろうか?」
回りの皆も頷く。神官達は祈り続けてるし。
「私は王太后様のお言葉をお伝えしているだけです!」
王太后様は何も言ってないけど?テレパシーでも使ってんの?
「このような氏素性も定かでない小娘を信用して万が一の事があれば、どう責任を取るつもりですかレオンハルト様!だいたいあなたが信用ならないのです!」
「もうやめよ!」
沈黙を貫くのかと思っていた王太后様が口をひらいた。
立ち上がり進みよってあたしの手を取り。
「私からも頼む。どうか陛下を助けて欲しい。」
よかった。王太后様が子供に無関心なのではなくて。
「出来る限りお力になりたいと思います。ですが、私は先ほどおっしゃられたように庶民上がりで貴族のしきたりや作法などまったくわかりません。無礼な言動などありましてもお許しいただけますか?」
「許します。皆に申し渡します。この者が王都にいる間は賓客とし、自由に振る舞う事を私が許します。」
どうしてだろう。あたしの手をとる王太后様の手が震えてる。額には冷や汗が。おかげんが悪いわけではなさそうなのに。
「何を勝手な事をっ!」
またクロッカス夫人が大声で、
「王宮の秩序が乱れるではありませんか!」
ああもう、うるさい。
まずこの人をなんとかしなきゃ。
「静かにして下さい。王様には落ち着いた環境が必要です。まずはこの臭くてうるさい侍女を王様の部屋に入れないで下さい。」
ぷっ、と誰かが吹き出したな。
香水が臭いんだよ。トイレの芳香剤のほうがまだまし。
「なんですってぇぇぇ!この私をいったい誰だとぉぉぉ。」
ひぃ~怖い。真っ赤な髪と同じくらい赤くなった顔を醜く歪ませて詰め寄る。
「クロッカス夫人、申しわけ無い。言う通りにして下さい。あなたが一番王様のご回復を願っているのではないのですか!」
ハルトが間に入ってなだめる。
「くっ、覚えておきなさい。王太后様、まいりましょう。さあっ!」
なんで王太后様までつれていくの?
心配そうな目で王様を見つめた後で、
「頼みましたよ。」
そう言ってクロッカス夫人について行く。
ちょっと待って、なんで残りの侍女もみんな出ていくの。
「王様のお世話をする侍女は?」
「専属はいないんだ、後宮はクロッカス夫人が仕切ってて王太后様付きの侍女がお世話していたんだけど。」
ここは城の中の後宮らしい。
後宮は通常、王妃や側室とその子供達が過ごすところで王様には城内に別に寝室がある。
王太后様も離宮に移られるのが通常だが王様がまだ幼いことと病弱なためお二人とも後宮に留まっていらっしゃる。
後宮は女主人が仕切る。王妃様がいないこの後宮では王太后様がトップのはずだけど仕切っているのはクロッカス夫人か。
王様はまだ幼いけれど、専属の侍女もいないなんて。
「まず、王様の専属侍女を早急に手配して下さい。」
侍従長が呼ばれ後宮付きではない侍女を二人と下働きのメイド五人を王様専属にしてもらった。近いうちに従者も選ぶことになる。(余談だが侍従長ステキ50代くらいの黒髪にちょっとメッシュの白髪。)
寝室も王城に移してもらうことになった。
あたしはしばらく王城に留まることになるが貴賓室から後宮は遠く、王様の容態が悪くなった場合すぐに駆け付けることができないからという事で。
そういえば挨拶がまだだった。
「王様、ご挨拶させていただいてよろしいですか?」
「許す。」
習ったばかりのカーテシーとやらをやってみる。
「改めまして。初めまして、王様にご挨拶いたします。レティシア・リノスです。」
さすがにこの小さな王様の前では助からないなんて言えないから。
だけど、
「聖女様、どうかお待ち下さい。私どもをどうかお助けください。」
ちょっと頭の薄いメガネのおじさんが土下座してる。
さっきから聖女様聖女様言ってるけど、どうやらあたしの事らしい。
「エバンス!恥を知りなさい!宮邸の侍医が庶民上がりの小娘にその様な!」
またあのおばさんがわめく。
「クロッカス夫人どうかお許し下さい、私どもでは王様を根本からお助けするのは無理でございます。今回は良くなったとしても次は…その次は!」
そうだよね、侍医の先生もわかっている。
治癒師にどうしようも出来ない事がある。
欠損部分の再生と寿命。王様はかわいそうだけど寿命なのだ。
「レティシアとやら、命令です。治癒師として王宮にとどまりなさい。」
嫌だって言ってるのに。口きいていいのかな?ハルトの顔を見る。
困ったような悲しいような表情で見つめ返す。きっとハルトも助けて欲しいけど無理な事だとわかっているんだね。
クロッカス夫人とやらに向き直し、はっきりと言った。
「嫌です。侍医の先生に無理な事がこんな小娘に出来るわけないじゃないですか。」
「なっ…無礼な!レオンハルト様の寵があるからと頭に乗りおって!」
うわーおっかないよ。
助けられる方法がまったく無いわけではないんだけど。
「だってひたすら回復かけ続けさせられて王様に万が一の事があったら責任とらされて処刑されるんでしょ?侍医の先生だって死にたくないからあたしに押し付けるんでしょ?」
韓国の時代劇じゃだいたいそうだったもん。
侍医のエバンス先生が泣き崩れる。
「あああ…お許し下さい!私はなんという事を、こんないたいけな少女に…王太后様、どうか私を処罰して下さい!」
どうやらあのおっかないおばさんの後ろの貴婦人が王様のお母様らしいね。この二人の関係性はどうなっているんだろう。
最初は卑しい身分の者とは直接話したくないだけかと思っていたけど、先ほどからどうにも主導権を持ってるのはクロッカス夫人のように見える。
また何か言いそうな夫人を制して、ハルトが口をひらく。
「レティ、何か少しでもいいんだ。可能性があるなら助けて欲しい。もちろん身の安全は私が保証するから。」
あたしだって本当はなんとかしてあげたい。今生でのハルトの唯一の肉親なんだから。
「どこまで出来るかはわからないけど、今のこの環境じゃどうしようもないよ。」
「希望はあるのか?」
皆の表情がぱっと明るくなる。あんまり期待されても困るけど。
「クロッカス夫人、言いたい事はあるだろうがこの子は我々の最後の希望だ。頼むからこの子の思うままにさせてもらえないだろうか?」
回りの皆も頷く。神官達は祈り続けてるし。
「私は王太后様のお言葉をお伝えしているだけです!」
王太后様は何も言ってないけど?テレパシーでも使ってんの?
「このような氏素性も定かでない小娘を信用して万が一の事があれば、どう責任を取るつもりですかレオンハルト様!だいたいあなたが信用ならないのです!」
「もうやめよ!」
沈黙を貫くのかと思っていた王太后様が口をひらいた。
立ち上がり進みよってあたしの手を取り。
「私からも頼む。どうか陛下を助けて欲しい。」
よかった。王太后様が子供に無関心なのではなくて。
「出来る限りお力になりたいと思います。ですが、私は先ほどおっしゃられたように庶民上がりで貴族のしきたりや作法などまったくわかりません。無礼な言動などありましてもお許しいただけますか?」
「許します。皆に申し渡します。この者が王都にいる間は賓客とし、自由に振る舞う事を私が許します。」
どうしてだろう。あたしの手をとる王太后様の手が震えてる。額には冷や汗が。おかげんが悪いわけではなさそうなのに。
「何を勝手な事をっ!」
またクロッカス夫人が大声で、
「王宮の秩序が乱れるではありませんか!」
ああもう、うるさい。
まずこの人をなんとかしなきゃ。
「静かにして下さい。王様には落ち着いた環境が必要です。まずはこの臭くてうるさい侍女を王様の部屋に入れないで下さい。」
ぷっ、と誰かが吹き出したな。
香水が臭いんだよ。トイレの芳香剤のほうがまだまし。
「なんですってぇぇぇ!この私をいったい誰だとぉぉぉ。」
ひぃ~怖い。真っ赤な髪と同じくらい赤くなった顔を醜く歪ませて詰め寄る。
「クロッカス夫人、申しわけ無い。言う通りにして下さい。あなたが一番王様のご回復を願っているのではないのですか!」
ハルトが間に入ってなだめる。
「くっ、覚えておきなさい。王太后様、まいりましょう。さあっ!」
なんで王太后様までつれていくの?
心配そうな目で王様を見つめた後で、
「頼みましたよ。」
そう言ってクロッカス夫人について行く。
ちょっと待って、なんで残りの侍女もみんな出ていくの。
「王様のお世話をする侍女は?」
「専属はいないんだ、後宮はクロッカス夫人が仕切ってて王太后様付きの侍女がお世話していたんだけど。」
ここは城の中の後宮らしい。
後宮は通常、王妃や側室とその子供達が過ごすところで王様には城内に別に寝室がある。
王太后様も離宮に移られるのが通常だが王様がまだ幼いことと病弱なためお二人とも後宮に留まっていらっしゃる。
後宮は女主人が仕切る。王妃様がいないこの後宮では王太后様がトップのはずだけど仕切っているのはクロッカス夫人か。
王様はまだ幼いけれど、専属の侍女もいないなんて。
「まず、王様の専属侍女を早急に手配して下さい。」
侍従長が呼ばれ後宮付きではない侍女を二人と下働きのメイド五人を王様専属にしてもらった。近いうちに従者も選ぶことになる。(余談だが侍従長ステキ50代くらいの黒髪にちょっとメッシュの白髪。)
寝室も王城に移してもらうことになった。
あたしはしばらく王城に留まることになるが貴賓室から後宮は遠く、王様の容態が悪くなった場合すぐに駆け付けることができないからという事で。
そういえば挨拶がまだだった。
「王様、ご挨拶させていただいてよろしいですか?」
「許す。」
習ったばかりのカーテシーとやらをやってみる。
「改めまして。初めまして、王様にご挨拶いたします。レティシア・リノスです。」
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