今日の分を、あなたに

星乃和花

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第十五話 「外の確保」

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付箋の束を渡した日から、彼女の指先を見る回数が増えた。
忙しいとき、彼女は呼吸が浅くなる。
浅くなる前に、止めたい。

止めたい、は僕の欲だ。
でも最近は、欲を欲のままにすると怖いから、合図という形にする。

それでも今日は、合図じゃ足りない気がした。

“外”が必要だと思った。
外に出て、彼女の今日の分を、僕が確保したい。

確保、という言葉を心の中で使うと、少しだけ怖い。
縛るみたいで。
でも僕がしたいのは、縛ることじゃない。

守るための確保だ。

表が落ち着いた夕方、彼女が奥へ来た。
付箋の束の一枚に、見慣れない文字がある。

(迎えお願いします)

その一行で、胸の奥が温かくなる。
彼女が、受け取ってくれている。
僕の主導を、ちゃんと“使って”いる。

僕は頷いて、扉の方へ向かった。

「……迎えます」

「うん」

扉の外、表には人がいる。
視線がある。
でも今日は、その視線より先に――彼女がいる。

僕は息を整えて、彼女の手首に視線を落とした。
あの柔らかい布のバンド。
彼女は今日、それをつけてきていた。

胸の奥がじんとした。

彼女が“合図”を持って外に出る。
その事実が、僕の臆病を一段だけ薄くする。

店の前に出た瞬間、人の波があった。
僕の身体が反射で硬くなる。

――評価。
――減点。

でも今日は、僕には“触れる前の合図”がある。

僕は彼女の手首のバンドに指先を近づけ、軽く触れた。
ボタンの外側。布だけ。
「触れる」より前の、触れない合図。

彼女がすぐに気づいて、笑った。

「合図、受け取った」

その言葉で、僕は一歩進める。

僕は低い声で言った。

「……今日は、外で、少しだけ」

「うん。行く」

いつもならここで、僕は言い訳を付ける。
混んでない時間帯。効率。
でも今日は、言い訳を出す前に、言いたいことがあった。

僕は息を吸って、言った。

「……二人の時間がほしいです」

言ってしまった。
効率の皮がない。
理由もない。
ただの欲。

胸がきゅっと縮む。
重いと思われたらどうしよう。
困らせたらどうしよう。

でも彼女は困った顔をしなかった。
少しだけ目を丸くして、それから静かに笑った。

「うん。ほしい」

ほしい。
同じ言葉が返ってきた。

胸の奥が熱くなる。
怖さが薄くなる。

僕は言った。

「……遠くじゃなくていいです。短くでいい」

逃げ道も置く。
縛らない。

彼女が頷く。

「うん。短くでいい。短いの、得意だよね」

「……はい」

得意、という言葉に少し笑いそうになる。
でも笑ったら逃げるから、僕は淡々と歩いた。
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