姫宮瑠璃

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入学①

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春休みは、入学準備とお兄ちゃんの就職準備以外、ダラダラと過ぎていった。
友人達とは電話で話す事はあったが、卒業旅行やら、祖父母に入学祝いをせしめに行くとかで、会う事は無かった。
どうせ高校に入学してしまえば、電車通学の子とは駅で会うし、自転車で通学する子とも近くのコンビニやファミレスでバッタリなんて事もあるだろう。

入学前、4月初めに伯父さんの新しい奥さんにお会いした。
うちのお母さんと17歳離れている伯父さんは、歳よりも若く見える。
新しい奥さんは、伯父さんより12歳年下だったが、それほど離れているようには見えなかった。
もちろん、奥さんにそんな事を言ったりはしないだけの礼儀は、私は持っている。

「ごめんなさいね。
私達、もう歳も歳だから、あまり重たいものじゃない方が良いって言ったら、この人、懐石料理にしちゃって。
若い人は、フランス料理やイタリアンの方が良かったわよね?」

ショートカットの優しそうな奥さんが、申し訳無さそうに、私の顔を覗き込んできた。

「いえいえ、和食好きですよ。」

フランス料理もイタリアンも好きだが、顔合わせのご挨拶にフランス料理なんて、堅苦しくて食べた気にならないと思う。
予約してくれた伯父さんに、心の中で「ナイス」と親指を立てた。

「葵はこってりした料理より、さっぱりしてるのが好みなんだ。
俺に似て、肉より魚が好きなんだよな?」
「父さん、それは離乳食の頃の話だろ?
だいたい、一緒に食事なんて、片手で数えるほどしか無いだろうが。」
「妹から葵の話くらい聞いている。
お前の事より、よっぽど、葵の事の方が詳しいぞ。」
「そこは、姪より息子の事を気にかけるべきだろうが・・・。」

17歳離れている妹がよほど可愛かったのか、伯父さんは息子より娘が欲しかったらしく、たまーに、本当にたまに家に来ると、お兄ちゃんより私を構っていた。
私がお兄ちゃんを、「お兄ちゃん」呼びするのにもニコニコと反応していた。
私より8歳年上のお兄ちゃんは、私に嫉妬しなかったのだろうか?

「そりゃ、息子より姪の方が、可愛かったもの。
お前もよく、「葵は僕のだ」って俺に見せないようにしてただろう。
お前こそ、従妹より父親を大事にすべきだ。」
「だから、それは葵が赤ん坊や幼児の頃の話だろう。
時は動いてるんだよ!」

久々に、と言っても最近はよく会っている息子とのジャレ合いに、伯父さんは楽しそうだ。
私達もつい、クスクスと笑ってしまう。

「失礼致します。
お部屋の用意が出来ましたので、ご案内させて頂きます。」

お店の方の案内で、控え室から座敷に移動しようとした時、ドタドタと入り口の方から男の人が飛び込んで来た。

「すみません!遅れました!」
「もう!やっと来たわ。
全く、何やってるのよ、もうっ!」
「皆さん、本当にすみません。バイトが長引いちゃって。」

遅れて、奥さんに怒られながら、ペコペコとこちらに頭を下げるのは、奥さんの息子さんの康熙こうきさんだ。
私達には謝りながらも、母親の叱言はスルーしているのが、少し面白い。
お兄ちゃんより2歳年上だけど、受験浪人をしていたので、4月から大学3年目だそうだ。
お兄ちゃんから聞いた話だと、大学教授の伯父さんと高校教師になるお兄ちゃんの影響を受けて、昨年の夏辺りから教師を目指す事にしたらしい。
経済学を専攻していたらしいのだが、今通っている大学で英語の教員免許を取得できると知って、科目を増やして頑張っているそうだ。

「アルバイトって、何をしてるんだい?」

座敷で席に落ち着くと、うちのお父さんが切り出した。

「塾の講師です。
先月までは中学生の授業の補助だったんですが、今度、1人で任される事になりました。」
「やりがいはあるけれど、それは大変だね。」
「はい。クラスによっては荒れる場合もあるので。」
「塾でも、学校みたいにクラスの問題があるのかい?」
「そうですね。おしゃべりしていて他の子の迷惑になっていたり、授業の邪魔をしたり、授業外でいじめをしたりとか。
保護者がいろいろ言ってくる場合もありますし。
集団授業の塾は、学校の延長みたいなもんですからね。」
「大変だね。
うちの葵は塾に通わせた事無いから、知らなかったよ。」
「将来、教師になる為の練習だと思って、頑張りますよ。」
「なんなら、葵の家庭教師も頼むよ。」
「なら、ぜひうちの塾に来て下さい。」
「おや、営業活動も、塾講師の仕事かい?」

お父さんと康熙さんは、ワハハ、ガハハと笑い合う。
康熙さんの視線が、私に向いた。

「何年生?」
「今月、●●高校に入学します。」
「え、俺も●●高校だったよ。後輩だね。」

それからの会話は、子供同士、親同士に分かれてのものとなった。
私以外は、お酒を飲みながら。

「葵ちゃんは、部活、何に入る予定?」
「まだ、決めてないです。」
「中学は何部だったの?」
「水泳部でした。」
「あー、●●高校は水泳の授業ないし、だから部活もないもんね。」
「康熙さんは、何部だったんですか?」
「中学は陸上部だったけど、高校は・・・入ってなかった。海斗は?」

なんとなく誤魔化された気がしたけれど、お兄ちゃんに話を振った事で、すぐに霧散した。

「俺?中学はサッカー部から卓球部へ、その後、科学部。」
「なんだよ、それ。継続性ないなー。」
「ま。いろいろあって。」

お兄ちゃんは中学の時、サッカー部の女子マネの先輩からの告白を断ってトラブり、卓球部に移籍したが、またそこで女子卓球部の先輩の告白を断ってトラブり、「もう、女子には絡まれたくない」と科学部に入った。
これだけを聞くと、「モテ男め!」「リア充め!」と思うかもしれないが、お兄ちゃんはその所為で一時期女性不信に陥り、女性に近づかれるだけで蕁麻疹ができる程だった。
なので、高校は男子校を選んだ。
大学は教育学部に進んだが、女性の少ない地学を専攻していた。
今はそれほど苦手ではないらしい。
当時から、私とお母さんは女性認識されてないらしいが。

「高校は、鉄道同好会。」
「え。海斗は鉄オタなの?」
「いや、全然。」
「じゃあ、なんで?」
「人数不足で頼まれたから。鉄道模型いじってるのは、楽しかったよ。」

小さい時には電車ではなく、ミニカーでしか遊んでなかったと、ビールを飲みながらお兄ちゃんは笑った。

「赴任先は母校なんだろ?先輩なら、顧問を頼まれるかも。」
「いや、それが、今や同好会じゃなく、30人以上の正式な部活になっちゃってて、顧問の先生はちゃんといるんだって。
顧問を頼まれるとしたら、ヒーロー同好会かも。」
「何、それ。」
「戦隊モノや仮面ライダーからプリキュアなんかのヒーローを調べたりしているらしい。」
「へー。」

プリキュアを男子高校生が愛でてるのを想像して、私は口角が引きつったが、2次元好きと考えれば、まあ、あり得る。

「何?馬鹿にしてるぅ?
この葵だって実は、日曜日にヒーロータイムを毎週観てるんだぞ。」
「ちょっと!何、暴露してんの⁈
もう、私はプリキュアはとっくに卒業してるから!」
「じゃあ、戦隊モノや仮面ライダーは観てるんだ。」
「いや、まあ・・・勧善懲悪が爽快で。」
「またまたぁ。イケメン観たいからだろ~?」
「違うし!水戸黄門や大岡越前も好きだし・・・って、ああ~、私、何言ってるの⁈」
「自滅してるし!」

私は、赤くなった顔を隠すように、もさもさと料理を次々と口に運んだ。
2人はニヤニヤとビールを飲んでいる。

「あ!」

急に、お兄ちゃんが「忘れてた!」と声を上げた。

「葵、入学式って何日だった⁈」
「4月5日だけど。」
「やばっ!買い忘れてた!」

お兄ちゃんは、真剣な顔でスマホをいじり出した。

「何、何~?私の入学祝いなら、遅くなっても受け付けてるよ~?」
「ばーか。違うよ。
●●高校のお世話になった先生に渡す菓子折、買うの忘れてた。
葵、入学したら、挨拶ついでに持って行ってな!」
「はい?私が?」
「俺はすぐに挨拶行けないから。
これから葵もお世話になるんだから、挨拶しとけ。」
「えー!」

教育実習を母校で受けれなかったお兄ちゃんは、私が入学する高校で受けたのだ。
だからって、私はまだお世話になって無いのに、挨拶しなければいけない理由は無いと思うのだが。

「私、地理は取る予定無いんだけど?
私が地理苦手なの、知ってるでしょ?」
「いや、先生は地理だけじゃなく、日本史も教えてたから。」
「その先生に習うとは限らないじゃない。」
「まあ、それでも、よろしくな!
社会準備室に行って、保科先生に俺の名前言って挨拶すれば良いだけだから!」

これは、断れない流れだ。
仕方ない、腹を括ろう。
私は、入学早々、知らない先生に挨拶に行く事になった。









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