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 リリアン視点

 下働きの使用人はしばらくはヴィニョーブルで働いてもらう事にして、執事のトゥーイとメイドのケイトとメリージェーンを連れて北部のクランセン領に戻った。
 以前住んでいた男爵邸はもう人手に渡ってしまったから新しく住む所を探さなくてはならない。
 クランセン伯爵に挨拶がてらいい物件は無いか聞いてみた。
「しばらくの間なのだろう?
 ならばここに住めばいいではないか?
 ここは君の家でもあるのだから。」
 そう、長くても2~3年の間だ。
 買ってもまた売却の手間がかかるし、下働きの使用人を雇わなければならないし、なかなかの手間だ。
 でも…。
「奥様が気を使われますから、遠慮します。」
「その事だが…言ってなかったが実は別れたのだ。」
 何があったのかは夫婦の問題なので聞かなかったけれど、お義姉様方の結婚が決まった後なので、もしかしたら元からお嫁に出すまでの契約婚だったのかもしれない。
 お言葉に甘えて住まわせてもらうことにした。
 伯爵邸は古いけれど手入れが行き届いており、かなり大きい。
 使用人達も部屋をもらった。
 私の部屋は…。
「なんでまだあるのですか?」
 昔、ほんの少しだけ住んでいた部屋がまだそのままにあった。
「君の家だと言っただろう?
 内装や家具は今では少し子供っぽすぎるかな?」
 この人は私が思っていた以上に私の事を思っていてくれたようだ。
「いいえ、このまま使わせていただきます。
 ありがとうございます。」
 食事の用意もしてあるという事で食堂へむかう。
「あっ…。」
 廊下には外されていたおばあ様の娘で亡くなった前の奥様、リリアナの絵が飾ってあった。
「ああ、また飾ってもいいだろうと思ってね。」
 やっぱり前の奥様の事を忘れられないんだ。それが離婚の原因かも。
「こうして見ると私とは全然似てないですね。」
 似ているのはピンクブロンドの髪だけだ。
 リリアナはほっそりとした顔つきで優しい笑顔をしていた。
「そうだね。本当は最初から似ているとは思ってはいなかったよ。
 だけど、私もおばあ様も辛くてさみしくて、君にすがりたかったのだろうね。
 そして君に救われたんだよ。
 私は本当の子供のように君の事を思っているんだよ。」
 胸がしめつけられる。
 私はずっと知らずに守られていたんだ。
 一人じゃなかったんだ。
「ありがとうございます。」
「そうだ、ここにいる間に君の肖像画も描いてもらおう。」
 そしたら家族としてここに一緒に飾ってもらえるのだろうか。
 ここが私の実家と言っていいのね。
 食堂で向かい合い席に着く。
 メイドが次々に料理を運ぶ。
「あら、ブレンダ久しぶりね。」
 子供の頃嫌がらせをしてきたメイドだった。
「今日は私のお皿にも肉があるのね?」
 さっと青ざめる。
「なんの事だね?」
 クランセン伯爵は私が嫌がらせを受けていたのを知らない。
 今さらどうこうしようとも思わないがちょっとした牽制だ。
 使用人達も今の私には手は出せないだろうし。
「ふふっ、首都で流行っている冗談ですよ。」
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