今日の分を、あなたに

星乃和花

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第三話 「制度」

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制度にしてしまったのは、怖かったからだ。

受け取る、という行為が、僕の中でまだ不安定だ。
不安定なものは、ルールにすると安心する。
点数にすると、管理できる。

子どもの頃からそうだった。

親が褒める基準は、曖昧な“愛情”じゃなくて、目に見える“成果”だった。
だから僕は成果を積み上げた。
泣かない。甘えない。迷惑をかけない。
そうすれば「いい子」と言われる。

「いい子」と言われると、胸が温かくなる。
でも同時に、どこかで分かっている。

――いい子じゃなかったら?

その問いが怖くて、僕はずっと、いい子のまま生きてきた。

彼女の“今日の分”は、ルールの外にある。

だから僕は、制度を作った。
制度にして、同じ高さに並べたかった。
受け取ることを、危険じゃなくしたかった。

でも、彼女はそれを見抜いた。

「点数みたいになってる」

点数。
その言葉は、僕の胸の奥の柔らかいところを正確に押した。

彼女は責めない。
笑って、でも核心だけは外さない。

それが怖い。
怖いのに、救いでもある。

彼女が出した“ゆるいルール”は、さらに怖い。

回数制限なし。返礼禁止。
“相手の好き”を覚える。

それは、点数がない世界だ。

点数がない世界で、僕はどうやって存在していい?
役に立たない僕を、どうやって許せばいい?

……でも彼女は言った。

「得して」

得していい、と言われると、僕はすごく困る。
困るのに、少し嬉しい。

僕は彼女の好みを聞いた。
ミルク多め。猫舌。熱すぎないのが好き。

メモを取った。
メモを取るのは、僕の防衛でもある。
だけど今日は、防衛だけじゃない。

――覚えていたい。

その気持ちが、僕の中で小さく芽を出している。

そして彼女は、さらっと言った。

「帰り、買いに行くの、付き合ってくれる?」

外。
僕の“奥”の外。

僕は反射的に“効率”と言った。
言い訳を用意しないと、心臓が落ち着かない。

でも、彼女が笑ってくれたから、僕は頷けた。

「付き合います」

その言葉は、僕の口から出たのに、少しだけ重かった。
重いのは、怖いからじゃない。

――約束が、僕の中で大切になっているからだ。

僕は彼女の机の端に、そっと紙を置いた。
制度の紙とは別の、小さなメモ。

朗読会当日:
終了後(撤収後)
飲み物を買いに行く(効率)

効率、と書かないと落ち着かなかった。
でも、書いてしまったことで、約束が形になった。

僕は形があるものが好きだ。
形があると、逃げられなくなる。

逃げられなくなるのは怖いはずなのに、
今日は、少しだけ安心していた。
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