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第十一話 「優先順位」
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私
彼の「やめてほしいです」は、びっくりするほど胸に刺さった。
命令じゃない。怒ってもいない。
淡々としているのに、逃げ道がない。
“嫌だから”って言われるのは、怖い。
でも同時に――
私のことをちゃんと見てくれている証拠でもある。
私は自分の呼吸を確かめて、ほんとに浅いことに気づいて笑った。
笑ったけど、内心は少し泣きそうだった。
止めてくれる人がいる、って。
こんなにあたたかい。
「あなたの休憩を、仕事より先にしてほしいです」
その言葉が、ゆっくり胸に落ちる。
私は頷いた。
頑張りたい気持ちはある。
でも今は、彼の主導を受け取る練習をしたい。
五分。
砂時計。
準備。
彼はこういう準備をするとき、必ず“自分が落ち着くため”の形を用意する。
でも今日は、それが私のためにもなってる。
私は砂時計を見つめながら、ゆっくり息を吐いた。
吐くたびに、肩が下がっていく。
ふと、彼の視線を感じて顔を上げると、彼は机の端の紙を見ていた。
私の呼吸を数えるみたいに、でも見すぎない距離で。
「……見てる?」
私が笑って言うと、彼は少しだけ目を逸らした。
「……見ています」
正直。
「監視?」
「……確認です」
確認。
彼の安全な言葉。
でも今日は、それが優しい。
私は両手でカップを包んで、少しだけ勇気を出した。
「ねえ。止めてくれて、嬉しい」
“毎回、嬉しいって言ってください”
あの約束を、また守る。
彼は一拍置いて、小さく頷いた。
「……嬉しいと言われると、落ち着きます」
え。
それ、逆じゃない?
彼は受け取ると落ち着かない人だったのに。
私は胸の奥が熱くなる。
「落ち着くんだ」
「……はい。あなたが“受け取った”って分かるので」
受け取った、が彼の中で“安全”になってきている。
砂が落ち切る頃、私は自然に笑っていた。
「ね。五分、意外と長い」
「……長いです」
「でも、いいね」
「……はい。いいです」
短い会話。
でも、二人の間の空気がやわらかい。
砂時計が終わった。
私は立ち上がろうとして、彼の顔を見た。
彼はもう、私が戻りすぎないように次の枠を用意している顔をしていた。
「……次は?」
私が聞くと、彼は淡々と言った。
「……もう五分」
「え」
「……今日は、あなたの休憩を優先します」
優先。
優先順位。
私は思わず笑ってしまった。
「それ、あなたの主導だね」
彼は頷いた。
「……はい。主導です」
言い切るの、ずるい。
嬉しくなる。
私は椅子に座り直して、素直に言った。
「うん。従います」
その瞬間、彼の目が少しだけ揺れて、
でも逃げずに言った。
「……ありがとうございます」
ありがとうが、今日の彼はまっすぐだ。
私はカップを飲みながら思う。
彼は今、恋の主導を“優しさ”として使っている。
相手を支配するためじゃなく、守るために。
それが、怖いくらいに嬉しい。
そして私は、ふと気づく。
彼が私を止められるようになったなら――
次は、彼自身の“止まれない”も、私が止めていいのかもしれない。
砂時計の砂を見つめながら、私は小さく思った。
この恋は、ただ甘やかされて懐くだけじゃない。
互いの呼吸を、整え合う恋になっていく。
彼の「やめてほしいです」は、びっくりするほど胸に刺さった。
命令じゃない。怒ってもいない。
淡々としているのに、逃げ道がない。
“嫌だから”って言われるのは、怖い。
でも同時に――
私のことをちゃんと見てくれている証拠でもある。
私は自分の呼吸を確かめて、ほんとに浅いことに気づいて笑った。
笑ったけど、内心は少し泣きそうだった。
止めてくれる人がいる、って。
こんなにあたたかい。
「あなたの休憩を、仕事より先にしてほしいです」
その言葉が、ゆっくり胸に落ちる。
私は頷いた。
頑張りたい気持ちはある。
でも今は、彼の主導を受け取る練習をしたい。
五分。
砂時計。
準備。
彼はこういう準備をするとき、必ず“自分が落ち着くため”の形を用意する。
でも今日は、それが私のためにもなってる。
私は砂時計を見つめながら、ゆっくり息を吐いた。
吐くたびに、肩が下がっていく。
ふと、彼の視線を感じて顔を上げると、彼は机の端の紙を見ていた。
私の呼吸を数えるみたいに、でも見すぎない距離で。
「……見てる?」
私が笑って言うと、彼は少しだけ目を逸らした。
「……見ています」
正直。
「監視?」
「……確認です」
確認。
彼の安全な言葉。
でも今日は、それが優しい。
私は両手でカップを包んで、少しだけ勇気を出した。
「ねえ。止めてくれて、嬉しい」
“毎回、嬉しいって言ってください”
あの約束を、また守る。
彼は一拍置いて、小さく頷いた。
「……嬉しいと言われると、落ち着きます」
え。
それ、逆じゃない?
彼は受け取ると落ち着かない人だったのに。
私は胸の奥が熱くなる。
「落ち着くんだ」
「……はい。あなたが“受け取った”って分かるので」
受け取った、が彼の中で“安全”になってきている。
砂が落ち切る頃、私は自然に笑っていた。
「ね。五分、意外と長い」
「……長いです」
「でも、いいね」
「……はい。いいです」
短い会話。
でも、二人の間の空気がやわらかい。
砂時計が終わった。
私は立ち上がろうとして、彼の顔を見た。
彼はもう、私が戻りすぎないように次の枠を用意している顔をしていた。
「……次は?」
私が聞くと、彼は淡々と言った。
「……もう五分」
「え」
「……今日は、あなたの休憩を優先します」
優先。
優先順位。
私は思わず笑ってしまった。
「それ、あなたの主導だね」
彼は頷いた。
「……はい。主導です」
言い切るの、ずるい。
嬉しくなる。
私は椅子に座り直して、素直に言った。
「うん。従います」
その瞬間、彼の目が少しだけ揺れて、
でも逃げずに言った。
「……ありがとうございます」
ありがとうが、今日の彼はまっすぐだ。
私はカップを飲みながら思う。
彼は今、恋の主導を“優しさ”として使っている。
相手を支配するためじゃなく、守るために。
それが、怖いくらいに嬉しい。
そして私は、ふと気づく。
彼が私を止められるようになったなら――
次は、彼自身の“止まれない”も、私が止めていいのかもしれない。
砂時計の砂を見つめながら、私は小さく思った。
この恋は、ただ甘やかされて懐くだけじゃない。
互いの呼吸を、整え合う恋になっていく。
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