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さん
しおりを挟むひとしきり憤慨してみたけれど、だからといって状況が変わることもなく。
目隠しをされていても、容赦なく照りつける日射しで、陽が昇り切ったことはわかるけれど、人の気配はない。というか周囲に何も生き物の気配がない。
昨日から通算で何度目になるかわからないため息をつきながら、リューナはブーツに隠していた短剣を器用に手につかんで腕の縄を切る。
スカートが捲れてはしたない? そんなもの、誰もいないのだから気にするだけ無駄!
そのまま目隠しも取る。
眩しくて、ならさないと目を開けられない。
ここに来るまで、それなりに踏みならされた道を歩いてきたように思っていたが、ぐるりと見回してもそれらしい道は見えない。不自然なほど円形の広場の中心に繋がれていた。
お日様は真上……少し待って、傾けば方角もわかる。村の東の入り口から出てきたのだから、西に向かわなければ村に戻ることもないだろう。
待っていてもお迎えとやらはきそうにない。
それを逝くまで待っていろということなら、このまま素直に待つ気は無い。
確認に誰かが戻ってくるとも思えないが、念のためにと髪を一房切り落として、杭の根元に束ねておいた。
残ったのはこれだけですよ、とでもいうように。
村にのこのこと戻るわけにはいかない。
でも、望みどおりに死んでやるつもりもない。
生きるか死ぬか、突きつけられたのなら私は生を選ぶ。
できることがあるのなら、まだ足掻く。
弟妹たちがいる手前、大人しく村を出てきただけ。
さて、とりあえずはできる限り村から離れようかしら。
私の装備品は、上等な服と、履きなれた編み上げブーツに短剣が一振。
森を歩くには心許ないことこの上ないけど、余分な荷物もなく身軽と考えたらまだまし。
日射しが暑いこともあるけど、生き物の気配がまったくない森の中っていうのも不気味すぎる。
……ほんとにどうなってるのかしら。草木が枯れているわけでもなく、空気は確かに乾燥しているけれど、まだ樹々は青さを保っている。木陰に小動物が居てもおかしくないのに。
晴れているのに、薄暗く感じる。視界が閉ざされてる時は足元にしか注意できなかったけれど、見える今は違和感しか感じられない。
今まで私が入ったことのある森と違いすぎる。村を挟んで、ここまで違いがあるものなの?
しばらくして、傾いてきたお日様の方向を目指して歩き出す。
当然、道らしい道なんてものはないので、草木をかき分けて進んでいく。かろうじて、獣道っぽいものを見つけると、これ幸いとばかりにたどらせてもらう。
ブーツで踏み進めるといっても、流石に限度もあるので。
しばらくは護身用に短剣は片手に握りしめたまま歩いてた。でも、相変わらず生き物の気配もなく、何かが出てきそうな雰囲気もないので鞘にしまった。
歩くことに集中していたリューナだが、次第に冷静になってくる。
冷静になると、理不尽な仕打ちに対する怒りがふつふつと沸いてきた。
今は考えてはダメだと自分に言い聞かせてみても、滲んでくる涙は堪えられない。
八つ当たりと分かっていても、手近な樹を叩きつける。
泣くな、今は感情的には泣くな。そんな余裕、今はないんだから泣くな。それよりも歩け。
ぼやける視界も無視したまま、森を抜けるために進む。
すると、唐突にクモの巣に引っかかったような違和感に襲われる。
腕を上げて振り解こうとすると、急に目の前がひらけた。
「……え?」
クモの巣程度で悲鳴をあげるほど、可愛らしい性格はしていないけど。それでも、視界に飛び込んできた情報を処理しきれずに間の抜けた声がこぼれた。
そこには、目が痛くなるほどの白い屋敷と、見事なまでのバラ園があった。
思わず目をこすってみるけれど、間違いなく白亜のお屋敷がある。
色とりどりのバラは所狭しと密集しているようでいて、それでも通路までは伸びていない。しっかりと手入れされている庭園だ。
森の中にいたはずなのに?
振り返ってみると、ここに来るまでずっと歩いていたみたいに後ろにも石畳が続いてた。こんなきれいな道、歩いた覚えないんだけど。
「ごめんくださ~い……」
控え目に声を出しても、返事があるはずもなく。
そもそも声が届く範囲に誰かいるんだろうか。
困惑していても拉致があかない。
手放された無人の屋敷とも思えないので、ひとまず水をもらえないかお邪魔してみよう。
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