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22 王太后の決意(1) 王太后視点

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 クロッカス夫人に打たれた頬がまだ痛い。
 だけど長く人前に出なければ虐待を疑われると思っているのか外に連れ出されて飲みたくもない茶を飲まされている。
 私はもう長いことクロッカス夫人に虐待されている。
 遡れば10歳になったころロズウェル侯爵家に養女として、迎え入れられてからだ。
 私はロズウェル侯爵の叔母の娘、アメリア・カーティスとして生まれた。
母は貴族の娘としては珍しく恋愛結婚だった。というのも当時侯爵家には娘が9人もいたので末娘の事などもらってくれるのならどこでも良いとのことだったらしい。
 父は母よりかなり格下の男爵家の長男だったが、両親は仲が良かった。
 父はロズウェル領であるブロッケンのいなか町でいくつかの村の管理を任されていた。
 思えばあの頃が一番楽しかった。村の子供達と走り回り、農作業の手伝いもした。
 そんなある日、前ロズウェル侯爵がやって来た。私を養女にして王太子のお妃候補にしたいと。
 両親は反対した。分不相応な身分では辛い思いをするだけだと。
 だけどそんな両親の思いも知らず私は王子様の絵姿を見て一目で恋に落ちた。
 プラチナの髪に金茶の瞳。すごく整った顔。
 田舎育ちの私は同じ年ごろの娘達と比べると自分はかわいいと自惚れていた。
 ピンクブロンドの髪に大きな赤い瞳、すっきりと通った鼻筋にふっくらとした唇。
 こんなかわいい私は王都でステキな王子様との華やかな暮らしが似合うのではないかと夢みてしまった。

 両親は私が望むならと、しぶしぶ送り出してくれた。あの日の別れ際、泣き崩れる母の姿を思い出すと胸が締め付けられる。
 ロズウェル侯爵邸は実家のカーティス男爵家とは大違いの豪邸で私の部屋もまるで童話で読んだお姫様のお部屋のようだった。
 使用人も沢山いて自分がお姫様にでもなったかのように浮かれていた。
 あのイゾルテ・クロッカス男爵夫人がやって来るまでは。
 この国には王子様は三人いらしたけど第一王子はお亡くなりになられた。クロッカス夫人はお亡くなりになられた第一王子の婚約者でありお妃教育も受けられた淑女で、私の教育係をかってでてくださったそうだ。
 現侯爵の姉で私にとっても義理の姉になる。
 ロズウェル侯爵家も本人もそのまま第二王子の妃にと望んだが、歳が離れすぎていると反対されたらしい。それで、他に女児がいなかったので私を養女にしたのだと。
 その時私は10歳。
 第一王子は生きていれば25歳。
 クロッカス夫人は28歳。
 第二王子は12歳だった。
 元々第一王子より3歳年上のクロッカス夫人は第二王子が成人する18歳には34歳になってしまう。
 子をなすのにも難しいのではないかと。
 いつまでも王妃になることを諦めなかったクロッカス夫人は婚期を逃し、結局ミンティアの町の管理を任されているクロッカス男爵家に嫁いだ。
 この国の貴族の娘のほとんどは在学中に婚約し卒業と共に結婚する。25歳をすぎれば何か問題のある娘なのかと噂されるのだ。クロッカス夫人は昨年産んだばかりの息子を置いてロズウェル侯爵邸にやってきた。
 初対面から高圧的な態度でことあるごとに「その座につくのは私のはずだった。私の代わりとして恥ずかしくないよう教育するのが私の務め!」
と。
 最初の頃はふくらはぎなど見えない所を鞭打たれたが、治癒魔法を使えるロゼッタという侍女を雇ってからはいたる所を殴られた。だがこのロゼッタは三流魔法使いで表面上の傷は治せるが痛みはまったくとれない。ひどい腫れがあるものも治せない。なので時には針で刺されるなどの陰湿な躾もされた。
 ロズウェル侯爵夫妻は王都にお住まいだったから誰も助けてはくれなかった。いや、知っていても助けてくれたかはわからない。現侯爵で義理の兄であるダグラス・ロズウェルも見てみぬふりをしていた。むしろ虐待されている姿をいやらしい目で見ていた。
 そんな地獄のような日々をすごす私に微かな希望が見えた。王様からのお手紙で15歳になったら王都の高等学園にかようことになるのだからその時はいっそのこと王城で生活してはどうかと。第二王子のフィリップス王子もそう望んでいると。
 ああ、やっと王子様にお会いできる。
 待ち望んでいたその日、迎えにきてくださった王子様は絵姿のとおりキラキラとしたステキな方で、ああ、私はこの日の為に辛い日々を耐えたのだと思えたのに…。
「申し訳ない、本来なら兄上が迎えに来るはずだったのですが、あいにく体調を崩されてしまって、代わりに第三王子である私、レオンハルト・サザール・カールセルがお迎えに参りました。」
 なんと絵姿にそっくりなこの方は弟君なのだと。
 王家の馬車に揺られながら私に気を使ってか王様の事やフィリップス王子の事など面白おかしく説明してくださった。久しぶりに楽しい時間を過ごしながら(この人は違う、違うんだから)と、ときめく心を押さえた。
 王城で出迎えてくれたフィリップス王子はレオンハルト王子とそっくりだったが痩せた体でどことなく影の薄い方だった。
 まだ結婚前だが、今の後宮には住むものがいないし、ここより警備の行き届く場所はないだろうと後宮に住まうことを許された。
 そこで侍従長に紹介された侍女を見て思わず悲鳴をあげそうになった。
 なぜ?なぜクロッカス夫人がいるの?後宮には既婚者は入れないはずなのに。
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