初恋と悪あがき

村上りく

文字の大きさ
70 / 81
第2章

涙の力

しおりを挟む
sideアイ

サシャさんと紅花ホンファちゃんを2人きりにしたのは、気を利かせたつもりだったから。
2人は絶対両思いなんだから、もしかして良い感じになってるかも、なんて思っていた。

「アイ」

私とノアが保健室を出て少し歩いた所にあるラウンジにいると、サシャさんがやって来た。
私が出て行ってからまだ10分も経っていないのに。

「あれ、サシャさん。紅花ちゃんの様子はどうですか?」

「ちょっと急用が出来ちゃって。来たばっかりで申し訳ないけど、帰るね。アイは紅花の所に戻ってやってくれないかな?」

サシャさんは顔の前で両手を合わせた。
急用って言われたらどうしようもない。
サシャさんは多忙な守護者ガーディアンだ。
もしかしたら【オニノヤガラ病】の人が出たのかもしれないし。

「紅花のこと、頼んだよ。…………ごめんね」

サシャさんはやけに思い詰めた顔で言った。
「送ります」とノアが言い、2人ともいなくなった。

「帰っちゃった……」

あんなに焦って紅花ちゃんに会いに来たのに、10分も話さず帰ってしまうなんて。
きっと、もっと話したかっただろうな。
私は教室に寄って荷物を取ってから向かった。
ノックをし、保健室に入ると、紅花ちゃんはぼんやりと窓の外を眺めていた。
私が入って来たのに気付かないくらい、ぼうっとしていた。

「紅花ちゃん?」

紅花ちゃんの目には、涙が溜まっていた。
…………どうして。
サシャさんと何かあったのかもしれない。
私はそこまで考えて、さっきの彼の表情を思い出した。

『紅花のこと、頼んだよ。…………ごめんね』

そう言った時のサシャさんは、どこか苦しそうだった。

「紅花ちゃん……何が、あったの…?」

「………アイ」

私が声をかけた時、紅花ちゃんは瞬きした。
涙が白い頬を伝った。

「サシャさんは帰った?」

紅花ちゃんの声は落ち着いていた。
そして、私が頷くと彼女は意外にも笑った。

「今回は、好きって言わせてもくれなかったの。言う前に、止められちゃった」

彼女の悲しそうな笑顔に、心臓が掴まれたみたいに苦しくなった。
そして、サシャさんの行動が理解できなかった。
サシャさんは優しくて大人で、人の気持ちを大切にする人だ。
自分を思ってくれている子の告白を聞かないなんて有り得ない。


「……ははっ、何でそっちが泣いてんの?」


紅花ちゃんは笑ったけど、私はダメだった。
紅花ちゃんの方がうんと辛いのに、私は泣く権利なんてないのに。

「ごめん、なさ……」

涙は止まってくれなかった。
好きな人に思いを伝えられないまま終わってしまう。
それがどれだけ辛いことか。
私は知っていた。

「ほ、紅花ちゃ…………。どうして」

「笑ってるの」と聞きたかったけど、声が出なかった。

「『初恋は叶わない』って、本当にそうだよね。…………もー、あたしより泣かないでよ!」

紅花ちゃんはワイシャツの袖で私の顔をごしごし拭いてくれた。
ちょっと痛い……と思ったけど、私はもう喋れる状態じゃなかった。
「紅花ぢゃぁぁん」と、なんとか鼻声で言いながら抱きついた。

「ちょ、汚い!泣き方きたな!」

紅花ちゃんはそう言いながらも離れようとはしなかった。


٭❀*


鼻をかみ、涙を乾かし、落ち着いてきた。
まさか私まで号泣するとは。
紅花ちゃんはぐしょぐしょになったワイシャツを見て、私を睨んだ。

「ちょっと、クリーニング代払ってよね」

「は、払う!ごめんね………」

私はクリーニング代っていくら位だろうと考えながらカバンを漁った。

「あーー、やっぱ良いよ。面倒だから」

「えっでも…」
「その代わり」

その代わりぃ!?
一体どんなすごい条件が……。

「あたしの恋に協力してよ」

「へぇ?」

自分でもびっくりする程間抜けな声が出た。
だって、恋に協力??
さっき、恋が終わって泣いてたのでは??
私は目一杯頭を使った。
けど、その意味は分からない。

「あたしがサシャさんのこと諦めたとでも思ってる?」

嘘でしょ?

「え、だって。さっき初恋は叶わない~とか何とか言ってたから……」

「叶わないって言われてるってだけの話でしょ?努力でカバーするんでしょ?足掻いて足掻いて、足掻き抜いて、成就するのよ!」

紅花ちゃんはガッツポーズした。
ええええええええ。
じゃあさっき泣いたのは何??
そう思いながら紅花ちゃんを見た。
すると、心を読んだみたいに紅花ちゃんは言った。



「泣くとスッキリするでしょ?そしたらもう1回仕切り直し!!」



私は苦笑した。
だって、さっきまでボロボロ泣いてたんだよ?
それなのにこの切り替えの速さ……。


私は、紅花ちゃんのことがもっと好きになった。










しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

いや、無理。 (本編完結)

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
細かいことは気にせずお読みください。 一旦完結にしましたが、他者視点を随時更新の間連載中に戻します。 もはや定番となった卒業パーティー、急に冷たくなって公の場にエスコートすらしなくなった婚約者に身に覚えのない言い掛かりをつけられ、婚約破棄を突きつけられるーーからの新しい婚約者の紹介へ移るという、公式行事の私物化も甚だしい一連の行動に、私は冷めた瞳をむけていたーー目の前の男は言い訳が終わると、 「わかってくれるだろう?ミーナ」 と手を差し伸べた。 だから私はこう答えた。 「いや、無理」 と。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

処理中です...