姫宮瑠璃

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忌み日

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 『最悪だ。
  頭が重い。
  身体の節々がギシギシする。
  5日間、登校出来ない。
  土日を含めれば、1週間は休む事になる。
  明日は決戦の日なのに!
  呼び出しの手紙を彼の鞄に忍ばせたのは、昨日だ。
  最悪だ。
  何故このタイミングで、インフルエンザ  にかかってしまったのか。
  せっかく勇気を出したのに。』


部屋を片付けていた私は、つい片付けを中断して昔の日記をパラパラとめくっていた。
この文を書いたのは、小学6年生のバレンタイン前日だ。
あの年のバレンタインは、すごく気合を入れていた。
小学3年からの初恋の相手に告白するつもりだった。
前々日に、隣のクラスの彼のランドセルに、体育の授業時間を見計らって、ひっそりと呼び出しの手紙を入れた。
 『2/14の16:30に、△△神社に来て下さい。』
なのに私は、前日の朝に高熱を出し、病院でインフルエンザと診断された。
前夜に作った手作りチョコは冷蔵庫で冷やされ、ラッピングして渡すだけだった。
私は、登校はもちろん、外出も余儀無くされた。
誰かに移してはいけないから。
それでも、どうしてもと思って、親が買い物に出ている隙に、神社に向かった。
神社の鳥居前に着いたのは、16:40過ぎ。
薬で体調が良くなっていたとはいえ、体力が落ちている状態で走った私は、ふらつき気味だった。
荒い息を吐きながら鳥居を潜り、境内に向かったが、誰も居らず、寒々しい冬の夕暮れが広がっているだけだった。
親に見つからずに帰って来たものの、その時の無理が祟ったのか、次の日また高熱を出し、インフルエンザと風邪を併発して10日も休む羽目になった。
彼とはクラスが違う事や、卒業式間近でドタバタしていた事もあり、中学入学まで顔を合わせる事なく終わった。
そして、中学。
同じクラスになれたものの、バレンタインの事が気まずくて、すれ違い様に顔を見ずに挨拶するくらいしか出来ずにいるうちに、またもバレンタイン。

 『最悪。
  机にチョコを入れる事には成功したのに、カードを入れ忘れた。
  誰か分からない相手からのチョコなんて不信過ぎ。』

次の年、夏休み前に友人から、彼に彼女が出来たと聞かされた。
一個下の後輩。
細身で儚げな美少女で、放課後の生徒玄関で、キスしてるところを見ちゃったとか。
告白出来ずに、玉砕。
2学期、3学期と、たまに見かける後輩彼女さんとのラブイチャに心が削られていく。
そして、またバレンタイン。
その年は、あげるつもりは全く無かった。
だって、失恋って分かってるし・・・。
クラスの女子で、男子をからかおうって話に、気が乗らないけれど参加していた。
くじ引きで当たりを引いた子が、同じくくじ引きで引いたクラスの男子にチョコを渡す。
本命チョコっぽい、ちょっと高めに見える既製品を用意して。
実行するのは3名。
6、7人チームでサポートしながら、成功させる。
何をサポートするかといえば、ターゲットが何処に居るか探したり、呼んできたり、出来るだけ渡しやすいように1人になるように、他の生徒の妨害工作だ。
そして、後でその時の事を、キャッキャウフフと楽しもうという、趣味の悪い話なのだ。
他クラスも巻き込み、偶々話を聞いてしまった男子も巻き込んで、結局、実行者5名、8人チームという大掛かりな話になり、当日のくじ引きで当たりを引いた実行者に、私がいた。
しかも、チョコを渡す相手は、例の彼。

 『最悪。
  なんつー罰ゲームだ。
  タックルしてチョコを押し付けて逃げたけど、恥ずかし過ぎ。
  しかも、あんな修羅場を見た後に、「go」なんて。
  あいつら何考えてんの⁈』

階段下で、後輩彼女のチョコを受け取らず、別れ話で後輩彼女が泣きながら立ち去ったところを隠れて見ていた私のチームは、「今なら1人だから」「go!」と私を押し出したのだ。
逃げた後、チームに合流した私は、「良くやった」とチームメイトに讃えられたが、それを彼に見つかり、「何してんの、皆で?」とチームメイトと共に廊下に正座させられ、お叱りを受けた。
渡したチョコは、彼を含めた皆で食べる事になり、おかげで仲良くはなれたが・・・。

そして、次の年。
最終学年で、部活に受験勉強にと忙しく、彼はそれを理由に、後輩からの告白を断っていた。
教室でふざけ合うくらい仲良くなっていたが、恋愛対象では無いのは分かっていた。
彼の好きなタイプは、私とは逆だったから。
背が小さく、童顔で目がパッチリな私とは違い、彼の好みはスタイルの良い細身の流し目狐系美人だ。
おまけに受験で、恋愛に興味がないこの時期に、振り向いてくれる訳がない。

 『まさか、同じ高校を受けるとは思ってなかった。
  これはフラグ立て?
  それとも、辛苦の始まり?』

受験日、同じ高校を受ける生徒は、駅や中学校で先生に振り分けられて、一緒に受験校に向かった。
そこで初めて、彼と同じ高校を受けると知ったのだ。
くしくも合格発表の日は、私の忌み日の2/14。
恋愛に関しなければ問題ないようで、私も、一緒に受けた同級生達も、全員合格。
4月から、また彼と同じ学校に通う事になる。

あおい~!片付け終わった?」
「まだ~!」

いけない、いけない。
すっかり、日記を読むのに時間を費やしてしまった。
春休みは短い。
高校生にシフトする為にも、片付けねば。

「おい、葵・・・って、まだ片付いて無いじゃん。」
「さっき、まだって言ったでしょ!」
「聞こえなかった。
叔母さんが、昼ごはんだっつってるから、一旦止めて降りて来いよ~。」

従兄の海斗かいとお兄ちゃんが、廊下から呼びかけた。
大学を卒業し、4月から地元に戻って高校教師になると帰って来たのに、去年離婚した伯父さんは、再婚する事になったと相手の家に引っ越し、マンションを売り払ってしまった。
初任給で一人暮らしは、手元に残る金が少なくなるからと、私の父母が家に呼んだのだ。
なので、正月明けくらいから、お兄ちゃんは家に居候している。
伯父さん夫婦が仕事で忙しかったので、中学、高校時代は、ほとんど家で寝泊まりしていた。
必要な物を取りに帰るくらいで、お兄ちゃんの部屋は家にあった。
修学旅行や家族旅行、友人との泊まり会や部活の合宿などで居ない時があるくらいで、
他県の大学に行って一人暮らしをするようになっても、家にはお兄ちゃんの部屋があり、帰省の時には家に帰って来た。
伯父さん夫婦が、仕事で居なかったからだ。
だから居候といっても、私の家族からしたら、お兄ちゃんが帰って来ただけに過ぎない。

「はい、コレ。ホワイトデーのプレゼント。」

昼食を食べに降りて来た私と、カトラリーを並べていたお母さんに、お兄ちゃんが小さな巾着包装のプレゼントを渡してきた。

「えー。ホワイトデー、今日だったっけ。
ありがとう。」
「わーい。お兄ちゃん、大好き。」

さっそく開けて、中を確認しようとする私の頭を、お兄ちゃんが小突いた。

「ご飯が先。」
「ちぇ~。」
「見たら、食べたくなるだろう?」
「わーい。お菓子だ~。」
「こら。だから、ご飯の後で。」

止められても、また開こうとする私を、またお兄ちゃんが小突いた。
お茶をコップに注ぎながら、お母さんは微笑ましそうにしている。

「夕方にちょっと父さんの所に行って来ます。なので、夕飯はいりません。」

席に着きながら、お兄ちゃんはお母さんにそう言った。

「向こうのお宅で食べて来るの?」
「たぶん、そうだと思います。一緒に食べるとは聞いてますけど、外食とは聞いて無いです。」
「そう。新しいお義姉さんに、よろしく言っといてね。
葵の受験もあって、まだお会いしてないけど、今度の食事会、楽しみにしてますって。」
「はい。伝えておきます。」

私の受験は終わったが、3月末に伯父さんの定年退職がある。
なので、4月初めに入学と退職祝いの食事会を兼ねて、ご挨拶する事になっているのだ。



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