39 / 54
第十五話 「外の確保」
1/3
しおりを挟む
僕
付箋の束を渡した日から、彼女の指先を見る回数が増えた。
忙しいとき、彼女は呼吸が浅くなる。
浅くなる前に、止めたい。
止めたい、は僕の欲だ。
でも最近は、欲を欲のままにすると怖いから、合図という形にする。
それでも今日は、合図じゃ足りない気がした。
“外”が必要だと思った。
外に出て、彼女の今日の分を、僕が確保したい。
確保、という言葉を心の中で使うと、少しだけ怖い。
縛るみたいで。
でも僕がしたいのは、縛ることじゃない。
守るための確保だ。
表が落ち着いた夕方、彼女が奥へ来た。
付箋の束の一枚に、見慣れない文字がある。
(迎えお願いします)
その一行で、胸の奥が温かくなる。
彼女が、受け取ってくれている。
僕の主導を、ちゃんと“使って”いる。
僕は頷いて、扉の方へ向かった。
「……迎えます」
「うん」
扉の外、表には人がいる。
視線がある。
でも今日は、その視線より先に――彼女がいる。
僕は息を整えて、彼女の手首に視線を落とした。
あの柔らかい布のバンド。
彼女は今日、それをつけてきていた。
胸の奥がじんとした。
彼女が“合図”を持って外に出る。
その事実が、僕の臆病を一段だけ薄くする。
店の前に出た瞬間、人の波があった。
僕の身体が反射で硬くなる。
――評価。
――減点。
でも今日は、僕には“触れる前の合図”がある。
僕は彼女の手首のバンドに指先を近づけ、軽く触れた。
ボタンの外側。布だけ。
「触れる」より前の、触れない合図。
彼女がすぐに気づいて、笑った。
「合図、受け取った」
その言葉で、僕は一歩進める。
僕は低い声で言った。
「……今日は、外で、少しだけ」
「うん。行く」
いつもならここで、僕は言い訳を付ける。
混んでない時間帯。効率。
でも今日は、言い訳を出す前に、言いたいことがあった。
僕は息を吸って、言った。
「……二人の時間がほしいです」
言ってしまった。
効率の皮がない。
理由もない。
ただの欲。
胸がきゅっと縮む。
重いと思われたらどうしよう。
困らせたらどうしよう。
でも彼女は困った顔をしなかった。
少しだけ目を丸くして、それから静かに笑った。
「うん。ほしい」
ほしい。
同じ言葉が返ってきた。
胸の奥が熱くなる。
怖さが薄くなる。
僕は言った。
「……遠くじゃなくていいです。短くでいい」
逃げ道も置く。
縛らない。
彼女が頷く。
「うん。短くでいい。短いの、得意だよね」
「……はい」
得意、という言葉に少し笑いそうになる。
でも笑ったら逃げるから、僕は淡々と歩いた。
付箋の束を渡した日から、彼女の指先を見る回数が増えた。
忙しいとき、彼女は呼吸が浅くなる。
浅くなる前に、止めたい。
止めたい、は僕の欲だ。
でも最近は、欲を欲のままにすると怖いから、合図という形にする。
それでも今日は、合図じゃ足りない気がした。
“外”が必要だと思った。
外に出て、彼女の今日の分を、僕が確保したい。
確保、という言葉を心の中で使うと、少しだけ怖い。
縛るみたいで。
でも僕がしたいのは、縛ることじゃない。
守るための確保だ。
表が落ち着いた夕方、彼女が奥へ来た。
付箋の束の一枚に、見慣れない文字がある。
(迎えお願いします)
その一行で、胸の奥が温かくなる。
彼女が、受け取ってくれている。
僕の主導を、ちゃんと“使って”いる。
僕は頷いて、扉の方へ向かった。
「……迎えます」
「うん」
扉の外、表には人がいる。
視線がある。
でも今日は、その視線より先に――彼女がいる。
僕は息を整えて、彼女の手首に視線を落とした。
あの柔らかい布のバンド。
彼女は今日、それをつけてきていた。
胸の奥がじんとした。
彼女が“合図”を持って外に出る。
その事実が、僕の臆病を一段だけ薄くする。
店の前に出た瞬間、人の波があった。
僕の身体が反射で硬くなる。
――評価。
――減点。
でも今日は、僕には“触れる前の合図”がある。
僕は彼女の手首のバンドに指先を近づけ、軽く触れた。
ボタンの外側。布だけ。
「触れる」より前の、触れない合図。
彼女がすぐに気づいて、笑った。
「合図、受け取った」
その言葉で、僕は一歩進める。
僕は低い声で言った。
「……今日は、外で、少しだけ」
「うん。行く」
いつもならここで、僕は言い訳を付ける。
混んでない時間帯。効率。
でも今日は、言い訳を出す前に、言いたいことがあった。
僕は息を吸って、言った。
「……二人の時間がほしいです」
言ってしまった。
効率の皮がない。
理由もない。
ただの欲。
胸がきゅっと縮む。
重いと思われたらどうしよう。
困らせたらどうしよう。
でも彼女は困った顔をしなかった。
少しだけ目を丸くして、それから静かに笑った。
「うん。ほしい」
ほしい。
同じ言葉が返ってきた。
胸の奥が熱くなる。
怖さが薄くなる。
僕は言った。
「……遠くじゃなくていいです。短くでいい」
逃げ道も置く。
縛らない。
彼女が頷く。
「うん。短くでいい。短いの、得意だよね」
「……はい」
得意、という言葉に少し笑いそうになる。
でも笑ったら逃げるから、僕は淡々と歩いた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる