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第7話 第三王子、見学に来て“恋愛指導”を始める(団長、告白未遂)
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午後の包帯講習会は、想像以上に地獄だった。
「そこ、巻き方が甘い!」
「団長、甘いって言葉やめてください! また菓子の列ができます!」
「甘いのは菓子だけでいいって、昨日も言いました!」
「紙で切った時の巻き方も教えてください!」
「心が擦りむけた時の巻き方は!?」
「心は対象外だ!!」
――騎士団の訓練場が、白い包帯で吹雪いていた。
私は端っこで、包帯の予備を渡しながら見守っていた。
見守っていたけど、団員が次々と近寄ってくる。
「姉さん、俺、うまく巻けました!」
「姉さん、見て! 蝶結びできました!」
「姉さん、俺の包帯、姉さんに褒められたいです!」
褒められたい欲が強い。
副団長が、遠くで眉間を押さえている。
「……団長、講習会は成功ですけど、団員の方向性が違います」
「結果は良い」
「良くないです!!」
団長は、いつも通りの無表情で、いつも通りの圧で全員をまとめている。
なのに、今日はどこか――落ち着かないようにも見えた。
理由は、たぶん、私のせいじゃない。
――“見学者”が来るって話があるから。
そう。
第三王子が、「騎士団の規律を学びたい」とかいう、それっぽい理由でまた来るらしい。
規律を学ぶ人が、騎士団を一番乱すの、矛盾してると思う。
案の定。
「やっほー! 包帯祭りって聞いた!」
第三王子が、にこにこと現れた。
「聞いてないです!」
副団長が即ツッコむ。
「殿下、なぜ“祭り”にするんですか」
「え、だって楽しそうじゃん」
「楽しそうに見えたら終わりです!」
王子は私を見るなり、ぱっと表情を明るくした。
「事務さん、お疲れさま。今日も戸惑い笑い、出てる?」
「出てません!」
「出てるよ」
「出てません!」
団長が、すっとこちらに近づいた。
さりげないのに圧がある。
“彼氏面:基本姿勢”が勝手に発動している。
王子がそれを見て、にやにやする。
「団長、いいね。常に隣、守ってる」
「守っていない」
「守ってる」
「守っていない」
「守ってる」
「……監督している」
「それ守ってるって言うんだよ」
王子は肩をすくめ、団長に耳打ちする。
「ねえ団長。見学ついでに、“恋愛指導”してあげようか?」
「不要だ」
「必要だよ。効果:高」
「その言い方をするな」
団長が珍しく嫌そうな顔をした。ほんの一瞬だけ。
王子が勝った顔をする。
副団長が終わった顔をする。
私は胸のあたりが嫌な予感でいっぱいになった。
王子は団長の肩を軽く叩いて言った。
「じゃあね、団長。今日の課題。“正式に言う”」
「正式?」
「そう。君、彼氏面はしてるけど、言葉にしてない」
「言葉にしている」
「“君のためだ”は言葉だけど、告白じゃない」
「告白?」
「そう、告白。ほら、これ」
王子が取り出したのは、また紙。
嫌だ。紙が嫌だ。
『恋愛指導:告白は簡潔に(効果:最強)』
・逃げ道を塞がない
・相手の意思を確認
・語尾に“してほしい”を付けると柔らかい
副団長が頭を抱えた。
「殿下、また変な紙!」
「変じゃないよ、恋の基本」
「基本を紙にするな!」
王子は私に笑いかける。
「事務さん、団長から告白されたらどうする?」
「えっ」
喉が詰まった。
団長が一瞬で固まる。
団員たちも固まる。
訓練場が、妙な静寂に包まれた。
「殿下! 何言って――」
副団長が止める。
でも王子は止まらない。
「だってさ、団長の恩返し、もうここまで来たら告白しないと締まらないじゃん」
「締めないでください! まだ七話です!」
副団長のツッコミが、今日も冴えているのに、王子は笑って流すだけだ。
「七話でも告白はできるよ。早い告白、いいじゃん」
「よくないです!!」
王子は団長に向き直る。
「団長、ほら。今なら周りもいるし、逃げ道塞がないで済む」
「周りがいると逃げ道が塞がる気がします」
副団長が呻く。
団長は、真面目な顔で紙を見つめた。
――嫌な予感が、確信に変わる。
団長は、変な情報を拾うと、全力で実行する。
王子が“課題”と言ったら、なおさらだ。
団長が、私を見る。
目が鋭いのに、声は静かだ。
「君」
「は、はい」
「……正式に言う」
――言うんだ。
私は胸がばくばくして、息を吸うのも忘れた。
団員たちが、息を飲む音がした。
副団長が「やめろ」と小さく言った。
王子がにやにやしている。
団長は一歩、距離を詰めた。
でも、私を追い詰めないように、立ち位置を少しずらす。
“逃げ道を塞がない”。紙の通りだ。
団長は淡々と言った。
「君に、恋人に――」
そこで。
「団長!!」
団員の叫び声。
全員がビクッとした。
団員が、勢いよく走ってきて叫ぶ。
「訓練場の端で、猫が! 猫が包帯で遊んでます!!」
――猫?
団長の眉が、ほんの少しだけ動いた。
「猫?」
「はい!! すごい勢いで包帯ほどいてます!!」
団長の視線が一瞬、訓練場の端に向く。
団員たちがざわつく。
副団長が「今それどころじゃないだろ!」と叫びたい顔をしている。
でも猫は大事だ。猫は大事。包帯も大事。混乱。
王子が、わざとらしく息を吐いた。
「あーあ。告白未遂」
「未遂って言わないでください!!」
副団長が即ツッコむ。
団長は、短く言った。
「猫を保護する。続きは後だ」
「続き!?」
私が声を裏返す。
団長は真顔で頷いた。
「続きだ」
「続きって……え、今の、続きがあるんですか」
「ある」
「……」
王子が嬉しそうに拍手した。
「ほらね。団長、真面目に“続き”って言えた。えらい」
「褒めるな」
「褒めは毎時でしょ?」
「対象を選ぶ」
「選ばないでよ、楽しいのに」
団長は私の方に向き直り、低い声で言った。
「……すまない。邪魔が入った」
「邪魔って……猫……」
「猫は悪くない」
「はい」
団長は少しだけ、言いにくそうに続けた。
「――君は、怖くないか」
「え?」
「俺の行動が、迷惑ではないか」
王子の紙にあった。
“相手の意思を確認”。
団長が、それをちゃんとやろうとしている。
私は胸がきゅっとなって、言葉が詰まった。
迷惑ではない。
でも、恥ずかしいし、驚くし、追いつかないし――
それでも。
「……怖くは、ないです」
私は小さく言った。
「びっくりは、します。でも……嫌じゃないです」
団長の目が、一瞬だけ柔らかくなる。
ほんの少しだけ、息を吐いた。
「……そうか」
「はい」
「なら、続ける」
続ける!?
私は顔が熱くなる。
副団長が遠くで崩れ落ちる。
団員たちが「うわあ……!」と無言で沸く。
王子が満足そうに頷いた。
「うん。よし。団長、課題クリア――半分」
「半分?」
「告白は最後まで言わないとね」
「殿下!!」
副団長が叫ぶ。
「あなたは何を採点してるんですか!!」
「恋の進捗」
進捗って。
団長は猫の方へ向かいながら、振り返って言った。
「待っていろ」
「待ってって……」
「逃げないでくれ」
「……逃げません」
口から出た言葉に、自分でびっくりした。
逃げない。
私が、自分からそう言った。
団長の背中が、少しだけ軽く見えた気がした。
王子が私の隣に来て、ひそっと言う。
「事務さん、偉いね」
「偉くないです……」
「偉いよ。受け取るの、練習中でしょ?」
「……」
「そのうちね、団長の“恩返し”が“恋”になるよ」
私は答えられなかった。
猫は無事に保護され、包帯は回収され、講習会は再開された。
でも私の心だけ、ずっと訓練場の真ん中に置き去りだ。
団長の言いかけた言葉が、耳に残って離れない。
「君に、恋人に――」
――続き。
続きが、怖い。
でも、少しだけ、待ちたい。
「そこ、巻き方が甘い!」
「団長、甘いって言葉やめてください! また菓子の列ができます!」
「甘いのは菓子だけでいいって、昨日も言いました!」
「紙で切った時の巻き方も教えてください!」
「心が擦りむけた時の巻き方は!?」
「心は対象外だ!!」
――騎士団の訓練場が、白い包帯で吹雪いていた。
私は端っこで、包帯の予備を渡しながら見守っていた。
見守っていたけど、団員が次々と近寄ってくる。
「姉さん、俺、うまく巻けました!」
「姉さん、見て! 蝶結びできました!」
「姉さん、俺の包帯、姉さんに褒められたいです!」
褒められたい欲が強い。
副団長が、遠くで眉間を押さえている。
「……団長、講習会は成功ですけど、団員の方向性が違います」
「結果は良い」
「良くないです!!」
団長は、いつも通りの無表情で、いつも通りの圧で全員をまとめている。
なのに、今日はどこか――落ち着かないようにも見えた。
理由は、たぶん、私のせいじゃない。
――“見学者”が来るって話があるから。
そう。
第三王子が、「騎士団の規律を学びたい」とかいう、それっぽい理由でまた来るらしい。
規律を学ぶ人が、騎士団を一番乱すの、矛盾してると思う。
案の定。
「やっほー! 包帯祭りって聞いた!」
第三王子が、にこにこと現れた。
「聞いてないです!」
副団長が即ツッコむ。
「殿下、なぜ“祭り”にするんですか」
「え、だって楽しそうじゃん」
「楽しそうに見えたら終わりです!」
王子は私を見るなり、ぱっと表情を明るくした。
「事務さん、お疲れさま。今日も戸惑い笑い、出てる?」
「出てません!」
「出てるよ」
「出てません!」
団長が、すっとこちらに近づいた。
さりげないのに圧がある。
“彼氏面:基本姿勢”が勝手に発動している。
王子がそれを見て、にやにやする。
「団長、いいね。常に隣、守ってる」
「守っていない」
「守ってる」
「守っていない」
「守ってる」
「……監督している」
「それ守ってるって言うんだよ」
王子は肩をすくめ、団長に耳打ちする。
「ねえ団長。見学ついでに、“恋愛指導”してあげようか?」
「不要だ」
「必要だよ。効果:高」
「その言い方をするな」
団長が珍しく嫌そうな顔をした。ほんの一瞬だけ。
王子が勝った顔をする。
副団長が終わった顔をする。
私は胸のあたりが嫌な予感でいっぱいになった。
王子は団長の肩を軽く叩いて言った。
「じゃあね、団長。今日の課題。“正式に言う”」
「正式?」
「そう。君、彼氏面はしてるけど、言葉にしてない」
「言葉にしている」
「“君のためだ”は言葉だけど、告白じゃない」
「告白?」
「そう、告白。ほら、これ」
王子が取り出したのは、また紙。
嫌だ。紙が嫌だ。
『恋愛指導:告白は簡潔に(効果:最強)』
・逃げ道を塞がない
・相手の意思を確認
・語尾に“してほしい”を付けると柔らかい
副団長が頭を抱えた。
「殿下、また変な紙!」
「変じゃないよ、恋の基本」
「基本を紙にするな!」
王子は私に笑いかける。
「事務さん、団長から告白されたらどうする?」
「えっ」
喉が詰まった。
団長が一瞬で固まる。
団員たちも固まる。
訓練場が、妙な静寂に包まれた。
「殿下! 何言って――」
副団長が止める。
でも王子は止まらない。
「だってさ、団長の恩返し、もうここまで来たら告白しないと締まらないじゃん」
「締めないでください! まだ七話です!」
副団長のツッコミが、今日も冴えているのに、王子は笑って流すだけだ。
「七話でも告白はできるよ。早い告白、いいじゃん」
「よくないです!!」
王子は団長に向き直る。
「団長、ほら。今なら周りもいるし、逃げ道塞がないで済む」
「周りがいると逃げ道が塞がる気がします」
副団長が呻く。
団長は、真面目な顔で紙を見つめた。
――嫌な予感が、確信に変わる。
団長は、変な情報を拾うと、全力で実行する。
王子が“課題”と言ったら、なおさらだ。
団長が、私を見る。
目が鋭いのに、声は静かだ。
「君」
「は、はい」
「……正式に言う」
――言うんだ。
私は胸がばくばくして、息を吸うのも忘れた。
団員たちが、息を飲む音がした。
副団長が「やめろ」と小さく言った。
王子がにやにやしている。
団長は一歩、距離を詰めた。
でも、私を追い詰めないように、立ち位置を少しずらす。
“逃げ道を塞がない”。紙の通りだ。
団長は淡々と言った。
「君に、恋人に――」
そこで。
「団長!!」
団員の叫び声。
全員がビクッとした。
団員が、勢いよく走ってきて叫ぶ。
「訓練場の端で、猫が! 猫が包帯で遊んでます!!」
――猫?
団長の眉が、ほんの少しだけ動いた。
「猫?」
「はい!! すごい勢いで包帯ほどいてます!!」
団長の視線が一瞬、訓練場の端に向く。
団員たちがざわつく。
副団長が「今それどころじゃないだろ!」と叫びたい顔をしている。
でも猫は大事だ。猫は大事。包帯も大事。混乱。
王子が、わざとらしく息を吐いた。
「あーあ。告白未遂」
「未遂って言わないでください!!」
副団長が即ツッコむ。
団長は、短く言った。
「猫を保護する。続きは後だ」
「続き!?」
私が声を裏返す。
団長は真顔で頷いた。
「続きだ」
「続きって……え、今の、続きがあるんですか」
「ある」
「……」
王子が嬉しそうに拍手した。
「ほらね。団長、真面目に“続き”って言えた。えらい」
「褒めるな」
「褒めは毎時でしょ?」
「対象を選ぶ」
「選ばないでよ、楽しいのに」
団長は私の方に向き直り、低い声で言った。
「……すまない。邪魔が入った」
「邪魔って……猫……」
「猫は悪くない」
「はい」
団長は少しだけ、言いにくそうに続けた。
「――君は、怖くないか」
「え?」
「俺の行動が、迷惑ではないか」
王子の紙にあった。
“相手の意思を確認”。
団長が、それをちゃんとやろうとしている。
私は胸がきゅっとなって、言葉が詰まった。
迷惑ではない。
でも、恥ずかしいし、驚くし、追いつかないし――
それでも。
「……怖くは、ないです」
私は小さく言った。
「びっくりは、します。でも……嫌じゃないです」
団長の目が、一瞬だけ柔らかくなる。
ほんの少しだけ、息を吐いた。
「……そうか」
「はい」
「なら、続ける」
続ける!?
私は顔が熱くなる。
副団長が遠くで崩れ落ちる。
団員たちが「うわあ……!」と無言で沸く。
王子が満足そうに頷いた。
「うん。よし。団長、課題クリア――半分」
「半分?」
「告白は最後まで言わないとね」
「殿下!!」
副団長が叫ぶ。
「あなたは何を採点してるんですか!!」
「恋の進捗」
進捗って。
団長は猫の方へ向かいながら、振り返って言った。
「待っていろ」
「待ってって……」
「逃げないでくれ」
「……逃げません」
口から出た言葉に、自分でびっくりした。
逃げない。
私が、自分からそう言った。
団長の背中が、少しだけ軽く見えた気がした。
王子が私の隣に来て、ひそっと言う。
「事務さん、偉いね」
「偉くないです……」
「偉いよ。受け取るの、練習中でしょ?」
「……」
「そのうちね、団長の“恩返し”が“恋”になるよ」
私は答えられなかった。
猫は無事に保護され、包帯は回収され、講習会は再開された。
でも私の心だけ、ずっと訓練場の真ん中に置き去りだ。
団長の言いかけた言葉が、耳に残って離れない。
「君に、恋人に――」
――続き。
続きが、怖い。
でも、少しだけ、待ちたい。
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